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第6話 あなたは現実を知った


 あなたはまたもや悩んでいた。


 

 今度は倉庫の中で、シャッターを適当に繋げた先の近くにあった自動販売機で買った缶コーヒーを片手に、次の目標である人物の資料を見て盛大に悩んでいた。

 

 そして、盛大に溜息をついた。

 

 溜息をしたら幸せが逃げるというが、出してるのは悪いものである。そう自己弁護しながら。

 

 

『おや、また悩んでいるんですか?』

 

 

 天井のスピーカーから聞こえてきた声にあなたは少しうんざりしつつ、倉庫の壁にも取り付けられていた無線機を取り、壁に凭れかかりながらそれにひと言返す。

 

 

『随分とご機嫌斜めのようですね』

 

 

 そりゃそうだ、こんなのおかしい。そんなようなことを無線機の向こうでのんびりとしてそうな奴に言い返す。

 

 

『そんなに今度の目標(ターゲット)が嫌ですか……』

 

 

 もちろん、とあなたは大きく頷きながら返事をする。奴には見えてないだろうと動作は感情を込めることに重要なのだ。そう、あなたは考えながら。

 

 

『そ、そんなにですか』

 

 

 無事、自分の気持ちは伝わったらしい、とあなたは返って来た声色から判断する。

 

 

『えっとあなたに送った資料は……あった! どれどれ……あーうん、頑張って下さい』

 

 

 理解するのが早いな、とあなたは思わず呟いた。

 

 

『まぁ、神ですし。……では』

 

 

 あ、逃げられた。絶対に逃げられた。あなたはそんな風に思いながら無線機を元の場所に戻す。そして、資料に再び目を通す。

 

 

 無職。

 

 この時点ではまだいいとあなたは考える。今時よくある話なのだから。

 

 問題は次だ。

 

 ※特記:引きこもり

 

 どうしろと。あなたは声を大にして言いたかった。確かにこれも今時よく聞く話だ。しかし、しかし、とあなた。

 

 どうやってトラックで轢くんですか!! と。

 

 ……あなたは思わず叫んでしまった。耐えられなかったようだ。

 

 

 外に出てくれなければトラックで轢き逃げの仕様が無い。

 あなたはやるせない気持ちをどうにかしようと缶コーヒーを一気に呷り、飲み尽くしてしまった。

 

 なんか間違えた。そう思わずにはいられないあなただった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな無職系主人公を目標としてから2週間が経過した。その間あなたは他の目標を適度に新たな人生へと続くキッカケを作ってあげつつ、ほとんどの時間を無職系主人公の家の前で張り込みをしていた。

 と言っても真ん前でずっと停まっているのも不自然なので適度に場所にを変えつつである。

 

 勿論、トラックのデザインをいじくり某宅急便のデザインに変えて……この辺りは当日お届けのサイト利用者が多いのかもと思われてるかもしれない、とあなたはふと思いながら。

 

 

 

 そんな風にコンビニで買った紙パック野菜ジュースを片手に、夜になり、今日も特に変わらない一日だったなと張り込みを終えようとした時、その無職系主人公が住んでいる家から大きな音が、怒鳴り声と一緒にした。

 


 おっ、とあなたは思った。これは物語が始まるのではないか、と。

 


 あなたは今まで読んできた作品の中から無職類引きこもり科の主人公の作品の始まりを思い出す。それには主人公の態度、行いにとうとう頭の堪忍袋の緒が切れた家族に家を追い出されるというものがあった。

 

 これならば、とあなたは期待して、主人公の人生を新たなものへと導くための準備を始める。

 

 トラックのエンジンを入れる、ライトをつける等の簡単な準備を最初にし、主人公が家から出てくるのを待つ。

 

 狙うのは家から出てきた瞬間───ではなく、横断歩道だ。

 

 あなたはこの2週間で他の目標を轢く時に、あの神を名乗る存在にさんざんシチュエーションについて言われた。そして、あなたも勉強したのだ。

 

 

 ───シチュエーションとはどういうことかを。

 

 

 

 つまり、転生トラックから轢かれそうな女子供を身を挺して守る、身代わりになるということである。

 

 

 このド定番をやり過ぎるのはよくない、けれども定番なだけあってある程度のポイントは入る。考えることをめんどくさいと放棄したあなたはこれを使いまくることに決めたのだ。

 

 

 予想通り家から玄関の扉を開けて追い出されるように出てきた無職系主人公を確認し、あなたはビンゴと呟く。

 

 そして、バタンッと激しく閉められた扉にすがる目標は虚しくも深夜で静かな住宅街に響いた鍵の閉められる音に項垂れる。

 

 ふらふらと立ちあがり、覚束ない足取りで歩きだした目標の方向を見たあなたは直ぐ様地図で待ち伏せによさそうな道と、横断歩道を探しだし、先回りする。

 

 

 そして、息を潜め待つ。この間に目標が助ける予定である女子学生を召喚しておく。この深夜という時間帯に外に居ておかしくもないように、不良っぽい見た目にしておくことを忘れない。違和感のないようにタイミングよく作戦地点に来るように歩かせておく。

 

 今までの主人公が助けてきた人達を天然ものだと思わないことだ。

 

 

 さらには目標の無職系主人公に必ず彼女を助けるように魔法をかけておくことも忘れない。

 

 もし、自分の命を惜しんで助けないなんてことはないようにだ。

 

 

 これで準備は整った、とあなたは歪んだ笑みを作りながら小さく呟いた。

 

 

 

転生トラックのおかしなところはこうして成り立っているのですよ、きっと。

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