ルシルの塔2
塔の三階にやって来た。
「もうヘビは出てこないわよね?」
「多分、出てこないと思いますよ。
もし出てきたとしても、私が守ってあげますから、
安心してください」
頭を撫でて、自分の腕にくっついているリーネちゃんを安心させようとするユキ。
リーネちゃん、ユキにくっつきすぎじゃね?
さっきはおっぱいに顔埋めて、頭撫でてもらって。
くそっ、羨ましい!
「帰ったら、同じことしてあげますから、
嫉妬しないでください」
ユキたん、優しいよ〜。
クロネたんも優しいし、二人とにゃんにゃんしたい。
「三人は恥ずかしいです……」
恥ずかしがるユキ、マジ可愛い。
「リョウタ、敵」
前方に視線を向けると、大蛇が現れたときのように黒い煙が部屋の半分を覆っている。
また先制攻撃されるかもしれないから、対処できるように身構えておく。
「魔物、じゃない……?」
一瞬、人間の白い肌が見えた。
「クロネちゃん、人間の匂いする?」
「煙の匂いが強すぎて、分からない」
「ユキちゃん、分かる?」
「はい、人間みたいです」
人間か。
魔術放つの嫌だな。
そう思っていると、煙が晴れて、白い肌の持ち主が姿を現した。
「えっ?」
「お母さん」
姿を見せたのは、リーンさんだった。
彼女は胸と大事な場所を布で隠しただけの格好で、直径が一、二メートルの大きな花の上に立っている。
「あの人、リルのお母さんなの?」
クロネが聞いてくる。
リーンさんに会ったことないもんね。
「うん」
どうする?
リーンさんを傷つけたくない。
だけど、倒さないと次の階へ行けない。
「ユキ」
「はい」
「リョウタを連れて、次の階に行って。
ルシルを倒せば、リルのお母さんを元に戻せると思うから」
「クロネちゃんはどうするの?」
「リーネを守りながら、待ってる」
「守りながらとか、大丈夫?」
「大丈夫」
そう微笑んで言うクロネ。
「ユキ。私が気を引くから、その間に行って」
「分かりました」
「リーネ」
「魔術で気を引けばいいのよね?」
「そう。
ユキ、リョウタのこと、お願い」
「はい。リョウタ様はなにがあってもお守りします。
クロネも気を付けてください」
クロネは頷き、リーンさんに向かって、駆け出した。
二人の距離が半分くらいになった瞬間、リーンさんの瞳が赤く光った。
彼女の前に二メートルくらいの蔓が四本、地面から生える。
リーンさんが手を前に出すと、クロネに向かっていく蔓たち。
クロネは握っていた刀を抜き放ち、蔓すべてを切り裂いた。
蔓が使いものにならなくなったリーンさんは、両手を前に出し、くっつけた。
ファ○ナルフ○ッシュですか?
「ちゃんとお姉ちゃん、助けなさいよ」
それだけ言って、俺たちから離れるリーネちゃん。
彼女が手を前に出すと、リーンさんの手を泥が包んだ。
包んだ泥は一瞬で固まり、リーンさんの手を使えなくした。
「リョウタ様、背中に乗ってください」
俺の前、下の方からユキの声がして、視線を向けると、半龍化状態の彼女が背中を向けて、しゃがんでいた。
「えっと、乗らなきゃダメ?」
「乗らないとダメです」
背負われるより背負う方が好きなんだけどな。
そう思いながら、ユキの首に腕を回し、彼女の背中に体重をかける。
俺の太ももを掴んで、立ち上がる彼女。
「ひゃあっ」
お尻をなにかが這い、腰に巻きついた。
「驚かせて、申し訳ありません」
「えっ?」
「今のは、私の尻尾です。
安全性を上げようと思って、やりました」
「そっか」
「はい」
「早く行って!」
「は、はい。今、行きます」
そうリーネちゃんに答え、壁に向かって、走り出すユキ。
壁に差し掛かると、地面を蹴り、壁に沿って飛ぶ。
リーネさんの横を通過しようとすると、彼女の顔がこっちに向く。
それと同時に、彼女の顔付近で小さな爆発が起こる。
数秒後、階段にたどり着く。
ユキはその階段の前の地面を蹴り、飛行したまま、次の階層に俺を連れて行く。
ーーSide フィアーナ(数十分前)ーー
エルフの里を出て、森の中を突き進んでいると、開けた場所に出た。
ここならいいかな。
そう思って、着地する。
すると、お姉ちゃんも足を止めた。
「着地したってことはここで戦うんだね?」
お姉ちゃんの質問に頷く。
「それじゃあ、早速……と言いたいところたけど、
少しお話しよっか?」
「いいよ」
「フィアはクロネとか私に嫉妬しないの?」
「しないよ」
「どうして、しないの?」
「リョウちゃん自身、リョウちゃんの大好きなもの、
全部が好きだからだよ」
「リョウタだけじゃなくて、
リョウタが愛してる私たちまで好きだなんて、
良い子だね。
そういうところ、大嫌い」
本当に嫌いなんだと思わざるを得ない声音。
「リョウタの好みの顔で、
リョウタと過ごした時間が誰よりも多くて、
リョウタの初めて全部もらえて、ずるい!」
「ごめん」
謝ることしかできない。
「どれだけ辛かったか、思い知れ!」
そう叫んで、距離を詰めてくるお姉ちゃん。
すぐ近くまでくると、お姉ちゃんがムチを振るう。
私はそれを躱さず、体で受ける。
痛いっ。
だけど、私が傷つけたんだから、受けなきゃいけない。
「嫌い、嫌い、嫌い」
そう言いながら、何度もムチを私に振るう。
耐えながら、心の中で謝る。
「嫌いっ、嫌いっ」
しばらくすると、お姉ちゃんの声が泣いているようなものになって、ムチ攻撃が止んだ。
目を開けて、お姉ちゃんを見ようとした瞬間、抱きしめられた。
「痛いことしてっ、ごめんねっ」
「お姉ちゃん?」
「一日のほとんどを一人で過ごすの、寂しいんだ。
いろんなことして、気を紛らわせてたけど、
最近はすごく寂しくて、泣いちゃうんだ」
「私たちがリョウちゃんと一緒だから、嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。
ただ羨ましいって、ずるいって思ったんだ」
「そっか」
「うん。ほんとごめんね、フィア」
私と顔を合わせて、謝るお姉ちゃん。
「いいよ。
少し痛かったけど、すぐ治っちゃうし、
お姉ちゃんのこと、考えなかった私も悪いから」
「いや、フィアはなにもーー」
「今のはケンカ。
私もお姉ちゃんも悪い」
お姉ちゃんの左手を取り、握る。
「これで終わりだよ」
「ほんと優しいんだから」
お姉ちゃんは優しく微笑んで、私を抱きしめた。