セラ争奪戦 クロネ対シュカ+セイラン編
この話は三人称視点で描いています。
時をさかのぼること、数十分。
「リル姉。俺の首に手を回して」
「こう?」
ティリルがリョウタの首に手を回して、確認する。
「うん」
リョウタがそう返事して、彼女を抱えた。
「姫抱きで、行くんだ?」
ティリルが嬉しそうに尋ねる。
「うん」
そう返し、自身の魔力を背中に集めるリョウタ。
すると、水色の魔力でできた翼が彼の背中に現れた。
リョウタは翼をはためかせ、空中に浮上した。
「それじゃあ、二人ともがんばって!」
リョウタが地上に立つクロネとユキにエールを送る。
「はい!」
リョウタのエールに、ユキは返事して、クロネは左腕を上げて、応えた。
二人が応えると、リョウタはティリルを大事に抱え、ライコウの元へ向かっていった。
「シュカ」
シロが隣にいるシュカに声をかける。
「はい?」
「周りにいられると、存分に戦えない。
移動してもいい?」
「いいですよ」
「助かる。ティグリス」
シロがなにかの名を呼ぶと、籠手が現れた。
だが、ただの籠手ではない。
籠手の甲から三本の刃が伸びている。
いわゆるクローだ。
クローの甲部分には、緑色の魔宝石がはめ込まれている。
「神槍サクヤが生み出した神爪よ。
我をかの精霊と移動させたまえ。
『トランスポートウィンド』!」
シロが詠唱すると、緑がかった竜巻が発生し、大きくなっていく。
辺りに強風が吹き荒れる。
この場にいるシロ以外の全員が腕を顔の前で、交差させて、耐えている。
ユキとクロネが顔をゆがめるが、関係なく竜巻は成長を続ける。
秒もしないうちに、竜巻がシロとユキを飲み込んだ。
二人を飲み込むと、竜巻は成長をやめた。
そして、リョウタが向かった方へ移動していった。
「舞台が整いましたね。
始めましょうか、戦いを。
セイラン!」
シュカが薙刀を構えて、セイランを呼ぶ。
「うん。おいで、ドラン」
セイランがそう言うと、彼女の腕に籠手が現れた。
籠手の甲には、青色の魔宝石がはめ込まれている。
「四天姫・赤の守護者 シュカ」
「同じく四天姫・青の守護者 セイラン」
「次代月姫 クロネ・クールウィンド」
クロネが腰にたずさえた愛刀を抜き、構えて、名乗る。
「二人まとめて、斬る!」
そのクロネの言葉を皮切りに、クロネとセイランが駆け出した。
「うりゃあッ!」
「ハァッ!」
ガキンッ!
クロネが左斜め上に振るったツクヨミとセイランが放った右ストレートがぶつかり、金属音が辺りに響く。
後ろに跳んで、距離を開けるセイラン。
彼女が跳ぼうとした瞬間に、クロネがツクヨミを横薙ぎに振るったが、当たらなかった。
「やっぱり強いや」
セイランが呟く。
「シュカ姉」
「もう……なんですか?」
一歩も動いていないシュカがあきれながら、尋ねる。
「本気でぶつかり合いたいから、
手を出さないでね」
「はぁ、分かりました。
ただし、三分だけですからね?」
「ありがとう。大好きだよ、シュカ姉」
そうシュカに言うと、体に力を入れるセイラン。
すると、彼女のひたいから一本のツノが生えた。
ツノは白いエネルギーでできていて、淡く光を放っている。
「ツノ……?」
セイランのひたいに生えたツノを見て、クロネが呟いた。
「えへへ、かっこいいでしょ?
