表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した世界のため、チートな亜人嫁たちと悪神倒します  作者: 雪ノ町 リョウ
第三章 少年期 出会い編 〜エルフ、猫耳、精霊〜
30/140

K1後編 勇者覚醒


「それじゃあ、食料を調達してくるから、

お留守番、よろしくね」

「うん。いってらっしゃい」


 お母さんは頷いて、家から出ていった。

 この家は森の中にあるから、食べ物はだいたい森から採ってくる。

 たまに町にも行く。




ーー




 お昼になった。

 いつもなら帰ってくるはずなのに、帰ってこない。


 五分、十分。どれだけ経っても、帰ってこない。

 なにかあったのかな?

 そう思い、家の外に出た。


 たまにお母さんは私を連れて出ることがあるから、ルートは分かる。

 そのルートを辿っていく。




 しばらく歩いていると、よく知った女性の声が聞こえた。

 声の方へ向かって、移動する。



 開けた場所に出た。

 すると、そこには、お母さんと同じ容姿の女性が立っていた。

 彼女は頭にツノ、背中からコウモリみたいな翼、腰から悪魔みたいな尻尾が生えている。

 女性を観察していると、黒い球体が彼女に向かって飛んできた。

 サッと後ろに跳び、その球体を(かわ)す彼女。

 躱されたことで、球体は地面に着弾して、爆ぜた。


「キャッ」


 びっくりして、声が出てしまう。


「カナ!?」


 女性が私を見て、驚いている。


「ど、どうして、こんなところに!

危ないから帰りな……キャッ」


 黒い球体が直撃し、吹き飛ばされる女性ーーお母さん。


「お母さん!」


 地面に叩きつけられたお母さんに駆け寄る。


「大丈夫?」

「大丈夫だから、今すぐ帰りなさい」


 そう言いながら、お母さんは体制を立て直す。



「おやおや、可愛らしい娘ですねぇ」


 黒い球体が飛んできていた方から男性の声がして、そっちに視線を向ける。

 向けた視線の先にいたのは、空中に佇む男性。

 長く伸ばした毛先が赤い黒髪、赤黒い瞳をしていて、頭の横から瞳と同じ赤黒いツノ、肘から先と膝から下が黒い鱗に覆われ、その先には赤黒い鋭利なツメ、背中からドラゴンのような黒い翼が生えている。


「貴方に娘を褒められても、嬉しくないんだけど?」

「褒めたわけじゃないんですよ。

私は絶望する表情を見るのが好きでして、

特に幼い娘を失った女の絶望の表情が好きなんですよ。

なので、その娘には死んでもらいましょうっ」


 腕を振るう男。

 その振るった腕から四つの斬撃が放たれ、高速で私に向かってくる。

 怖くて、目を瞑る。

 ごめんね、リョウ君。

 心の中で謝った瞬間、私を温かいものが包んだ。



「ーーッ」


 頭の上から、お母さんの言葉にならない声が聞こえた。


「カナ、どこも痛くない?」


 体を離して、尋ねてくるお母さん。


「大丈夫だよ」

「よかった」


 そう言って、彼女は微笑んだ。

 だけど、それは一瞬で、地面に倒れ込んでしまう。


「お母さん? お母さ……えっ?」


 彼女の体を揺らそうと触れた瞬間、グチャという不快な感触が右手から伝わってきた。


「なに……これ……?」


 右手を見ると、ドロっとした赤黒い液体で汚れていた。

 お母さんの背中にあたる地面を同じ液体が染めていて、嫌でも、赤黒い液体が彼女の血液だと理解させられる。

 

