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68.2話 絶望を知った日


 性懲(しょうこ)りもなく、他者視点です。


 今回は看板娘ちゃん視点が連続します。


「いいかい、シエナ。私たちの仕事は、お客さんに喜んでもらって、たくさんの感謝をもらえる素晴らしい仕事なんだ」


「おじいちゃんの言う通りよ。そして、私たちはお客様の感謝の気持ちで、日々を生きることが出来ている。それを忘れちゃダメだからね?」


 私が幼かった頃、大好きだったおじいちゃんとおばあちゃんが、よく言い聞かせてくれた言葉だった。


 おいしい食事とお酒を振る舞い、疲れた体に快適な夜を提供する、食事処であり宿屋でもある実家。


 私は、そんな『トスエル』が大好きだった。


 お客さんが口に入れる食べ物の一切を取り仕切るおじいちゃんと、弟子としてよく怒鳴られながら修行に励むお父さん。


 お店の経営を一手に引き受けてやりくり上手だったおばあちゃんと、どんなお客さんともすぐに仲良くなっていたお母さん。


 たくさんの人が集まるイガルト王国の王都は、うちの他にもライバルの宿屋がたくさんあった。


 でも、うちはお客さんからの人気が高くて、いつもお客さんがたくさんきてくれて、にぎやかな笑顔がいっぱいだった。


 そんな『トスエル』が、大好きだったんだ。


「逃げろー!」


「化け物だぁ!!」


 でも、あの日。


 輝いていた日常が、一瞬にして絶望に染まった、あの日。


 私は、私たちは、たくさんのものを失った。


「やだ! お店が! お店がっ!!」


「シエナ! 危ない!」


「あなた! シエナちゃんを押さえて!」


 何が起こったのかわからないまま、私の目の前で、大好きだった『トスエル』は炎に包まれていた。


 隣りも、その隣も、ずっと遠くの建物も、勢いよく燃えさかっている。


 王都中が、炎と、悲鳴と、破壊で、満ちていた。


「走れ! 私たちに構うな!!」


「ティタネスさん! ミルダ! シエナちゃん! 生きて!!」


「おじいちゃん! おばあちゃん!」


 お父さんに担がれたまま、私は見た。


 突然襲ってきた爆風に巻き込まれて、倒れてしまったおじいちゃんとおばあちゃんを。


 足を怪我して、動けなくなって、後ろからやってきた魔物に食べられる瞬間まで、見ていることしかできなかった。


 こんな『現実』、認められなくて、お父さんの腕の中でもがく。


 けれど、元冒険者だったお父さんの力に(かな)うはずもなく、ただ、お父さんとお母さんと、逃げることしかできなかった。


「……お父さん? おじいちゃんとおばあちゃんは?」


「…………シエナ」


「……お母さん? 『トスエル』は? 早く戻らないと、お客さん、待ってるよ?」


「…………シエナちゃんっ!」


「ねぇ、戻ろうよ? ほら、お客さんたちを、喜ばせてあげよう? 私も、がんばるから。もうお手伝いが嫌いだとか、他の子みたいに遊びたいとか、言わないから、だから、帰ろうよ? お店に、帰ろうよ?」


