真夜中の病院
真夜中の病院
非常にショッキングな話である。
いつも小児病棟から、図書室にむかうとき、気になる病室があった。
夜中でもいつもあかりが点いていて、絶えず「シューシュー」となりゆきの機械と同じような音が聞こえていたのであった。この部屋の事を看護婦に尋ねると決まって生返事だったので「なにか事情があるな」と思っていたのであった。
そこで思い切って山口先生に尋ねてみる事にした。というのは彼が、よくその病室に出入りしているのを見ていたので理由を当然知っていると思ったからである。
「あまりいいたくないんですが・・・」で始まった彼の言葉にわたしは耳を疑った。
「あの子もなりゆきくんと同じ症状なんですよ、治療方法もまったく同じです。ただあの子の場合、病気にかかった年令が生後3ヵ月だったために、両親も引取りにこないんです。その状態でもう3年もたつんですよ。両親はとにかく先生の方でなんとかいいようにして下さいと言っているんですよ」
「え、いいようにというのはどういう事なんです?」
「つまり、楽にさせてやって下さいという事です。」
「しかしかりにも自分が腹を痛めて産んだ子なんでしょ?」
「そうなんですけど、一緒に生活した期間があまりにも短いんで共有した、思い出が全くないらしいんですよ。ヒドイ話でしょう?だからお父さんたちみたいに一生懸命になっている親の姿をみるといつも、この子には祈ってくれる人が一人もいないんだなあと、つくずくかわいそうに思うんですよ」
そんな親がこの世にいる事自体、ショックだったが、必ず治癒してみせるという、意気込みで治療をしている、山口先生のひたむきな姿勢に頭が下がった。
結局、その病室に入る事はなかったが、いまでもこの子は機械のポンプによって「生かされ」続けているのであろうか。