「お母さん! お母さん!」


 彼女の体を揺らす。

 だけど、彼女は目を瞑ったままで、動かない。


 死んだ。

 私を気味悪がらず、普通に接して、愛してくれた人が死んだ。

 私を(かば)って、殺された。

 そう理解した瞬間、怒りと強い力が湧き上がってきた。


 お母さんの手を取り、「治って」と強く願って、溢れてくる力を彼女に流す。

 すると、私の体から(まばゆ)いばかりの金色に輝く光が放たれ、私とお母さんを包むように覆った。


 お母さんの背中にできた傷が癒えていく。

 その傷が完全に塞がり、元の綺麗な背中に戻ると、彼女が目を開けた。


「カナ……?」

「よかった。少し待ってて」

「う、うん」


 立ち上がって、攻撃してきた男に顔を向けた。

 すると、お母さんが生き返ったことで、少し落ち着き始めていた怒りが溢れてきて、無意識のうちに睨んでしまう。


「なんです? その目は」


 私の体から溢れる力に気付かないのか、彼の口調と態度は変わらない。


「貴方がいなければ、お母さんは傷付かなかった。

だから、殺します」

「ふふっ、面白い冗談ですね。

勇者に覚醒したからといって、貴女はまだ幼い。

それに、武術、魔術を教わってないようですし。

そんな貴女が実戦経験豊富な皇竜族の私に勝てますかね?」

「勝てなくてもいい。殺せれば」


 守るように、お母さんの前に立ち、空中に浮いている男に左手を向ける。

 そして、体の奥から溢れてくる力をその手に集め、攻撃のイメージをする。

 すると、左手の前に金色に輝く光の矢が数本、現れた。

 光の矢は男に向かい、高速で、飛んでいく。

 

「そんな矢では、私に傷さえも付けられませんよっ」


 そう言って、右手を振るう男。

 彼の手から斬撃が放たれ、光の矢にぶつかり、共に消えた。


「これで終わりですか?」

「まだ終わってない!」


 右手に光の剣を出現させ、両手で握り、男に向かって、駆け出す。


「助走を付けて、跳ねるだけでは、届きませんよ?」


 そんなこと、知ってる。

 そう心の中で返して、イメージする。

 思い描くのは、光の翼を背中から生やし、鳥のように羽ばたいて、飛ぶイメージ。

 背中に力が集まっていくのを感じ、地面を蹴った。

 その瞬間、金色に輝く光の翼が背中に生え、私を男の元へ運んでいく。


 両手で握っている光の剣を構えて、剣が届く距離になるのを待つ。

 待つ時間はほとんどなくて、すぐにその距離になり、剣を突き出した。


 ガキッ。

 光の剣は男の胸に届く前に、彼の手に止められた。


「飛ぶとは思いませんでしたよ。正直、驚きました。

貴女が剣術を修めていて、経験まであったら、

敗れるところでした。

ですが、今、私と対峙している貴女は、

戦闘どころか、剣も魔力も知らないただの幼子。

私が敗れるわけがない。

私に挑んだことをあの世で後悔するといいでしょーー」

「時間稼ぎ、ありがとうございます」


 溢れてくる力を集められるだけ集めた左手を男に向け、お礼を言う。

 そして、集めた力を光線として放つイメージをする。

 すると、左手が(まばゆ)く光り、その手から金色の光線が放たれた。


「ーーッ」


 光線は男に直撃して、彼の体をより高いところ押し上げていく。




「あっ」


 光線が止んだ瞬間、力が溢れてこなくなった。

 すぐに背中の翼も消え、落下し始める私の体。

 この高さから落ちたら、死んじゃうっ。

 お母さんに助けてもらったのに、死んじゃうっ。

 お母さん、リョウ君、ごめんね。

 そう心の中で謝って、襲ってくる痛みに備え、目を瞑った。


 痛みを待っていると、なにかに受け止められた。

 そのなにかを確認しようと、目を開ける。


「お母さん?」


 視界にお母さんの顔が入った。

 見た感じ、抱えられてるみたい。

 

「カナ、大丈夫?」

「うん。大丈夫」

「そっか。

それにしても、焦ったわ。

いきなり落ちてきたから慌てて、飛んだんだから」

「飛んだ? どうやって?」

「家に帰ったら、教えてあげる。

お母さんのこと、全部ね」


 そう言って、お母さんは微笑んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