シャイニングバスター
四階に上がった俺とユキ。
「な、なんだこれ?」
いくつもの試験管が綺麗に並んで立っている。
試験管は緑色の液体で満たされている。
中に魔物がいるかもしれないと思い、一番近い試験管に近づく。
「女の人?」
試験管の中には、鼻と口を呼吸器で覆われた女性が入っていた。
女性は耳が尖っている。
この里のエルフだよな?
「見過ぎです」
後ろからユキの声がした瞬間、視界が覆われる。
「顔しか見てないって」
「絶対、胸見てました。
リョウタ様が見ないはずがありません。
本当のこと、言わないと、頭撫でてあげません」
「見ました。ごめんなさい」
「やっぱり見たんですね。
この場所から離れるまでこのままです」
お仕置き?
「お仕置きじゃありませんよ。
他のものにもエルフの女性が入ってるからです」
「そっか。でも目隠しされてたら歩けないよ?」
「大丈夫ですよ。私が誘導しますから」
「ここからはないみたいなので、目隠しやめますね」
ある程度、歩いたところで、ユキがそう告げ、俺の目を覆っている手を退けた。
覆うものがなくなった視界に坂が入る。
「この先にリルがいます」
「リルがいるってことはアイツもいるんだよね?」
「はい」
気を引き締めて、坂に足を踏み入れた。
ーー
坂を下りきると、これまでよりも広い空間に出た。
闘技場って感じの空間。
「遅かったな、クソ人族」
前方、少し離れた場所に座るルシルが言った。
その後ろにある鉄でできた鳥かごみたいなものの中で、ティリルが眠っている。
「ティリルに手出してないよな?」
「ああ。後のお楽しみが台無しになるからな」
「お楽しみ?」
「お前を目の前で殺して、
その後にティリルとお前の嫁の二人を
壊れるまで、犯す」
杖をルシルに向け、〈氷砲〉を放とうとした瞬間、氷の槍が数本、彼に向かっていく。
それを見たルシルが禍々しい杖を振るった。
すると、彼の前に濃い紫色をした半球の障壁が出現する。
その障壁に当たり、砕けてしまう氷の槍。
「最低です!
リョウタ様を殺して、
その後にフィアたちを奪って、犯すだなんて。
そんなこと、絶対させません!」
姿を隠していたユキが叫んだ。
「誰だ、お前?」
「俺の精霊だよ」
「精霊って女になるんだな」
そう言うと、ユキを舐めるように見てくるルシル。
「ティリルには少し劣るが、いい体だ。
そういえば、契約精霊は契約者が死んでも、
少しの間なら存在してられるんだったよな。
よし、お前も犯してやるよ」
ユキの腕を引っ張って、後ろに隠れさせる。
「ユキ、姿隠して」
「出てないと、リョウタ様を守れません」
「大丈夫。一人で戦える。
それに、ユキをアイツにあんまり見せたくない」
「わ、分かりました。
でも、危険だと判断したら現れますからね」
頷くと、ユキは姿を消した。
「お前、一人で戦うっていうのか?」
「そうだよ」
「俺の〈風弾〉で吹き飛んだお前が?
はははっ、笑わせる」
「俺に倒されるまで笑ってろ」
「お前に倒される? バカ言うな。
強くなった俺に勝てるわけがないだろ?
