26話 勇者たちの今
決闘に敗北し訓練場のど真ん中で気絶しているグレイルは騎士によって担架に乗せられると即座に治療室の方へと運ばれていく。
実際の所、僕が結界を張っていたのだがそれでも熱などによる余波のダメージが大きかったようでそれだけで一気に削られたようだ。
途中でフィールドの結界も砕け散ったが気絶後の無敵効果は数分残るので結界崩壊後のダメージを耐えきった。
グレイルが無事に運ばれていったのを確認してから僕は伯爵たち三人がいる所へと移動する。
「凪、ふっつ~にオーバーキルだよね?
最低でも二十倍位のダメージ入ってるんじゃない?」
「いや、現実を見せてあげるためにね。
地面に穴が開いていないし……。
まあ、やりすぎたとは思ってる」
「あ、あれでも手加減……。
ナギ様、すごいです!
そう言えば、<鑑定>で能力は確認しなかったのですか?」
「見たよ。
けどね……」
<鑑定>は常時発動させていると視界に入る物全ての詳細表示が出てくるので視界がそれだけで塞がれてしまう。
そのため、見たいと思った時にその物だけを意識して見るようにしている。
後は、魔法使いの強さと言うのは魔法運用法などによっても変わってくるので<鑑定>だけだと判別しづらい。
グレイルの場合は行動の端々に魔法使い同士の戦闘に関して知っているように見えたので使える魔法と合わせて素質はあると思う。
「いやぁ、Lランク冒険者というものは凄いですな。
どうやったらあんな魔法が無詠唱で撃てるのやら」
世間ではLランク冒険者と言うのはけっこう理解しがたい人物として扱われている。
超高位魔法をポンポン撃つ僕もさることながら百本を超える剣を同時に操作して切りつけたり大陸の端から端まで矢を飛ばしたりと有り得ないようなことを成し遂げてしまうためだ。
まあ、畏れられてるわけでは無くただそういうものとして受け入れられている。
「そんなものですよ、伯爵。
Lランクなんて余程の異業を成した人しかなれませんから」
「はは、そうですな。
取りあえずこんな所でずっと話すのもなんですから場所を移しますか」
僕たちは伯爵の従者に連れられて試合場を後にすると用意された馬車に乗り屋敷へと戻った。
そして、再び執務室へと通される。
「ナギ君、そしてリリィ王女殿下も。
息子の更生のためにお手をお貸しいただきありがとうございます」
伯爵はそう言って深々と頭を下げる。
だが、今回の件は僕たちから持ち掛けた話で合ったので受け入れてくれてこちらとしてもよかったと思う。
無視してもよかったのだが、後々の被害者を増やさないためのこの提案だった。
「こちらこそ話を受けてくださってありがとうございます。
けど、グレイルと相対して分かったこともありますよ。
彼、魔法使いとしての素質はかなりの物がありますね。
今から魔法に本気で打ち込んだとしたら五年後か十年後位には大陸で五本の指に入ってもおかしくないと思えました」
「それは、ホントなのかね?」
「ええ、この国トップクラスの魔法使いになることは確約できます」
「そうか……」
そこからフリードさんが話したのはグレイルがどうしてああなったのかについてだ。
グレイルは五年ほど前まではあんな性格では無く選民思考も無かったという。
だが、魔法学園に入学してからと言うもの選民思考が芽生えあのような強情な性格になっていったという。
気づいた頃には手の付けようがない状態に陥っており、せめてもと調査したところグレイルに取り入ろうとして近づいてきた下級貴族の子供たちが持ち上げすぎた結果によるものだと判明したそうだ。
魔法学院に入学する以前まではしっかりとした家庭教師を付けて確かな知識を備えていったため、今でも実力だけは残されている。
そして、グレイルの昔話が終わった。
「それで、御三方。
当家で今夜のお食事とお部屋を準備できますがいかがなさいますか?」
「いえ、今回は遠慮させていただきます。
今回は一応、お忍びのような形ですし、明日も朝は早いので」
「そうですか。
では、何かございましたらお申し付けください」
「何かあった時にはお願いしたいと思います。
では、僕たちはこの辺で失礼させていただきます」
僕たちは玄関までついてきた伯爵に見送られて領主邸を後にする。
その頃には、空が茜色に染まり太陽は沈みかけていた。
僕たちは当初の予定通り、同じ貴族区の端の方に位置している月見里の支店へと向かった。
そして、翌朝。
僕たちは次の依頼の確認のためにギルドへと向かう。
ギルドに入ってすぐに依頼ボードの方に向かうと、一度解散してそれぞれ依頼を物色する。
華奈は討伐系の依頼、リリィは採取系の依頼が張られている場所へと向かった。
少しして、集まってどの依頼を受けようか話し合おうとした所だった。
三人で集まっている所のちょうど後ろにあった酒場から気になる情報が僕たちの耳に入ってくる。
「なあ、知ってるか?
つい、この前に異世界の勇者のパーティーがクレパスを踏破したみたいだぞ」
「マジかよ!
あのクレパスだよな?」
「ああ。
【剣主】だけしか攻略してないあそこだ
いや、今回のでファミルだけじゃなくなったけどな」
「あそこをクリアしたのか……。
魔王もその勢いでやってくれるといいな」
そこからは、再び他愛もない雑談が続くのだった。
僕たちが気にしたのは勇者の現在の動向に関する話だ。
「ねえ? 凪。
クレパスって何なの?」
「王都の近くにある“間月の森”にあるダンジョンだよ」
正式名称クレイドル・パルス。
ギルドがSSランクダンジョンとして認定しており、現状最高ランクダンジョンである。
僕が邪神を倒した“間月の森”で新たに発見されたダンジョン。
出てくる魔物は、全てがキング種と呼ばれる統率個体によって率いられた集団になっていて深層に行くほど高ランクの魔物が出現するとの噂である。
話に出た【剣主】と言うのはLランク冒険者の一人で名前はファシル。
女性の冒険者で、彼女だけがそのダンジョンをクリアしているらしい。
ちなみに、そのダンジョンが発見されたのは僕が邪神を討伐する直前のことだったので行ったことはない。
ここで、勇者である藤堂をはじめとしたクラスメイトたちの動向も少しは知ることができた。
向こうも順調に力を付けているようであり、僕たちは気合を入れ直す。
そして、僕たちは受注する依頼の相談を再開すると、話し合い決めた依頼を受注すると“ピザン”から出発した。