私たち鬼族だけが使える秘技で、『鬼化』っていうの。
鬼化すると、攻撃の威力とスピードが上がって、
強くなるんだよ」
「そんなことを敵の私に言ってもいいの?」
「うん。すぐにわかっちゃうし。
クロニャンって、鬼化みたいなのを使える?」
対峙しているクロネにセイランが尋ねる。
「クロニャンって、私のこと?」
「うん、そうだよ」
「すみません。
セイランは気にいると、
勝手にあだ名をつけてしまうんです」
セイランごしに、シュカがクロネに謝る。
「そう」
「クロニャン」
セイランがクロネを呼ぶ。
「なに?」
「使えるの? 使えないの?」
「使えるけど。そんなに、本気で戦いたいの?」
「うん。本気でぶつかったら、友達になれるもん」
セイランは笑顔で答えた。
そんな彼女を見て、クロネがクスッと笑った。
「分かった。使ってあげる」
そうセイランに言うと、クロネは髪をまとめているリボンに手を伸ばし、髪を解いた。
黒髪がサラサラと彼女の肩に落ちていく。
そして、体に力を入れるクロネ。
すると、彼女の髪、猫耳、尻尾が黒から白に変化した。
「クロニャンは髪が真っ白になるんだね」
「髪が白くなるだけじゃない。
攻撃の威力もスピードも格段に上がってる」
「そうこなくっちゃね。
それじゃあ、いくよ。クロニャン!」
「どこからでもかかってきて」
クロネはツクヨミの柄を両手で握り、胸の前で構えて、セイランに言った。
それを聞くと、セイランは距離を詰めた。
「くらえ! 『五月雨』!」
セイランが技の名前を叫んで、拳を放つ。
一発、二発と拳を繰り出していく。
だが、セイランの拳はクロネに届かない。
拳がクロネに触れる瞬間に、その一部分に金色のオーラーー闘気が現れ、邪魔しているからだ。
五発目を放つと、セイランは回し蹴りを放った。
だが、ツクヨミに防がれ、また届かなかった。
「クロニャン。
全然、当たった感触がなかったんだけど、
なにしたの?」
後ろに跳び、距離を開けたセイランがクロネに尋ねる。
「闘気をまとったの」
「そっか。今度は当てるからね」
そう告げると、また距離を詰めるセイラン。
拳が届くところまで詰めると、彼女は右手を引いた。
籠手にはめ込まれた青の魔宝石がキラリと輝いた。
その次の瞬間、セイランの右手に稲妻がほとばしり始めた。
「『雷雨』」
セイランは先ほどと違う技の名前を言って、電撃をまとった拳を放った。
それをクロネはツクヨミで防いでしまう。
「キャアアーーッ!」
クロネが悲鳴をあげる。
普段の彼女からは考えられないほど、大きな大きな悲鳴。
悲鳴をあげて、当然だ。
電撃を金属で受けてしまったのだから。
「はぁはぁ、忘れてた。闘気の弱点」
片ひざをついたクロネが肩で息をしながら、呟く。
闘気は物理攻撃、魔術には鉄壁を誇るが、電撃は通してしまう。
クロネはツクヨミに闘気をまとわせて、防いでいた。
闘気が電撃も通さないのであれば、防げたのだ。
「痛かったよね? ごめんね、クロニャン」
セイランがクロネに謝る。
「謝る必要ない。私たちは戦ってるんだから」
そうセイランに言って、手首に着けているブレスレットをふとみるクロネ。
(ブレスレットの光が一つになってる。
次、攻撃をくらえば、外に転移させられる。
どんなに小さな攻撃でも。
もうくらってられない)
クロネはツクヨミを支えにして、立ち上がった。
そして、腰だめにツクヨミを構えた。
「奥義対決だね?」
セイランの問いに、クロネは頷いて、応えた。
それを見て、セイランはもう少し距離を開けて、体を横に向けた。
両足を開き、ふんばりやすいように体勢を低くして、右手を引き、左手で隠した。
今から繰り出す奥義の構えだ。
セイランが構えを取ると、クロネがツクヨミに闘気を集め始めた。
それと同時に、セイランも右手に魔力を集め始める。
ツクヨミは闘気を、セイランの右手は青いオーラをまとい、それぞれ金色、青色の光を帯びていく。
