セラ争奪戦 ユキ対シロ編
前回に続き、三人称視点で描いています。
クロネたち三人が戦い始めたそのころ、ユキは銀髪ツインテールの少女ーーシロと対峙していた。
たった今、竜巻から解放されたところで、まだなにも始まっていないが。
「貴女は普通の精霊とは違うと聞いた。
それは事実?」
シロがユキに尋ねる。
「はい。事実です」
「じゃあ、普通じゃないところを見せて」
「分かりました」
そうユキが返事すると、水色に輝く光の粒が彼女の周囲に現れ、彼女の体を包んでいく。
光の粒は彼女の体を包み込むと、まばゆい光を放った。
光が収まると、ユキの容姿が少し変わっていた。
頭には水色の結晶でできたツノが、背中には竜の翼が、腰からは竜の尻尾がそれぞれ生えている。
手の指先からひじ、足の指先からひざを金属の鎧のような鱗がおおっていて、指先には水色の結晶でできた鋭利なツメが生えている。
翼の外側、尻尾、腕と足の鱗は白銀に輝いている。
容姿だけでなく、服装も変わっている。
水色のワンピースに、白の上着を羽織っていた。
今は、白い半袖のブラウス、紺色したハイウエストのスカートという童貞を殺せそうな格好をしている。
「貴女、何者?」
半竜化したユキを見て、シロが彼女に尋ねる。
「竜族の祖先にあたる種族と精霊のハーフで、
世界神を倒して、この世界を救ってくださる方の妻です」
「じゃあ、あの男を殺す」
「な!? どうしてそうなるんですか!」
「世界神は私たち鬼族が滅びを回避できるように、
情報や回避方法を教えてくれた。
私たちの恩人に牙をむくんだから、殺すに決まってる」
「絶対、そうはさせません!」
ユキがそう言い放つと、彼女の両手のツメを水色のエネルギーが包み、伸びていく。
そして、エネルギーは長い鋭利なツメになった。
攻撃範囲を広げるためだ。
水色のエネルギーでできたツメが完成すると、ユキは身体強化を発動させ、駆け出した。
距離をぐっと縮めると、彼女は右手を振り下ろした。
だが、シロに左クローの甲部分で防がれてしまう。
ユキのツメが触れた瞬間、クローにはめ込まれた緑色の魔宝石が輝いた。
すると、ユキとシロの間に緑がかった風のかたまりが現れた。
そして、ユキのお腹を切り裂き、彼女を吹き飛ばした。
「『ショットクロー』」
シロが右クローをユキに向け、呟く。
すると、また緑色の魔宝石が輝いた。
クローの前に、半透明の刃が三本現れ、ユキに向かっていく。
ユキはオレンジ色のオーラーー竜力をまとわせた左腕の鱗で、半透明の刃をすべて受け止め、防ぎきった。
竜力は身体能力、物理攻撃・攻撃魔術の威力、治癒・解毒魔術の効果を上昇させられる。
それだけでなく、鱗の硬度、炎や冷気などの息攻撃の威力・範囲を強化できる。
そして、竜力の一番の強みは、身体強化に効果を上乗せできるところだ。
(なに? 今さっきの攻撃。
ただ防いだようにしか見えなかったのに)
「さっきの攻撃は『カウンターウィンド』。
この爪武器ーーティグリスのスキル。
効果は攻撃が私の体のどこかに当たったら、
風が生まれて、攻撃者を切り裂き、吹き飛ばす。
効果は私の魔力がなくなるまで」
ユキの心を読んだかのように、シロが先ほどの攻撃の説明をした。
「当たったら……っていうことは、
防いでも発動するんですか?」
「当然。貴女の近距離攻撃はすべて貴女を傷つける」
(近距離攻撃は戻ってくる。
近距離攻撃は? どうして、限定したんだろう?
まさか!?)
ユキは右手を前に出し、魔術で氷の球を生み出した。
そして、氷球を掴んで、投げた。
氷球は放物線を描きながら、シロに向かっていく。
シロがそれをクローで受け止める。
すると、小さな風のかたまりが現れ、強風になって吹いた。
シロの前方一メートルまで、吹いた。
(やっぱり。
あの技は遠距離からの攻撃じゃ意味をなさないんだ。
これなら、距離を保ちながら、攻撃すれば勝てる!)
