第三の師匠との出会い
フィアーナの眷属になって、約半年が経ち、今は三月の下旬。
眷属になったから、怪我もすぐに治るだろうと思い、魔術で出した氷の針で肘の裏(採血でされる場所)に刺してみた。
すると、普通に血が出て、すぐに治らない、どころか治り始める気配もない。
少し見ていると、ユキちゃんが現れて、治癒をかけた。
「やっぱり、リョウタ様が傷つくお姿は見たくありません」って言われた。
そう言われて、俺はそろそろ奥さんになってもらおうと思った。
どんな風に言おうか、悩んで今に至るんだけど。
フィアーナは……というと、覚醒してからというもの、行為してるときに、瞳を潤ませて、「血、ちょうだい?」とお願いしてくる。それが可愛くてやばい。
閑話休題。
俺は今、ユキちゃんとキャスティアの街の外を歩いている。
あの眷属になった翌日の晩に神様が「キャスティアの街の外に住むシエラに会え」と言われたからだ。
「あっ。あれじゃね?」
少し歩いていると村にある家みたいな建物が木々に囲まれていた。
「はい。あの家だそうです」
ユキちゃんは微精霊に確認を取って、言った。
ここらは魔力が多いから微精霊たちがたくさんいる。
ユキちゃんは精霊王なので、声をかければ、知ってることなら教えてくれるそうだ。
俺はその建物に近づき、中にいる人を呼んだ。
「すいませ〜ん!」
「何の用だ?」
黒っぽい紫の髪に、紫の瞳の胸がたわわな女性が出てきて、ボサボサの髪を掻きながら、めんどくさそうに聞いてきた。
彼女は灰色のパジャマを着ている。
寝起きだろうか?
「なにも用がないのならーーん? 精霊王か?」
女性は扉を閉めようとして、ユキちゃんに気づいた。
「はい、そうです。
この子はユキ。
私の契約精霊です。
私はリョウタと言います」
「そうか。
精霊王と契約しているお前が私に何の用だ?」
「俺を鍛えてください。
お願いします」
「どうして私なんだ?」
「創造神様に言われたんです。
強くなりたいのならシエラさんって人に会えと」
「じゃあ、少しここで待っていてくれ」
「はい」
彼女は家の中に入って行った。
少しすると戻ってきた。
戻ってきた彼女は、左の瞳が緑色になっていた。
右はさっきと同じ紫。
彼女は緑色の瞳で俺を見てきた。
「ああ、転生者か」
「えっ? なんで分かるんですか?」
「鑑定薬を使ってるからだ」
「鑑定薬? それってなんですか?」
「後で教えてやるから、左手を出してくれ」
「は、はい」
俺は左手を前に出した。
すると、彼女はその手を掴み、自分の顔の前に移動させ、契約指輪をじっと見つめた。
「お前、二代目真祖の夫なんだな」
「それも鑑定薬の力ですか?」
「ああ。中に入ってくれ」
彼女は家の中に入ろうとした。
「えっと……」
「はぁ、鍛えてやるから入ってきてくれと言っているんだ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
俺はユキちゃんと頭を下げて、中に入って行った。
ーー
「私はシエラ。キャスティア族だ。
キャスティアの街で魔術講師をしている」
「さっきも言いましたが、リョーー」
「リョウタ・クールウィンド。
歳は十六。転生者。
氷属性、結界魔術、そして、無属性魔術に適正あり。
スキル『魔力成長』を持っている」
「なっ!?」
「今のも鑑定薬の力だ。
普通のでは名前、歳、種族、得意な魔術が視えるだけだけどな。
試しにこれを持っていくといい。
お前の妻がどれだけすごいか分かる」
そう言って、シエラさんは俺に目薬の容器みたいなのを渡してきた。
「一滴片目に垂らして、強化すれば視える」
「えっと、無属性魔術ってなんですか?」
「魔力そのものを使った魔術のことだな。
魔力の球『魔弾』、魔力を一つに束ねて放つ『魔力砲』、魔力を固めて攻撃を防ぐ『障壁』とかのことを言う」
魔王って呼ばれるようになる魔法少女の魔法だよな。
「無属性魔術は属性魔術より難しい」
「どうしてですか?」
「属性魔術はこの魔術はこのくらいの魔力量と決まっている。
だが、無属性魔術は決まっていない。
調節が難しいんだ。
まぁ、少しの魔力で放てるし、供給する魔力量を多くすれば、威力も増す。属性魔術よりもずっとな。
それに非殺傷にもできるしな。
だから、調節は難しいが、調節ができるようになれば、とても使える魔術だ」
「俺にできるでしょうか?」
「適正があるんだから、安心してればいい」
「分かりました。じゃあ、早速ーー」
「今日はしない。
久しぶりの休みなんだ。
四月の下旬の土の日からする。
だから今日は帰ってくれ」
俺はシエラさんに抱えられ、外に出された。
「またな」
彼女はそれだけ言って、扉を閉めた。
ーー
「ただいま!」
居間に入ると、ティリルがソファに座って、洗濯物をたたんでいた。
「あれ? もう帰って来たんだ?」
「うん。鍛えてくれるんだけど、来月下旬の土の日からするから今日は帰ってくれって、言われて、帰って来たんだ」
「そうなんだ」
「うん。
で、フィアちゃんたちは?」
「仕事だよー」
「えっ? 二人で依頼受けに行ったの?」
「そ。身体動かしてないとリョウタのこと、考えちゃうからってねー」
「そっか」
俺はティリルの手伝いをして、二人が帰ってくるのを待つことにした。




