酔った天使と猫耳
「よし、ラスト」
俺は書類に手をつけた。
あの日から三ヶ月半が経ち、
今日は三人と契約して、ちょうど一年。
今日の夕飯はリョウタとフィアの好きな物にするねーと
リルが言っていた。
楽しみだ。
後、果実酒を買って帰る気でいる。
俺は今日で十六だから。
仕事を終えて、魔王城の廊下を歩いていると
メア様(魔王)に会った。
「今日は契約した日だったよな?」
「そうですけど」
「そうか。じゃあ、少しここで待ってろ」
そう言うとメア様は俺たちの進行方向へ消えていった。
それから待つこと数分、
メア様は紫色の液体の入った瓶を持って現れた。
そしてその瓶を俺に渡した。
「これは?」
「果実酒だ。
契約一周年の祝いにやる」
「お金払いますね」
「祝いだと言ったのだが?」
「高いんですから払います」
「そう言うと思って、
誰でも手を出せる値の中から美味いのを選んだから
気にせず受け取れ」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えていただきます」
「ああ。それじゃあな」
メア様はどこかへ消えていった。
「ありがとうございます」
ーー
「えっと、三人と契約して一年。
一度だけ嫌なことがあったけど
それ以外は幸せだったし
楽しかった。
えっと、これからも一緒にいてください」
「「「うん、ずっと一緒」だよ」だかんね」
三人が同時に言った。
今はご飯前です。
「あ、ありがとう」
「そんな照れるんなら言わなきゃいいのに」
リルが言った。
「こういうことはちゃんとしたいから」
「リョウタ、もう言うことないんなら
早くこれして」
クロネが手を合わせて言った。
「分かったよ。
じゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
それからみんなで談笑しながら
食べた。
ーー
そして、時間が経って営む時間。
でも、今日はしない。
今から四人でもらった果実酒を飲むからだ。
俺の部屋でな。
「私も初めてだなー」
リルが瓶を持ち上げ、見ながら言った。
「二十六なのに?」
リルは夏生まれだから
二十六だ。
「そうだよー。
ていうか、リョウタも前世含めて
初めてでしょー?」
「まぁ、そうなんだけど」
「じゃあ、私のこと言えないねー」
「リル、邪魔」
丸くて低いテーブルを
背負ったクロネが部屋に入ってきた。
「クロネたんってすごいな」
「ただ強化してるだけ。
得意な人なら誰でもできる。
私は獣族だから元の身体能力が高いから
強化なしでもリョウタを持ち上げられる。
試してみる?」
テーブルを床に置きながらクロネが言った。
「やめときます」
「そう。フィア、お願い」
「うん」
フィアは魔術でグラスを四つ出した。
フィアは全属性が俺よりも上手い。
俺は氷以外は普通で土は苦手。
だから二人に勝てる部分は氷と結界だけ。
「くっ」
「リョウちゃん、どうしたの?」
「情けないと思って」
「どうして情けないの?」
「フィアちゃんもクロネちゃん、
二人とも強いでしょ?
俺が二人に勝てるのは
氷魔術と結界魔法だけだし、
いつも二人に守られてるし、
あいつと戦った時だって
クロネちゃんを守ってあげられなかった。
俺は二人の夫なのに」
「リョウちゃんはちゃんと旦那さんできてるよ」
「できてないよ。守れてないんだから」
「あの人はフィアでも勝てなかったし、
いつも結界で魔物から守ってくれてる。
だから情けなくない。
リョウタは私たちの自慢の旦那様だから」
クロネはベッドに腰かけている俺の隣にきて
俺の手を両手で包み込んで言った。
「そっか。でも近いうちに強くなりに行くね」
「どこへ行くの?」
「キャスティアの街。
そこへ行ったら強くなれるって師匠が言ってたんだ」
「そう。何ヶ月か会えなくなるの?」
「分かんないけど、できるだけ帰ってくるようにするから」
「そうして。リョウタと片時も離れたくないから」
「クロネたんっ」
俺はクロネに抱きついた。
「俺もクロネたんと離れたくない。
てか二人で暮らしたい。
クロネたんと毎日にゃんにゃんしたい」
「リョウタ、フィアとリルの前だから」
「リョウタ、どういうことかなー?
私とフィアは邪魔ってことなんだ?」
「リョウちゃんはクロネちゃんの方が好きなんだね?