 次々と王都から離れていく馬車の一つに飛び乗った私たち。


 すごいスピードで走ってるだろう馬車の中で、譫言(うわごと)のように戻ろうと繰り返す私を、お母さんは泣きながら強く抱きしめ、お父さんもその上から覆い被さった。


 わからなかった。


 わかりたくなかった。


『トスエル』が燃えてなくなったことも。


 おじいちゃんとおばあちゃんが目の前で魔物に食べられたことも。


 お父さんとお母さんが、ずっと泣いていることも。


 昨日まで思いもしなかった、何もかもを失っていく『現実』なんて、子どもだった私には、理解できなかったんだ。


 しばらくは、永遠に終わらないとまで思った、世界が崩壊する音を聞きながら、逃げ続けた。


『…………』


 気がつくと、私たちは王都からかなり離れた場所まで移動して、呆然としていた。


 炎に包まれ、今まさに()ちていき、原型がなくなった生まれ故郷を、眺めていた。


「あ……」


 そこで、ようやく私は、これが『現実』なんだって、胸にすとんと落ちてきて。


 どうしても出てこなかった涙が、こぼれた。


「あ、あぁっ、ああああああああああっ!!!!」


 止まらない。


 涙。


 止められない。


『現実』。


 あふれ出す。


 悲しみ。


 いつも光ってて、優しくて、大好きだった日常は。


 この日を境に、私の前から姿を消した。




 それからのことは、あまり覚えていない。


 気がつけば、お父さんとお母さんにつれられて、色んな町を移動していたらしい。


 最終的にたどり着いたのが、レイトノルフ。


 元々いた王都からかなりの距離がある場所まで移動したのは、化け物と呼ばれていた何かから、少しでも遠くに逃げたかったからかもしれない。


 ともかく、レイトノルフについた私たちは、しばらく安い宿屋で雨風をしのぎ、生活していた。


 今までは、おばあちゃんが逃げる直前に持ち出してくれたお金を資金にすることが出来ていた。


 この時には、最初と比べると減っちゃったけど、残りは決して少ない金額じゃなかった。


 だけど、お金は使っていけばなくなってしまうもの。


 生きるためには、働いてお金を稼がないといけない。


 けど、お母さんと私は『トスエル』以外に生き方を知らない。それが、レイトノルフで生きようとすると、とても大きな問題になった。


 最初は、他の宿屋や飲食店で働かせてもらえないか、色んなお店を回って話を聞いていた。


 でも、みんなお金稼ぎが全てみたいな考え方が強いお店ばかりだった。経営方針、っていうのかな。それが根本的に合わなくて、働きたいって思えなかったんだ。


 それに、どこのお店でも店主さんが私やお母さんを気持ちの悪い目で見てきたから、働くのが怖かったというのもある。


 もし、お金のためだけに雇われていたとしたら、私もお母さんも何をされていたかわからなかった、と思う。


 一方で、お父さんもすでに冒険者を引退して日が長く、魔物と戦うだけの力がなくなっていたから、そちらに復職するのは難しいって言ってた。


 それに、冒険者は新しく登録し直すと、過去の経歴は関係なく『緑鬼(ゴブリン)』級からやり直しになるらしい。


 お父さんの話によると、とてもじゃないけど『緑鬼(ゴブリン)』級の仕事じゃ家族三人を養うのは無理なんだって。


 何よりレイトノルフ周辺のダンジョンは、今まで入ってきたダンジョンと比べてもランクが高いらしく、戦闘技術が落ちたお父さんじゃすぐにやられちゃうだろう、って。


 でも、たとえそんな事情がなくても、私もお母さんもお父さんに危険なことはして欲しくなかったから、冒険者に戻らなくてよかったと思っている。


 これ以上、大切な家族がいなくなっちゃうのは、嫌だから。


 そうして時間だけが過ぎていき、お金も少なくなってどうしようかってなった時、お母さんがここで『トスエル』を始めよう、っていってくれたんだ。


 もちろん、生活費を稼ぐ手段が必要だったから、っていうのもあったんだろう。


 でも、一番の理由は、王都が崩壊していく光景を見ていた私が、『トスエル』に戻りたいって、何度も言っていたからだと思う。


 お父さんもお母さんも、私の前ではっきり口にしたことはないけど、たぶん、そう。


 でないと、わざわざレイトノルフの中でもすっごく高い、前の『トスエル』と似た構造の建物を選ぶはずがない。


 宿屋を始めるだけなら、もっと安くて小さい物件もあったはずだから。


 二人とも、元気がなくなった私を勇気づけようとして、頑張ってくれたんだろうな。


 レイトノルフがお金さえあればある程度許容してくれる町だとはいえ、所持金の少ない私たちじゃ、『トスエル』規模の宿屋を契約するのは、難しかっただろうから。


「お客さんが希望する条件の物件ですと、ここなんかどうでしょうか?」


 お父さんたちが相談したのは、レイトノルフで一番大きい力を持つという、家貸しをしているチール商会だった。


 イガルト王国だったら、家や土地を買おうと思ったら貴族様に話を通す必要があるんだけど、ここでは商人に交渉する。


 お母さんが商会の人に聞いた話によると、レイトノルフを含むネドリアル獣王国は、種族ごとに集落を作って集まった国だから、決まった領地というものが存在せず、土地の所有権という概念がなかったんだって。


