EX-5 セラ・ティリルvsミオ
執筆開始 2019年 1月12日
執筆終了 1月23日
修正 2月19日〜25日
クリスティーナとグレンの二人と別れた俺たち四人は、『スカーレット』の東にある浜辺に向かっている。
自分の意思じゃなくて、リルに連れて行かれているんだけど。
少しすると、浜辺にたどり着いた。
「海だー!」
そう叫びながら、波打ち際に向かって、駆け出すリル。
ほんと、リル姉は、お姉さんっぽくないんだから。
「二人とも、おいで!
そんなに、冷たくないから!」
リルが大きな声で、俺たちを呼ぶ。
知らない間に、くつを脱いで、足だけ海に入ってるし。
「お兄ちゃん、どうしましょう?」
少し行きたそうに、セラが尋ねてくる。
「ミオちゃんと二人で、行っておいで」
「お兄ちゃんはどうするんですか?」
「俺は体調がよくないから、ここで見てるよ」
「そんな……」
悲しそうな表情になるセラ。
「もう、なにやってんのさ」
いつの間にか、こっちに戻って来ていたリルがそう言って、俺とセラの手首を掴んだ。
「なんで、ミオちゃんじゃなくて、俺?」
「だって、ミオは魔導人形みたいなものでしょー?
魔導人形はあんまり濡らしちゃダメなんだよ」
魔導人形って濡らしちゃダメなんだな。
「でも、俺も体調が悪いし」
「わかってるよ。近くまで行くだけだよ」
そう言って、リルは俺とセラを連れて、波打ち際に向かった。
ーー
波打ち際の手前まで連れて来られた俺は、リルとセラがきゃっきゃっと楽しそうに、水をかけ合っているのを見ている。
微笑ましい。
「ミオさん!
リョウタ様に危害を加えるつもりですか!」
楽しそうな二人を眺めていると、ユキの声が後ろから聞こえてきた。
振り向くと、ミオと半竜化したユキが立っていた。
ミオは刀を手にしていて、ユキは彼女を背後から抱きしめ、彼女の動きを止めている。
「あつっ!」
俺に気づかれて、ミオがなにかしたのか、ユキがそう発して、ミオを解放してしまう。
すかさず、ミオは、ほんの少し俺との距離を詰めて、刀を振り上げる。
やばい! 殺される!
目をつむった次の瞬間、電撃がほとばしるような音がした。
目を開けると、ミオがのけ反っていた。
「リルお姉ちゃん!」
「うん!」
リルの返事が聞こえたと同時に、ユキが姿を消し、俺の真横に現れた。
その次の瞬間、緑色の強風が目の前に発生して、ミオを吹き飛ばした。
「リョウタ様、ケガはありませんか?
治癒魔術、かけますか?」
一時的に危機が去った瞬間、ユキが聞いてくる。
「ユキちゃんのおかげで、大丈夫。
治癒は、かけなくていいよ」
そう返し、立ち上がろうとすると、ユキが手伝ってくれる。
「リョウタ、大丈夫?」
「お兄ちゃん、大丈夫ですか?」
駆け寄ってきたリルとセラが同時に、聞いてきた。
「うん、大丈夫。三人のおかげで」
俺がそう答えると、二人は安心した表情をした。
それも束の間、二人の表情は、怒りの混じった真剣なものに変わって、リルは拳銃ーークシナダ、セラは槍を構え、ミオに銃口と穂先をそれぞれ向けた。
あの槍がセラの幻想武具か。
槍はシンプルなデザインだけど、神々しい雰囲気をまとっていて、穂の手前には、紫色の丸い宝石がストラップのように、ついている。
「ミオ!
なんで、リョウタに攻撃しようとしたの!」
リルが強い口調で、ミオに尋ねる。
刑事ドラマみたいだな。
「なぜ、ですか?
