エルフの里の現状と作戦会議
「そこら辺に座ってくれ」
小屋の中に入ると、入れと言った銀髪女性が言った。
「私はハイエルフのルル。
この里では賢者と呼ばれている」
「リルに里の外のことを教えた方ですよね?」
「そうだ。
あの娘は昔からルシルにひどいことをされていた。
それが死ぬまで続くと思うとかわいそうでな。
だから、成人したら里から出て幸せになれるように
知識を与えた」
「お姉ちゃん、昔からあの人にひどいことされてたなんて」
「あんたのお姉ちゃんじゃない!」
呟いたフィアーナに立ち上がって怒るリーネちゃん。
お前、めっちゃシスコンだな。
まあ、リルがお姉ちゃんなんだから、仕方ないか。
「リーネ! 静かにしろ」
「うっ」
リーネちゃんは銀髪女性ーールル様に注意されて、腰を下ろした。
「お姉ちゃんって呼んでごめんね」
フィアーナがリーネちゃんに謝った。
「本題に入る。
ティリルをさらったのはルシルだ。
今朝までは普通の魔力だったのだが、
昼前くらいに邪悪な魔力に変化した。
ちょうどその頃、リーネと薬草採取をしていた私は走って、
里に戻った。
戻ると、里がめちゃくちゃにされていた。
植物の蔓が家を潰していたり、人を締め殺していた。
私はリーネを守るために結界を張り、この小屋に隠れていたという訳だ」
「えっと、お姉ちゃんの幼馴染には会わなかったんですか?」
フィアーナが尋ねる。
「ああ。私が里に戻ってきたときは魔力さえもなかった。
この小屋に隠れて少ししたら、あのたわけの魔力が現れた。
ティリルの魔力と一緒にな」
「そうですか」
「それで今からの話だが、
ティリルを助けに行く者と
ここに残って戦う者の二手に分かれてもらう」
「ルル様、私にお姉ちゃんを助けに行かせて」
リーネちゃんが進言した。
「普通に行けば、蔓に邪魔される。
飛べなくては困る」
「うっ」
「あの、私、龍になれるので運んでいけますよ?」
小屋が狭いから消えていたユキが現れて言う。
「お前は精霊ではないのか?」
「俺の精霊は少し特殊なんです」
「そうか。知的好奇心をくすぐるが、後だ。
それで二人はどうするんだ?
どちらかが残ってくれると助かるのだが」
「じゃあ、私が残ります」
フィアーナが即答した。
「どうして?」
クロネがフィアーナに聞く。
「私は怪我しても治るから。
それに倒した後、飛んで合流できるからだよ」
納得した顔をするクロネ。
「フィアーナで決定だな。
では確認する。
残るのはフィアーナと私。
残りの四人がティリルを助けに行く。
異議はないな?」
全員頷いた瞬間、後方からなにかが思い切り倒れた音がした。
振り向くと、小屋の扉が倒れていた。
「時間切れだよー」
扉のない入り口から入ってきた女性がそう告げてきた。
ボンテージに身を包み、右手にムチを携えていて、鼻から上を白い仮面で覆っている。
その仮面から覗く瞳と髪がティリルと同じ色をしている。
「リョウタ、伏せててね」
言う通りに体を伏せる。
敵の言うこと聞いちゃった〜。
リルと同じ声だから、なんの疑いもなく伏せてしまった。
ヒュンッ。
伏せていると、頭の上をなにかが横切った。
「避けられちゃった。
まあ、いっか。私の仕事はフィアの足止めだしね」
口調とフィアーナの呼び方までティリルと同じだ。
「私の名前を知ってるってことは、
貴女も世界神の仲間なの?」
それだったら、二代目真祖だとか、フィアーナって呼ぶと思うけど。
「そう思ってくれると助かるかな」
「助かるってどういうこと? 違うの?」
クロネが尋ねる。
「さあね。
ていうか、私、話するために来たんじゃなくて、
フィアと戦いに来たんだけどなー」
「私の足止めじゃないの?」
「頼まれたのは足止めだよ。
でも力が手に入ったのに、
足止めだけじゃもったいないでしょー?
だから、私のしたいことに使おうと思ってね」
「そのしたいことが私と戦うこと?」
「そうだよ。
ほんとはクロネとも戦いたいんだけど、
二人相手だと、瞬殺されちゃうからね」
「どうして私まで?」
「教えたげなーー」
「二人に嫉妬してるから?」
そう俺が遮って聞くと、おもしろくなさそうな顔をする女性。
「そっか。嫌な思いさせて、ごめん、リル」
「えっ? この人、お姉ちゃんなの?」
フィアーナが聞いてくる。
「バレちゃった」
仮面を外す女性。
仮面の下からティリルの顔が現れた。
「勘違いじゃなかったみたいですね」
ユキが呟いた。
「どういうこと?」
「リルの魔力が二つ、あったんです。
一つはいつものリルの魔力、もう一つは邪悪なリルの魔力。
似ているだけだと思ってたんですが、今分かりました。
リルはなにかされて、善と悪の二つに分けられたんだと思います」
「どうすれば、元に戻せるの?」
クロネがユキに聞く。
「ルシルを倒せば、元に戻せると思います」
「だから、作戦タイムは終わりだってばッ!」
女性ーーティリルがクロネに向かって、ナイフを投げてくる。
その瞬間、フィアーナが赤いオーラを纏い、ナイフをキャッチした。
「クロネちゃん、ユキちゃん。
二人ともリョウちゃん、お願いね」
低いトーンで二人に俺を頼むフィアーナ。
そして、右手を壁に向け、その手から火球を放つ。
火球は壁にぶつかる瞬間、爆発し、壁に大人一人入れるくらいの穴を開けた。
「お姉ちゃん、外出て」
「ここだったら、里めちゃくちゃになっちゃうもんね。
いいよ」
フィアーナとティリルはフィアーナが開けた穴から外へ出て、すごい速さでこの場から去っていった。