クロネ対ラーナ
フィアをフィアの両親に預けた私はブラッディーナ城の城内を走っている。
微量に漂っているリョウタの匂いを頼りに走っている。
「匂いが濃くなっている。
もう少し」
そう呟いた瞬間、嗅いだことのある匂いがした。
すると、視界にラーナが入った。
彼女は通さないとばかりに仁王立ちしている。
私は足を止めた。
「お前、クロネか?」
「そう。フィアとリョウタを助けに戻ってきた」
「そうか」
「この先にリョウタがいるから
そこを退いて」
「無理な相談だ」
「そう。
じゃあ、斬り伏せて、通してもらう」
「そう来なくてはな」
そう言って、ラーナは仁王立ちをやめて、右手に雷の槍を出現させて、穂先をこっちに向けた。
「ブラッディーナ家当主
ラーナ・スカーレット・ブラッディーナ」
「次代月姫、クロネ・クールウィンド。
ラーナ、貴女を斬る!」
そう言って、私は駆け出した。
ーー
バチッ、ヒュンッ、バチチッ。
ツクヨミとラーナの槍がぶつかった。
刀を交わらせてから十数秒、ちっとも刀が届かない。
獣化している私の方が強いはずなのに、ラーナは互角に戦っている。
多分、経験の差だと思う。
私は一旦、構えをやめた。
「ん? どうした?」
「貴女に聞きたいことがあるの」
「なんだ?」
「どうして私とリョウタを殺させなかったの?」
「世界神を倒すのに必要だからだ」
「必要?」
「ああ。フィアーナ一人では確実性に欠ける。
あの娘に近い力を持った者が最低一人は欲しい。
そんな者が手に入る方法は一つ。
フィアーナと優秀な者を交わらせ、子を為すこと」
「その優秀な者がリョウタ?」
「ああ。
あいつは魔力保有量が凄まじく多く、
キャスティアだけが適正を持つ無属性魔術の適正を持ち、
精霊に好かれる体質だ。
そして、フィアーナの好みだからな」
「リョウタが必要なことは分かった。
私が必要な理由はなに?」
「フィアーナとその子を鍛えるために必要だ」
「フィアに一瞬でやられたのに?」
「ああ。お前は確かに一瞬でやられたな。
だが、お前は獣神の子孫だ。
血が目覚めれば、フィアーナと渡り合える強さになる。
そんなお前と毎日戦わせれば、倒せる可能性が凄まじく高くなる」
「そう。分かった」
「どうする?
ここで私に意識を刈り取られるか
大人しく私たちに下るか。
後者を選ぶのなら、あいつと好きなだけ愛し合わせてやる。
もちろんフィアーナが身籠ってからだがな。
安心しろ。同じ部屋で生活はできる。
さあ、選べ」
私はツクヨミを構えた。
そして、闘気をツクヨミに集める。
「なにをする気だ?」
「フィアとリョウタと三人で暮らせるというのは
すごく嬉しいし、きっと楽しいと思う。
だけど、フィアには私たちとの思い出は無いし
リルが家で待ってるし、ユキもセラもリョウタと暮らしたいだろうし。
なによりフィアとフィアの子どもが
貴女たちの復習の道具として生きなきゃいけないのが可哀想だから。
私はラーナ、貴女を斬る!」
そう言って、私はツクヨミを横薙ぎに振るい、闘気を纏った光の斬撃を放った。
すると、ラーナはフッと笑った。
笑った瞬間、彼女のお腹に斬撃が直撃した。
そして、彼女の上半身と下半身が離れ離れになった。
「はぁはぁ、ラーナ。
世界神はなんとか倒すから安心して眠って」
そう言って、私は先へ進んだ。
ーーSide リョウターー
我慢できなくなって、フィアーナを抱いてから、半日が経った。
今は一人で部屋にいる。
フィアーナは三十分くらい前に呼ばれて、部屋から出ていった。
それっきり戻ってこない。
ていうか、誰も来ない。
誰か来て。
そう思った瞬間、部屋の外から足音が聞こえてきた。
俺は扉の方に視線を向けた。
足音は俺のいるこの部屋の前で止まった。
すると、次の瞬間、扉が開いた。
そして、水色の着物を着た白髪猫耳美少女が入ってきた。
「リョウタ!」
彼女は俺を視界に入れた瞬間、抱きついてきた。
今の声ってクロネたんの声だよね?
それにたわわだし、この娘、クロネたん?
「大丈夫? 怪我してない?」
彼女はサファイアの瞳で俺の顔を見つめて聞いてきた。
あっ、この娘、クロネたんだわ。
顔もドストライクだし。
「大丈夫だよ。
それよりクロネたん、髪どうしたの?」
「髪?」
「うん。ポニテじゃないし、真っ白だよ?」
「それは獣化してるから、こうなってるだけ。
だから、獣化を解けば、黒に戻るから、安心して」
「獣化?」
「後で説明する。
だから、今は一緒にこの城から出て」
クロネは俺に抱きつくのをやめて、俺の手を掴んで、立ち上がらせた。
「ちょっと待って。
これ着いてるから」
俺は自分の首に着いたチョーカーを指し示した。
「首輪?」
「うん。これをなんとかしないとーー」
そう言っていると、クロネがチョーカーに触れた。
バキンッ。
「これでいい?」
彼女は俺の首からチョーカーを外して、俺に見せた。
「う、うん」
「それじゃあ、来て」
そう言って、クロネはチョーカーを捨てて、俺の手を握ろうとした瞬間、彼女の髪が元の黒になった。
その次の瞬間、彼女が俺の胸に飛び込んできた。
飛び込むというより倒れ込んだ。
「えっと、クロネ?」
返事が返ってこない。
俺は彼女を横抱きするようにして、彼女の顔を伺った。
すると、彼女は目を瞑っていた。
「クロネ! クロネ!」
名前を呼んでも起きない。
それどころか、ピクリとも動かない。
し、死んじゃった?
「気を失っているだけですよ、リョウタ様」
ユキちゃんが現れて、言った。
「ほんと?」
「はい、本当です」
「原因は?」
「原因ですか?
少し待ってください」
そう言って、彼女はクロネに触れて、目を瞑った。
数秒後、ユキが目を開けた。
「体にすごく負担がかかりすぎたことと
魔力が枯渇したことが原因ですね。
少しすれば、目覚めると思います」
「そっか。ありがとう、ユキちゃん」
「はい。
リョウタ様のお役に立てて嬉しいです」
彼女は笑顔で言った。
可愛いな、俺の契約精霊。
「か、可愛いだなんて」
ユキちゃんは両方の頰に手をあて、照れた。
可愛すぎる。
ユキちゃんで癒されてる場合じゃなかった。
早く出ないと。
「ユキちゃん、クロネたんをおんぶするから、手伝って」
「はい」
俺はユキちゃんに手伝ってもらい、クロネを背負った。
そして、ユキちゃんに案内を任せて、俺たち三人はこの城の門に向かって、部屋を出た。