2-3 天使のお願い
王竜暦2976年、六月。
幼馴染ができてから二ヶ月が過ぎた。
俺たち二人は、毎日のように遊んでいる。
「冷たっ」
頰にしずくが落ちてきた。
見上げると、空が雲に覆われていた。
そして、降り始める雨。
最悪だ。
遊び始めて一時間しか経ってないのに。
そう心で愚痴りながら、上級土魔術〈土砦〉を発動させ、土のかまくらを出現させる。
「リョウちゃん、なにこれ?」
フィアちゃんが突然現れたかまくらを見て、尋ねてくる。
「雨が降ってきたから、魔術でつくったんだよ。
止むまで、雨宿りしてようね」
「魔術って、なにができるの?」
「えっとね、火の球とか、氷の矢を出せるよ」
「魔術って、なんでもできるの?」
目を輝かせ、近づいてくる彼女。
え○たそかよっ!
「なんでもはできないよ」
「リョウちゃん、できるんでしょ?」
「まぁ、使えるけど」
「教えて?」
超至近距離でお願いしてくる。
近すぎるよ、フィアちゃん。
「分かった! 教える」
俺がそう返事すると、彼女が少し離れた。
危ねえ。もうちょっとでキスしちゃうとこだった。
そういうことは高校生くらいになってからしたい。
「ありがと、リョウちゃん」
フィアちゃんは笑顔で言った。
俺の幼馴染、可愛い。
「ただし、俺がいるときだけ使う、
ががしんどくなったら休憩する、
この二つを守ること」
「しんどくなるって、なに?」
小首を傾げる彼女。
なにしても可愛いな、この娘。
「疲れるって意味だよ。
ちゃんと守れるって約束できる?」
「えっと、リョウちゃんがいるときだけ使って、
疲れたら休む。
この二つを守るの?」
「そうだよ。
約束破ったら、もう仲良くしないからね」
涙目になるフィアちゃん。
「や、約束破ったらだよ?」
「ちゃんと守ってたら、ずっと仲良くしてくれる?」
「うん」
今さっきまで不安そうにしていたのが嘘のように、彼女は笑顔になった。
ーーSide ニーナーー
「フィア」
帰ってきてからずっと嬉しそうにしているフィアに話しかける。
「なに〜?」
「嬉しそうだけど、どうしたの?」
「リョウちゃんがね。
約束守ってたら、ずっと仲良しでいてくれるの」
「約束?」
「うんとね、魔術はリョウちゃんがいるときだけ使って、
疲れたら休むっていう約束」
魔術か。
リョウタくんに教わるのなら、大丈夫ね。
「ちゃんと守らないとね?」
「うんっ」
ーーSide リョウターー
次の日になった。
今日からフィアちゃんに魔術を教える。
「まず、これからやってみよっか?
読んでみて」
持ってきた魔術教本を開いて、フィアちゃんに見せる。
「私、文字読めないよ?」
そうだ。この世界識字率低めだった。
レオンさんとアクアさんは普通にできるから忘れてたわ。
それにこの娘まだ六歳だし、読めなくてもおかしくないわ。
フィアちゃんは先月六歳になった。
「じゃあ、俺が文字を指しながら読むから、
目で追っていってね」
文字を指差しながら、〈水弾〉のページを読んでいく。
「じゃあ、まず見せるね」
右手を地面に向け、〈水弾〉を放つ。
「これが〈水弾〉だよ」
「えっと、詠唱なかったよ?」
やばっ。
いつもみたいに、無詠唱で放っちゃった。
「えっと、しなくても放てるんだよ」
「それも教えて?」
可愛くお願いしないで。
分かったって言うしかなくなるから。
「分かった」
「ありがと、リョウちゃん」
この笑顔見たくて、甘くなっちゃうんだよな。
初めて魔術を使ったからフィアちゃんはすぐに体が怠くなった。
だから今日はそこで終わりにした。