閑話 僕の犬耳彼女
僕には可愛い彼女がいる。
その彼女の名前は、カリン。
明るい茶色の髪、金柑色の綺麗な瞳、髪と同じ色の犬耳が生えた女の子。
「ヴァンさ〜ん」
住んでいる街にある公園で待っていると、大好きな女性の声が、僕の名前を呼ぶ。
声の方へ視線を向けると、カリンがこっちに駆け寄ってきていた。
だけど、途中でこけてしまう彼女。
急いで、彼女の元へ駆け寄る。
「カリン、大丈夫?
怪我してない?」
「大丈夫です」
立ち上がり、カリンは恥ずかしそうに、苦笑いしながら、答えた。
「血が出てるよ!」
「こんなのすり傷です。へっちゃらです」
擦りむいている膝を青いチェックのワンピースの裾で隠しながら、微笑んで言う彼女。
「大丈夫じゃないよ。
放っておいたら、ひどいことになるから、膝出して」
「大丈夫です。つばつけておきますから……きゃっ」
しゃがんで、無理やり、彼女の擦りむいている方の足を目の前に引き寄せ、膝に手を近づける。
「かの者の負った傷を癒せ、〈初級治癒〉」
手から緑色の光が放たれ、彼女の傷を照らし、癒す。
「うん。癒えたよ」
「ありがとうです」
「カリンは僕の大事な女性だから、
当然のことだよ。
それじゃあ、行こっか?」
「はいです」
カリンは笑顔で、返事した。
彼女の後ろで、髪と同じ明るい茶色の尻尾が忙しなく、横振りしている。
本当に、今日のデートを楽しみにしてたんだね。
僕たちは手を繋いで、公園を後にした。
ーー
「あら、カリンちゃんじゃない」
知らない女性が僕の隣にいるカリンに声をかけてくる。
「こんにちはです」
「その隣の可愛い子は彼氏さん?」
「はいですっ」
僕の腕に自分のを絡ませ、嬉しそうに返事するカリン。
うっ、カリンの大きくて、柔らかいものが腕に当たってる。
考えちゃダメだ、考えちゃダメだ、考えちゃダメだ……。
「ヴァンさん!」
「ど、どうしたの?」
「どこに連れて行ってくれるですか?」
「えっと、喫茶店とか、愛宿とか」
なに言っちゃってるの、僕!?
舞い上がりすぎだよ。
「あいやど? それってなんです?」
聞かないで。
男女が愛し合う宿だよ……だなんて、言えるわけない。
人前だし、カリンはそういうの苦手だし。
「愛宿……っていうのは、カップルが泊まる宿なの」
声をかけてきた女性が説明し出した。
「泊まったら、どうなるです?」
「もっと仲良くなれるの」
フォロー、ありがとうございます。
「ヴァンさん、私ともっと仲良くなりたいですか?」
「う、うん」
僕がそう返事すると、頰を赤らめるカリン。
「それじゃあ、またね。カリンちゃん」
「はい。またです」
「頑張ってね」
カリンに聞こえないように、そう僕に告げて、女性は去っていった。
ーー
「美味しい?」
パンケーキを美味しそうに食べているカリンに聞く。
「はい。幸せです」
犬耳まで動いてる。
すっごく幸せなんだね。
僕も幸せそうなカリンを見れて、幸せだよ。
「ヴァンさん、口開けてくださいです」
気づくと、一口大のパンケーキを刺したフォークをカリンが、僕の口の前に持ってきていた。
「僕はいいよ。
カリンが全部食べて」
「嫌です」
「ど、どうして?」
「ヴァンさんと幸せな気持ちを共有したいからです」
頰を赤らめて、理由を述べるカリン。
リョウタの言ってた『でれ』だ。
言ってた通り、今すぐ抱きしめたくなる。
「私と共有したくないですか?」
カリンが悲しそうな表情で聞いてくる。
「し、したい」
ぱあっと笑顔になる彼女。可愛いな。
「それじゃあ、あ〜ん」
「あ、あ〜」
開けた口の中に一口大のパンケーキをカリンが入れてくれる。
「美味しいですか?」
「う、うん。美味しい」
「幸せですか?」
「うん。すごく」
僕がそう答えると、カリンが嬉しそうな表情になった。
ーー
「今からどうするです?」
喫茶店を出ると、カリンが聞いてくる。
「少し早いですけど、愛宿行くですか?」
「えっと、うん」
返事しちゃった。
いいよね?
