42話 巣の内部
魔王の巣の内部は直径五十メートルはあろうかと言うほどの大きな穴だった。
魔法を使えるものが飛行魔法を人数分発動させて少し下ると、そこから先は三本の道に分岐していた。
そのため、事前に決定していたパーティーに分かれて進むことになる。
左側の道を日村一輝を中心とした幼馴染の六人が率いるパーティー。
中央を勇者の藤堂狩也を中心とした五人の率いるパーティー。
右側は二パーティーを合流させて有月華中心の三人と田中海人を中心とした三人の合わせて六人が率いるパーティーに分かれる。
さらにそこに冒険者が分かれて入り一つのパーティーだ。
左側に入っていった日村パーティーはクラスメイト六名と冒険者八名の合計十四名。
分岐から先は緩やかな下り坂になっていたので飛行魔法は既に解除。
逆に光が届かなくなってきているので照明魔法を数名が使っての探索だ。
時折、カサカサと眷属蟻が動く音が聞こえてくるため常時警戒状態になっている。
「全体停止!
前方、眷属蟻三!」
<マップ>を使用していた日村が警戒の声を上げる。
全員が身構え、数秒後。
少し先の暗闇の中から予告通り三匹の眷属蟻が姿を見せた。
「数少ないので俺らだけでやります!」
リーダーの日村が辺りの冒険者に声を掛ける。
そして、六人は眷属蟻に向かって飛び出した。
「動きは止めた後は頼む!
『雷、広がり辺りを包む。
敵を誘い、捕え、雷撃す。
ライトニングネット』」
雷が蜘蛛の巣のように日村たちと眷属蟻の間に広がった。
眷属蟻はそこに気にすることなく突っ込んでいき、三匹すべてが雷に絡めとられ麻痺してしまう。
その瞬間に、<短距離転移>をした望月が中央の眷属蟻の背に乗って大剣を突き下ろし腹部にあった魔石を貫いた。
右側の眷属蟻は透明化して近づいた三上が、左側の眷属蟻は二人の妖精を使役した青木がそれぞれ撃破して戦闘が終了。
全員で倒した眷属蟻を左右に寄せ、探索を再開した。
先頭を歩いていた望月が隣を歩く日村に声を掛ける。
日村は手に持ったスマホのようなパネルを操作しながら答えた。
「一輝、<マップ>いじってるけどどうかしたのか?」
「いや、平面でしか見れないから巣の中だとすぐに別階層認定されてあんまり先が見えないんだよ。
どうにか立体的に見れないかなと思って色々いじってる」
「そっか、まあ頑張ってくれ。
前は俺が見張っとく」
日村は巣に入ってからずっと<マップ>をいじっていた。
周囲五キロメートル圏内の地形・物・生物の簡易情報を取得できるかなり優秀なスキルでであったが巣の中に入って一つ問題が発生していた。
今までは、地上やダンジョンなどの平面的な場所のみで使っていたため分からなかったが立体交差などがあると平面表示の場合に自分のいる層しか表示されないため下って行っているこの巣では短い範囲のマップしか確認できない。
そのため、立体表示をできないか試行錯誤している。
そして、最初の戦闘から約十分。
地図の中の少し先に大きな空間が現れた。
「この先に大きな空間がある。
奥の方に眷属蟻が多数いるから注意してくれ!」
直前に警告をしたことで全員が気を引き締めなおした。
その目前、少し進んだ先にぽっかりと暗くなっている場所がある。
眷属蟻がいるのは確実なのでいつ攻撃をされてもいいように全員が武器を構えながら広間に突入した。
「あっ……。
立体になった!」
大広間に入る直前、<マップ>のお記が立体化した。
日村は歓喜の声をあげるが仲間からの返事は無い。
<マップ>をいじる必要が無くなった日村が顔を上げてみればそこには大量の眷属蟻がひしめいていた。
本人は気づいていないが手元のマップも広間の壁伝いすべてが真っ赤だ。
広間はかなり大きく天井まで明かりは届いていない。
中央にひしめく眷属蟻の隙間からはキラキラと光が何かに反射している。
全員がよく目を凝らしてみればそれは鎧の一部だった。
他にもよく見て見れば近くの地面にボロボロになった帝国旗が落ちている。
そして、最も眷属蟻がひしめく最奥。
そこにあったのは大量の死体の山。
連れ去られた帝国兵のものだ。
少し見える顔は目を限界まで多く開き、開いた口からは体液が滴る。
それぞれ恐怖の表情が張り付いていた。
カサカサと言う音で全員が現実に戻された
暗がりの奥から日村たちに向かって眷属蟻が行動を開始したのだ。
全員が武器を握りしめ直して戦闘の開始を待つ。
「ギシャァァ!!!!!」
眷属蟻が顎を大きく開いて鳴き声を上げた。
その声を皮切りに、暗闇の奥にいた眷属蟻たちも戦闘に参加するために日村たちの方に向かって行動を開始する
「戦闘開始!
奥からも眷属蟻の大群が迫って来ている!
魔法使いは広範囲魔法を、内漏らしは前衛が対処!」
日村が戦況を確認して指示を出す。
そして、大量の眷属蟻との戦闘が開始された。