 そこに目をつけたチール商会の先代が、純正人種との窓口だったレイトノルフに、町の中限定で地価や賃貸という仕組みを導入した。


 それまでは決まった家を持たず、一つの大きな家を複数の家族が使うこともあったらしい。


 だけど、チール商会が一度町中の家と土地のほとんどを買い取り、お客さんに貸し出す家貸しの商売をし始めると、一気に力を持つようになった。


 今では、レイトノルフの九割以上の土地や建物はチール商会の息がかかっていて、何もしなくても莫大な利益を上げているらしい。


 だから、チール商会はレイトノルフ商人ギルドで、誰も意見できないくらい強い発言権を得ている。


 家貸し以外では、ダンジョンから仕入れることが出来る魔物の素材や、魔力を多く含む薬草なんかを主に取り扱っているみたい。


 平民がよく利用する食料品や日用品は単価が安いから、扱う気はないって言ってた。


 最初にそれを聞いた時は、同じ人を相手にする仕事でも、やっぱりチール商会も『トスエル』の考えとは違うんだな、と思った。


 私たちは『お客さんに満足してもらうため』にお店をしていたけど、チール商会を始めレイトノルフのお店は『お金を集めるため』に商売をしている。


 商売人としては、チール商会の考え方の方が当たり前なんだろうけど、私は好きになれなかった。


「…………いいですね。よろしければ、こちらのお家でお願いしてもいいでしょうか?」


「おお! ありがとうございます! それでは、こちらで契約の話をしましょうか」


 それでもお母さんたちがチール商会を頼ったのは、レイトノルフの家貸しを独占している商会だったから。他に選択肢がないんだったら、チール商会に頼るしかない。


 家賃は、その時手元に残っていたお金が数ヶ月でなくなってしまうほど、高かった。それでも、お母さんは何とか交渉し、契約書を結んだ。


「ここから、また始めましょう」


「そうだな。俺たち、三人で」


「……うん」


 そうして、私たちはレイトノルフで、新しい『トスエル』を始めることになった。


 でも、私たちの新しい生活は、最初から苦難の連続だった。


「……またですか? あまり多いと、こちらも困るんですけどねぇ?」


「すみません。ご迷惑をおかけしますが、必ずお返ししますので」


 一つ目は、資金難。


 考えてみれば当然で、商売をするのはただじゃない。『トスエル』だったら、宿屋で使う備品類や、提供する料理の材料、後は調理器具なども買い揃えなきゃいけない。


 イガルト王国から逃げ出したときは、最低限の荷物しか持っていけなかった。


 身軽じゃないと、おじいちゃんたちみたいに、魔物に食い殺されていたかもしれないから、仕方のないことだったんだけど。


 でも、すでに私たちは建物の家賃を払い続けるのも厳しい経済状況だったから、商売を始めるための準備費用なんて用意できるわけがなかった。


 だから、お母さんはよく、チール商会に頭を下げてお金を貸してもらっていた。


 チール商会は金貸しもしていて、持ち出せた貴重品を担保にお金を融通してもらっていた。


 中にはお父さんがお母さんに結婚を申し込んだときにプレゼントした宝石もあったらしいんだけど、お父さんの同意を得てお金に換えていたらしい。


「……どう?」


「だめだ。イガルト王国で使ってた食材と違いすぎて、納得のいく味が出来ねぇ」


 二つ目は、大きく言えば風土の違い。


 大陸中央に位置していたイガルト王国と、大陸南部の国だったネドリアル獣王国じゃ、食生活が大きく異なっていた。


 当然、市場に出回っている食材もお父さんにはなじみがないものが多く、レシピを新たに作り直さなきゃいけなかった。


 おじいちゃんはとっても頑固で、自分が納得する水準じゃないと料理は出せない! と言い切るような職人気質(かたぎ)な人だった。


 その弟子だったお父さんも同じで妥協(だきょう)を嫌い、なかなか納得できる料理が出来なかった。


 単純な料理レシピの他に、取り扱うお酒の名前も味も違うから、相性のいい料理との組み合わせにも注意しなきゃならない。


 前の『トスエル』でもお酒を楽しんでいる人は多かったから、お酒を無視した料理だけじゃ満足させられないって考えたんだろう。


 後は、お父さんの味覚じゃなく、現地の人たちの味覚や趣向にあう味付けにしなければならない。


 結局、お父さんが納得する仕上がりになるまで、数ヶ月はかかった。とても苦労したみたい。


「新しくお店を始めました! 『トスエル』です! よろしくお願いします!」


「お願いします!」


 三つ目は、立地。


 実は、チール商会と契約した『トスエル』の建物は、大通りから折れて細い路地を通った場所にあり、あらかじめ場所を知っていなければたどり着けないような位置にあった。


 外からは大通り沿いに立ち並ぶ家や他の商店が壁となって見えず、かといって『トスエル』周辺にある建物はみんな平民身分の人が住む家しかない。


 店の規模は小さくなったし、前におばあちゃんが決めた料金設定を使えば安めだと思うんだけど、飲食店や宿屋の主たる客層は冒険者や商人だ。


 飲食店での食事なんて平民には手が届きにくい出費だし、宿屋なんて旅人くらいにしか需要がない。


 なのに、そんな人たちがわかりづらい場所に店を構えてしまえば、こちらから宣伝をしないと誰も集まってくれない。


