鬼王との謁見前夜
「あれ? これって宿屋だよね?」
フィアーナが聞いてくる。
馬車から降りると、目の前には城じゃなく宿屋が鎮座していた。
「王城に入れるのは日暮れまでなので、
今日はこの宿屋に泊まっていただこうと思いまして」
案内役の青年が答える。
時間切れかー。
それを口実に俺たちを足止めしてる間に、セラにひどいことをするんじゃないよな?
『我が剣で我がものにしてくれるわ』って、セラに無理やり……。
「それは本当のこと?」
愛刀を青年の首にあてがい、問うクロネ。
セラがひどいことされると思ってのことだ、きっと。
クロネは俺たちのことになると、男にでも刃を向けられる。
助けたい、失いたくないという感情が男への恐怖心を上回るかららしい。
「私たちを足止めしてる間に、
セラにひどいことするんじゃないの?」
ほら。
「う、嘘ではありませんし、
せ、セラ様には眠る場所と食事を
与えさせてもらっただけで、
まだなにもしてません」
「まだ……ってなに?」
刀身を押し付けるクロネ。
青年の首から血が出て、肩に向かって一筋の赤い線ができる。
「ひぃっ! せ、説明しますから刀を離してください」
クロネは少しだけツクヨミを彼から離した。
「王はゲームで勝つまでは指一本触れないと
仰っていました」
「ゲーム?」
「詳しくは聞いていません。
ですが、そのゲームには皆様が必要だとも
仰っていました」
俺たちが必要なゲーム?
命を賭したバトルゲームじゃないよな?
「口だけで、セラにはもうひどいことしてるんじゃないの?」
「王は一度発したことは絶対守ります。
そういうお方なのです。
信じてください!」
必死に言う青年。
クロネがツクヨミを下ろす。
必死すぎるもんね。
「分かった。信じる」
信じちゃうの? 演技かもしれないよ?
「でも、セラになにかあったら斬るから」
クロネはツクヨミを一瞬で上げ、彼の首にあてがい、言い放った。
「わ、分かりました」
もうこの人、クロネ恐怖症になったな。
ーー
案内役の青年に従い、宿屋の一室を借りた。
代金は青年が払ってくれた。
近くの飲食店で夕食を済ませ、借りた部屋に備えつけられたシャワー室で順番に浴びた。
フィアーナたちは二人組みで浴びてた。
「おやすみ、フィアちゃん」
フィアーナの唇から唇を離し、言う。
「うん。おやすみ、リョウちゃん」
そう返して、微笑む彼女。
あ〜。フィアたん、可愛いよ〜。
「じゃあ、次は私ねー」
フィアーナの横に立っているティリルが言ってくる。
「分かってるよ」
そう返事して、ティリルの前に移動する。
「リル姉。舌、入れないでよ?」
「分かってる、分かってる」
そう返事して、俺の首に手を回し、体をくっつけてくる彼女。
必然的におっぱいが押し付けられる。
キャミソールだから、普段の服より柔らかさがよく分かる。
これ、ちゃんと着けてる?
「にひひ、大きくなっちゃったねー」
「リル姉がくっつくからだよ。
ていうか、ちゃんと着けてる?」
「なにを?」
「わ、分かるでしょ?」
「口に出さないと分かんないよー」
絶対分かってる。
俺が恥ずかしそうにするのを見たいがために、分からないふりしてるんだ。
「私がなにを着けてないのかな?」
「し、下着……」
そう俺が答えると、ティリルが耳元に顔を寄せてくる。
「着けてなーー」
「着けてるよ」
フィアーナが遮り、答えた。
「もー。フィア、言ったらダメだよ。
夕方の仕返ししようと思ったのにー」
「だからって嘘ついちゃダメだよ」
「着けずに寝るときもあるから、
百パー嘘じゃないもん」
「お姉ちゃんが着けずに寝るわけないでしょ?
