第二の百合展開のきっかけと四天姫
前半に百合描写があります。
メイドについていっていると、彼女がある部屋の前で止まった。
そして、その扉をノックした。
「セラ様、お客様をお連れしました。
入ってよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ」
セラの声だ。
「失礼します」
そう言って、扉を開けるメイド。
「どうぞ、中にお入りください」
俺たち四人は彼女に促され、部屋の中に入った。
ーー
「お兄ちゃんっ!」
部屋に入ると、セラが抱きついてきた。
抱きつくなり、泣き出す彼女。
頭を撫でて、落ち着かせる。
そりゃ泣くよな。
知らない場所に連れてこられたし、ちゃんと俺たちが来てくれるか、不安だっただろうし。
「なにもされなかった?」
セラの隣に腰かけたクロネが彼女に尋ねる。
セラは落ち着くなり、俺とクロネの手を掴んで、部屋のベッドに三人で腰かけて、今に至る。
「はい。なにもされてません。
ただ服と食事、この部屋を与えられただけです」
「そう。よかった」
安心した表情で言うクロネ。
一番、心配してたよね。
「セラ、お姫様みたいだねー」
椅子に座ってるティリルがセラに言う。
ティリルとフィアーナは椅子に座っている。
「なんでですか?」
「だって、ベッドは天蓋付きだし、
ドレスっぽいワンピースを着てるんだもん」
「姉様。お姫様に見えますか?」
なんで、クロネに確認するの?
「うん。お姫様みたいで可愛い」
「ありがとうございます、姉様。
姉様もその格好、似合ってて可愛いですよ」
セラがクロネを褒め返す。
この着物、巫女服みたいで可愛いもんな。
袴の色が緋色じゃなくて、青色っていうのがなおいいよな。
「ありがとう」
「私は?」
ティリルがセラに聞く。
「リルお姉ちゃんもそのパーカー似合ってて、
可愛いですよ」
「にひひ、あんがと」
めっちゃ嬉しそう。
もうこれ、絶対セラのことが好きだろ。
百合りたいって気持ちが伝わってくるもん。
「姉様」
「なに?」
「呼んだだけです」
こら。ティリルの前でいちゃいちゃしないの。
クロネもセラが可愛いからって頭を撫でないの。
二人が百合ってると、ティリルが立ち上がった。
そして、こっちに寄ってきて、セラを抱きしめた。
「リルお姉ちゃん?
急に抱きしめて、どうしたんですか?」
「抱きしめたかったからだよ」
「そうですか」
「セラ」
セラと顔を見合わせて、呼ぶティリル。
「はい」
「私のこと、好き?」
絶対、その『好き』はラブの意味だろ?
「はい。好きですよ」
セラが笑顔で答えた。
すると、その瞬間、ティリルがセラの唇を奪い、舌を入れた。
セラの『好き』はライクの意味なのに。
「んっ!?」
突然のことに驚き、声を上げるセラ。
彼女が声をあげても、ティリルは夢中でしてる。
すっごい絡めてるよ。
「リル! ダメ!」
クロネが言うけど、全然聞こえてない。
これはティリルがやめるまで、待つしかないな。
少しして、ティリルが唇を離した。
すると、顔を赤くして、うつむくセラ。
「ごめんね、セラ。いきなりキスして」
「すごくびっくりしました」
「ほんとごめんね。もうしないから」
すごく申し訳なさそうに謝るティリル。
コンコン。
扉がノックされた。
そして、さっきのメイドが入ってきた。
「準備が整いましたので、呼びに参りました」
もう整ったのか。早いな。
「じゃあ、セラちゃん。待っててね。
すぐ戻ってくるから」
立ち上がって、セラに言う。
「はい」
うつむいたまま、返事する彼女。
「じゃあ、行こうか?」
「「うん」」
俺が言うと、フィアーナとティリルは返事し、クロネは頷いた。
「では、ご案内させていただきます。こちらへ」
俺はフィアーナたち三人と部屋を出ようとして、やめた。
「少し待ってて」
そう三人に告げて、セラの元に戻った。
「お兄ちゃん? 行くんじゃないんですか?」
セラの目の前に来ると、彼女が尋ねてくる。
答えずに、彼女を抱きしめる。
「セラちゃん、聞いて」
「はい」
「フィアちゃんはクロネちゃんのことが好きなんだ。
俺への『好き』と同じ意味でね」
「キスしたいとか思うってことですか?」
「うん。