クロネちゃん、可愛くて、おっぱいおっきいもんね」
「ち、違う。
二人のこと好きだし、
フィアちゃんの胸、好きだから」
「にひひ、分かってるよ。
ね? フィア」
「うん。分かってるよ」
二人は笑って言った。
俺はほっとした。
「じゃあ、開けよっか?」
俺たちが頷くとリルは瓶を開け、
フィアが出したグラスに注いだ。
「みんなグラス持ったから
フィア、正妻として一言、お願いねー」
「お姉ちゃんっ!
正妻っていうのやめてって言ったでしょ?」
「分かった、分かった。
じゃあ、第一夫人として一言」
「も〜。
えっと、リョウちゃんとクロネちゃん、お姉ちゃんと
暮らし始めて、一年。
いつも楽しくて、幸せだよ。
三人ともありがと。
乾杯」
四人でグラスを当てた。
ーー
「リョウちゃ〜ん」
「リョウタ〜」
俺はフィアとクロネに左右からくっつかれている。
二人は腕に絡みついている。
「リョウタ〜、こっち向いて」
「はいは……んっ!?」
クロネの方に顔を向けると唇をくっつけられた。
それだけじゃなく、
クロネは啄むようにし始めた。
「好き」
クロネは唇を放すと耳元で囁いた。
そんなことするから
二人の胸が腕にくっついた状態で
半戦闘態勢だった剣が
戦闘態勢に入ってしまった。
「クスッ、にゃんにゃんする?」
彼女は微笑んで言った。
「後でお願いするね」
「うん」
「クロネちゃんだけずるいよ〜」
フィアは俺の頰を掴んで自分の方に向けて
唇をくっつけてきた。
そしてクロネと同じく啄んできた。
「えへへ〜。
これで平等だよ〜」
「にひひ、二人とも積極的だねー」
床に座っているリルが言った。
「どうしたらいいの?」
「好きにさせてあげて。
いつも二人は私に気を遣ってるかんね」
「そ、そっか」
「二人は戦闘では強いけど、お酒には弱いんだねー」
「リルは大丈夫?」
「平気だよー。
身体がポカポカするだけで
他はいつもと変わんないよ。
リョウタは大丈夫?」
「酔っ払ったみんなを観たいから
超ゆっくりで飲んでる。
だから大丈夫」
「そっかー」
「リョウちゃん」
隣にいるフィアが話しかけてきた。
「なに?」
「私とクロネちゃん、どっちの方が好き〜?」
「私も気になる。どっちなの?」
「おんなじくらい、好きだよ」
「も〜、リョウちゃんは〜。
いっつもそうだ〜。
二人とも死ぬほど好きだとか
ドストライクだとか」
「ちゃんと決めて」
「決めらんない」
「うぅ〜。リョウちゃんのバ〜カ」
「フィア。
リョウタはフィアが可哀想だから言わないだけ。
でしょ? リョウタ」
「違うよ」
「やっぱり、おっきい方がいいんだぁ。
リョウちゃんのバカっ、えっちっ、変態っ、
数学バカっ」
フィアたんは目を潤ませながら言った。
数学バカって……。
「フィアーナのこと、愛してるよ」
俺はフィアに耳元で言った。
「えへへ〜。私も〜」
フィアは俺に抱きついた。
そして、数秒後、寝息を立て始めた。
「リョウタ〜、フィアが寝たから
今からにゃんにゃんしよ?」
「リルいるからもうちょっと待って」
「リル。フィアを連れて私たちの部屋行って」
「はあ。クロネは酔うと人使い荒くなるんだねー」
「早く」
「はいはい」
リルは俺の近くに来て、
フィアを俺から放して
お姫様抱っこした。
「じゃあ、リョウタ。おやすみー」
それだけ言って、リルは自分たちの部屋に戻っていった。
「じゃあ、ベッドの上に移動しよ?」
「うん」
俺はクロネをお姫様抱っこして、
彼女をベッドの上に寝かせた。
「リョウタ〜」
「ん?」
「ギュッとして」
「分かったよ」
俺はクロネを抱きしめた。
すると彼女は寝息を立て始めた。
俺は放してクロネの顔を見た。
彼女は幸せそうに眠っていた。
「可愛い」
俺はクロネの唇に唇をくっつけた。
「おやすみ、クロネ。大好きだよ」
クロネの頭を一撫でしてから、
自分のグラスに残った一口を飲み干した。
そして、クロネの隣に寝転び、
彼女の手を握って、布をかけて眠った。