覚醒の片鱗
前半に不快な部分があります。
苦手な方は後半まで飛ばしてください。
結界の階段を上って、クロネがいる階層にたどり着いた。
たどり着いた俺の視界にクロネとその隣に立つクノハが映る。
クロネは肩の部分が紐、足の部分にスリットが入った黒いドレスを着せられて、足が地面に着かない状態で吊るされている。
「僕の城をぶち抜いてくれちゃって……。
ひどいね、君たち」
「お前に言われたくねえよ。
クロネの村の人たちにひどいことしたくせに」
「それだけじゃなくて、
クロネちゃんからお父さんと
仲良くしてくれてたお姉さんを奪って、
クロネちゃんに辛い思いさせて。
絶対許さないから」
フィアーナが右手をクノハに向け、その手に火球を出現させる。
それと同時にクノハが短剣を出現させ、クロネの首にその刃を当てた。
「その魔術を放った瞬間、クロネを殺すよ?」
手を下ろすフィアーナ。
「ふふっ、覚醒してたら助けられたのにね」
クノハはそう言いながら、短剣を持ち替えて、クロネの右肩を掴んだ。
「触んなよ!」
「どうしてだい?」
「クロネが震えてるからだよ!」
杖の先に先の尖った氷の砲弾を出現させる。
「うっ」
氷の砲弾に回転をかけた瞬間、クロネがクノハに短剣をグッと首に押し付けられ、声を漏らした。
「いいのかい?
君の大切なクロネが死ぬことになっても」
「くっ」
氷の砲弾の回転を止め、地面に落とすように放った。
「女神が危険だって言ってた二人が
こんなものだなんてね。
拍子抜けだよ。
だけど……」
クノハが手をクロネの右肩から右胸に移動させる。
「そのおかげでクロネを抱けるんだから、感謝しないとね」
そう言って、クロネの胸を鷲掴みした。
「やめて!」
フィアーナが叫ぶ。
その叫びを無視してクロネの胸を揉むクノハ。
「手から溢れるくらいの大きさ、
指が沈んでしまうほどの柔らかさ。
最高だよ、クロネ」
クノハがクロネに感想を述べる。
そのクロネはただ目を閉じて耐えている。
「唇も最高なのかな?」
そう言うと、握っている短剣を放すクノハ。
短剣は落ちずに浮遊している。
操られているかのようにクロネの首の右側に移動して刃を突きつける短剣。
クノハはクロネの頰に触れ、自分の方に顔を向けさせ、自分の顔を近づけていく。
俺は見てられなくなって、目を瞑った。
ごめん、クロネ。
こんなに弱い旦那で。
「熱いッ!」
なにかが焼ける音とともにクノハの叫び声が響いた。
その声に驚き、目を開ける。
すると、視界にクロネを抱えるフィアーナと少し後ろで体に火が付いたクノハが映った。
なにが起こった?
「リョウちゃん。
クロネちゃん、お願い」
目の前に来たフィアーナが抱えているクロネを差し出してくる。
「クロネちゃんと部屋の外行ってて」
「フィアちゃんは?」
「あの人を殺さなきゃいけないから」
「そ、そっか」
声色、体の周りに走っている赤い稲妻。
フィアーナがすごく怒っているのが分かって、どもってしまう。
「じゃあ、行くね」
クロネを大事に抱え、部屋の出口に向かった。
「これで合ってるよね?」
「はい。合ってると思います」
扉の開け閉めを手伝ってくれたユキちゃんが答えた。
「りょ、リョウタ。
下ろしてほしい」
俺に抱えられているクロネが顔を赤らめてお願いしてくる。
彼女の体を支えて、ゆっくり立たせた。
立った瞬間、俺に抱きつくクロネ。
「すごく怖かった」
「あいつにお姉さんみたいなことされると思ったから?」
「それも怖かった。
だけど、リョウタといられなくなることが一番怖かったっ」
「ごめん」
クロネの背中に腕を回して抱きしめる。
「辛い思いさせてごめん。
なにがあっても俺以外の男に触れさせないって、
絶対手を放さないって言ったのに。
二つともできなくて、助けることもできないやつでごめんね」
「ううん。
できなかったけど、なんとかしようとしてたし、
俺のクロネに触れるなって、魔術を放ってくれたこと、すごく嬉しかったの。
だから謝らなくていい」
「だけど、俺はーー」
クロネに唇を奪われ、遮られた。
「謝らなくていいから、抱きしめて」
「分かった」
俺は返事して抱きしめる手に力を入れた。
「名前呼んで」
俺の肩に頭を預けたクロネが言う。
「クロネ」
「いいって言うまで」
「う、うん。クロネ」
「うん」
「クロネ」
「うん」
「クロネ、愛してる」
俺の背中に回っているクロネの腕に力が入った。
クロネの今の状況を置き換えて考えた結果、これが一番言われたいと思ったから口に出してみたけど、正解だったみたいだな。
「私も愛してるっ」
そう返して泣き出すクロネ。
俺は片方の手で頭を撫でて、彼女が落ち着くのを待った。




