5話 リリィとの再会
僕と華奈は広い廊下を歩いて、第二王女リリィの私室の前に到着した。
リリィも王族の一員であるため、その警護は固い。
そのため、こちらでも扉の外には騎士が立っている。
だが、一つだけ異なる点があった。
扉の横で立っている二人の騎士の内の片方と面識があることだ。
「お久しぶりです。アイラさん」
「うん? ……あ!
ナギ君か。
随分と久しぶりだな」
「そうですね。
三年ぶり位ですかね。
それで中へは?」
「ああ、大丈夫だ。
と、言いたいところだがメダルを確認させてくれないか?」
扉の横に立っていたのは第二王女直属の騎士団の【蒼】団長のアイラさんだ。
顔見知りではあるが、一応とのことだったので指示に従ってメダルを提示した。
「間違いないな。
所で隣の女性は誰なんだ?」
「あ、紹介が遅れました。
妻の華奈です」
「凪の妻の華奈です。
アイラさん、よろしくお願いします」
華奈は自己紹介をして、軽く頭を下げた。
「妻、か……。
おっと、私は第二王女直属の騎士団【蒼】の団長アイラ・プリミラ。
こちらこそよろしく」
そうして、二人は握手をおこなった。
リリィを驚かせるためにアイラさんに頼んで誰が来たのかは伏せてもらって面会の許可を取ってもらうことにした。
「姫様。
アイラです。
お客様が急遽、来られておりますがお通ししてよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですが……お相手は?」
「姫様が待ち望んだあの人ですよ」
「あの人……って!!」
その言葉と共に中からバタバタと音がした。
何かを察してその音を聞いてアイラさんは扉の前から離れる。
そして、勢いよく扉が開け放たれ中から空色の髪を持った少女が飛び出してきた。
少女は扉を出てすぐに僕の方に飛び込んできた。
「お久しぶりです!
ナギ様!」
「リリィ、久しぶり」
飛び出してきた少女はこの部屋の主である第二王女のリリィだ。
最後に会ってから約三年が経過して、リリィの体は立派に成長している。
そのため、飛び込んできたときはちょっと危なかった。
「ずっとお待ちしていました!
中にどうぞ」
興奮しているリリィをなだめながら部屋の中へと入っていった。
そうして、部屋の真ん中に置かれたソファーに三人で座る。
向かい合わせでソファーが二台あるのだが、僕を挟むように華奈とリリィが両サイドに座った。
ちょっと狭かったので僕が反対側に移ろうとしたのが、二人が腕を離そうとはしなかったのでこのまま話を始めることになった。
「それじゃあ紹介しようか。
この子が第二王女リリィ・ドゥルヒブルフ・フィアルだよ」
「はい!
よろしくお願いします♪」
僕の紹介と共にリリィが華奈に挨拶をした。
「それで、こっちが僕の妻の華奈」
「よろしくね」
「ナギ様の奥さん……。
よろしくお願いします」
すると、リリィの表情がちょっと曇ったように見えたが、すぐに笑顔に戻った。
華奈もそれを見て一瞬鋭い目をしたのだがすぐに微笑ましい顔に戻る。
コンコン
突然、ドアがノックされた。
アイラさんから声が掛かってクルスさんからの伝言を伝えにメイドがやってきたそうだ。
僕たちにここに居るように言い残して、伝言を聞きに扉の方に向かった。
ソファーに座ったまま見ていたのだが、リリィの表情は所々で綻びを見せている。
そして、終わり際には満面の笑みに変わっていた。
「お待たせいたしました♪」
「何か重要なことだった?」
「ええ。
かなり重要でした♪」
語尾にルンッって付きそうな勢いだ。
興奮していたリリィを座らせると話を再開する。
「それで、僕たちはお邪魔かな?」
「そんなことないです。
ナギ様にも関することなんで大丈夫です」
「そうなの?」
「はい♪
ナギ様は私の渡したネックレスを今でもしてくださってますよね」
「うん。
約束したからね。
クルスさんにも聞かれたよ。
これだよね」
胸元に掛けていた青い石の嵌ったネックレスを取り出して見せた。
「はい。
それです。
それが私の縁談を断る理由です」
そして、クルスさんが言っていた縁談を断る理由をリリィが教えてくれた。
簡潔に言ってしまえば僕がこのネックレスを持っているからだそうだ。
このネックレスは、ドゥルヒブルフ神が王族に新しい子どもが産まれるたび、その子供に授けてくれるものである。
これは、望まない結婚を避けさせるため。
つまり、政略結婚をさせないためのものだそうで、これを渡されるということは求婚の申し出をおこなうのと同意義である。
結論として、僕はリリィから求婚され、ネックレスを受け取ったことでそれを受け入れたということだ。
「「は?」」
それを聞いた僕と華奈の二人の反応は重なった。
口から漏れたその言葉はかなり気の抜けたものだと思う。
そこにリリィが後押しを入れた。
「そこで、さっきのお父様の伝言なんですけど第二夫人でも側室でもなんでも良いって。
そう言う事でした!」
リリィは頬を赤く染めてそう付け加えた。
それを聞いた僕と華奈は少しの間、口をつぐんだ。
そして、その後のリリィはワクワクと言う雰囲気を漂わせながら静かにこちらを見つめていた。
リリィとは三年離れていて身長差があり、僕を見上げるリリィの目には何とも断りがたいものがある。
そうして、少しの思慮の内に僕は口を開いた。
「リリィ、それは本気?」
「はい!
