閑話 クロネと刀神の出会い
「猫獣族の村ってここで合ってる?」
白い髪に黒い瞳の青年が同い年くらいの金髪の女性に確認する。
「はい。ここです」
「じゃあ、行こうか?」
「はい」
二人は村の中に入っていった。
「アリシア」
「はい。どうかしましたか? リュート」
金髪の女性が白髪の青年に聞く。
「この村、少し変じゃないか?」
「女性しか見かけないから、ですか?」
「ああ。それに俺を見る目が怯えてる」
「ちょっと尋ねてきます」
そう言って、金髪の女性ーーアリシアが近くにいた女性に聞きに行った。
少しすると、アリシアが戻ってきた。
「リュート。分かりました。
この村は数年前にある男とその配下の者に
襲われたそうです。
村の男性たちは皆殺され、女性たちは犯されたため、
この村の人たちは男性が苦手らしいです」
「そうか。なんか世界神が絡んでいそうだな」
「そうですね。
ついでにクロネのことも聞いてきました」
「グッジョブ、アリシアたん」
親指を立てる青年ーーリュート。
「リュート! 何度言えば分かるんですか!
外ではたん付けしないでください!」
「ごめん、アリシア。
もう言わないから」
「本当ですか?」
「うん。
もう言わないから、クロネについて教えて」
「クロネはこの村の村長の娘だそうです。
彼女は村を襲われたときに、
姉のように慕っていた女性が犯されてるのを見て、
男たちを率いていた男に
十五になったら同じようにすると言われて、
男性恐怖症になったらしいです」
「それじゃあ、クロネとの会話はアリシアに任せる」
「分かりました」
ーーSide クロネーー
「ふぅ。
クロネ、一旦休憩ね」
木でできた薙刀を持ったお母さんが言う。
なかなか剣の腕が上がらないと相談したら、毎日打ち合い稽古をしてくれるようになった。
「うん」
「またその顔。
上達してないと思ってるの?」
私が頷くと、頭を撫でてくるお母さん。
「少しずつだけどちゃんと上達していってるから、
安心しなさい」
「すいませーん!」
女の人の声が玄関の方から聞こえた。
「少し待ってて」
そう告げて、玄関に向かうお母さん。
少しすると、お母さんが金髪の女の人を連れて戻ってきた。
「この人はアリシアさん。
貴女に剣術を教えてくれるそうよ」
「私に?」
「はい。
このローブの持ち主に魔王経由で頼まれました」
女の人ーーアリシアさんが抱えていた白のローブを渡してくる。
私は反射的に受け取ったローブの匂いを嗅いだ。
「このローブ、リョウタの?」
「はい。
一人で頑張るより、師匠がいた方がいいからと
魔王に頼んだそうです」
ちゃんと私のこと覚えていてくれた。
そう思うと、頰が緩んでしまう。
すると、アリシアさんが笑った。
「ふふっ、好きなひとのこと考えると
頰が緩んでしまいますね。
私も昔、リュートのことを考えて、
頰を緩ませたものです」
「リュート?」
「私の夫です。
その、本当は私じゃなくて、
リュートが貴女に教えるんです」
男の人が……?
そう思った瞬間、手が震え出す。
すると、アリシアさんが私を抱きしめた。
「大丈夫です。
リュートは優しいですから。
貴女にひどいことはしません。
それに私がずっと一緒にいます。
だから……」
立ち上がるアリシアさん。
「私たちの家に来て、剣を学んでください」
「強くなれるの?」
そう聞くと、アリシアさんが微笑んだ。
「はい。
リュートは剣の腕がとてつもないですし、
教えるのが上手ですから」
「教えてほしいけど、
お母さんを残して行くのはーー」
「私も行くつもりなのだけど?
いいのよね? アリシアさん」
「いいですよ。場所なら余ってますから」
ーー
用意を済ませた私とお母さんはアリシアさんに連れられて、村から出た。
村を出て少し行くと、白い髪の男の人が刀を振るっていた。
袈裟斬り、横薙ぎ、突き。
知っている型なのに、キレが違う。
彼の動きは舞のように美しい。
「リュート!」
舞が一旦落ち着くと、アリシアさんが呼んだ。
その声に反応して、こっちを向く男の人。
あの人のような嫌な感じが少しもない優しそうな顔つきをしている。
でもリョウタの方がもっと優しそうな顔だった。
「連れて来たんなら言えばいいのに」
そう言いながら、こっちに歩いてくる。
あの人みたいな嫌な感じはないのに、体がこわばってしまう。
怖がっている私を見て、私に触れられない位置で止まる男の人。
「これ以上は近づかないよ」
なんとなくアリシアさんに視線を向けた。
「リュートは嘘つきません」
微笑んで答えるアリシアさん。
「まずは自己紹介かな。
俺はリュートって言って、刀神って呼ばれてる」
「私はクロネ。
刀神? ってあの?」
刀神は亜人ならほとんど知っている最強の剣士。
人亜大戦時、たった一人で半分以上の人型魔獣を倒したと言われている。
「うん。信じられないかもしれないけど」
「さっきの剣さばきを見て、信じない訳ない、です」
「普通に話せばいいよ。
それで、修業受けてくれるかな?」
「お願いしたいけど、私は男の人が苦手だから」
「大丈夫。
触れられない位置までしか近寄らないようにするし、
アリシアが教えられるところはアリシアに任せるから」
「じゃあ、お願いします」
こうして私は刀神様の弟子になった。