やっぱり鬼は怖いもの
「くらえ。『ルナシャインブレイカー』!」
考えておいた魔術名を叫び、俺の魔力とマナでできた大きなかたまりを杖の先から放射した。
魔力のかたまりはすごく太い光線となって、迫ってきているワカバを飲み込み、彼女の後方にある教会に向かっていく。
地面スレスレで進んでいき、教会に直撃して、飲み込んだ。
光線が止み、煙がはれると、地面が直線状にえぐれ、教会は跡形もなくなっていた。
「はぁはぁ」
えぐれた地面に片ひざをついたワカバが息を乱している。
着ている鎧が半壊していて、彼女は血だらけだ。
うわっ! お、おっぱいが見えそうになってる!
「見るなッ!」
俺の視線に気づき、ワカバが豊満な胸を片腕で隠した。
『レッドチームズプレイヤー4、ゲームオーバー』
ワカバの左腕に着けられたブレスレットが告げてくる。
英語だ。それも発音がめっちゃいい。
もうファンタジー感ゼロだな。
「遅い!」
『転移魔法陣を展開します』
ワカバがブレスレットに抗議するが、ブレスレットは無視して、仕事をしていく。
ブレスレットの音声に反応して、ワカバの足もとに魔法陣が描かれていく。
『テレポート』
魔法陣が完成して、ブレスレットが発すると、魔法陣がまばゆい光を放った。
光はワカバを包み、彼女をこの場から消した。
「うぉっ!」
背中になにかがもたれかかってきた。
「お姉ちゃんだよぉ」
もたれかかってきたなにかに耳元で言われた。
この声はリル姉だな。
「リル姉。なんで、もたれてるの?」
「リョウタの魔力にあてられちゃったんだぁ」
「ひゃうっ!」
ティリルに耳を舐められて、声を上げてしまった。
「にひひ、可愛い」
そう言って、俺の耳をペロペロする彼女。
「り、リル姉。やめて」
「いいけどぉ、そのかわり……」
そこで中断して、俺の首に回した右手を下ろし、わきの下から通して、俺の大事な場所に触れてきた。
「この子、舐めさせてもらうかんねぇ」
「家でしていいから、今はどっちもやめて」
「じゃあ、家に帰ったら、どっちもふやけるまで舐めるかんねぇ」
「うん。いいよ」
「やったぁ! リョウタ、大好きだよぉ!」
おっぱいを押し付けないで。
ヒュンッ!
「痛っ」
なにかがほおをかすめた。
「戦場でいちゃつくとは、いい度胸だな」
聞き覚えのある声がして、前方を見た。
そこには金髪のいいガタイをした男ーーライコウが太刀をたずさえて、立っていた。
「なんで、まだいるんだよ?
教会ごと吹き飛ばしたのに」
「お前が吹き飛ばしたのは教会だけだ。
私もクリスタルも教会にはいなかったんだからな」
「じゃあ、どこに……?」
「俺は建物の影に、クリスタルはシュカが持っている」
クリスタルって持ち運べるんだな。
「そんなわけないよ!
貴方が教会にいるって私の魔力感知が教えてくれてたもん!」
ライコウにティリルが言う。
ライコウが現れたからか、彼女の口調がいつものに戻っている。
もたれてるけど。
「俺はこのゲームの主催者だぞ?
