義父対老執事
クロネはフィアーナをニーナに預け、ブラッディーナ城の中に入っていった。
「本当にフィアはニーナにそっくりだな」
ニーナの隣に立つフィールズが彼女と彼女に抱かれているフィアーナを見て言った。
「だからって、自分の娘に欲情しちゃダメよ」
「しねえよ。
ただそっくりだなって思っただけだよ」
「おや? ニーナ様ではありませんか」
年老いた男の声が聞こえ、二人はそっちに視線を向けた。
視線を向けた先には執事の格好をした年老いた男がニーナを見ていた。
「シルバ」
ニーナが呟いた。
「その声、やはりニーナ様ですな。
お久しゅうございます、ニーナ様」
老執事が頭を下げた。
「いつ見ても、お美しい」
「俺のニーナをガン見してんじゃねえよ」
そう言って、フィールズがニーナの前に移動した。
「俺の?
ということは貴方がニーナ様を誑かした訳ですか」
老執事がフィールズに言った。
「誑かす? バカ言うな。
恋に落ちたんだよ」
「それを誑かすと言うのですよ。
ニーナ様とフィアーナ様をこちらに渡すのなら
許してあげましょう」
「渡す訳ないだろ。
ニーナに聞いたけど、
お前、何度か襲いかかったんだろ?
そんなやつに渡せるか」
「やはり殺すしかありませんね」
そう言って、老執事は腰に携えた鞘から剣を抜いた。
「ニーナ」
フィールズが後ろにいるニーナに話しかけた。
「どうしたの?」
「あの爺さん、強いんだよな?」
「ええ。あなたじゃ勝てないと思う」
「はぁ、使わなきゃダメか」
彼はため息をつきながら言った。
「なにを使うの?」
「とっておきだよ」
そう言うと、フィールズの姿が少し変わった。
頭の横から黒いツノ、背中からコウモリのような翼、腰から悪魔の尻尾が生えている。
瞳も赤に、肌も水色に変わっている。
「その姿って、魔人族が使う秘技でしょ?
あなた、ヴァンパイアと人族のハーフじゃないの?」
「ハーフだよ。
母ちゃんの爺さんが魔王だったんだよ。
その能力が俺に遺伝したから、使えんだよ」
そう言うと、彼は右手を前に出した。
すると、そこに銀色の魔法陣が出現した。
彼は左手をその魔法陣に入れて、二振りの大剣を取り出した。
そして、その大剣を両手に一振りずつ持った。
「爺さん、覚悟しやがれ」
「覚悟するのは貴方の方です」
フィールズと老執事はそう言葉を交わして、駆け出した。
ーー
フィールズと老執事が戦い始めて、数分。
五分五分だ。
フィールズが二本の大剣を振り回し、老執事がそれを捌く。
捌くだけで、老執事も攻撃できないという状態。
どちらかが体力を使い切らない限り、終わらないだろう。
「んぅ」
二人が戦いを広げていると、ニーナに抱かれているフィアーナが目覚めた。
「おはよう、フィア」
ニーナは彼女に笑顔で言った。
「おはよう、お母さん」
フィアーナは少し眠たそうに言った。
すると、ニーナが彼女を抱きしめた。
彼女はクロネにフィアーナが記憶を書き換えられていることを聞かされていて、自分のことも覚えていないだろうと思っていたから嬉しくて抱きしめた。
「どうしたの? お母さん」
「なんでもないの。
ただ抱きしめたくなっただけよ」
ニーナは抱きしめるのをやめて、フィアーナの顔を見て答えた。
「そっか。それでここは?」
「ここはブラッディーナ城よ」
「ブラッディーナ城……?」
フィアーナは初めて聞いたかのような顔をした。
「覚えてないの?」
「なにを?」
「ここに連れて来させられたこと」
「知らない。
私の一番新しい記憶はリョウちゃんにギュッと抱きしめられて眠ったことだから」
「そう」
「リョウちゃんは?」
「今、クロネちゃんが助けに行ってるわ」
「私も行かなきゃ」
そう言って、フィアーナは立ち上がった。
「フィア! 行くな!」
老執事と戦っているフィールズが叫んだ。
「お父さん?」
「お前が城の中に入ったら、俺が守れねえだろうが」
「でも、二人が心配だから」
「お前は本当にニーナにそっくりだな。
俺は良い娘を持ったもんだーー」
彼が話していると、老執事が剣の切っ先を彼の喉めがけて突きを放った。
だが、彼の剣はフィールズの喉にはたどり着かなかった。
老執事はクロネを背負ったリョウタが放った氷の砲弾を頭にくらって、絶命したからだ。




