セラ争奪戦の開始とルナシャインブレイカー
光が収まり、目を開ける。
すると、青く輝くクリスタルが目に入った。
クリスタルは頭くらいの大きさをしている。
クリスタルの後ろにはステンドグラス。
ステンドグラスってことは、ここは教会だろうか。
あっ。眺めてる場合じゃなかった。急がないと。
「ユキちゃん、ちょっと退いて」
「はい」
そう返事して、ユキは後ろに下がった。
「リル姉」
「ん?」
こっちに向くティリル。
返事をせずに、彼女の左手を掴んで、入り口に向かう。
「わわっ。なになに?」
驚きながらも足を動かす彼女。
「いいから、ついてきて」
ユキちゃんもついてきてね。
「分かってますよ」
真横から返事が返ってくる。
彼女はふわふわと浮きながら、俺と並んで移動している。
「リョウちゃん」
もう少しで入り口っていうところで、フィアーナに呼ばれた。
「どこ行くの?」
振り向くと、彼女が聞いてくる。
「三人で攻めに行く。
二人は、ここでクリスタルを守っておいて」
「待って!」
入り口に向かおうとした瞬間、クロネに止められた。
「フィア。私もついて行こうと思うんだけど、
任せても大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃあ、お願い」
そうフィアーナに言って、こっちに駆け寄ってくるクロネ。
「クロネちゃんも来るの?」
「うん。リョウタが少し心配だから」
俺が心配ってなんだよ?
俺が弱すぎて、心配ってこと?
「そっか。じゃあ、一緒に行こうか?」
「うん」
俺はクロネ、ティリル、ユキの三人を連れて、教会を後にして、ライコウの元へ向かった。
ーー
「リョウタ様。魔力が三つ、近づいてきます」
石畳みの道を進んでいると、ユキが敵の接近を伝えてくれる。
「どこから来そう?」
クロネがユキに聞く。
「空からだと思います」
「やっほー」
ユキが答えた瞬間、上の方から女の子の声が聞こえた。
声の方に目を向けると、シュカ、セイラン、シロの三人が空中にいた。
彼女たちは背中に生えた赤い翼で浮かんでいる。
シュカが持っている薙刀のスキルだろうか。
今の『やっほー』はセイランだと思う。
手を挙げてるし。
やっぱりセイランちゃん、可愛い。
でも、一番可愛いのはフィアたんとクロネたんだけどな。
「四人で来たんだね」
着地したセイランが言った。
なんで三人とも着地しちゃうの?
地上戦より空中にいた方が有利だよ?
「手間が省けたね? シュカ姉」
「任務中にその呼び方はダメだって言ったのに。はぁ。
セイラ、あとでお説教ですからね」
「えー。シロちゃん、どうにかしてよ」
「いや」
「ひどくない!?」
「ひどくない。セイラの自業自得」
君たち、戦う気ある?
「貴女たち、なにをしてるの?
戦う気はあるの?」
腰に携えたツクヨミの柄を握ったクロネがシュカたちに尋ねる。
クロネたんも同じことを考えてたんだ?
考えてることが一緒って、本当に相性がいいね。
「ある。戦う気がないのは、セイラだけ」
シロが答える。
「あるよ! あの猫耳ちゃんと戦いたいもん!」
クロネを指差して、シロに言うセイラン。
「戦いたいってことは、貴女が私の相手なの?」
「いえ。貴女の相手はセイラと私です。
とても強いと耳にしていますから」
シュカが答える。
「私は精霊の相手をする」
聞いてもないのに、シロが答えてくる。
「あの、俺とティリルの相手は?」
「いません。
どうぞ、ライコウ様の元へ向かってください」
これって罠じゃないのか?
行くか、行かまいか。
隣にいるティリルの顔をうかがう。
「行ってもいいと思うよ。
罠だとしても、クロネとユキがすぐに来て、
助けてくれると思うし」
微笑んで、アドバイスしてくれる彼女。
やっぱりリル姉は良妻だな。エロフだけど。
「じゃあ、お言葉に甘えて、先に進ませてもらいます」
「はい。どうぞ」
シュカが微笑んで、返事する。
それじゃあ、行くか。
シュカたちの近くを通るのは危ないから、飛んで行くか。
「リル姉、俺の首に手を回して」
「こう?」
俺が言った通りに首に手を回すティリル。
しっかりと回しきったところで、右手を彼女の背中に回し、支えて、持ち上げる。
いわゆるお姫様だっこだ。
「姫抱きで行くんだ?」
ティリルが嬉しそうに聞いてくる。
「うん」
そう返事して、背中に魔力を集める。
魔力の翼を広げ、空中に浮上する。
「二人ともがんばって!」
「はい!」
ユキは返事し、クロネは手を挙げた。
それじゃあ、行くか。
俺はティリルを抱え、ライコウの元へ向かった。
ーー
「リル姉。魔力反応は?」
俺の匂いを嗅いでいるティリルに尋ねる。
「一つあるよ。もうすぐで見えると思うよ」
「そっか。ありがとう」
「どういたしましてー」
数秒すると、鎧に身を包んだ人間が視界に入った。
緑色の髪をしているから、ワカバだと思う。
彼女は槍と斧を合わせたような武器ーーいわゆるハルバートを持っている。
「お前たち、いちゃついていたのか?」
着陸した瞬間、ワカバが聞いてくる。
「いや、いちゃついてないです」
ティリルを下ろし、立たせながら、答える。
「あんがと」
立たせると、彼女はお礼を言って、唇を重ねてきた。
「私の前で、キスをするな!