お前はこのルシル様に殺されるんだ。
そして、嫁たちが犯されて、堕ちるのを
あの世で指咥えて見るんだよ」
ルシルに向かって、本気の〈氷砲〉を放つ。
彼はまた杖を振るって、障壁を出現させる。
その障壁に、放った氷の砲弾がぶつかる。
ぶつかっても、そのまま回転を続ける氷の砲弾。
「なっ!?」
回転に耐えきれなくなって、障壁が砕けた。
障害物がなくなった氷の砲弾はルシルの頰をかすめた。
「いっ」
ルシルは自分の頰を抑える。
そして、頰に触れた手を見た。
「お、俺の頰から血が……。
よ、よくも俺に傷を、許さない。
殺してやる!」
そう怒りを露わにしたルシルは、杖を向け、濃い紫色の弾丸を放ってくる。
魔力を背中に集めて、翼を広げるイメージをする。
すると、背中からスカイブルーの色をした天使の翼が出現した。
魔力を操作して、翼をはためかせ、空中に飛び上がる。
飛んで、攻撃を躱されたルシルは驚きと怒りがないまぜになった表情をしている。
問答無用で〈氷砲〉を放つ。
俺は頭にきている。
こいつはティリルにずっと酷いことをしていたし、フィアーナたちを犯すと言ったから。
クノハのときも頭にきたけど、あのときはなにもできなかった。
だけど今は違う。
氷魔術は通用するし、とっておきだってある。
「くっ」
ギリギリで障壁を出現させられたルシル。
とっさだったからか、障壁は簡単に砕けた。
氷の砲弾は勢い変わらず、ルシルの肘に直撃。
肘から先の部分が赤い液体を撒き散らしながら、吹き飛んでいった。
「ーーッ」
ルシルが言葉にならない叫びを上げる。
少し心が傷む。
ダメだろ。
こいつはフィアーナたちを犯そうと思ってるんだぞ。
杖の先に魔力を集め、狙いをつけようとルシルを見た。
嘘だろ?
彼の肘から先が元に戻っていた。
さっきのことが嘘だったかのように、普通に動いている。
驚いている俺に紫色の弾丸が飛んでくる。
ギリギリで、回避に成功した。
「驚いただろ。
この杖は力だけじゃない。
凄まじい回復力も俺に与えてくれる。
これでも俺に勝てると思うか?」
「勝てる」
「バカじゃねえの?」
「バカじゃねえよ。とっておきを使えば勝てる」
「この回復力を上回るだけじゃない。
全力の障壁も破らないといけないんだぞ?」
「いける」
そう言うと、不敵に微笑むルシル。
「耐え切って、絶望の表情でいかせてやる」
彼は杖を振るい、障壁を出現させた。
出現した障壁は濃い紫どころか、どす黒い色をしている。
「来いよ」
杖を両手で持ち、先端をルシルに向ける。
目を瞑り、体中の魔力を杖の先にかき集める。
少しすると、瞑って、真っ暗な視界を青く染めた。
目を開けると、杖の先にバスケットボール大の球体がスカイブルーに輝いていた。
後は、光線状に放つだけ。
でも必殺技みたいな魔術だから、名前が欲しいな。
闇みたいな障壁を打ち破る砲撃。
闇の反対は光。
ライトは嫌だから……あっ、シャイン。
シャイニングバスター。
おっ、いい感じだ。
よし、放とう。
回復力を上回るには非殺傷じゃ足らないよな。
殺傷モードでいくか。
「〈シャイニングバスター〉」
魔術の名を発して、魔力の塊を放射した。
その瞬間、フィアーナの顔が脳裏に浮かぶ。
本当に非殺傷じゃなくてよかったの?
このままだとリョウちゃん、人殺しになっちゃうよ?
本当にいいの?
そう言っている気がして、心が揺らぐ。
揺らいでいる内に、スカイブルーの光線が障壁にぶつかる。
光線は障壁を貫き、ルシルに直撃した。
光線が止み、煙が晴れると、浅いクレーターとその上に倒れているルシルが視界に入る。
死んだのか?
ルシルの近くに着地して、彼の首に手を伸ばす。
首に触れようとした瞬間、腕を掴まれる。
嘘だろ?
〈砲撃〉は非殺傷でも当たれば、気を失うはずなのに。
驚いていると、ルシルが顔を上げる。
左右違う色の彼の瞳は両方、濃い紫色になっている。
「コロス」
そう呟き、体を起こして、ルシルが押し倒してくる。
俺のお腹に跨って、杖を掲げ、地面につく部分をこっちに向けた。
向けられた先端は鋭く尖っている。
「シネ」
いやらしい笑みを浮かべ、俺の心臓をめがけて、杖を振り下ろそうとするルシル。
タン!
なにかが破裂したような乾いた音が響いた。
それと同時に、ルシルの服が赤く染まる。
その瞬間、彼は血を口から流し、背中から後ろに倒れ込んだ。
体を起こし、音のした方に視線を向けた。
視線の先には、ティリルが拳銃を構えていた。