2-5 天使との約束
王竜暦2978年。
リョウタ・クールウィンド、七歳。
月日は流れ、フィアちゃんと出会ってから二年が経った。
彼女はこの一年半で、文字の読み書き、四則演算の掛け算までできるようになった。
今は割り算を頑張っている。
今も彼女は俺が作った問題に頭を悩ませている。
「うんと、三十個のアプルを五人で……」
今、解いてる問題はこうだ。
三十個のアプルーー日本でいうリンゴがあります。
それを俺、フィアちゃん、セラちゃん、アクアさん、ニーナさんの五人で分けます。
一人何個になるでしょう。
「ヒント言おうか?」
「うん、お願い」
「掛け算の五の段を言っていくと答えにたどり着くよ」
「えっと、5×1=5、5×2=10……」
俺に言われる通り、五の段を言い始めるフィアちゃん。
「……5×6=30。
あっ」
答えに気づいた彼女は、解答欄に六と数字で記入した。
「今みたいに割り算の問題が解らなかったら、
九九を言うといいよ」
「うん、分かった」
そう返事すると、フィアちゃんは次の問題に取り掛かった。
「できたよ、リョウちゃん」
彼女が笑顔で、問題用紙を渡してくる。
可愛いな、おい。
「じゃあ、丸付けするね」
「うん」
問題用紙に目を通すと、全問正解だった。
フィアちゃんは賢いのだ。
「百点だよ」
「ほんと?」
「ほんとだよ。
すごいね、フィアちゃん」
彼女の白い髪を撫でて、褒める。
「えへへ、リョウちゃんがいい先生だから」
「ありがとう。
じゃあ、少し休憩しよっか?」
「はい、先生」
笑顔のフィアちゃん、マジ可愛い。
ーー
魔術の練習を終え、フィアちゃんと手を繋いで、彼女の家に向かう。
今日は彼女の家に泊まる日だ。
いつもならセラちゃんと二人、お世話になるけど、今日は俺一人。
『フィアお姉ちゃん、お兄ちゃんと二人の時間が少なくて、
かわいそうだから、
今日はお兄ちゃん一人でお泊りしてきて』
と言って、俺一人で泊まることになった。
滅多にない二人きり。
このチャンス、逃してなるものか。
ーー
なかなか二人きりになれず、夕食を終えてしまった。
「それじゃあ、リョウタくん。
フィアとお風呂入ってきて」
「「なっ!?」」
俺の向かい側に座っているフィールズさんとハモった。
「ニーナ、それはダメだ。
リョウタとフィア、二人でお風呂だなんて」
この人はフィアちゃんと俺がお風呂に入るのを嫌がる。
フィアちゃんの裸体は初エッチで見たいからいいんだけど。
「フィルと入ろうと思ったのに。
しょうがない。フィア、お母さんと入りましょ?」
「う、うん」
「ま、待って」
立ち上がったニーナさんの腕を掴むフィールズさん。
「なに?」
「二人でお風呂入るの許すから、俺と入ろ?」
言うと思ったよ。
この人、ニーナさんにぞっこんだからな。
「お母さん、お父さんと入るから。
フィアはリョウタくんと入って?」
「分かった。リョウちゃん、行こ?」
フィアちゃんに手を引かれ、脱衣所に向かった。
ーー
脱衣所に着き、フィアちゃんが脱ごうとしてやめた。
「どうしたの?」
「リョウちゃんとお風呂入れないよ」
「なんで? 俺に、は、裸見られるから?」
「うん」
七歳でも家族じゃない異性に裸見られるの恥ずかしいよね。
「じゃあ、なんでさっきニーナさんに言わなかったの?」
「今、気づいたの」
「そ、そっか。
じゃあ、別々に入ろっか?」
首を横に振るフィアちゃん。
「なんで?」
「髪、一人じゃ洗えないんだもん。
後、リョウちゃんと入りたいんだもん」
「俺に見られるのが嫌なのに、俺と入りたいの?」
「うん」
矛盾してるな。
「じゃあ、見ないようにするから、一緒に入ろっか?」
「うん」
「これでいい?」
扉の方に向きを変えて、彼女に聞く。
「うん。いいって言うまで、こっち向かないでね?」
「分かった」
返事した数秒後、布の擦れる音がし始めた。
自分も服を脱ぐ。
「いいよ」
全部脱ぎきると、許可が降りた。
振り返ると、一糸纏わぬ姿のフィアちゃんがいた。
彼女は恥ずかしそうに、微塵も膨らんでいない胸と大事な場所を手で隠している。
「リョウちゃん、見過ぎだよぉ。
見ないって言ったのにぃ」
「ご、ごめん」
無理やり視線を外し、謝った。
ーー
はぁ、疲れた。
視線が行かないように必死だったから。
膨らみがまだないおっぱいを何回も見て、怒られたけど。
「リョウちゃん、寝よ?」
ひと息ついていると、ベッドに腰を下ろしたフィアちゃんが誘ってくる。
『寝よ?』の部分を『しよ?』に変えたセリフを大人になって、ベッドの上で言ってほしい。
もちろん、恥ずかしそうにしながら。
「そ、そうだね」
「えへへ、二人で寝るの初めてだね」
ベッドライトを調整し終え、横になると、フィアちゃんが嬉しそうに言った。
「い、いつもセラちゃんがいるからね」
『初めて』という言葉と今からすることの緊張からどもってしまう。
今からすること、それは結婚の約束だ。
今日一人で泊まることになった瞬間から決めていた。
フィアちゃんの一糸纏わぬ姿を見て、だれにも触れさせたくないと思い、決意が固くなった。
「あの、フィアちゃん」
「なに?」
「寝る前に伝えたいことがあって。
いいかな?」
「いいよ」
「ありがとう」
深呼吸をして、息を整える。
「お、俺、フィアたんが好きなんだ。
お、大人になったら、俺のお嫁さんになってください」
ダメだ。どもってるし、たん呼びしちゃった。
恥ず過ぎる。
「わ、私もリョウちゃんが好きだから
よろしくお願いします」
頰を赤らめながら言うフィアちゃん。
よっしゃー! やった。
嬉しいのはいいけど、次はどうすればいいんだ?
このまま寝る? 無理。寝られない。
「リョウちゃん」
「どうし……んっ!?」
どうしたの? と聞こうとした瞬間、フィアちゃんにキスされた。
唇を離すと、彼女はえへっと微笑んだ。