マフラーとプロポーズ
次の日。
俺とユキちゃんはウィンテルに連れられて、墓地にやってきた。
ウィンテルはどんどん奥へ進んでいき、あるお墓の前で止まった。
そのお墓の前にはスイレン様がしゃがんで手を合わせていた。
「スイレン様。
お連れいたしました」
「ありがとう、ウィンテル」
そう言って彼女は立ち上がった。
傍に白いものを抱えている。
「このお墓は……?」
ユキちゃんがスイレン様に聞いた。
「このお墓は貴女の両親のものです。
兄の遺骨しかありませんが」
彼女がそう答えると、ユキちゃんはジッとお墓を見つめた。
「お父さんとお母さんのお墓……」
「スノーリア、手を合わせてあげてください」
ユキちゃんは頷いて、お墓の前にしゃがみ、手を合わせた。
「スノーリアです。
お父さん、お母さん。
私、いいご主人様に出会えました。
私のご主人様はとっても優しいです。
それにユキという名も頂きました。
私はこの名が大好きです。
すぐそばにいるので恥ずかしいですけど、
私はご主人様がとっても大好きです。
そんなご主人様のそばに居られて、幸せです。
だから、安心して眠ってください」
「お、俺も手を合わせていいですか?」
ユキちゃんが終わったのを見て、俺はスイレン様に聞いた。
彼女は微笑んだ。
「是非」
俺はお墓の前にしゃがんで、手を合わせた。
「俺はスノーリアさんの契約者です。
俺もスノーリアさんが好きです。
後で求婚しようと思っています。
でも俺には妻が三人いるんです。
順位はありませんが、
スノーリアさんは四番目になります。
本当にすいません。
でもちゃんと幸せにします。
絶対、悲しませたりしません。
だから……」
俺は一旦言葉を止めた。
「俺に娘さんをください」
そう俺が言うと、心地よい風が吹いた。
「今の風は、きっと兄と義姉様ですね。
許してくれたのだと思います」
スイレン様が言った。
俺は立ち上がった。
「ありがとうございます。
ちゃんと大切にします」
そう言って、ふとユキちゃんの顔を見た。
彼女は頰を赤らめ、嬉しそうな顔をしていた。
俺の視線に気づいたのか、顔を真っ赤にして、逸らした。
「スノーリア、貴女に渡したいものがあります」
ユキちゃんを眺めていると、スイレン様が彼女に言った。
「渡したいものですか?」
「ええ、これです」
スイレン様は傍に抱えた白と水色のものをユキちゃんに渡した。
「これは……?」
「義姉様が貴女に遺したものです。
広げてみてください」
ユキちゃんは受け取ったものを広げた。
白と水色のマフラーだった。
端に行けばいくほど、水色になっている。
「マフラー?」
「はい。
義姉様が貴女のために魔力で編んだマフラーです。
巻いてみてください」
ユキちゃんはマフラーを首に巻いた。
すると、彼女は涙を流し始めた。
それから少し彼女は泣いていた。
ーー
俺とユキちゃんはスカーレットに帰ってきた。
今はフィアーナたちが待つ家の前にいる。
だけど、俺は入らずに、隣にいるユキちゃんの手を握った。
「ユキちゃん、ちょっと来て」
「えっ?」
驚く彼女の手を引いて、ある場所に向かった。
ーー
ザパーン。
俺たちは海にやって来た。
俺たちの住むスカーレットには近くに海がある。
「リョウタ様?
どうして私を海に連れて来たんですか?」
「ちょっとユキちゃんと海見たくて」
「早く帰らないとリルが怒りますよ?」
「怒らないよ。
言ってあるから」
「じゃあ、安心ですね」
そう言うと、ユキちゃんは海を見つめた。
俺も海に視線を向けた。
海はちょうど夕日が沈み出していて、すごく綺麗だ。
だけど、俺はそれどころじゃない。
ユキちゃんにプロポーズしなきゃいけない。
海に来たのは、プロポーズするためだから。
「ユキちゃん」
俺が呼ぶと、ユキちゃんがこっちに向いた。
「はい?」
「あー、えっと……」
三回も経験しているというのに、言えない。
大丈夫なのも知ってるくせに。
そう思っていると、手を握られた。
「ちゃんと待ってますから」
彼女は笑顔で言った。
俺は手を握っている彼女の手を握った。
「俺、ユキが好きだよ。
これからは契約精霊としてじゃなくて
奥さんとしてそばにいてほしい。
ユキ、好きです。結婚してください」
そう俺が言うと、ユキちゃんは顔を真っ赤にして、目を泳がし始めた。
「えっと、えっと、
ふ、ふつつか者ですが、よ、よろしくお願いします」
「よろしくね」
「はい」
「えっと、俺たちは契約してるから
婚姻契約ができないんだよね?」
「そうですね」
「だから、これ」
俺はマジックポーチから銀色の指輪を取り出して、ユキちゃんに見せた。
「指輪、ですか?」
「うん。
魔力でできたものがいいと思って、
魔術で契約指輪をイメージして出したんだ」
俺は彼女の左手を取り、薬指に指輪をはめた。
手を放すと、彼女は指輪を見つめた。
次の瞬間、彼女は涙を流した。
俺、なんかしちゃった?
「そんな顔しないでください。
リョウタ様の妻になれたことが嬉しくてですから」
ユキちゃんは手で涙を拭って、笑顔で言った。
俺は愛おしくなって彼女を抱き寄せ、キスした。
「は、反則です。
プロポーズ、指輪渡し、キス、
立て続けにされたら、
幸せで死んでしまいます」
「ごめん」
俺はどうしたらいいか分からず、謝った。
すると、彼女が笑った。
「ふふっ、怒ってませんよ」
「そっか。
えっと、もう暗くなるから帰ろっか?」
「はいっ」
俺はユキちゃんと手を繋いで、家に向かって歩き出した。