魔力反応を偽造することもできるし、
こんなこともできる」
そう言うと、ライコウはブレスレットの着いた手を前に出し、俺に向けた。
「ゲームマスターである我が命ずる
マスターブレスレットよ。
青のブレスレット、ナンバー3の光を三つ消せ」
『了解しました』
ライコウのブレスレットがそう返事して、ピピッという音を出した。
その次の瞬間、俺のブレスレットも同じ音を出した。
「なっ!?」
ブレスレットを見ると、光が五つから一つに減っていた。
さっきのほおへの攻撃と今の命令で、合計四つ減らされたことになる。
「そんなのずるいよ!」
ティリルがライコウに言う。
「エリーゼの娘をなんとしてでも手に入れたいからな。
育ちのよさそうな雰囲気、愛らしい顔、
服が大きくふくらんでしまうくらい大きな胸、
それなのに、腹はくびれ、尻も小さい。
そのすべてを俺のものにしたい」
「セラちゃんは……セラは俺の嫁だーーッ!」
そう叫んで、本気の『氷砲』を放った。
ライコウはよけようとしたけど、氷の砲弾の方が速く、彼の太い腕をかすめた。
「くっ」
苦しげな表情をするが、すぐに腕が治って、元の表情に戻るライコウ。
「やってくれたな。次はこっちからいくぞ」
「リル! 離れて!」
ティリルにそう言うと同時に、ライコウが駆け出した。
「う、うん!」
そう返事して、ティリルが俺から離れた。
彼女からライコウへと視線を向けると、目の前にライコウがいた。
彼は右腕をひきしぼり、放とうとしている。
「『障壁』!」
左手を突き出し、水色の魔法陣を出した。
パリンッ!
魔法陣がライコウの拳を受けて、音を立てて砕けた。
だいぶ魔力を込めた『障壁』を砕くなんて、なんていう馬鹿力だよ!
攻撃の反動で少し体勢を崩しながら、心の中で愚痴る。
「しばしの別れだ。さらば、転生者ァ!」
そう叫び、ライコウはいつのまにか引き戻していた右腕を放った。
「かはっ……!」
ライコウの拳が俺のお腹に直撃し、空気と一緒につばが吐き出された。
『ブルーチームズプレイヤー3、ゲームオーバー。
転移魔法陣を展開します』
片ひざをついて、お腹を押さえていると、左腕に着けてあるブレスレットが告げてくる。
ブレスレットの声に反応して、足もとに魔法陣が描かれていく。
『テレポート』
お腹の痛みがなくなると同時に、魔法陣が完成して、ブレスレットが発した。
すると、魔法陣が強く、まばゆい光を放ち出した。
そして、光が俺の視界をおおった。
ーー
光が収まり、目を開けると、そこは戦いの舞台に転移する前にいた橋の上だった。
ここに突っ立っていてもしょうがないから、鬼ヶ島側に向かうことにした。
「あっ」
橋の上を歩いていると、橋の前にクロネとユキの姿が見えてきた。
クロネちゃんは強いし、ユキちゃんは俺よりは強いから、負けないと思ったんだけどな。
リル姉もライコウ相手じゃ負けちゃうだろうし。
もうフィアちゃん頼みだな。
クロネとユキが俺に気づいて、手を振ってくる。
この距離でも可愛いな、二人とも。
そう心の中で言いながら、手を振り返す。
ザシュッ!
二人の元へ向かって、歩いていると、突然背中を斬られた。
強い痛みが背中を襲う。
痛みを耐えながら、振り返った。
「鬼……?」
振り返ると、そこには血のついた太刀を持った鬼がいた。
二本のツノ、歯、鋭い瞳がギラリと光っているし、逆光でそれしか見えないから、怖いとしか思えない。
「フンッ!」
鬼にほおを殴られ、その勢いのまま地面に倒れ込んだ。
殴るだけで止まらず、鬼は倒れている俺の横腹を蹴って、仰向けにする。
仰向けになった俺の目に入ったのは、血で濡れた太刀の刃。
太刀が下ろされていき、お腹を刺した。
太刀はすぐに引き抜かれた。
でも、また下ろされていき、再びお腹を刺した。
何度も太刀を抜いたり、刺したりを繰り返す鬼。
どんどん意識が薄れていく。
薄れていく意識の中、クロネたちの方へ顔を向ける。
こっちに駆け寄ろうと向かってきているクロネと両手で口元を押さえているユキの姿が目に入った。
クロネを見ながら死にたいと思い、クロネに視線を集中させる。
やっぱり理想の女の子だな、クロネは。
最後にそう思って、俺は意識を手放した。