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8話 座学

 ……目が覚める。


 辺りを見回すと、黒一色の冷たい場所。


 目を(つぶ)っていて暗闇に慣れた視界が、わずかな光で浮かぶ室内の様子をぼんやりと映し出す。


 何とかそれだけを確認して、一度小さく(かぶり)を振る。


 気分は最悪だ。


 すこぶる最悪だ。


 昨日……昨日か? あれからどれくらい経った? とにかく、昨日だとして。


【普通】を安易に切った俺は、同居人の存在なんて頭から吹っ飛んで叫んだ。


 今までの冷静すぎる俺が嘘みたいに、意味不明な状況に対する緊張と、理不尽にこの世界に呼び出された怒りと、冷静だったせいで思いついてしまった俺の死が近すぎるという現実を前にした恐怖が、一気に爆発した結果だ。


 正直、今でも怖い。


 頭ん中はほとんどこの国への恨み言か、俺の犠牲を知らずにぬくぬくと異世界生活を満喫している日本人たちへの怒り、リアルすぎる自分の死に様を何度も妄想(リフレイン)させていて、ネガティブ街道一直線だ。


 それでも、長時間の失神(あれを睡眠とは言わない、断じて)で、ほんの少しだけ、物事を考えるだけの余裕ができた。


 ……っつうか、まだ冷静な部分が残ったままで、『考える余裕を作らされた』、って感覚なんだがな。


 俺は暴走したままの思考そのままに、一割以下の正気でもって、自分を見下ろす。


 すると、正気だった脳の領域に、またステータスの表記が浮かび上がった。


====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:空腹・ストレス過多・混乱


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

『冷徹LV1』『高速思考LV1』『並列思考LV1』『解析LV1』『詐術LV1』『不屈LV1』『未来予知LV1』『激昂LV2』『恐慌LV5』

====================


 意識がぶっ飛ぶ前の俺じゃステータス確認(こんなこと)なんて出来なかった。


 が、正気に戻って泣き言を吐きまくっていた間に、色々とスキルを取得した、という謎のアナウンスを聞いたことは覚えていた。


 その中に、それっぽいものが入っていたから試したところ、見事成功したってわけだ。


 で、前日と比較すると、内容が大きく変化している。


【普通】のスキルはちゃんと切ってる状態になっているみたいだし、数値の横にあった【固定】の状態異常も消えた。


 やっぱ、あの鬼縛りは【普通】のせいだったのかよ畜生が。


 にしても、これらのスキルがどういう性質のもんで、どういう利益を俺に与えてくれるのか、今のところ全くわからねぇ。


 わかっているのはスキルの名前と、ステータスを把握できるだろうスキルが『解析』っつうもんだろうこと。


 あとは【普通】が『常時発動型』のスキルだった、っつうことくらいか。


 ってか、どう考えても【普通】ってバステ(略さず言うとバッドステータス)の(たぐい)だろ、絶対。


 状況は絶望的でも、まだポジティブ寄りの考えだった昨日の俺は有用性を探ろうとしていたが、十中八九、俺にとって害にしかならねぇぞ。


 その証拠に、俺が【普通】の効果を切った瞬間、これだけのスキルが取得できたんだ。


 取得したスキルには、元々俺に適正があったのかどうかまでは知らねぇ。


 が、俺が牢屋で発狂するまでの行動を思い返してみれば、納得できるラインナップではある。


『高速思考』と『並列思考』と『解析』は、俺が召喚魔法で転移させられた部屋で目を覚ましてから、周囲を観察したり状況を類推(るいすい)しまくったことで得られたもんだろう。


 頭が妙にすっきりしていたためか、考えることを止めずに一度に色んなことを思考したことが、頭に響いたときに聞こえた『条件』とやらに合致した、ってとこだな。


『詐術』は、クソ王相手の交渉での出来事か?


 (だま)すつもりはなかったが、結果的に(だま)してあいつらが用意した『契約魔法(仮)』の利益を奪い取ったようなもんだから、間違っちゃいねぇか。


『不屈』は、おそらく俺の貧弱なステータスが原因だな。


 だいたいゲームじゃ、どんだけのダメージを食らってもHPが『1』だけ残る、って感じの効果だったよな?


