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奇跡の闘病記録  作者: なかさん
7/24

医学と宗教

朝11時

「このままでは脳に酸素が供給されてない状態ですので本人の負担を軽くするために昨日も説明したように、一旦呼吸を止めます。処置のあいだはこの部屋から出ていって下さい」主治医に促されて妻とじいちゃん、ばあちゃんと病室を出た。

「いよいよ、なりゆき眠らされてしまうんだな」と思うとなにか今生の別れのような気になってまた涙があふれてきた。

「ああ、なんでこんな事になってしまったんかな。うちの孫がこんな事になるなんて夢のようやわ、悪い夢でも見てるんかいなあ」とおばあちゃんが言った。

妻はもう半狂乱状態であった。それぐらいひどい形相であったのだ。

「ちょっと、喫茶店で話しない?」と妻。「ああ、かまへんよ」と私。

「私はもう覚悟ができました、なりゆきはもう死ぬか多分重度の小児マヒになると思う。そうなってもこの十字架は一生背負っていくつもりになったわ」

「おまえだけやない、二人の十字架や。今までドラマかひとごとのように思っていたのが自分たちの子供に来るとはなあ」

「今から郵便局の保険の内容調べとくわ。重度障害の場合の保障金額も」

「だけど昨日たしかにうわごとのように、なりゆきはしゃべったんやけど、あれは夢やったんかなあ。でも看護婦さんも一緒にきいていたんやけど・・・」

「人間は死ぬ前にいきなり立ち上がったりしゃべりだしたりするそうよ。その類じゃあない?」

午後2時

「ご家族のみなさん、処置がおわりましたので、入ってください」と主治医に言われて入室した時、その光景に圧倒されてしまった。自分の息子がまるでマリオネットのような姿でベットに横たわっていたのである。

右手からは薬剤投与用のチューブ、右太股からは血液剤投与のためのパイプ、鼻からは、栄養剤投与のためのパイプ、オチンチンは採尿のための管、そしてひときわ目についたのは、口からの酸素吸入用の太い管が機械に直結していた光景である。

その機械は「シューシュー」と規則的な大きな音を病室に響かせていた。

「処置は無事終わりましたよ。今、かれは呼吸の機能を止めてあります。つまりこの酸素吸入機によって生かされています」

「息がとまっているのか、まるで仮死状態だなあ」と正直その時は思った。しかしこれが現実に自分の息子の姿だと認識するまでにかなりの時間がかかった。

午後7時

いつもであれば、いっしょに夕食をとる時間なのになりゆきは、パイプだらけの姿で「シューシュー」と音をたてている機械の横で眠っている。

規則正しく機械の鼓動に合わせて小さな胸が上下している。

唯一彼が生きている証拠は、ビニールにたまっているおしっこの量が増えていることだけである。

看護婦さんが時折やってきては、心拍数と血圧をチェックしていく。

「なりくんは、普段はどんな子ですか?」

「ええ、もうとにかく元気な子です。いつもはだしで走り回っているんですよ。電車が好きで毎日寝る前に、図鑑を見て全部の電車の名前を知っています。こんな事になるならもっと、たくさん電車に乗せてやったらよかったとつくづく思うんです」

「大丈夫ですよ、きっと元気になりますよ」

時々「ピーッ」と機械の音が鳴る。

ドキッすると、点滴のチューブに小さな空気がはいっている時である。

あと麻酔薬「ラボナール」の残量が残り少ない場合もそうである。

慣れるまでこの音には常に「ドキッ」とさせられた。

それと1時間に1回くらい、呼吸器の吸引の作業があって、いったん呼吸器の管をぬいてピンセットでさらに小さいパイプを管の中にとおして、吸引してつまったタンやつばを「ズズズズッツ」と、取りのぞくのであるが、本人はその作業中かなり痛いらしくて作業が終わった後は両目がじわっと涙ぐむのであった。その姿が不憫で、かわいそうでならなかった。

午後9時

「なーくん、軍艦トランプしような。こっちは戦艦大和、巡洋艦摩耶、空母加賀、戦艦長門、駆逐艦雪風や。なーくんは、空母飛龍、戦艦陸奥、戦艦山城、巡洋艦大淀、巡洋艦高雄でなーくんが6点勝ちや。次いくで・・」

「図書館で借りてきた紙芝居読んだげるわな、てんとうむしのテムの話や。ええか、読むぞ、てんとうむしのテムは森のなかに住んでいました・・・・」

無言で横たわっている息子の頭をなでながら本を読んでいると、涙がボロボロでてきて止まりませんでした。

「もっと、元気な時にいっぱい紙芝居読んであげたかった・・・プールへ行こうと言ったとき連れていってあげればよかった・・・プヨプヨのゲームもっとさせてあげればよかった・・・」と、次から次へと、いろいろしてやれなかった事を回想しては「ゴメンナ、ゴメンナ」と心の中で何度も大声で叫んだ。

「このままもしなりゆきが死んでしまうような事があったらいったいこの子は何のために生まれてきたんだろうか?なにも悪い事はしていないのになんでこんな罰を受けなければならないのか」と山口先生に回診の時に尋ねた。

「お父さん、人間のこの世は刑務所なんですよ。前世で悪い事をした人ほど、現世では長生きさせられるんですよ。前世でいいことばかりしてきた人は刑期も少なくて若いうちに死んで、苦しみから早く開放されるんですよ。それに死んでしまうなんて事はさせませんのでもっと前向きに考えて下さい。なりゆきくんは今ガンバッテ戦っているんですよ」

先生は医者でわたしは医者じゃない、つまりわたしはここにジッと座っているだけで、なんにもしてやれないんです。それがもどかしくってもどかしくってたまらないんです。あんまり宗教とかは信じないほうですがこんな時は本当に祈ることしかできないんです。先生は祈りを信じますか?」

「祈りをバカにしてはダメですよ。私は医者で科学の最先端を走っているように思われますが実は祈りを信じているんですよ。アメリカの臨床実験でもデータがあって3人のガン患者がいて、1人目はある宗教法人の教組、2人目は会社の社長さん、3人目はコジキだったんです。最初は同じ症状で進行具合も似たようなものでした。ところが教組には何万人という人が祈りをささげ、社長は何十人の人が祈りをささげ、コジキには祈る人がいなかったんです。この結果三人の進行具合に歴然とした差が出てきて、教組は全快しました、社長は何年かして退院、コジキは死んでしまったのです。ひとえに祈りのせいでもないかも知れませんが極端に違う結果というのは医学の世界ではそうない事なんです」

「じゃあ、先生、なんで全日本のサッカーがワールドカップ初出場をかけた最後のイラク戦で、日本国中が祈っていたにもかかわらず負けてしまったんですか?」

「それは簡単ですよ。イラク国民の祈りのパワーが勝っていたんですよ。むこうは祈りの本場ですから。」

この日からとにかく治るまで祈る事に決めたのである。


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