リル姉はそのフィアちゃんに吸血されたから、
セラちゃんにキスしちゃったんだと思うんだ」
「そうなんですか」
「うん。だから、嫌いにならないであげて?」
セラと顔を見合わせて、彼女に頼む。
「大丈夫です。
びっくりしただけで、嫌いになってないですから」
笑顔で言う彼女。
「そっか」
そう返事して、彼女の頭を撫でる。
「はい」
「じゃあ、行ってくるね。
絶対に勝ってくるから、安心して、待ってて」
「はい。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
そう返し、俺は部屋を後にした。
ーー
王城から馬車に乗り、移動すること約十分。
馬車が止まった。
「着きました。降りてください」
昨日、案内してくれた青年が扉を開けて、言った。
俺たちの案内は、彼に任されているっぽい。
青年に従い、馬車から降りた。
降りた場所は橋の前。
橋は舗装されていて、現代日本の橋と同じ感じだ。
「ちゃんと逃げずに来たか」
いつのまにか、目の前まで来ていたライコウが言ってくる。
彼は背中に刀を携えている。
「負ける可能性がめちゃくちゃ低いからな。
それで、その四人は?」
彼の後ろにいる四人の女の子たちを見て、尋ねる。
四人は髪色も髪型もバラバラだけど、身にまとってるものはチャイナドレスで統一している。
「俺の仲間として、参加してもらう。
名乗ってやれ」
「はい」
左端にいる娘が返事をする。
「私はシュカと申します」
「セイランだよ。セイラって呼んでね」
「私はワカバだ。よろしく頼む」
「シロ」
彼女たちは左端から順に名乗った。
シュカは赤い髪をサイドテールにしてる。
いいところのお嬢さんって感じがする。
セイランは紺色の長い髪を下ろしてる。
天然元気娘って感じで、可愛い。
ワカバは緑色の髪をポニーテールにしてる。
背が高く、騎士をしてそうだ。
シロは銀色の髪をツインテールにしてる。
小柄で、無口そうだ。
「こいつらは『四天姫』。
神槍が生み出した四つの武器に選ばれた者たちだ」
ライコウが言う。
神槍って、幻想武具だよな?
彼女たち四人は武器をなにも持っていない。
四人の武器が幻想武具に生み出された武器なら、持ってなくても当然だ。
幻想武具は、通常は異空間にあって、武器の名を発すると手元に出現するようになっているから。
「ライコウ様、魔力がもったいないので、
そろそろ参りましょう」
「そうだな」
シュカにそう返事して、俺たちに向き直るライコウ。
「俺たちのクリスタルに、たどり着けるといいな」
そう言って、彼はシュカたち四天姫を引き連れ、橋を渡っていった。
「俺たちも行こうか?」
「「「うん」」」
「はい」
フィアーナたち四人がそれぞれ返事した。
「ちょっと待ってください!」
歩き出そうとした瞬間、案内してくれた青年が引き止め、俺たちの前に来た。
彼は銀色のケースを抱えている。
「向かう前にこれを受け取ってください」
そう言って、彼はケースを開き、俺たちに中を見せた。
ケースの中にはブレスレットが五つ。
ブレスレットには、豆くらいの大きさをした電球が五つ付いている。
「これがないと、戦場に行けませんので、
この場で装着してください」
彼に従い、ブレスレットを手に取り、手首にはめた。
「では、橋の先端までご案内いたしますね」
フィアーナたち四人もブレスレットをはめたのを見て、青年が言う。
「どうぞ、こちらへ」
彼に連れられ、俺たちは橋に足を踏み入れた。
橋の上を歩くこと、少し。
少し遠くに街が見えてきた。
街を眺めながら歩いていると、青年が止まった。
「着きました」
は? まだ街まで距離があるんだけど。
「リョウタ様、下を見てください」
隣にいるユキに言われて、視線を下げる。
すると、青く輝く魔法陣が目に入った。
この魔法陣であの街に行くんだな。
「この魔法陣であの街に転移してもらいます。
危険はありませんので、どうぞお乗りください」
青年に従い、魔法陣の上に乗る。
俺たち五人が乗ると、魔法陣が光を放ち出した。
「頑張ってください。
ライコウ様が負けても、私たち鬼族が滅びることは
ありませんから」
そう言って、青年が微笑む。
彼が微笑んだ次の瞬間、まばゆい光が視界をおおった。