数秒すると、ツクヨミとセイランの拳がこれでもかと光を放つようになった。
それをきっかけに二人が口を開く。
「奥義……」
「奥義……」
二人の声が重なる。
「『光ツバメ』!」
「『篠突く雨』!」
奥義の名前を叫び、クロネはツクヨミを横薙ぎに振るい、セイランは拳を放った。
金色に輝く光の斬撃、ドラゴンの形をした青い光がそれぞれツクヨミ、セイランの拳から放たれ、退治している相手に向かっていく。
そして、光の斬撃と光の球がぶつかり、奥義同士のつばぜり合いが始まった。
「いっけぇーーっ!」
セイランが叫ぶ。
だが、それは叶わず、光の斬撃が打ち勝ち、青い龍を切り裂いた。
青い龍を切り裂くだけでは終わらず、光の斬撃はセイランに向かっていく。
そして、セイランのお腹に直撃し、切り裂かずに抜けていった。
すぐに治癒魔術が発動し、斬撃が彼女の体を抜けたと同時に完治した。
そのため、抜けていったかのように見えた。
『レッドチームズプレイヤー3、ゲームオーバー』
セイランの左腕に装着されたブレスレットが流暢な英語で発した。
『転移魔法陣を展開します』
そうブレスレットが続けると、セイランの足下に魔法陣が現れる。
『テレポート』
ブレスレットが発すると同時に、魔法陣がまばゆい光を放った。
光が収まると、セイランの姿が見えなくなった。
「シュカ。あとは貴女だけ」
クロネがシュカにツクヨミを向け、言う。
「そうですね」
微笑んで、答えるシュカ。
「どうして、微笑んでるの?
頼みの綱のセイランが負けて、勝てる見込みがないから?」
「その逆です」
そうシュカが言った瞬間、クロネの体から汗がどっと吹き出した。
それと同時に彼女がふらついた。
「効いてきたみたいですね」
「貴女、なにをしたの?」
片ひざをついて、クロネがシュカに聞く。
上着の着物が吹き出した汗でくっついて、彼女が着けている下着のひもがくっきりと浮かび上がっている。
「貴女の周りの気温を急激に上昇させたんです。
この薙刀ーーフォーティルのスキルを使って」
(全然、気づかなかった。
どうして、気づかなかったの?)
「急激に上昇したから、気がつかなかったんですよ」
クロネの心を読んだかのように、シュカが彼女の疑問に答えた。
「気温を急激に上げて、体調を崩させて、
そこを叩くっていう作戦?」
「いえ。私はなにもしません。
私はただ待っていればいいんです。
貴女が熱中症になって、倒れてくれるのを」
この世界にはがんなどの手術が必要な病は存在しないが、熱中症や風邪は存在する。
もちろんひどくなれば、熱中症は気を失うし、風邪は肺炎を引き起こす。
「自分の手を汚さず、相手を仕留めるなんて、
悪魔なの?」
「私たち鬼族の未来のためなら、
私は悪魔にも本物の鬼にもなります」
「貴女やライコウのようなひとがいる鬼族の未来のために、
セラは渡せない。いや……」
クロネは話を一旦中断して、立ち上がり、ツクヨミを構えた。
「渡さない、絶対に!」
そう言い放ち、彼女はシュカに向かって、駆け出した。
「やはり獣族はタフですね」
そう呟いて、シュカが薙刀を構える。
だが、その構えは意味を成さなくなる。
ドサッ。
あと少しでツクヨミが届くというところで、クロネが倒れた。
倒れた彼女は気を失っている。
『ブルーチームズプレイヤー4、ゲームオーバー』
倒れたクロネの左腕に装着されたブレスレットが流暢な英語で発した。
『転移魔法陣を展開します」
ブレスレットがそう続けると、例のごとくクロネの下に魔法陣が現れる。
「安心してください。
この中では治癒魔術しか発動してませんが、
最上級解毒魔術『アルティメットキュア』が
外に出る瞬間、発動して、
状態異常を回復してくれますから」
シュカが気絶して動かないクロネに告げる。
『テレポート』
彼女が告げ終えるのを待っていたかのように、ブレスレットが発する。
ブレスレットの音声に呼応して、魔法陣がまばゆい光を出した。
光が収まると、クロネの姿は見えなくなった。