 つまり、根性すげぇって意味だ。かなりの瀕死(ひんし)状態で動き回ったことが、取得条件だったんだろうぜ。


『未来予知』は、こうだったら最悪だな~、って俺の予想が(ことごと)く当たっちまったことが原因だろうな。


 すると何か? 俺の考えた最悪の予想は、八割九割が大当たりだった、ってことか? クソ王のクソみたいな考えで得られたスキルだと思うと、微妙に嬉しくねぇ……。


 で、『冷徹』、『激昂』、『恐慌』は俺の精神状態から言ってんだろうな。


『冷徹』は「冷静」っつうスキルの上位互換みてぇだが、【普通】があって異常事態でも落ち着いていられただけであって、得られたのは単なる偶然。


 残る「怒り」からの『激昂』、「恐怖」からの『恐慌』は、発狂した時に一気に得られたんだろう。


 なんか『激昂』と『恐慌』だけレベルが上がってんのが、俺のテンパり具合を示しているようで恥ずかしい。状態もまだストレス過多と混乱が残ったままだし。


 ある意味、どれもこれも黒歴史じゃねぇか、クソが。


 これらの予想を総合すると、【普通】のスキル効果は大まかに『変化を無くす』ってことだと思われる。


【普通】状態じゃレベルやステータス値の変動を【固定】し、条件を満たしたスキルでも解除するまで取得できねぇ。


 代わりに【普通】があったからこそ、俺の精神状態も学校にいた時のまま、異世界一日目を過ごせたともいえる、か。


 メリットと言えばそれだけで、基本的には悪手にしかならねぇ毒。


 それが、今の俺にとっての【普通】っつうスキルだな。


「……ちっ!」


 他の日本人と比べて、待遇がクソすぎて舌打ちが漏れる。


 多分自動で発動している『並列思考』で展開された、正気を保っていない残りの思考領域にある中身じゃねぇが、他の学校の奴らに対して嫉妬と怒りが湧く。


 なんで俺だけこんな目に()わなきゃいけねぇ?


 なんで俺だけ周りと同じことをさせてくれねぇ?


 なんで俺だけ、独りにならなきゃいけねぇ?


 状態のストレス過多か混乱が利いてんのか、いつもなら考えねぇ弱音が頭をよぎる。


 だから、俺は頭を振って弱音をかき消す。


 自分が(しいた)げられてるってことに、疑問を持っちゃいけねぇ。


 疑問に持つってことは、『嫌われていない自分』を期待するってことと同じだ。


 そんなもん、初めから存在しなかった。


 俺が期待できることなんて、この世の中に一つたりとてありはしない。


 だから、腹が立つ。


 俺のどこが【普通】なんだ。


 俺のなにが【普通】だって言える?


 俺じゃない『普通』の奴は、毎日バカみたいに笑って生活してやがるじゃねぇか。


 なのに、俺は…………


 ――コンコン。


「っ、あぁ?」


 また暗い思考に(おちい)りそうになった俺だったが、独房の出入り口からノックが聞こえ、意識をそちらへ移す。


 っつうか、ノックの二回ってトイレに人がいるかどうかの確認だろ?


 俺は便所で寝泊まりしてるっつう嫌みか、あぁ? ……実際ほぼその通りの環境なのが余計腹立つな、クソ。


「朝食の準備が整いました。ついてきてください」


 聞こえたのは、女の機械的な声……メイドか。


「っ……わぁーったよ」


 晩飯抜きになったことなんてなかったような命令にムカっときたが、俺は立ち上がる。


 と、扉の外にいるメイドに相対する前に、念のため【普通】を発動させておく。これで一応、昨日と同じように振る舞えるはずだ。


 確認のため、『解析』を意識したままもう一度自分を見下ろす。


====================

名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

『冷徹LV1』『高速思考LV1』『並列思考LV1』『解析LV1』『詐術LV1』『不屈LV1』『未来予知LV1』『激昂LV2』『恐慌LV5』

====================


 ……ん?


 状態の項目に現れた【普通】が、昨日と違う?


 種族の横にあるのと同じ、(へんなきごう)が増えてるな?


 あと、保有スキルにも【固定】の状態異常があんのは、どういうことだ?


