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EX-2 魔導機人ミオ



修正 2019年 2月11日〜15日


 魔導機人の少女を連れて、帰ってきた俺たち四人は、夕食を食べながら、リルとセラにことの経緯を説明していた。

 少女はソファに寝かせてある。


「そっか、そっか。

動かなくなって、捨てられた、

魔神様が生み出した人型の機械で、

放っておくのは可哀想だから、

連れて帰ってきたんだね」

「うん」


 リルにそう返事するフィアーナ。

 

「てっきり、愛人形を買ってきたのかと思ったよ」

「愛人形ってなに?」

「愛人形っていうのは、

性処理用の可愛い人形のことだよ」

「ゴホッ、ゴホッ」


 性処理とか言うから、むせた。

 隣に座ってるフィアーナとクロネが背中をさすってくれる。


「そんなの買わないから!

精力が性欲にさえ追いつけてないんだから」

「そうだったね。

最初のころ、『もっとしたい』とか

『欲求不満になって、ほかの男に取られちゃう』って、

泣いてたもんね」


 余計なことを言わないで。

 セラちゃんが食いつくから。


「そうなんですか?」


 セラが尋ねてくる。

 なんで、俺に尋ねるの?


「フィアちゃんたち三人と暮らし始めて、

年月がそんな経ってないころね」

「今は大丈夫なんですか?」

「うん、今は泣かないよ」

「泣かないだけで、心の中では心配してますけどね」


 ユキがセラに教えてしまう。

 ユキちゃん、やめて。恥ずかしいから。


「ほんと、お兄ちゃんは心配性ですね」


 セラは微笑んで、そう言った。

 恥ずかしい。



「んぅ……? ここは?」


 某ボカロのような声がして、そっちに顔を向けると、魔導機人の少女が体を起こしていた。

 えっ? 動くの?




ーー




 目を覚ました魔導機人の少女に、俺たちは名乗り、ことの経緯を説明した。


「そうなんですね。

拾っていただき、ありがとうございます」


 少女はそう言って、ローテーブルを挟んで、彼女と向かい合っているフィアーナたち五人、テーブルの方にいる俺に、頭を下げた。

 フィアーナたちが腰かけているL字のソファの定員は五人だから、俺はテーブルの方のイスに腰かけている。



「うん。それで、君のこと教えてくれるかな?」

「名前はミオ。魔導機人です。

ほかのことは、わかりません」

「どういうこと?」


 クロネが少女ーーミオに尋ねる。

 

「メモリーが異常を起こして、その中のデータが消えたんだと思います」


 メモリーのデータが消えたのに、自分の名前と自分がなんなのかは残っているって、おかしくないか?

 捨てられたっていうのに、傷が一つもない綺麗な状態で、普通に動くところもおかしい。

 世界神(ヴェルガ)からの刺客かもしれない。



「メモリーっていうのは、記憶のことですよ。ね?」


 ユキがフィアーナたちに教えて、教えた意味が合っているか、ミオに尋ねる。


「はい、そうです」

「ていうことは、ミオは記憶(そう)失なんだ?」

「そんな感じです」


 リルの質問にそう返すミオ。


「そのメモリーというのは、直るんですか?」


 今度はセラがミオに尋ねる。


「はい。自己修復機能があるので、

時間はかかりますが、直ります」

「姉様。ミオさんのメモリーが直るまで、

ミオさんをうちにいさせてあげませんか?」


 セラがクロネに言う。

 セラちゃん、それは危ないかもしれないから、やめておいた方がいいと、お兄ちゃんは思うよ。


 ていうか、なんで、クロネちゃんに言うの?

 頼りない俺はともかく、年長者のリル姉が隣にいるのに。

 


「うん……」


 はぎれの悪い返事をするクロネ。

 めっちゃ怪しいもんな。


「クロネは心配してるんでしょ?

ヴェルガからの刺客が襲ってくるかもって」


 リルがクロネに尋ねる。

 リル姉、ちょっと違うと思うよ?


「う、うん」


 ほら。


「やっぱりー。きっと大丈夫だよ。

この間、戦ったところなんだから、

襲ってくるとしたら、半年くらい後だろうしさ。

ね? いさせてあげようよ」


 クロネを安心させようとするリル。

 リル姉、クロネが引っかかっているところは、そこじゃないよ。


 クロネは、ミオをうちにいさせるかどうか、考え始めた。



 少しすると、クロネが立ち上がって、リビングの入り口に向かう。


「フィア。ちょっと……」


 フィアーナを呼んで、二人でリビングから出ていった。

 自分一人じゃ決められないからかな?



