41話 魔王の巣
魔王対策会議から九日目。
“リッテ”の先にある帝国と国境を分ける草原。
その中心に空いた大穴一帯には巨大な蟻がうようよと徘徊している。
幸いなことにほとんどの蟻は出現から今までの間にそこから大きく離れることは無いため周囲への被害は少ない。
また、集団から離れた一部の蟻は様子見がてら勇者の藤堂率いるクラスメイト達によって毎日討伐されている。
眷属蟻のサイズは全長が一~三メートル程で動きは早く割と小回りが良く利く。
主な攻撃は顎での噛みつき、口からの粘液の放射、尻の先端からの弱めの酸性の液体の発射の三パターンで冒険者ギルドからは単体としてのランクはDとの認定だが、今回の場合は群れ及び統率個体の魔王化ということでS~SSの間に設定された。
「これより魔王討伐へと出発する!」
一人の騎士の掛け声によって魔王討伐クエストが開始された。
現在は朝で街に活気が出始めた頃である。
魔王討伐クエストを受注した冒険者たちは各々に合った装備を整えて街の外に置かれた陣地の外に集合していた。
集まった冒険者は約七十名でソロ、パーティーなど関係なく集まりランクもけっこうばらけているが最低ランクはCであるので戦力としては十分だ。
「これより、準備が整ったため魔王討伐作戦を実行する。
事前の説明通り、魔王攻略班は勇者と共に魔王の巣の内部に突入して魔王を討伐。
残りの冒険者は地上にて眷属蟻の掃討。
では、今を持って全員に出撃を言い渡す。
勇者と共に世界の脅威たる魔王からこのドゥルヒブルフ王国……いや、この世界を掬ってくれ!」
「「「「「オオオオォォォォォォ!!!!!」」」」」
出陣の合図とともに全員が声を上げる。
そして、光で作られた剣を持った藤堂のパーティーを先頭にして集団は平原へ向けて歩み出した。
冒険者達は騎士とは違いって装備は移動を考えられたものを身に着けているため、その動きは速く移動するスピードは段違い。
元々王国が陣地を敷いていた位置まで移動するのに半分以上早い五時間しかかからなかった。
そして、眷族蟻を確認したところで冒険者集団は進行を停止した。
位置的にはちょっと小高くなっている丘の上で、巣穴を見下ろすような位置で停止している。
「これより魔王の巣に突入する。
計画通り半数は地上にて眷属蟻の掃討。
残りは、一点突破して内部の状況にもよるが最大四パーティーに別れて探索をおこなう。
魔王と思われる個体に遭遇したパーティーは支給された通信用の魔道具を使用して全パーティーに通達。
その後、全員で魔王討伐にあたる。
では……出撃!」
「「「「オオオオォォォォ!!!!」」」」
藤堂が出撃の合図を出すと勇者たちを先頭にして鬨の声を上げながら丘を一気に駆け下りて魔王の巣へと一直線に進み始めた。
鬨の声の声量はかなり大きく周囲の空気を揺らすのが肌で分かる程であった。
その声に、巣の周囲で徘徊していた眷属蟻はそれぞれの触角を軽く揺らしながら声の大元を特定すると、体の向きを変えてカサカサと素早く移動し始める。
「『光剣エクスカリバー』」
一番先頭を行く勇者の藤堂が魔法を発動させた。
振り上げた手の先に光によって形作られた神々しい一本の直剣。
切っ先は空高く、刀身は三メートルほどあろうか。
それを眷族蟻の方に向かって真上から振り下ろした。
振り下ろされた光剣は地面に当たる直前で、切っ先から形が崩れていき一条の光線となって眷族蟻の中を巣穴の方まで駆け抜ける。
光の光線は数秒にして消え去っていき、光線が抜けていった場所には軽く抉られて土を見せた地面と方々に眷属蟻のものであった足や触覚の破片が散らばっていた。
そして、この一撃で巣穴への一直線の道が出来上がっていた。
「今だ!
魔王の巣まで走り抜けろ!」
藤堂のその声を皮切りにして、全員が一気に巣に向かって走り始めた。
『光剣エクスカリバー』は固有魔法である<剣魔法>と<光魔法>を合成して生まれた魔法であり、【魔】を持つものに特攻が入る。
今回の場合は【魔王の眷属】と言う称号が各個体に付与されていたため特攻が入った。
さらに、【勇者】の称号の隠し効果として、そちらでも【魔】特攻かかるため今回の魔法はかなりの威力になったのだ。
冒険者たちの集団は生き残った蟻を蹴散らしながら一本道を駆け抜けていく。
「散開!」
巣穴の到着した冒険者たちは藤堂の掛け声に合わせて広がっていった。
地上で掃討するグループは穴の淵に沿って広がり、付近にいる眷属蟻を討伐していく。
そして、巣穴に侵入するグループは四グループに分かれながら巣穴の中に入っていった。