 これも、昨日まではなかったはずだ。


「時間がありません。早くしてください」


「うっせぇな、急かすなよ」


 ――ちっ、ゆっくり検証をするのはまた後だな。


 っつうか、メイドだったらタイムスケジュールを考えて時間に余裕を持たせて行動しろよ。


 ま、どうせ俺への嫌がらせだろうけどな。時間ギリギリに呼びにくるとか、地味に陰湿だな。


「で? 飯は?」


「ご案内します」


 わざと遅れてわざと急かす女に苛立ちながら、俺は扉を出て睨みつける。しかし、この女も大した度胸で、表情一つ変えないまま俺を先導し始めた。


 半日以上空腹状態で過ごしたんだ。腹一杯になるまで食ってやる。


 ……そう思ってた時期もあった。


「……舐めてんのか?」


「お食事ですが、何か?」


 俺が連れてこられた場所は、王城の調理場だ。


食堂(ダイニング)』の言い間違いじゃなく、正真正銘の『調理場(キッチン)』、な。


 んで、付き添いだった女から渡されたのは、明らかに調理の過程で残りました、っつう感じの食材の残りカスだ。


 しかも、ご丁寧に変な臭いのする袋、おそらくゴミ袋に入れて来やがった。


 ――誰が家畜の(えさ)もってこいっつったよ!?


 こいつら、腹いせで俺にまともな飯さえ食わせねぇ気か!?


「それがこの国で人が食う飯だとでも言うつもりか? だったらてめぇらをマジで尊敬するわ。俺んとこの国じゃ、家畜の餌にしかなんねぇレベルのもんだぞ、それ?」


「これは平民より下の身分、奴隷が主に渡される食事です。我々がこのような粗末な物を摂取するわけがないではないですか」


「……俺が、いつ、てめぇらの奴隷になったって?」


「貴方が(おっしゃ)った契約には、契約期間内の生存の権利に関する内容がありました。この食事で、奴隷たちは一年以上は生きています。ならば、貴方もそれで十分でしょう?」


「他の奴らは?」


「無論、こちらができる最高のもてなしを」


 生意気に反抗して、イガルト王国の益になりそうもねぇ奴には、飯代さえ惜しい、ってことか?


 で、今のところ、それに該当するのは俺だけ。


 だから、俺だけ最低限契約を履行(りこう)できるギリギリの範囲まで内容の質を落とし、ペナルティを回避しつつ嫌がらせをするつもりか。


 ――はっ!


 腐ってやがるな。


 この国も、国王の命令に疑問も挟まず従う臣下も。


「ちっ!」


 俺は女の手からくっせぇ袋をひったくる。


 いくらでも対応に対する文句も『契約魔法(仮)』を使った脅しもできたが、これはある意味でよかったと思える節もある。


 クソ王との契約は一方的な関係だが、契約期間である『一年』が終わればそれまでの内容はこの国への『借り』になる。


 それは待遇がいいほど大きな『借り』となり、返済を迫られれば厄介だ。一年分の報酬に見合った成果か金額を、この国に渡さなければならない。


 踏み倒せるならそれに越したことはねぇだろうが、あのクソ王だから国の絶対君主という立場を利用して、トイチ(十日で一割)以上のアホみたいな利子を上乗せして要求するくらいは平気でしかねない。


