エルフの里、再び
「今日の晩ご飯、なんだろうね?」
「リルの料理はなんでも美味しい」
「そうだよね」
フィアーナとクロネの会話を聞きながら、俺たちはティリルが待つ家に向かって歩いている。
「あっ、なんか落ちてる。
あれってお姉ちゃんが買い物するときに使ってるバック?」
「どこ?」
「あれ」
聞くと、前方を指差すフィアーナ。
指し示す先には、見覚えのあるバックが落ちている。
「ちょっと待ってて」
二人にそう告げ、バックに近寄ろうとしてユキが現れる。
「リョウタ様」
「どうしたの?」
「ここから先は邪悪な魔力の残滓が漂っているので、気をつけてくださいね」
「うん、分かった」
「やっぱりリルのバックだ」
拾おうとした瞬間、拾い上げられるバック。
視線を上の方に向けると、クロネが匂いを嗅いでいた。
「少しだけリルの匂いがする」
「リルのなのに、少し?」
「うん。
後、ほんの少しリルのじゃない匂いがしてる」
「どんな匂い?」
「あの人の匂いに似てる」
「あの人?」
そう聞いた瞬間、クロネの手が少しだけ震えた。
「クーー」
抱きしめて、止める。
「言わなくていい、分かったから」
「うん」
「お姉ちゃん、連れ去られたのかな?」
近くに来たフィアーナが呟く。
ありえそうだな。
二度あることは三度あるって言うし。
「じゃあ、誰がリルを連れ去ったの?」
「そんなのあいつに決まってる」
「あいつ? あっ、お姉ちゃんの幼馴染だね」
ルシルを幼馴染って言うのやめて。
幼馴染って言葉が汚れる。
ーー
俺たちは〈ゲート〉でエルフの里の近くにやって来た。
「リョウタ様」
「ん?」
「結界が解かれています」
結界?
あぁ、あったな、そういうの。
いつもリルと一緒だから、忘れてたわ……って、えっ!?
「結界、解かれてんの!?」
「はい。完全に、です。
後、魔力反応が五つしかありません。
割と近い場所に二つ。
少し遠くに反応が三つ。
あれっ?」
「ユキ、どうしたの?」
「い、いえ。
勘違いしただけですから、気にしないでください」
「そう」
「話を戻しますね。
遠い場所の三つは、邪悪なもの二つとリルのものです」
「じゃあ、まずはその二つの反応がある場所、行ってみよ?」
「うん」
ーー
少し歩くと、小屋にたどり着いた。
「ここ?」
「はい。この中に反応があります」
「結界が張られてるんだけど」
「この結界は邪悪なものの侵入を防ぐためのものなので、
大丈夫ですよ」
「リョウちゃん、誰か出てきたよ?」
小屋から見覚えのある茶髪翠眼の美少女が出てきた。
「感じたことのある魔力のやつが近づいてきたと思ったら、
あんただったのね」
「久しぶり、リーネちゃーー」
言いきる前に義妹エルフの拳が頰に直撃した。
バランスを崩した瞬間、胸倉を掴まれる。
「あんた、お姉ちゃんの旦那でしょ!
奥さんを守るのが仕事なのに
どうしてお姉ちゃん守らないのよ!」
「ごめん」
「同い年の二人と精霊が大事で、
お姉ちゃんはどうでもーー」
「どうでもいい訳ないよ!」
「どうでもいい訳ない!」
「どうでもいい訳ないです!」
フィアーナ、クロネ、ユキの三人が否定した。
「リョウちゃんは私たちみんな、大事に思ってるよ!」
「じゃあ、どうして!
どうしてお姉ちゃんを守らなかったの!」
「仕事している間だったから守れなかったの。
ごめん」
二人の話を聞いて、胸倉から手を離すリーネちゃん。
「その場にいたら、守った?」
「うん」
「そっか。
いきなり殴っちゃって、ごめん」
リーネちゃんが謝ってくる。
「いや、いいよ。
一人にしておく俺が悪いーー」
「リョウタ様!
邪悪な魔力反応がこちらに向かってきてます!」
ユキが告げると、臨戦態勢をとるフィアーナとクロネ。
「リーネ! その四人と小屋の中に入れ!」
小屋から銀髪の女性が顔を出して叫んだ。
俺たちはそれに従い、小屋の中に入った。