2-6 輝く氷帝と転移
王竜暦2980年、九月。
リョウタ・クールウィンド、十歳。
「十歳の誕生日、おめでとー」
「おめでとう」
「おめでとう、お兄ちゃん」
アクアさん、レオンさん、セラちゃんの順で言った。
俺は今日十歳になった。
今はその誕生日会をしている。
「プレゼントはこれだよ〜」
アクアさんが長い包みを見せた。
「なに入ってるの?」
そう聞くと、彼女は包みを開けて、中身を取り出した。
取り出したものは魔導師が持っていそうな長い杖。
先の方に拳くらいの青い魔宝石が付いている。
絶対高いだろ、それ?
魔宝石と言うのは杖に使われる魔石で、いくつか色があって、その色に沿った属性魔術の威力が上がる。
赤なら火属性、青なら水属性。
魔宝石はダンジョンの魔物を倒すと偶に手に入るらしい。
「『輝く氷帝』っていう杖だよ〜」
そう言って、杖を渡してくるアクアさん。
重いだろうなと思ったけど、軽い。
「私の知り合いの魔道具製作師に作ってもらったんだ〜」
「そうなんだ。大切に使うね」
「もう一つプレゼントがあるんだよ〜」
もう一つ?
アクアさんが別の包みからコートみたいなものを取り出した。
コート(?)は白で、袖口が水色。
「これって、コート?」
「ふふっ、違うよ。
魔術師が着るローブだよ」
「その杖とローブ、二つ合わせて
僕たちからのプレゼントだよ」
レオンさんが言った。
「ありがとう、母さん、父さん」
俺は二人に笑顔でお礼を言った。
ーー
誕生日から三ヶ月経った。
「ローブ着てるし、マフラーもしてるね」
アクアさんが俺の服装をチェックする。
寒い時期になると、ちゃんとあたたかい服装かをチェックしてくれる。
「うん。ちゃんと着てるよ」
「よし。じゃあ、行ってらっしゃい」
アクアさんが微笑んで、言ってくれるけど、行けない。
セラちゃんが落ち込んでるからだ。
「フィアお姉ちゃん、いいな」
さっきからこればっかり言っている。
「なにがいいの?」
「お兄ちゃんと約束してるから」
「約束?」
「結婚の約束。
私もお兄ちゃんが好きなのに、
フィアお姉ちゃんだけしてるのは、おかしい」
「おかしいってなに?
セラちゃんは妹でしょ?」
セラちゃんはまだ七歳だから、血が繋がってないことは言ってない。
「そ、そうだけど、お兄ちゃんのお嫁さんになりたいの!」
俺のこと好きすぎだろ、この娘。
「分かった。
大人になっても俺のこと好きだったら、お嫁さんにする」
「ほんと?」
すっげえ嬉しそう。
「うん」
そう返事した瞬間、抱きついてくるセラちゃん。
「リョウタお兄ちゃん、大好き」
ーー
フィアちゃんと二人、魔術の練習をしていると鐘が鳴った。
「フィアちゃん。時間だから帰ろっか?」
「うん」
焚き火の炎を水魔術で消す。
「よし」
彼女と手を繋ぎ、森の入り口に向かった。
「リョウちゃん」
森の入り口に向かっていると、一緒に歩いているフィアちゃんに話しかけられた。
「ん?」
「今年は雪積もるかな?」
期待を込めて聞いてくる彼女。
彼女は、積もった雪を見たことがない。
俺たちが住んでいるここら辺は降っても積もらないからだ。
「分かんないけど、積もるといいね」
嘘である。
絶対、積もってほしくない。
だって、歩きにくいじゃん。
「積もったら、雪ウサギとか、雪だるま、作ろうね」
めっちゃ嫌や。
でも、嫌って言うわけにはいかないよね。
「う、うん」
十五だったら、雪だるまより子ども、作ろう……って、断れるのに。
「楽しみだな」
フィアちゃんと会話していると、練習場所と入り口の中間地点にたどり着いた。
その瞬間、足が動かなくなった。
視線を下ろすと、足の下に魔法陣。
「魔法陣?」
そう呟いた瞬間、魔法陣が眩い光を放ち出す。
「リョウちゃん」
不安そうな表情で、俺を見つめるフィアちゃん。
フィアちゃんと繋いでいる手に力を入れる。
「大丈夫。絶対、この手を離さないから」
不安が少し和らいだ表情で、フィアちゃんが頷く。
彼女が頷いた次の瞬間、魔法陣の光が強くなり、視界を覆う。
視界を覆われると同時に、俺は意識を手放した。
第二章 幼年期 幼馴染編 ー終ー
次章 少年期 出会い編