 っつうかあのクソは確実にやる。


 だったら、元々の『借り』を少なく抑えてやれば、その分返す成果も金額も少なくて済む。


 乱暴な例えだが、『百万円』の利子と『百円』の利子ならどっちが楽か? って話だな。


 ――上等だ。


 あくまで『リスク管理』として、この不当な扱いを甘んじて受けてやるよ。この国に借りを作ることと比べれば、牢屋で夜を明かし、残飯を食わされるくらい、安いもんだ。


 考えようによっちゃ、この中で生活する限り()えで死にはしねぇんだ。


 なら、今はまだ、それ以上を望む必要はねぇ。


 生き残ること、それだけを考えて、この一年を耐えきってやる。


 俺は鼻をつまみながら袋の中身を取り出し、口に放り込んだ。


 それでも感じた味は、はっきりと生ゴミだったとだけ、言っておこう。


 よく飲み込めたな、俺。


 目の前の女は、はっきりと顔をしかめてやがったのによ。




「ほら、この世界の常識」


 文字通りクソみたいな飯を終えた後、次に女に俺が案内されたのは書庫みたいなところだ。


 見た目も中身も、ファンタジーな架空の物語によく登場する図書館そのもの。


 で、目の前の明らかにやる気のねぇダボダボの白衣っぽい何かを着た男から渡されたのは、辞書並に分厚い本の数々。


 いや、渡された、ってのは語弊(ごへい)がある。


 書庫の入り口で俺の目の前に現れたかと思ったら、早々にそれらの本を俺の足下に投げ捨てやがったんだからな。


「…………で? 本だけ渡されてどうしろと?」


「読め。それで大体わかる」


「文字の指導は?」


「自分で覚えろ」


 無茶苦茶だな、こいつ。


 っつうか、今さらながらこいつらと会話できていること自体が不思議だ。


 じっと口元を確認すれば、明らかに日本語の口の動きじゃねぇのに、聞こえてくるのははっきりとした日本語。


 ……創作の召喚魔法によくある『言語翻訳』が働いてる、ってことか。


「これだけ答えろ。言葉が通じるのは召喚魔法が原因か?」


「さて? 召喚魔法は専門外だから知らないな」


「……はぁ。やっぱ下っ端は使えねぇ」


 小さくもあえて男に聞かせるような音量で呟くと、明らかにむっとする男。


 苛立つ、ってのは自覚がある証拠だぞ?


「誰が下っ端だと! 私は――!」


「あ~、そんな自分肩書き持ってますみたいなアピールいらねぇから。

 下っ端は下っ端。頼る時間も会話する時間も無駄。使えない奴は使えない。

 それが事実だ……ほら、下っ端の役立たずは帰った帰った」


 しっしっ! っと犬を追い払う動作で男を眼中から外し、床の本を拾い上げる。


 ――でけぇ上に分厚(ぶあつ)っ!?


 辞書サイズの厚さのハードカバーって感じか?


 よく『常識』っつうジャンルで本を書こうと思ったな、この本の著者ども。それだけは尊敬できるわ。


 それより、マジでこれ全部読まなきゃなんねぇのかよ?


 情報の取捨選択とかめんどくせぇなぁ、おい。


 常識だったら口頭で説明しろよ、横着しやがって。


「――貴様ぁ!!」


 屈んで本を拾っていると、いきなり胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。


 手に持ってた数冊がまた床に散らばる。


 おいおい、扱い雑だな? この世界じゃ本や紙はそこまで高価なもんじゃねぇってことか?


「何すんだよ、下っ端? 今は時間が惜しいんだ。頭偉いですよ~、なんて自己完結で悦に浸ってる自己中野郎に構ってる暇ねぇんだよ。

 てめぇみたいな雑用と違って、覚えなきゃなんねぇことが山のようにあんだからよ。

 それとも何か? 俺の邪魔をすることがてめぇに割り振られた仕事なのか?

 はっ! そりゃ傑作(けっさく)だ! 自分で言うのもなんだが、とんでもねぇ閑職(しごと)があったもんだなぁ、おい!? 俺だったら屈辱で辞表出すレベルだぜ!?

 それとも何か!? この国のエリート様はてめぇらの役に立たねぇカス能力者に嫌がらせするためだけに生きてるっつうことかぁ!?

 そりゃあ忙しいわなぁ!? 悪かったよバカにして! 下々の者をいじってバカにして自己満足に浸るだけで一日潰すのがこの国のエリート様なんだよなぁ!?

 俺にはとてもできねぇ、てめぇらにはよぉくお似合いの仕事だよ!!」


「っ!! キサマァ!!」


 とりあえずぱっと思ったことを全部ぶつけてみたら、モブ白衣が早くもブチ切れた。


 俺を片手で持ち上げたまま右手を振りかぶり、俺をブン殴ろうと固く拳を握りしめる。


 目は血走り、ちっせぇプライドを傷つけられた怒りのせいで、周りが何も見えてねぇな。


「クズみたいなステータスの分際で!! 貴族である私を愚弄するな!!」


 ありゃ、貴族だったのか、コレ?


 だったら正直幻滅だわ。


 こいつ()、頭が悪すぎる。


「くら――っ、がぁ!?!?」


「ひっ!? ――あっ、あああああ!?!?」


 自称貴族のモブ白衣が俺の頬に拳を振るおうとした瞬間、昨日も見た黒い(もや)が白衣から溢れ、途端に苦しみ出した。


 ついでに後ろを振り返ると、先導役だった女にも同様の現象が生じ、膝から崩れ落ちている。


 俺を持ち上げてた腕も力がなくなり、モブ白衣はその場に倒れ込んだ。


 ま、昨日の男子(バカ)と違い、首も締まらねぇお上品な胸ぐら掴みだったし、貴族っつうのは本当かもしんねぇな?