それが私の目的だからですよ」
「どういうことかな?」
リルが少し怒りの混じった低いトーンの声で、尋ねる。
「私は、対二代目真祖および、その眷属用
戦闘魔導機人。
ヴェルガ様の妻であるアン様が私を生み出しました。
その転生者を殺すために」
「なんで!」
ミオが答えた瞬間、セラが槍を握りしめ、叫ぶように発した。
「なんで、お兄ちゃんなんですか!」
「その転生者は、二代目真相とその眷属の
かけがえのない人間で、
幻想武具の適合者を引き寄せます」
「リョウタ様を殺せば、
私たちが生きる気力をなくすし、
幻想武具も集まらなくなって、
ヴェルガたちの都合がよくなるから、ですか?」
ユキが低いトーンで、ミオに尋ねる。
「そのとおりです」
「そんな理由で、私のお兄ちゃんを殺そうとするなんて、
絶対、許しません!」
ミオが答えた瞬間、セラが言い放った。
すると、セラのひたいに一本のツノが出現した。
ツノは紫色のエネルギーでできていて、立派だ。
鬼化したと同時に、セラはミオに向かって、駆け出した。
「『纏雷』」
駆け出して、すぐにセラがそう発する。
すると、槍にストラップのようについている紫色の宝石が光り、穂に紫電がほとばしり出した。
ミオに槍が届くところまで、距離を詰めたセラは、紫電をまとわせた槍を横薙ぎに振るう。
でも、ミオにかわされ、ダメージが入らない。
セラは横薙ぎに振るって、すぐに突きを放つ。
これもかわされ、意味をなさない。
魔術を放って、セラを援護しようにも、彼女は怒りで周りが見えない状態で、放った魔術に気づかず、当たってしまう可能性があるから、魔術を放てない。
リルもユキも同じ理由なのか、攻撃をためらっている。
セラは止まらず、ミオに槍での猛攻を仕掛ける。
何度目かの攻撃をセラが放った瞬間、ミオが突きを放つ体勢に入る。
そして、セラが突きを放つと同時に、ミオも突きを放った。
「かはっ!」
ミオの突きをくらったのか、セラの体勢が崩れる。
「セラ!」
思わず、セラに駆け寄ろうとして、リルとユキに止められる。
「大丈夫だよ、リョウタ。セラは強いから」
左腕を俺の前に出したリルが言う。
「リョウタ様、リルの言うとおり、
セラは大丈夫みたいです」
ユキがセラを見て、告げてくる。
セラを見ると、彼女は体勢を立て直して、ミオと対峙していた。
「今の攻撃を受けて、体勢をすぐに立て直すとは。
鬼族の特徴であるタフさ、
眷属の効果である身体能力の上昇が
影響しているから、でしょうか」
ミオに分析されているけど、セラは気にせず、槍を構え直す。
「まだ戦う気ですか?」
「もちろん、その気です。
大好きなお兄ちゃんを失いたくないですから」
セラたんっ。
「槍に魔力供給。今度はなにをする気ですか?」
「とっておきです」
ミオにそう答えるセラ。
セラの持つ槍の穂に紫電がほとばしり始める。
「ん? 槍の穂先に硬貨を魔術で生み出して、
なにを……まさか!?」
「第一奥義『雷砲一閃』!」
太めの紫電が穂先からミオに向かって、放たれた。
セラの攻撃を寸前で予想し、横にそれようとしたミオ。
だけど、間に合わず、右の肩と腕にくらって、その衝撃で、後ろに吹き飛んだ。
「レールガンを放つとは……」
そう言いながら、ミオが体を起こした瞬間、リルが発砲した。
右足、左足、左肩、計三発。
三ヶ所とも凍りつき、足は地面にぬいつけられた。
「リョウタ、『ゲート』を発動して!」
「う、うん。『ゲート』」
リルに従い、魔術を発動させようとするけど、発動しない。
「あれっ? もう一回、『ゲート』」
もう一度、試すけど、やっぱり発動しない。
「なんで? なんで、発動しないんだよ?」
「私の機能が発動しているからですよ」
発動しない理由をミオが述べる。
彼女の凍りついた部分からは、解凍されているのか、湯気が出ている。
「機能?」
「戦闘に入った瞬間、周囲数メートル内での転移、
外からの転移を無効化するんです。
相手を確実に仕留められるように」
くっ。
「眷属といっても、主眷属ではありませんし、
幻想武具も真の力を解放していないというのに、
深手を負わされるとは、思いませんでした。
やりますね」
凍りついた手足が治り、立ち上がったミオがセラをほめる。
「お返しに、二代目真祖と主眷属の剣姫との戦闘に
使用するつもりだった機能で、倒してあげます」
めっちゃ強いフィアーナとクロネの二人との戦闘で、使おうとしてた機能って、絶対やばい。
「まず、破損した右腕の高速修復を実行」
そうつぶやくと、ミオの右肩に光の粒が現れ、腕の形を成していく。
ものの数秒で、失った右腕が復活した。
「続いて、対二代目真祖戦用モードへの移行を実行」
またつぶやくと、ミオの髪と瞳の色が変化した。
水色に近い青から、ピンク色に近い赤へと。
「では、行きます」
そう発した瞬間、ミオが地面を蹴った。
セラに高速で接近し、手刀で突きを真正面から放つ。
その突きを防ごうとするセラ。
だけど、気づくと、ミオはセラの横に立っていて、彼女の首すじを目がけて、手刀を放っていた。
首に手刀をもろに受けて、セラが意識を失い、倒れそうになる。
そんな彼女をミオが抱きとめて、地面にゆっくりと寝かせた。
真祖の眷属は意識を失わないと思い込んでいた俺は、フィアーナの眷属であるセラが意識を失ったことで、動けなくなった。
「セラっ!」
リルがセラの名前を発して、駆け寄っていく。
リルがあと少しで、セラのもとにたどり着くところで、ミオは高速でリルに接近して、彼女のお腹に拳を放った。
「かはっ」
お腹にミオの拳を思いきり受けたリルは、前のめりになり、動けなくなってしまう。
すかさず、ミオはリルの横に立ち、彼女の首すじに手刀を近づける。
「愛しているひとが意識を失って、駆け寄るときは、
敵が周りにいないか、確認しないといけませんよ」
ミオはリルにそう言って、手刀を放った。
首すじに手刀をもろに受けたリルは、意識を失い、前に倒れそうになる。
ミオはセラと同じように、リルを抱きとめて、セラの隣に寝かせた。
リルまで意識を失った。
真祖の眷属は、ケガや状態異常は瞬時に癒えて、死なないけど、意識は失うもの。
否が応でも、その事実を理解させられる。
「次はあなたの番ですよ。
気絶ではすみませんけどね」
ミオが俺に微笑んで、告げてきた。
殺される前に、リルとセラの分は返してやる。絶対。