 少しして、クロネとフィアーナが戻ってきた。

 クロネはソファに戻るのかと思ったら、こっちに来た。


「フィアと決めた結果、

うちにミオをいさせることになったんだけれど、

いさせてもいい?」


 クロネが耳もとで、ささやくように尋ねてくる。


 クロネちゃんとフィアちゃんが二人で決めたことだから、大丈夫だとは思うけど、こわいな。


「私も怪しいと思ってるから、警戒は解かないし、

なにかあったら、私が守るって、約束する」


 俺が返事を渋っていると、そうささやくクロネ。

 クロネたんっ。


 クロネへの愛が深まるのと同時に、守らないといけない自分の奥さんに、守ると約束される自分を情けないと思った。


「わかった。いさせてあげて」


 自分の情けなさに落ち込みながら、クロネに小声で、そう返した。


「ありがとう」


 クロネは耳もとでお礼を言って、ソファに戻っていった。




「姉様、どうなりましたか?」


 ソファに腰かけたクロネにセラが尋ねる。


「ミオのメモリーが直るまで、

ミオをうちにいさせてあげることになった」

「ほんとですか?」


 セラの確認にクロネはうなずいた。

 その瞬間、セラとリルが喜び出した。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、頭を下げるミオ。


「でも、ただではいさせられない。

ちゃんとリルの手伝いをしてもらうから」

「はい。がんばります」


 ミオは笑顔でクロネにそう返した。


 こうして、ミオがうちに居候することになった。







 数時間が経ち、リョウタたちが寝静まったころ。

 リビングのソファーで眠っているミオが目を開けた。


「魔力センサー、状態センサー、起動。

範囲はこの建物全体。

魔力反応は五つ、すべて二階。

状態はすべて、睡眠。

作戦遂行確率が高いと判断して、

作戦を開始します」


 そうつぶやくと、ミオは立ち上がった。

 ユキの魔力でできた白い布が床に落ちた。


 立ち上がったミオはベランダのカギを開け、外に出た。


「天候操作は高所の方がいいと判断して、

屋根の上に移動します。

『フライングジェット』、起動」


 庭に出たミオがそうつぶやく。

 すると、彼女の背中に光の粒が現れて、背中の上の方に集まっていき、光を放った。


 光が収まると、彼女の背中の上部に金属でできた噴射口が二つ、並んで、現れた。

 そして、その噴射口から火が噴き出して、ミオの体を浮かせる。


「『フライングジェット・フット』、起動」


 ミオがそうつぶやくと、今度は、くつのうらに二つずつ、備え付けられた噴射口から火が噴き出した。

 背中とくつのうらの合わせて、六つのジェット噴射で、ミオはリョウタたちの家の屋根に向かって、飛んでいく。



「屋根の上に移動完了。

これより、魔術を使用した天候操作を行います」


 屋根の上に立ったミオはそうつぶやいて、星空に向けて、両手を挙げた。


「魔力よ。

この街の上空をおおうほどの巨大なる雨雲となりて、

天に現れよ。

雨雲よ。人々が恐怖を(いだ)くような大雪をもたらせ。

そして、この街を白銀の雪でおおえ」


 ミオが詠唱し終えた瞬間、彼女のかかげた両手の前に出現していた水色の魔法陣が強く輝いた。

 

 魔法陣が輝いたと同時に、上空に黒い雲が出現して、美しい星空をおおい隠す。

 それに続き、十月にはありえないほど、冷たい風が吹き始める。

 そして、雨雲から雪が降ってきた。


「降雪を確認しました。

第一フェイズ、一日目の作業が完了したので、

この建物の内部に戻り、ソファの上で

スリープモードに入ります」


 そうつぶやくと、ミオは背中とくつのうらにある噴射口から火を出し、庭に降りた。

 そして、家の中に戻って、ベランダのカギを閉めて、ソファの上で横になり、眠りついた。

 なにもなかったかのように。


 外は降雪の勢いが増して、吹雪き始めていた。

 そのことに、リョウタたちはまだ気づいていない。






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