「うぐおぉぉ!? な、なぜ……!?」


「どう、してぇ……、わたし、までぇ……!?」


「アホか。答えは全部、てめぇらが口に出してただろうが?」


 疑問と苦痛に顔を歪めるアホ二人を放置し、俺はもう一度本を拾い直す。


 床に落ちたもんを拾ったし、とりあえず表紙の(ほこり)を落とすようにパンパンと払っておく。


 先人の知識は時に命よりも重いんだぞ? そこらへんも理解しとけよ、マヌケども。


「なに、を……っ!?」


「気づいたか? 遅すぎんだよ。

 俺はてめぇらにクズと言われるくらいの低ステータスだぞ? てめぇらに一発殴られただけで致命傷になんのは目に見えてんだろうが?

 この国の保護期間中において、俺らの生命は契約した『国王』が保証している。それを『破った』てめぇらに(ペナルティ)が下るのは当然だろ?」


 俺が懇切丁寧に説明してやると、一時苦痛も忘れたアホ面さらして呆然とするモブ白衣。


 っつうか、今の今まで気づかなかったのかよ、この自称貴族?


 それでよく貴族で文官やってます、なんて言えたもんだなぁ?


「そ、れなら、なぜ、わたしまで……!?」


「契約対象は『異世界人』と『国王』だけじゃなく、てめぇら『国王の臣下』も含まれてんだろ?

 なのにてめぇは、『国王の臣下』でありながら『俺を殺そうとした国王の臣下』を『止めなかった』。

 同罪だと判定されても、文句は言えねぇんじゃね?」


「っ!?」


 この女もようやくそのことに気づいたのか、息を呑んで目を丸くする。


 あーあー、バカばっかりか、この国の奴らは?


 脳味噌がスポンジな奴らの相手は疲れるわー。


「じゃ、俺は必要なもんももらったし、そこらで勉強しとくわ。あ、この本全部持ってくぞ? 下っ端が床に放るくらいだ、価値はそんなに高くねぇんだろ?」


「ま、まて……!」


「あ、ちなみに、その『(ペナルティ)』がどんだけ続くもんなのか、そもそも俺に解除できるもんなのか知らねぇから。ガンバッテー」


「ひっ……!」


 低ステータスのせいかめちゃくちゃ重く感じる本を何とか全部確保し、俺は心のこもらない応援を残してその場を立ち去る。


 モブ白衣はそれから『契約魔法(仮)』の苦痛でギャーギャー(わめ)き散らし、女は涙・鼻水・小便の三連コンボでのたうち回ってた。


 ……何度見ても、自分で味わいたいとは思えねぇな。


 あれが俺らの『首輪』だったかと思うと、ぞっとする。


『詐術』が得られるくらい有利に国王との交渉をしておいてよかった、マジで。


 その後、俺は他のメイドが時間を知らせにくるまで、ずっと書庫の机で本を開いて流し読みしてた。


 うるせぇ奴らは意識の外に放り出し、ひたすら本を読んでたらいつの間にか時間が過ぎてたんだよなぁ。


 確実に俺よりステータスの高いだろうメイドに本の運搬を命じ、書庫を出る前に女とモブ白衣の様子を見てみると、二人仲良く気絶していた。


 黒い(もや)はない。どうやら一度意識を失うと一旦効果が切れるようだな。


 懲罰効果がどういう基準で威力が増減し、どれだけ持続するのかは要検証か。


 もしかしたら、契約を破った時の行動如何(いかん)で、気絶から目を覚ませばまた黒い(もや)が復活する、とか底意地の悪い効果があるかもしんねぇ。


 今後、違う相手や条件で『契約魔法(仮)』を行使されそうになったときの参考にしなきゃな。


 あとは、俺が使えるかどうかは別として、魔法についてはもっと知っておいた方がよさそうだ。


 どういう秩序で稼働し、どういう制約で運用するのか。それが大まかにでもわかれば、魔法全体に対する対策に繋がるかもしれねぇ。


 情報は常に武器になる。


 直接的な武力を持たねぇ俺にとっちゃ、文字通り生命線だ。


 得られる情報は全部、このポンコツな脳味噌に叩き込んでやる。


 そうでもしねぇと、俺は生き残れねぇだろうからな。




====================

名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

『冷徹LV1』『高速思考LV1』『並列思考LV1』『解析LV1』『詐術LV1』『不屈LV1』『未来予知LV1』『激昂LV2』『恐慌LV5』

====================


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