ブラッディーナ城脱出とフラグ
ブラッディーナ城の玄関を出ると、ちょうど老執事が茶髪の男の人の喉を剣で貫こうとしていた。
俺は咄嗟に右手を前に出して、『氷砲』を放った。
放った氷の砲弾は老執事の頭に命中し、彼を絶命させた。
「「あっぶねえ」」
俺と喉を貫かれようとしていた男の人の声がハモった。
「もうちょっと遅かったらやばかった。
リョウタ、ありがとな」
彼は近づいてきて、俺に照れくさそうに言った。
この顔、見た事あるな。
あっ。もしかして……。
「フィールズさんですか?」
「お前、俺の顔、忘れてたんじゃねえだろうな?
忘れてたんなら、フィア返してもらうぞ」
フィールズさんは俺の胸ぐらを掴んで、睨んできた。
怖いよ、お義父さん。
「忘れてませんっ。
奥さんの家族の顔、忘れませんよ」
「ほんとか?」
「ほんとです。
瞳と肌の色がいつもと違ってて、
頭に角、背中に翼、腰から尻尾が生えてるので、
聞いたんです」
「そうか。すまん」
そう言って、フィールズさんは放してくれた。
「リョウちゃんっ」
フィアーナが俺に駆け寄ってきて、抱きつこうとしてやめた。
俺に背負われているクロネに気づいたからだ。
「どうして、クロネちゃんをおんぶしてるの?」
「魔力が無くなって気絶しちゃったから
してるんだよ……って!
フィアたん、記憶戻ったの!?」
驚いて、フィアたんって言っちゃった。
「記憶? 戻った?
リョウちゃん、なに言ってるの?」
フィアーナは「なに言ってんだ、こいつ」みたいな表情をし出した。
「一応聞くけど、フィアたんの親友は?」
「クロネちゃんでしょ?」
「ちゃんと記憶戻ってる。
よかった」
「リョウちゃん、記憶が戻ったってどういう事?」
「後で全部話すよ。
まずここから出ないと」
とは言ったけど、どうやって出ればいいかな?
『ゲート』は使えない。
かと言って、歩いてたら追いつかれるし。
「リョウちゃん、『ゲート』使わないの?」
「使えないーー」
「使える」
後ろから女の人が言った。
振り向くとリーフェさんがいた。
「使えるんですか?」
「ああ。転移阻害の装置をすべて潰したからな」
「リーフェさんが、ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
「ルナに頼まれたのだから、お前は言わなくていい。
そんなことより、お前の妻のエルフが限界だから
早くスカーレットに帰れ。
フィアの両親は私が帰しておくから」
「分かりました。
じゃあ、フィアちゃん、帰ろっか?」
「ちょっとだけ待って」
フィアーナはそう俺に言って、ニーナさんのそばに駆け寄っていき、抱きついた。
「お母さん、ありがと」
「なんのありがとう?」
「ここ来るの嫌なはずなのに
私のために来てくれたからだよ」
「来るに決まってるでしょ?
私はフィアのお母さんなんだから」
「お母さんが私のお母さんでよかった」
「私もフィアが娘でよかった」
そう言って、二人一緒に笑った。
「まただ」
俺の近くに立つフィールズさんが呟いた。
「なにがまたなんですか?」
「俺を仲間はずれにすることだよ。
昔からフィアはいつもニーナに甘えるんだよ」
そりゃあ、お母さんだもん。
ていうか、お前にも抱きついてたじゃんか。
俺がフィアちゃんの家に遊びに来てると、偶に早く帰ってくるときに、「おかえり、お父さん」って抱きつかれてたじゃん。
「はぁ、フィアにベタベタされたい」
無理だろ。
お前の娘、今高校生くらいの年齢なんだから。
てか、フィアたんは俺のだし。
「お父さんもおいで」
フィアーナが左手を広げて言った。
「フィアっ」
フィールズさんは無茶苦茶嬉しそうに彼女に駆け寄っていき、彼女の隣にいるニーナさんごと抱きついた。
「「きゃっ」」
勢いがありすぎて、三人で倒れた。
フィールズさんは気にせず、二人に頬ずりし始めた。
ーー
コンコン。
ブラッディーナ城の当主の部屋の扉がノックされた。
「入れ」
社長室にありそうな椅子に座っている女性が入室を促した。
「失礼します」
そう言って、クラシカルなメイド服に身を包んだ銀髪の女性が入ってきた。
彼女は青い板を持っている。
「魔力は大丈夫でしょうか?
一応、ポーションを持ってきたのですが……?」
「平気だ。
それより報告を頼む」
「はい。
フィアーナ様は逃走。
シルバ様を含めた十数名が死亡。
転移妨害装置すべて破壊されました」
メイドは持ってきた板を確認しながら椅子に座る女性に報告した。
「そうか。
逃げられたか」
「スカーレットに帰ったと思われます。
連れ戻しますか?」
「いい。
その代わりに、監視をさせて、
フィアの子どもが生まれたら報告しろ。
以上だ」
「はい。失礼します」
メイドは女性に頭を下げて、部屋を出ていった。
「やつを殺せるかどうかは
眷属化の効果と生まれてくる個体次第か。
ははっ、私はすごい賭けをしているのだな。
母たちよりはマシな賭けだが」
女性はそう独り言を言って、目を瞑った。