恋人になって一年は経ってるし、デートも何回もしてるし。
なにも知らないカリンを連れて、愛宿に向かった。
ーー
「また未成年だと思われちゃったです」
借りた部屋に向かっていると、カリンがため息をついた。
カリンは一つ年上だけど、童顔で、背が頭一つ分、低い。
頭をポンポンとして、彼女を慰める。
そうしていると、借りた部屋の前にたどり着いた。
「あれ? 普通の宿と変わらないです」
部屋の中に入ると、カリンが呟いた。
「そうだね」
「でも、ベッドはふかふかです」
ベッドに乗って、ぴょんぴょん飛び跳ねて、言うカリン。
カリン、やめて。
シーツが乱れるし、おっぱいが揺れてるから。
「あっ。ヴァンさん」
彼女が飛び跳ねるのをやめて、僕を呼ぶ。
「なに?」
「どうやって、仲良くなるです?」
部屋が普通の宿と一緒なら、特別なことをする……って、思っちゃうよね。
そう思いながら、置いてある椅子をベッドのそばに移動させて、その椅子に腰かけた。
「ごめんね、カリン」
「どうして、謝るです?」
「この宿は、えっちするための場所なんだ」
静寂に包まれる部屋。
絶対、嫌われた。
「私を抱きたいってことですか?」
「うん」
「私は汚てるですよ?
それでも抱きたいですか?」
「うん。抱いて、忘れさせてあげたい」
僕がそう言った瞬間、ベッドの軋む音がした。
その音が終わると、足音がし始める。
足音は僕の目の前を通って、部屋の扉に向かっていき、扉の開く音とともに消えた。
「男に無理やり抱かれ続ける生活を一年くらい送ってた
女の子にしたいなんて言ったら、ふられて当然だよね」
独りごちて、ため息を漏らす。
「はぁ、帰ろ」
椅子を元の場所に戻し、扉の方に向かう。
「えっ?」
扉の前まで来ると、サーッというシャワーの音が鼓膜を刺激した。
脱衣所に入ると、かごの中にカリンが着ていた上着と青いチェックのワンピースが入っていた。
よかった。
脱衣所の扉を閉め、部屋に戻った。
ベッドに腰掛けて、待っていると、タオルを体に巻いたカリンが姿を現した。
「ヴァンさん、おまたせです」
乾ききってない明るい茶色の髪、いつも隠れてる肩や鎖骨、タオルから少し顔を出した胸の谷間が、僕の男としての本能を刺激する。
カリンから無理やり視線を外し、立ち上がる。
「ぼ、僕もシャワー、浴びてくるね」
そう彼女に告げ、シャワー室に向かおうと、カリンの横を通った瞬間、手首を掴まれた。
「えっと、カリン? 放してくれないかな?」
「シャワー浴びないでください」
「どうして?」
僕が尋ねると、抱きついてくるカリン。
「石鹸の匂いが嫌だからです。
あの匂いを嗅ぐと、思い出しちゃうです」
「分かった。でも臭くない?」
「ちょっとだけ汗の匂いするですけど、
臭くないです」
「そっか」
カリンは僕の手を引いて、ベッドに向かう。
ベッドに上がると、カリンがタオルの結び目を解いた。
重力に従い、落下していくタオル。
「ヴァンさん」
名前を呼ばれ、タオルからカリンの方に視線を移す。
すると、一糸纏わぬ姿のカリンが視界に入った。
大きな双丘、くびれたお腹、なにも守るものがいない大事な場所。
僕の剣が完全な戦闘態勢に入った。
「ヴァンさん、見過ぎです……」
「ご、ごめん。すごく綺麗だから」
「ありがとうございます」
「あー、うん」
ここからどうすればいいんだろ?
経験がないから、分からない。
「ヴァンさん」
「ごめーー」
カリンが唇で、僕のを塞いだ。
すごく柔らかい。
「どうですか? 初めてのキス」
「えっと、すごくよかったです。
こ、今度は僕からしてもいいかな?」
「いいですよ」
彼女の肩に手を乗せ、顔を近づける。
「いくよ」
そう告げて、唇をカリンのものにそっと重ねた。
唇を離すと、彼女の瞳から一筋の涙が流れた。
「こんな優しいキス、初めてですっ」
そう言って、微笑むカリン。
僕は反射的に彼女を抱きしめた。
「カリン、好きだ。
好きだ、好きだ、好きだ」
「はいっ。
私もヴァンさんが大好きですっ」
カリンを体から離し、彼女の瞳を見つめる。
「ずっと一緒にいよう、死ぬまで」
「はいっ」
また抱きしめて、唇を重ねる。
「ヴァンさん」
「なに?」
「私をヴァンさんの妻にしてください。
私の体、好きにしていいですから」
カリンは金柑色の瞳を潤ませ、言った。
僕は耐えきれなくなって、彼女を押し倒した。