『寝るときもちゃんと着けてないと形崩れるから、
ちゃんと着けないとダメだよ』って教えてくれたの
お姉ちゃんなんだから」
論破されちゃったね、リル姉。
「リル姉、夕方はごめん。急にお姉ちゃん呼びして」
「ううん。別にいいよ。
リョウタにお姉ちゃん呼びされるの好きだかんね。
でも、外ではやめてほしいなって。
エッチしたくなっちゃうし」
「分かった。時間と場所を選んで呼ぶようにーー」
ティリルが唇で俺の口を塞ぎ、遮った。
長めのキスを終えると、俺をギュッと抱きしめる彼女。
「おやすみ、リョウタ。大好きだよ」
彼女の背中に手を回し、俺も抱きしめる。
「うん。おやすみ、リル姉。俺も大好きだから」
そう言って、俺たちは体を離した。
「よし。フィア、寝よっか?」
「うん」
フィアーナとティリルは窓側のベッドに移動して、横になった。
この部屋のベッドは二つ。
フィアーナとティリルが使うベッド、俺とクロネが使うベッド。
その俺のベッドは美少女二人が百合るのに使われている。
「クロネの髪はほんと綺麗ですね」
ユキがクロネの髪を氷のブラシで梳かしながら呟く。
「ありがとう。
ユキの髪も空みたいな色で綺麗」
「ふふっ、ありがとうございます」
微笑ましい。
「はい。できました」
もう終わり? 尻尾もやってあげなよ。
そしたら高レベルな百合に発展するから。
『ついでに尻尾もしてあげますね』
『尻尾は大丈夫だから』
『遠慮なさらず』
ユキがクロネの尻尾に手をかけ、ブラッシングを始める。
『尻尾は……あっ』
『はい。できました』
『尻尾、敏感なのに丁寧にブラッシングするから、
体おかしくなった』
『ごめんなさい……きゃっ』
クロネに押し倒されるユキ。
『責任とって治して』
『えっと……どうしたら治りますか?』
『リョウタにされてることして』
『リョウタ様にされてること?』
クロネがユキの耳元に顔を近づける。
『夜伽のときにされてること』
ユキの顔が赤に染まる。
『私たち、女同士ですよ?
ダメです。いけませ……んっ!?』
クロネに唇を重ねられ、口を塞がれるユキ。
『黙ってて。ちゃんとユキも気持ちよくしてあげるから』
『そういうことじゃなくて……んっ』
ユキはまたクロネに唇で口を塞がれた。
そして、彼女の口内にクロネの舌がーー。
「リョウタ様!」
妄想していると、ユキに大きな声で呼ばれた。
「な、なに?」
「変なこと考えてないで、
お、おやすみのキス、してください」
恥ずかしそうに言う彼女。
「ごめん。今するから」
今日謝ってばっかだな。
そう思いながら、ユキの両肩に手を置く。
そして、顔を近づけ、唇を重ねた。
唇を離すと、彼女が抱きついてきた。
俺も背中に手を回して、抱き返す。
「おやすみなさい、リョウタ様」
「うん。おやすみ、ユキちゃん」
そう俺が言うと、ユキは頰にキスをして消えた。
「それじゃあ、寝よっか?」
「うん」
クロネは微笑んで返事した。
「リョウタ」
俺と手を繋いで、横になっているクロネが呼ぶ。
「ん?」
横を向くと、彼女と目が合った。
一瞬ドキッとした。さすが、俺の理想。
「な、なに?」
「その、覚えてる?
好きなのはリョウタだけって言ったの」
恥ずかしそうに聞いてくる彼女。
「覚えてるよ。すげえ嬉しかったから」
「そう」
嬉しそう。
「それがどうしたの?」
「まだあれは途中なの」
「そ、そうなんだ」
理性が飛ばないように構えておこう。
「嫉妬しなくていいの。
私はリョウタが大好きで愛してるから。
リョウタが死んでしまったら、後を追ってしまうくらい……ってーー」
「ダメだよ、クロネ。
クロネが死んじゃったら
スズネさんとフィアーナが悲しむよ」
クロネの話を遮って言った。
「分かってる。
分かってるけど、こうやって言っておかないと、
私たちに危険が迫ったら、
貴方が身を呈して死ぬかもしれない」
「なんでそう思うの?」
「最近、ずっと同じ夢を見るの」
「俺が死ぬ夢?」
「うん。
夢の中の私はフィアと囚われているの。
ただ囚われているだけじゃなくて、
体に力が入らない状態なの。
リョウタが助けに来てくれるんだけど
私たちを捕まえてる男に半殺しにされてしまうのっ」
その光景を思い出して、涙を流すクロネ。
「そして、その男に犯されそうになって、目が覚めるのっ」
彼女を抱き寄せ、頭を撫でる。
「大丈夫。
そんな状況になったら、ブチ切れて
眷属として覚醒して倒せるよ。
まずフィアーナを無力化できるやつなんていないよ。
だから、心配ない」
そう俺が言うと、クロネが唇を重ねてきた。
「ありがとう」
微笑んでお礼を言う彼女。
「なんでありがとうなの?」
「少し安心できたから」
「奥さんを安心させるのも夫の役目だから当然だよ」
「リョウタは本当にいい旦那さん」
「クロネちゃんもいい奥さんだよ」
「あ、ありがとう」
クロネは照れて、お礼を言った。
「うん。じゃあ、寝よっか?」
「その、寝る前のキス、してほしい」
今さっきのキスはノーカンなんだ。
クロネたんとなら数えきれないくらいしても……したいからいいけど。
「分かった」
そう返事して、俺は顔を近づけ、唇を彼女の唇にくっつけた。
「これでいい?」
「うん」
「じゃあ、おやすみ、クロネちゃん」
「おやすみ、リョウタ。愛してる」
クロネはそう微笑んで言い、目を瞑った。
はい、眠れなくなりました。
クロネたんが可愛いこと言うから。
少ししてから、部屋のトイレに行った。発散しに。