ルシルの塔
塔の中に入ると、円形の広い空間が広がっていた。
なにかが待ち構えているのかと思いきや、人も魔物もいない。
あるのは地面からいくつも生えた植物だけ。
「罠どころか、危険なこともないじゃない」
リーネちゃんが文句を言いながら、階段の方に進む。
階段は入口から真っ直ぐ進んだ位置にあり、壁に沿って天井に向かっている。
ちょうどリーネちゃんがこの空間の中央にたどり着いた瞬間、彼女に襲いかかる魔物たち。
植物だと思っていたものは魔物だった。
「リーネ!」
彼女を助けようと彼女の元へ向かうクロネ。
クロネが彼女の元へ着くより、魔術を放った方が速い。
そう思い、杖を魔物たちに向けて、放つ魔術を考える。
複数だから〈フロストブレス〉がいいけど、巻き込んじゃうし、〈氷砲〉は単体だから時間がかかる。
あっ、そうだ。
〈氷槍〉を地面から複数生やして串刺しにしよう。
決めた魔術のイメージをしようとした瞬間、炎に包まれる魔物たち。
「私に触れるなんて、あんたたち魔物には百年早いのよ。
人間になって出直して来なさい」
焦げた魔物たちに言い放つリーネちゃん。
魔術使えたんだな。
「彼女はエルフですから」
「そうだったね」
「次の階、行くわよ」
そう言って、リーネちゃんは再び階段の方へ歩き出した。
「リーネ、まだ終わってない」
足を止め、振り返るリーネちゃん。
「あんた、なに言ってんの?
今、私が燃やしたの見たでしょ?
あれで全部なの」
そう言った瞬間、植物の魔物が地面から這い出てきた。
「嘘っ!?
魔力反応ゼロだったのに、なんで?」
「魔力反応なかったの?」
隣にいるユキに聞く。
「いえ、わずかですがありました」
なんで、ユキは分かったのに、エルフのリーネちゃんは分かんなかったんだろ?
「エルフは地面の中までは分からないんです。
ハイエルフなら分かりますけど」
ユキが教えてくれたのを合図に俺たち四人を左右から襲いかかってくる魔物たち。
左側の魔物に〈フロストブレス〉を放つ。
白銀の冷気に襲われ、魔物たちは氷の塊と化し、砕けた。
右側にも放とうと、視線を向ける。
すると、魔物たちは左側の魔物たちと同じように氷の破片と化していた。
「私が凍らせておきました、息で」
隣に立つユキが報告してくる。
息でね……って意味分かんねえよ!
雪女かよ!
「皇龍族は龍化した状態とこの状態のときに
得意な属性の息を出せるんです」
「ユキ」
ユキが説明し終えると、クロネが彼女を呼んだ。
「はい。なんでしょう?」
「魔物たちが生えてこないみたいだけど、
もう次の階層に行っていいの?」
「はい、大丈夫です。
あの魔物は寒さに弱かったみたいで、
土の中にいた魔物も死んでしまったみたいですから」
ーー
階段を上りきると、一階と同じ空間が広がっていた。
同じ空間だけど、植物どころか次の階層に続く階段と上がってきた階段しかない。
「今度は怪しいものはないみたいね」
なんの警戒もなく次の階段に向かうリーネちゃん。
ここ、敵の陣地なのに、警戒しなさ過ぎだろ。
カチッ。
少し進んだ彼女の足元からボタンを押したような音がした。
その瞬間、黒い煙が現れ、この部屋の奥半分を覆った。
「い、イヤァーーーッ!」
リーネちゃんが悲鳴をあげ、こっちに逃げてくる。
「怖いよ、お姉ちゃん」
彼女はユキに抱きついて、震え出した。
すっげえ怖かってるんだけど、なにが出たの?
煙の方へ視線を向ける。
紫色の球体が俺に向かって飛んでくるのが視界に入る。
やばい。避けられない。
「危ない!」
クロネの声が聞こえた瞬間、思いっきり体を押され、地面に倒れ込んだ。
「いたた……」
「大丈夫?」
「う、うん。だいじょ……ぶ!?」
咄嗟に瞑った目を開けると、目の前にクロネの顔。
少し動いただけでキスできるよ、これ。
この距離に顔があるってことは、密着してる?
クロネの体温と俺の胸に乗っている大きな柔らかいものが肯定してくる。
この柔らかいものって、おっぱいだよな?
そう思った瞬間、俺の剣が戦闘態勢に入った。
そのことに気づいたクロネは頰を赤らめ、俺の上から退いた。
「そ、その、私が大きくしておいてなんだけど、
今は我慢して。
リル、助けたら、気の済むまで抱いていいから」
「う、うん」
手を差し伸べてくれるクロネ。
その手を掴んで、立ち上がった。
改めて、煙の方へ視線を向ける。
向けた視線の先には、大蛇の範囲を超えた大きなヘビが鎮座していた。
ヘビっていうか、コブラっぽいな。
「私が斬るから、リョウタは援護して」
「分かった」
俺がそう返事すると、クロネは大蛇に向かって、駆け出した。
クロネがある程度近づくと、大蛇の喉が膨らみ、口から紫色の弾丸が吐き出された。
クロネは下から上に愛刀を振り、斬撃を飛ばした。
斬撃は弾丸を二つに切り裂いた。
切り裂かれた弾丸が落ちていくのを無視して、クロネは地面を蹴り、跳んだ。
「リョウタ!」
蹴った地面と大蛇の頭までの距離、ちょうど真ん中くらいの高さに差し掛かった彼女が俺の名前を呼ぶ。
「結界!」
クロネの少し下の位置に結界を張る。
その結界を蹴り、大蛇の頭の上の位置まで飛び上がる彼女。
それと同時にクロネを受け止めるために、彼女の元へ走って、向かう。
大蛇の頭上に達するクロネ。
「光ツバメ!」
大蛇の首のところで、彼女は光の斬撃を放った。
光の斬撃は首に直撃し、その上にある重たい頭を切り落とした。
クロネの落下地点にたどり着いた。
受け止められるように、抱える体勢をとる。
その体勢になった瞬間、俺の腕にクロネが落ちてくる。
身体強化を発動させていたおかげで、無事に受け止めることに成功した。
危ねえ。
あもうちょっとでクロネに怪我させるところだ。
「受け止めてくれてありがとう」
そうお礼を言って微笑むクロネ。
「クロネは宝物だからね」
顔を赤らながらも嬉しそうなクロネたん、マジ可愛い。
「たん呼びは外だから、やめてほしい」
「また声に出てた?」
「うん」