修行は男子率の高い場所で
「んぅ……」
目が覚めると知らない天井が視界に映る。
「どこだ、ここ?
その前にフリージングブライト!」
周りを見渡した瞬間、見つかる杖。
すぐ隣に立てかけてあった。
「あれ? いつもマジックポーチに入れてあるのにな。
あっ、昨日バセスさんに言われたんだ、
荷物はマジックポーチから出しておいてくださいって。
だからか」
手元に手繰り寄せ、独りごちり、改めて周りを確認する。
ベッドが右隣に二つ置かれているだけ。
「やっぱり知らない部屋だ。
昨日は二人と同じ部屋で寝たはずだよな」
コンコン。
扉からノックが聞こえてきた。
一応、杖を向けて、魔力を集めておく。
「はーい、どうぞ」
黒いローブを身に纏った老人が入ってきた。
「どちら様ですか?」
「ワシは魔王軍魔導部隊隊長をしておるクレイズじゃ」
「僕はリョウタと言います。
ここはどこですか?」
「魔王軍男子寮じゃ」
「男子寮?」
「お主と一緒にいたあの少女はお主に依存気味じゃからな。
お主をここに連れてきた。
お主が十五になるまで会ってはならん」
そりゃ、一度離れなきゃとは思ってたけど。
はぁ、やだな。
「ワシが納得しなかったら延長するが」
「ていうことはクレイズさんが俺の師匠ですか?」
「そうじゃ。よろしく頼むぞ」
「はい。よろしくお願いします」
ーー
クレイズさんに連れられ、食堂で朝食を済ませた俺は寮の前にある訓練場にやってきた。
広っ。
何十という男性兵たちが模擬戦をしているのに、半分余っている。
あっ、遠くの方で白いローブの人たちが魔術ぶっ放してる。
「ここにおる兵たちは全員男じゃ」
「兵士って男しかなれないんですよね?」
「いや、なれる。
現に男の兵士と同じくらいおる」
「その人たちはどこで訓練してるんですか?」
「中庭か城の向こう側でしておる。
あの少女は中庭でするらしいぞ。
着いたの」
そう言って、立ち止まるクレイズさん。
彼が止まったのは訓練場の中央。
「それでは魔術鍛錬を始める」
「お願いします」
「うむ。
初日の今日することは二つ。
一つ、得意な魔術を見せてもらう。
二つ、新しい魔術を覚えてもらう。
分かったかの?」
「はい。分かりました」
人差し指を一、二メートル先の地面に向けるクレイズさん。
次の瞬間、その場所に石の的が生えた。
「あの的に放て」
「はい」
杖は部屋に置いてきたから、右手を的に向けて、魔力を集める。
イメージは先端を尖らせ、高速回転を加えた氷の砲弾。
イメージ通りの氷の砲弾が放たれ、的を壊した。
「すごいの、強固にしたというのに。
お主、魔獣に傷を負わせたじゃろ?」
そう聞きながら、石の的を作り直すクレイズさん。
「は、はい。全然効いてない様でしたけど。
じゃあ、次の行きます」
「うむ」
向けたままの右手に魔力を集め、イメージする。
イメージは凍らせ砕く白銀の冷気。
放たれた冷気は的に直撃した。
冷気が晴れると氷と化した石の的が砕けていた。
「以上です」
「そうか。お主は氷属性が得意なんじゃな」
「はい。この二つは毎日練習してるんです」
「これからも励むように。
では、結界魔術を教えるかの」
「結界魔術?」
「結界魔術とは、守る魔術。
初級、中級、上級、最上級がある。
こんなに階級があるが
物理・魔術双方を防ぐ『イージス』しか使わない」
「物理と魔術を防げるってすごいですね」
「高威力の攻撃は耐えられんし、
耐久回数が決まっておるからすごくない」
「そうなんですね」
「詳しくはこれを読め」
クレイズさんが一冊の本を渡してくる。
受け取った本の表紙には結界魔術と書かれている。
「この本でイメージだけで出来るようになるんじゃ。
結界魔術も自己鍛錬に組み込んで毎日励むように」
「はい」
「では、魔術鍛錬を終わる。
昼までその書物で勉強しておくんじゃぞ」
「はい。昼食後はどこへ行けばいいですか?」
「ここ集合じゃ」
「分かりました」
俺は言われた通り、昼食の時間まで結界魔術の本を読んだ。