フ○ーザ様? との戦い
俺たちの前に現れた男は黒髪黒眼で日本人に見える。
多分、転移してきたんだと思う。
「貴方は誰ですか?」
彼にフィアーナが低めのトーンで尋ねた。
「自分から名乗る方が先ではありませんか?
まぁいいでしょう。
私はレイトです。
以後お見知りおきを、二代目真祖のフィアーナ様」
「どうして私の名前を……?」
「世界神様が教えてくださったのですよ。
後ろにいる剣姫様のことも」
レイトはフィアーナの左斜め後方にいるクロネに視線を向けて言った。
「ふふふ。剣姫様は美少女なだけではなく、
素晴らしい身体なのですね。
ぐちゃぐちゃに犯しーー」
「私の親友を穢らわしい目で見ないで!」
フィアーナがそう叫んで、前に出した左手から赤い光線を放った。
レイトは飛んで光線を避けた。
着地しようとするレイト。
そんな彼との距離を両刃の剣を持ったフィアーナが詰める。
剣が届く距離まで接近した瞬間、剣を振るう彼女。
ガキンッ。
振るった剣は彼に槍で防がれ、届かなかった。
彼女はすぐにこっちに跳んで、彼との距離を開けた。
「はぁ、私は貴女と戦いに来た訳じゃないのですよ」
白銀の槍を持っているレイトが言った。
「じゃあ、なにしに来たんですか?」
剣を構えたまま、フィアーナが尋ねる。
「私をコケにしてくれたレインとかいうトカゲの娘を殺しに来たんですよ」
「貴様! 今、レイン様のことをなんと言った!」
クロネとユキの間に立っているウィンテルが叫んだ。
「トカゲと言ったのですが、なにか?」
「貴様ァ!」
そうウィンテルが叫んだ瞬間、彼の外見が少し変わった。
頭から二本のツノ、背中から翼、腰から尻尾が生えた。
肘から先とくるぶしから先が鱗に覆われ、指先からツメが伸びている。
ツノ、翼、尻尾、鱗、ツメ、すべて龍のもので、紺色だ。
半龍になった彼は地面を蹴り、レイトに向かって行く。
「挑発に乗んな!」
俺はそう叫びながら、彼の腕を掴もうとした。
だけど、俺の手は届かず、宙を舞った。
彼はそのままレイトと距離を詰めていく。
「貴様は絶対許さない!
このウィンテルが殺す!」
そうウィンテルが叫ぶと、レイトはいやらしい笑みを浮かべた。
「ふふっ、挑発に乗るとは、やはりトカゲですね」
そう言って、槍の穂先を地面につけた。
すると、次の瞬間、地面から複数の槍が生え、ウィンテルの体を貫いた。
「かはっ」
ウィンテルは血を吐いた。
「本当にバカですね」
そうレイトが言うと、槍が消えた。
槍が消えたことで、ウィンテルは地面に落ちた。
「次は誰ですか?」
「俺が相手だよ」
「貴方ですか。
戦う前にこのトカゲを退けてもらえませんかね?」
「分かった」
俺はウィンテルに近づいて、彼を担いで、洞窟の入り口に寝かせた。
そして、ユキちゃんに治癒をお願いして、レイトの前に立った。
「貴方は敵ではないと聞きました。
なので、初手はお譲りしましょう」
「いらない。
お前ぐらい瞬殺できる」
「ほう。言ってくれますね」
「お前の口調、フ○ーザみたいだな。
口調ついでに俺を覚醒させてくれよ」
「覚醒?
ふはは、漫画みたいにですか?
いくらこ世界がファンタジーだからと言って
漫画のようなことは起きませんよ」
「分かってるよ。
現実だってことぐらい。
でも、現実だからこそお前を殺せる。
さぁ、かかって来いよ。
武器頼りのポンコツ勇者様」
俺が煽るように言うと、レイトが叫んだ。
「調子に乗るな! 雑魚転生者!」
彼は槍を剣に変えて、俺との距離を縮めてきた。
計画通りだな。
そう思いつつ、俺は右の手のひらの中に先の尖った氷を出現させ、ギュッと握った。
レイトは剣を振りかぶった。
もう少し。
そう思った瞬間、クロネが俺の目の前に現れた。
一瞬、黒いのが出てきたと思ったけど、すぐに分かった。
クロネだと分かった次の瞬間、レイトの後方からカランという音がした。
すると、彼は蹲った。
「どうして、なにもしようとしなかったの?」
クロネが視線だけ俺に送り聞いてきた。
「一回斬られて、油断した隙にこの氷で首をひと突きしようと思って。
肉を切らせて骨を断つみたいなーー」
パァン。
そう言った瞬間、頰に痛みが走った。
クロネにビンタされたのだと気づくのに時間はかからなかった。
「ふざけないで!
私が出て来なかったら、死んでた!」
「いや、ユキちゃんにすぐ治癒かけてもらえば大丈夫ーー」
「大丈夫じゃない!
首をはねられたら、即死するの!」
彼女は俺の胸倉を掴んで言った。
「でも、今のは袈裟斬りだから」
「一太刀で終わる訳ない!
すぐに次のが来て、首をはねられてた!」
そう言うと、クロネは俺を抱きしめた。
「貴方が私を失いたくないのと同じで
私も貴方を失いたくないの。
だから、二度とこんなことしないで」
俺は彼女の背中に腕を回し、抱きしめた。
「うん。約束する」
そう言うと、レイトが立ち上がった。
彼の右腕は手首から先が無く、血が流れている。
「よくも私をコケにしてくれましたね。
絶対に許さんぞ!
貴様ら全員皆殺しーー」
彼が言い切ろうとした瞬間、彼の後ろに剣を持ったフィアーナが現れ、彼の首を一閃した。
すると、彼の頭が地面に転がり、体は蹲るように倒れた。
彼女は俺の目の前までやって来て、クロネに言った。
「クロネちゃん、ちょっと退いて」
そう言われて、クロネは俺から離れた。
その次の瞬間、また頰に痛みが走った。
今度はフィアーナが俺をビンタした。
二人とも思いっきりすぎるよ。
「私たちはリョウちゃんがいないと生きていけないんだよ?
だから、危ないことしないでね」
「はい」
ーー
「皆様のおかげでレイン様の敵討ちができました。
お礼をしたいので、龍界に招きたいのですが、
いかがでしょう?」
レイトの死体を魔術で燃やしているとウィンテルが俺たち全員に聞こえるように言った。
「私たちが言っても大丈夫なんですか?」
フィアーナが言った。
「スノーリア様がいらっしゃるので
いいと思います」
「男の人はどれくらいいるんですか?」
「宴になりそうなので、多くなると思います」
「じゃあ、私とクロネちゃんはやめておきます」
クロネたんは分かるけど、なんでフィアたんも?
俺が嫉妬するからか。
「分かりました。
お帰りはどうなさるのですか?」
「俺が『ゲート』で送るんです」
そう言って、俺は『ゲート』でフィアーナとクロネを家に送った。
ーー
「そうでしたか。
ご苦労様でした」
レイトとの戦いを話すと、スイレン様が言った。
「これで兄もうかばれるでしょう」
そう言うと、彼女はそばに立っている女性になにかを伝えた。
「宴の準備を!」
彼女がそう言うと、玉座の間にいる人たちが速やかに出て行った。
それから、俺とユキちゃんは宴に参加させられ、夜を明かした。