クロネとの夜
俺は紺色の浴衣を着て、大人二人で寝られるくらいの布団が敷かれた部屋にいる。
そんな俺の心は不安で一杯だ。
これから男が苦手で怖いクロネちゃんを抱くからだ。
「どうすれば怖くないかな?
クロネちゃんは俺は平気だって言ってたけど」
考えるけど思いつかないから、昨日と同じように手順を確認していると、扉の向こうに気配を感じた。
「リョウタ、入っても大丈夫?」
クロネちゃんだ。
「うん。大丈夫だよ」
返事を返すとクロネちゃんが入って来た。
彼女は綺麗な黒髪を下ろしていて、いつもの紺色の浴衣ではなく、太ももの途中までの丈の白い着物を羽織り、青い紐で留めている。
クロネちゃんは襖を閉めて俺の目の前に正座した。
彼女は服の裾(前の方)を掴んで、口を真一文字にしていて、すごく緊張している。
緊張をほぐしてあげなきゃいけないんだけど、キスは逆に増すって知っているから、どうすればいいかわからない。
悩んでいると彼女が口を開いた。
「す、する前に、私のすべてを知っていてほしいから
少しだけ話を聞いてほしい」
「うん、いいよ」
「ありがとう。
その、男の人が苦手な理由は知ってる?」
「うん。
村が襲れたときに
慕っていたお姉さんが襲われたのを
見ちゃったからだよね?」
「うん。
その後、家に走って帰ったの。
そしたら、庭から金属同士がぶつかり合う音が聞こえて、向かうとお父さんが狐耳の男と戦っていた。
お父さんは私に気を取られた瞬間に剣で貫かれて倒れた。
私はお父さんに駆け寄って男を睨んだの。
そしたら、男は私を舐めるように見て、
私を妻にするって言って、十五になったら迎えに来るって言われたの。
男がいなくなった後に、お父さんは私とお母さんの前で亡くなった」
クロネちゃんは、猫耳を垂らして辛そうに言った。
「それから私はなにもせずに泣いていたの。
お父さんを殺したあの男の妻になりなくなかったし、
お姉ちゃんにひどいことしてた男たちと同じ匂いが
あの男からしていたから、
私もぐちゃぐちゃにされるんだと思って、
ずっと泣いてたの。
一、二ヶ月して私はお父さんの仇を討つために
お父さんに教わった剣の型を練習し始めたの。
お父さん以上の強さを手に入れるために
必死で頑張っていたの」
「だから、倒れるまで木刀振ってたんだね?」
「うん。
その、あのときはありがとう」
クロネちゃんは、照れながら言った。
「偶々見てただけだから」
「偶々でも助けてくれたのは事実だから」
「そっか」
「それで、貴方に出会ってから
もう泣かなくなったし、
私は幸せになれるんだなって思い始めたの」
よかった。
「だけど、今は不安で一杯なの」
クロネちゃんはまた猫耳を垂らして言った。
「なんで?」
「あの男が私を探し出して
貴方を殺して、私を連れていくと思うから。
あの男に抱かれるのはすごく嫌だけど、
貴方が殺されるのはもっとずっと嫌なのっ」
彼女はポロポロと涙を流し始めた。
俺は抱きしめた。
「大丈夫。俺の氷魔術は強いから。
魔獣の胸に浅いけど穴を開けたことがあるんだ。
魔獣を倒したフィアーナと比べたら、全然だけどね」
そう言うと、クロネちゃんは顔を上げた。
「そんなことない。
リュートが言ってたけど、
魔獣はとてつもない硬さの金属で覆われていて、
闘気を纏ってるらしいの。
そんな魔獣に穴を開けられるなんて、
すごいことだから。
それにフィアは二代目真祖だから
比べるものじゃない」
二代目真祖?
なんでクロネちゃんが知ってるの?
聞こっかな?
いや、今は聞いたらダメだろ。
安心させなきゃいけないんだから。
「そっか。
話を戻すけど、
俺にはその氷魔術があるから
そいつにやられないし、
絶対クロネを渡さない。
なにがあっても俺以外の男に触れさせない」
そう言うと、クロネの目からぶわっと涙が溢れた。
俺は、彼女の頭を抱き寄せ、胸に埋めさせた。
そして、右手で頭を撫でた。
ーー
「もう大丈夫だから」
しばらく撫でていると、クロネが言った。
俺は抱きしめるのをやめた。
「その、改めて、こ、告白してもいい?」
彼女は口の前で両手の指をくっつけて、恥ずかしそうに聞いてきた。
やばっ、超絶可愛いんだけど。
今すぐ押し倒して、死ぬまで愛し合いたい。
「ダメ?」
クロネが上目遣いで聞いてきた。
やめて。理性がぶっ飛んじゃうから。
「い、いいよ」
「ありがとう。
私、リョウタに一目惚れしたの。
そして、倒れた私を介抱してくれたって聞いて、
手まで握っていてくれて、優しいんだなって思って、
ずっと一緒にいたいと思ったの。
再会したら、かっこよくなっていて、
より一層、ずっと一緒にいたいって思ったの」
そう言うと、クロネは俺の手を握った。
そして、俺の瞳を見つめて、口を開いた。
「私、リョウタのことが大好きなの。
顔も声も匂いも貴方のすべてが
どうしようもないくらい好きなの。
そんな大好きな貴方にだーー」
「俺もクロネが好きだ」
クロネの言葉を最後まで聞いてしまうと理性が飛びそうだったから俺は遮った。
「えっ?」
「俺もクロネが大好きだ。
可愛さと綺麗さを兼ね備えた顔、
綺麗な黒髪、綺麗な声、
猫耳と尻尾、すごく大きい胸、
そのなにもかもがすごく俺好みなんだ。
クロネみたいな理想の女の子を
奥さんにできて、すげえ幸せだなって。
えっと、クロネ、俺の奥さんになってくれてありがとう」
俺がそう言うと、クロネが抱きついてきた。
「そう言ってもらえて、すごく嬉しい」
そう言うと、彼女は顔を上げた。
「私も貴方の妻になれて幸せ。
私をもらってくれてありがとう」
そう言って、クロネは笑った。
その笑顔が可愛すぎて、俺は口づけした。
「私、貴方が好きで好きでたまらない。
貴方に抱かれたくてしょうがないの。
その、肌を晒すだけでもすごく恥ずかしいけど
貴方が、き、気持ちよくなるように頑張るし、
元気な子を産むから。
リョウタ、私を抱いて、貴方のものにして」
クロネはサファイアの瞳を潤ませて言った。
そんな彼女が可愛くて、俺は唇を奪った。
そして、彼女の口内に舌を入れ、貪った。
それから俺たちはめちゃくちゃ愛し合って、夫婦になった。