本気です!
何としてでも、絶対にナギ様は逃がしません!」
「そっか。
それじゃあリリィ、返事は明日にさせてもらっていい?」
と、こんなことを口にしたが僕の心は既に決まっている。
恐らく華奈も同じことを考えているとは思うがお互いに確認しておきたいことがあったので返事は少し待ってもらうことにした。
「はい。
お待ちしています」
「ありがとう。
それじゃあ僕たちは一度これで。
じゃあ、また明日ね。
おやすみ」
「はい、また明日いらしてください。
お二人ともおやすみなさい」
そうして、僕と華奈はリリィの部屋を後にした。
一言も喋ることなく部屋に戻るとそのまま二人でソファーに座った。
ソファーに座ってから少しの間、沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは華奈だった。
「……ねえ、凪も一緒のこと考えてる?」
「多分ね」
「リリィちゃんも本気みたいだったね。
ねえ、私たちって寿命は無いんだよね」
「そうだよ」
神になったことで僕と華奈に基本的には寿命という概念が無い。
また、神皇と一部の神は死という概念は有るのだがその魂は消滅することがない。
死亡と言うのは肉体が動かなくなった時のことを言い、死亡したのちに肉体に宿っていた魂が約一日の時間を掛けて昇天する。
昇天してから魂はとある世界に移動しそこで魂に蓄積された記憶は消去されて再び様々な世界に新たな子どもの魂として宿る。
魂が消滅することが無いというのは、死亡後に魂は“花園”に戻り記憶の消去はされないということだ。
「凪は優しいし力も持ってる。
やっぱりそういう所に惹かれる人も出てきちゃうんだよね。
私がナギ君を独り占めしたいところだけど、もうあの時の悲しい思いはしたくない」
「うん、僕もだよ」
「だから、あの時に誓ったように私は賛成だよ。
けど、私がいつでも凪君のことを一番に思っているってことだけは譲らないよ!」
「ははっ。
結婚を申し込んできたときみたいに吹っ切ったね。
じゃあ、明日もう一回リリィのところにいこっか」
「うん♪」
たびたび出てきたあの時と言うのは、つい一か月前に行った世界でおこったとある悲しい事件のことだ。
その話については、ちょっと長いので割愛させてもらうが元々一夫一妻という考えだった僕たちに一夫多妻という選択肢を考えさせてくれた。
まあ、おいおい詳しく語るかもしれないが。
そして、僕と華奈が結婚した時もけっこう衝撃的だった。
華奈からお付き合いをすっ飛ばしてプロポーズされビビった記憶がある。
「よし!
話も決まったしもう寝よっか」
二人で寝室に移ると、一緒のベッドに入る。
お互いに少し喋ってからおやすみと声を掛け合って眠りについた。
そして、翌朝。
「おはよう。
凪!」
「おはよう、華奈。
朝から元気だね」
「うん♪」
「よし!
じゃあ、朝ごはん食べに行こうか」
華奈と一緒に部屋から出るとメイドが立っていた。
そのメイドに案内されて食堂へと向かった。