勝機を見出したユキは腕を胸の前で交差させた。
そして、氷のナイフを指の間に、左右三本ずつ出現させ、両手を広げるように腕を振るい、ナイフを投げた。
今回は竜力を全身にまとって、腕を振るったため、氷のナイフは高速で飛んでいく。
「『ショットクロー・ダブル』!」
シロの声に反応して、両方のクローの魔宝石が輝いた。
そして、左右合わせて六本の刃が飛んでいき、すべてのナイフを撃ち落とした。
(危なかった。えっ!?)
驚くシロ。
驚いて当然だ。
気づけば、氷の砲弾が迫ってきているのだから。
氷の砲弾は先が尖り、回転している。
この氷の砲弾はユキが放ったものだ。
ナイフはこの砲弾を確実にあてるためのものだったのだ。
「ーーッ!」
氷の砲弾をかわそうとしたが、左腕にもろにくらい、シロが声にならない叫びを上げる。
彼女の腕はギリギリ繋がった状態になったが、すぐに治癒が発動し、元どおりになった。
腕が治ったのはいいが、彼女の腕は血で赤く染まっていて、ブレスレットの光も残り二つになってしまった。
「はぁはぁ、今度は私のターン」
息を乱しながらそう言って、シロが右腕を上げる。
すると、右クローの魔宝石が輝き、右手に緑がかった風のかたまりが現れた。
かたまりは形を変えていき、円盤状になった。
「『風円斬』」
そう言って、シロは右腕を振り下ろすようにし、風の円盤を放った。
風の円盤はユキに向かって、飛んでいく。
風の円盤があと少しであたるというタイミングで、ユキは背中の翼を使い、飛んでかわした。
(こういう技はあたるまで襲ってくるっていうのが決まり)
この情報はリョウタのアニメ知識から得たものだ。
なにもないときは、いつもリョウタの魔力でできた空間にいるユキ。
その空間には花畑と大きな図書館が存在している。
図書館にはリョウタの記憶が載った本がたくさん置かれている。
その中にはアニメやゲームの記憶が載った本もある。
ユキはその本にはまってしまい、暇さえあれば読んでいる。
(やっぱり)
ユキが振り向くと、案の定風の円盤は方向転換して、彼女の元へ向かおうとしていた。
(対処法は、放った敵に向かう!)
そう心の中で言い、ユキは背中の翼を使って、シロに向かって飛んでいく。
それを追って、風の円盤も飛んでいく。
(引っかかった)
シロが心の中で呟く。
そう。風の円盤は罠である。
いや、今罠になったと言った方が合っているだろう。
どういうことかと言うと、ユキが追尾型の攻撃を知らなければ攻撃に、知っていれば自分の元へ向かわせるための罠になるということだ。
シロは両手を前に出し、くっつけた。
すると、両方のクローの魔宝石が輝いた。
魔宝石に応じて、シロの周囲に風がいくつも巻き起こり始める。
風は彼女の両手に集まっていき、強くなっていく。
風が暴風のかたまりとなったとき、シロが技を放とうしているのに、ユキが気づいた。
だが、気づくのが遅すぎた。
もうよけられる距離ではないし、シロの技は完成に至っているのだから。
「奥義『斬撃嵐虎弾』!」
シロが技の名前を叫び、暴風のかたまりを放った。
放たれたかたまりはトラの形になり、ユキに向かっていく。
よけられないと判断して、ユキは顔の前で腕を交差させ、防御態勢に入った。
防御態勢に入った瞬間、彼女に風のトラが直撃し、暴風のかたまりに戻って、飲み込んだ。
すると、暴風のかたまりはその場にとどまり、ユキの体を切り裂いていく。
少しすると、暴風のかたまりはゆるい風になって、ユキを解放した。
解放されたユキは地面に倒れ込むように着地した。
体を起こした彼女の服は所々切り裂かれ、その切れ目から血に濡れた肌が露出している。
『ブルーチームズプレイヤー5、ゲームオーバー。
転移魔法陣を展開します』
ユキの左腕に装着されたブレスレットが告げ、彼女の足もとに魔法陣が描かれていく。
「どうして……?」
「私の奥義は手数の多さが売り。
その奥義をくらったんだから、
ゲームオーバーになって当然」
シロがそう言い終えると同時に、魔法陣が完成した。
『テレポート』
ブレスレットの音声に反応して、魔法陣がまばゆい光を放った。
光が収まると、ユキの姿は見えなくなっていた。