会いたくない人との再会
「クソッ、あのババア」
牢の中にいる瞳の色が左右異なる銀髪の青年が言った。
ここはエルフの里の奥にある地下牢。
「この俺を牢に入れやがって。
ただ耳が長くて、五百年生きてるだけのくせに」
青年は地面を殴った。
「この牢に入れられたのは、ティリルの所為だ。
大人しく俺に抱かれればいいものを。
あいつが里を出て、あの人族に出会ったからだ。
あいつにあんな強い女がいるからだ。
俺に力があれば、あいつら全員に復讐できるのによっ!」
「力がほしいですか?」
彼しかいないはずの地下牢に美しい女性の声がそう問いかける。
「誰だ。どこにいやがる?
姿を見せろ!」
彼がそう言うと、美しい銀髪の女性が現れた。
「お前。どこから入ってきた?」
「転移魔術ですよ」
「俺になんの用だ?」
「力を与えに来ました。
黒い瞳の人族の青年に復讐したいのでしょう?」
「復讐するための力をくれるのか?」
優しく微笑む女性。
「ええ。ですが条件があります。
あの青年の妻である二代目真祖を戦えなくしてください」
「二代目真祖? なんだそれ?」
「白い髪に赤い瞳の女です。
ご存知でしょう?」
「あいつか。
ぐちゃぐちゃに犯してやりたいと思っていたんだ。
堕ちるまで犯せばいいのか?」
「はい。それで充分です。
それではこれを」
女性は青年に杖を渡した。
杖の先には瞳を閉じた目玉がついている。
「なんだ、この杖?」
「杖に魔力を流してください。
そうすれば、力が手に入ります」
青年は杖に魔力を流す。
すると、目玉の瞳が開き、黒いオーラが彼の体を包み込んだ。
目元に手を置き、笑い出す青年。
「はははっ、力が、力が溢れてくる。
この力があれば、あの人族を殺して、
あの女二人とティリルを思う存分犯せる!」
「期待していますよ」
女性はそう言い残して消えた。
そんなことを気にも止めず、青年は牢の格子に右手を向ける。
「消えろ」
右手から黒い球体が放たれる。
直撃した球体は爆発し、格子を破壊した。
「さぁ、始めようか。復讐を」
ーーSide ティリルーー
「ありゃ、なんもない」
今日の夕食を考えようと冷蔵庫を開けるとなにも入っていない。
五人になってから半年は経つっていうのに、計算違いしちゃったらしい。
「はぁ、リョウタに一人で出かけちゃダメだって言われてるのに。
でも、行かなきゃ。
みんなお腹空かせて帰ってくるんだから」
私は出かける支度をするため、自分たちの部屋に向かう。
「露出はほとんどないし、髪も大丈夫」
鏡でチェックする。
リョウタは他の人に私たちが見られることが嫌だから、ノースリーブとか露出する服が嫌いだかんね。
「この娘、俺の嫁なんだぜ。
いいだろって自慢してもいいのにねー?」
鏡に映る自分に同意を求める。
日中は休み以外、一人だからこうなっちゃった。
「よしっ、行こ」
私は玄関に向かった。
ーー
無事買い物を済ませ、帰路についた。
「リョウタが心配性なだけだ……臭っ」
家の近くに来た瞬間、私の鼻をすごく嫌な匂いが刺激する。
「すっごく臭いんだけど」
「臭い、臭い。
失礼なやつだな、ティリル」
上の方に視線を向けると、里の地下牢に入っているはずのルシルが黒い翼で浮いていた。
「どうしてこんなところにいるの?」
「お前に会いに来たんだよ」
「また私は君のだって言いに来たの?
もう諦めなよ。
あのとき以上に私はリョウタが好きなんだから」
「お前はホント好きだな、あの人族」
「大好きだよ。
君とは違って、優しいかんね」
「優しい方がいいのか?」
怒るかと思ったのにな。
「う、うん」
「そうか」
心入れ替える気になったのかな?
「じゃあ、優しいだけの男じゃ足りなくしてやるよっ!」
次の瞬間、周囲の地面から煙が噴出した。
「なにこれ!?」
「催眠魔術だよ。
この煙を吸えば、たちまち眠気が襲ってくる」
すぐに袖で口を抑える。
だけど、ちょっと吸ったみたいで、眠気が襲ってくる。
眠気がすごく強くて、地面に腰を下ろしてしまう。
耐えきれず、勝手に体が横になる。
ダメだ、寝ちゃう。
そう思いながら、まぶたが落ちる。
「復讐の始まりだ」
ルシルが笑う。
リョウタ、気をつけてね。
そう思いつつ、私は意識を手放した。