こっちは二十代半ばで彼氏がいないんだぞ!」
「そうなんだ?
私は十九でリョウタと出会って、
それから毎日エッチしてるよ」
エッチは十九からじゃなくて、二十四からだよ。
ていうか、あおるなよ。
「リル姉。それくらいにしておいてあげて」
「それは無理かな」
「なんで?」
「だって、作戦だもん」
「作戦?」
「そ。
あの娘を怒らせて、私に意識を向けさせる作戦」
「なにをこそこそと話している!」
ワカバに聞こえないように話していると、彼女が聞いてくる。
「今日するエッチの内容を決めてたんだー」
「貴様ァ! 私の前でいちゃついて!
許さんぞ、色魔エルフー!」
そう叫んで、こっちに向かってくるワカバ。
鎧が重いのか歩くスピードより少し遅い。
「リョウタ。今のうちに、あの建物に向かうか、
大技で壊して。
あの建物の中にライコウの魔力反応があるから、
クリスタルもあると思うかんね」
あの建物というのは、ワカバの後ろに見える教会。
「分かった」
「いい子だね。
あとで、なでなでしたげるかんね」
そう俺に言って、両手に現れた拳銃を握り、ティリルはワカバに向かって、駆け出した。
タン! タン!
二つの銃声が響く。
すると、ワカバの足が止まった。
「なっ!? 足が凍ってる!
貴様、なにをした!」
「凍結弾だよ」
「とーけつだん? なんだ、それは!」
「説明するのがめんどくさいから、教えたげないッ!」
そう言って、ティリルはブレードモードにしたクシナダで彼女に斬りかかった。
キンッ。
ワカバがハルバートで防ぎ、弾いた。
そして、ハルバートを横薙ぎに振るった。
ティリルはギリギリで、かわせた。
「危なかった。チャックを閉めといてよかった。
って、リョウタ! なにやってんのさ!」
ティリルが振り向いたと同時に怒ってくる。
やばい。二人の戦いに集中してた。
正々堂々と戦うのは負けそうだから、大技で建物ごと吹き飛ばそう。
シエラさんに教えてもらった無属性魔術の奥義を使えば、一つの建物を破壊するくらい余裕でできる。
杖の先を教会に向け、目をつむる。
そして、杖の先に魔力をかき集める。
かき集めること、数秒。
真っ暗な視界に青い光が差す。
次の段階に進むため、目を開ける。
スカイブルーに輝く球体が視界に入った。
この球体を周りの空気でふくらませるイメージをする。
すると、バスケットボールサイズの球体が少しずつ大きくなっていく。
ある程度の大きさになるまで、ふくらませるイメージをして待つ。
元の大きさの五倍くらいになったところで、イメージするのをやめる。
「リル姉! 俺の後ろに来て!」
「分かった」
そう返事して、こっちに飛んでくるリル姉。
クシナダの銃口から空気を噴射して、飛んでいる。
「待て! な!? なんだ、その塊は!?」
ティリルを追いかようとしたワカバが俺の前にある球体を見て、驚く。
「まさか!? させるか! ハァッ!」
体に力を入れる彼女。
すると、彼女のひたいから一本のツノが生えた。
ツノはエネルギーでできていて、刃のようだ。
「ライコウ様を傷つけさせん!」
そう言って、彼女はこっちに向かって、駆け出した。
はやっ!
さっきまでとは段違いのスピードで、近づいてくる。
あのハルバートの間合いに入るまで、あと数秒のところで、ティリルが俺の横を通り過ぎた。
「よし。くらえ。
『ルナシャインブレイカー』!」
考えておいた魔術名を発し、魔力のかたまりを放射した。
魔力のかたまりはすごく太い光線となって、ワカバを飲み込み、後方にある教会に向かっていく。
そして、教会に直撃し、飲み込んだ。