フィアーナ対クノハ
三人称視点。
少し遡ります。
クノハがクロネの頰に触れ、自分の方へ顔を向けさせる。
クノハの唇がクロネの唇に近づいていく。
後数センチのところで、クロネに手を向けるフィアーナ。
彼女の体の周囲に稲妻状の火花が散っている。
フィアーナが手を向けた瞬間、クロネの体が赤く輝き出す。
「熱いッ!」
そう叫び、クロネの肩から手を放して、彼女から離れるクノハ。
その瞬間、フィアーナが彼に手を向け、紅蓮の火球を放つ。
彼女が放った火球はクノハに直撃し、彼の体を燃やす。
あまりの熱さに地面に倒れ、もがき苦しむクノハ。
フィアーナの背中に火球が六つ現れ、ガスバーナーに点火したときのような火に変化し、彼女を飛行させ、クロネの元へ向かわせる。
フィアーナがクロネの元にたどり着いたと同時に、クロネに着けられている鎖と手錠が溶けた。
吊るしているものが意味を成さなくなり、地面に向かうクロネの体。
そんな彼女を優しく抱き止めるフィアーナ。
「フィア?」
「もう大丈夫だよ、クロネちゃん」
そうクロネにだけ聞こえるように告げて、リョウタの元へ背中の火で飛んで向かうフィアーナ。
「リョウちゃん。
クロネちゃん、お願い」
リョウタの前にたどり着いたフィアーナはそう言って、彼にクロネを差し出す。
「クロネちゃんと部屋の外行ってて」
クロネを受け取ったリョウタにそう告げる彼女。
「フィアちゃんは?」
「私はあの人、殺さなきゃいけないから」
「そ、そっか。じゃあ、行くね」
そうフィアーナに告げると、扉の方に向かうリョウタ。
「よくも僕に火傷を負わせて、クロネを奪ってくれたね。
許さないよ」
ちょうどリョウタたちが扉の向こうにたどり着き、扉を閉めた瞬間、起き上がり、そうフィアーナに言うクノハ。
「許さないのはこっちだよ!」
フィアーナがクノハの方に向き、叫んだ。
「その火傷よりもずっと深くクロネちゃんの心を傷つけて、
クロネちゃんを自分のものにしようとして、最低!
絶対許さない!」
そう叫ぶと、フィアーナの手に紅蓮の炎剣が現れた。
背中の火を噴射して、一気にクノハに近づき、炎の剣を振り下ろす彼女。
クノハは避けられずに炎の剣をくらう。
「熱いっ!」
あまりの熱さに叫ぶクノハを無視して、炎の剣を振るうフィアーナ。
「熱いっ、熱いっ」
「クロネちゃんはずっと苦しんでたの!
十五になったら、ひどいことされるって苦しんでた!
男の人の視線に怯えてた!
もうすぐリョウちゃんと会えるってときだって、
触れられて、震えたらどうしようって悩んでた!」
炎の剣に怒りを込めて、振るう。
「貴方がクロネちゃんの前に現れなければ、苦しむことなかった!」
そう言って、フィアーナは紅蓮の光線をクノハに放った。
彼は光線をくらい、後方に吹き飛んだ。
「はぁ、はぁ、僕が現れたから、
あの転生者とクロネが結ばれたんじゃないのかい?
他の男にもなびかないんだから、
感謝されてもいいと思うんだけどね」
「現れなくても私たち家族になってたし、
クロネちゃんはリョウちゃん以外の男の人になびかないよ!」
フィアーナはクノハに近づこうとするが、足が動かない。
視線を足に向ける彼女。
「なにこれ?」
彼女の足首には紫色の光を放つエネルギーの輪っかが着けられていた。
「いつの間にこんなのが……?」
「話している間に僕がやったんだ。
変身するためにね」
そう言って、体に力を入れるクノハ。
すると、彼の周りに紫色の光が現れ、彼の体を包んだ。
光が収まると、姿が変わったクノハが現れた。
二メートルと少しの背丈、狐の顔、真っ白な体毛、長い腕、その先にある大きく鋭利な爪、九本ある狐の尻尾。
化け物と呼べるような姿だ。
「これが俺のもう一つの姿。
妖術は俺の願いにくれたものだが、これは違う。
お前を殺すために世界神がくれた。
早速、死んでもらうぞ、二代目真祖!」
そうクノハは叫び、地面を蹴って、フィアーナに近づく。
「死ね!」
右腕を横薙ぎに振るおうとするクノハ。
その瞬間、彼の体を赤い光を放つエネルギーの輪っかが拘束した。
「これは……まさか!?」
「世界神が恐れる二代目真祖が簡単にやられると思う?」
フィアーナがクノハに尋ねる。
「完全に覚醒したのか!?」
答えずにクノハに手を向けるフィアーナ。
すると、彼の体が立った状態になった。
「クロネちゃんがどれだけ苦しんでいたか、教えてあげる」
そう言って、フィアーナは新たに出現させた炎の剣を横薙ぎに振るった。
ーー
フィアーナの怒涛の攻撃が始まって、時間が経った戦いの空間には、肩で息をするフィアーナとボロボロの状態のクノハが存在していた。
「〈モアヒール〉」
フィアーナが呟くと、光が消えた瞳と火傷、すすでボロボロのクノハの体を緑色の光が包んだ。
光がやむと、彼の体についた火傷が治り、瞳にも光が戻った。
「もう分かったっ。
分かったからっ、殺してくれっ」
涙を流しながら、フィアーナに懇願するクノハ。
フィアーナはそんな彼に両手を向ける。
すると、その両手の前に一つの火球が現れた。
火球はどんどん大きくなっていき、人の頭大になった。
「さようなら」
クノハに別れを告げるフィアーナ。
それと同時に、火球が太い紅蓮の光線として放たれる。
クノハに向かっていき、彼の体を飲み込む光線。
「ーーッ!」
言葉にならない叫びを上げるクノハを無視して、光線は彼の体を溶かしていく。
光線が止んだ瞬間、気を失って、地面に倒れ込むフィアーナ。
光線で開いた穴から差す夕日が「よくやった」と褒めているかのように、彼女の顔を照らした。