 私とお母さんは、大通りに出て客引きをするしか方法は思いつかなかった。


 でも、他にもたくさんお店がある大通りで勝手に客引きをすると、他のお店の人たちに迷惑をかけてしまう。


 職種は違えど、商売人は横の繋がりを大事にしないと、孤立してしまえば潰れてしまうのは一瞬だ。


 だから、ここでもチール商会に頭を下げることになった。商人ギルドでもっとも力が強いチール商会の許可を得られれば、大抵のことは許されるから。


 迷惑をかけっぱなしなのに、お金を回収するためならと了承してくれたのは本当にありがたかった。


 そんな、イガルト王国の王都じゃわからなかったたくさんの苦労を知り、私たち家族は私たちの『トスエル』を取り戻そうと必死に働いた。


「いらっしゃい!」


「あら、いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」


「いらっしゃいませ!」


 たくさんの努力もあってか、一年もするとお客さんが徐々に増え始め、毎日冒険者の人たちでいっぱいになるようになった。


 にぎやかになったお店は、冒険者の人たちの笑顔と笑い声に包まれていて、まるで王都にいた頃に戻ったみたいだった。


「じゃあ、俺が計算してお金を出してやるよ。何がいくらだったんだ?」


 それに、レイトノルフの人たちは優しかった。


 おじいちゃんとおばあちゃんがいなくなって初めて気がついたけど、家族の中にお金の計算がすぐに出来る人がいなかったんだ。


 初めてお客さんとして冒険者の人がきてくれた時に発覚したことだったから、大いに慌てた。でも、お客さんは私たちに笑ってそう言ってくれたんだ。


 私は、嬉しかった。


 イガルト王国がなくなってからずっと、私は辛くて苦しい『現実』ばかりに(さら)されてきた。


 寄り添ってきた家族だけが味方で、他の人たちは余所者(よそもの)の私たちにどこか冷たい態度だったように思えた。


 だからこそ余計に、ちょっとした人の優しさが、胸にジンときてしまった。


「ほらこれ、お金置いとくね!」


「あ、ありがとうございました!」


 それから、『トスエル』の支払いはお客さんがしてくれることが多くなった。


 お客さんに甘えてるみたいだったけど、その分おいしい料理と楽しい時間を提供できるように、家族でがんばった。


「こんにちは!」


「ああ、シエナちゃんか。今日も元気だね」


 お客さんだけじゃなく、仕入先のお店の人たちともコミュニケーションを取り、仲良くなる努力もした。


 お店同士で助け合わないと成り立たない商売をしているんだから、良好な関係を築くことも立派な仕事だしね。


「……はぁ」


 でも、うちの暮らしがよくなることはなかった。


 私たちは咄嗟(とっさ)の計算は出来ないけど、お金を数えることくらいは何とか出来る。


 それによると、『トスエル』の経営状況はずっと厳しいままらしい。お母さんが毎日おばあちゃんを真似て、苦手な計算をして帳簿をつけていたけど、ため息ばかりを漏らしていた。


 チール商会へお金を借りることこそなくなったものの、一向に返せるだけのお金は出来ていないらしい。


 お店の家賃を払う(たび)、毎月のように頭を下げて返済期限の延長を頼んでいたのも知っている。


 それを見て、私は余計にがんばらないとと、思ったんだ。


「ねぇ、君。ちょっといいかな?」


「…………何だよ?」


 そこで私が考えたのが、従業員を増やすこと。


 お金を稼ぐには、よりお客さんにいい店だって思ってもらえるのが一番だ。


 そうやって、おじいちゃんもおばあちゃんも私たちがレイトノルフまで逃げきれるだけのお金を稼いだんだから、間違いない。


 そう思って声をかけたのが、スラムにいる子どもだった。


 住む場所も食べるものも困っているスラムの人なら、お金が手に入る仕事があるのは嬉しいことだろう。


 それに、人手が増えればやれることも増えて、お客さんにもっと満足してもらえるかもしれない。


 さすがに大人の人に声をかけるのは怖かったから、子どもに狙いを絞って声をかけていった。


「わかった」


 最初は不審がってみんな逃げていったけど、ようやく働いてくれるっていう子が現れたときは、すごく嬉しくなった。


 これで、お店を楽にしてあげられるかもしれない。お客さんも、もっともっと来てくれるかもしれない。


 私はそんな、よくなるだろう未来しか見えてなくて、ただただ浮かれていた。


 それが、余計に『トスエル』を追いつめることになっただなんて、気づかずに。


「あっ! 待って! どこに行くの!?」


 一人目の男の子は、うちに入ってすぐにいくつかの食材を両手に抱えて飛び出していった。


 最初から、食べ物を盗むつもりでついてきたみたい。当然だけど、それからいくら待っても、男の子は戻ってこなかった。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 二人目の女の子は大人しそうだったから、今度は大丈夫だと思った。でも、数日後、女の子は宿泊客の荷物を盗んで、逃げてしまった。


 結局、そのお客さんに謝り倒して、賠償金を支払って手打ちにしてもらえたけど、女の子は帰ってこなかった。


「どうして……」


 三人目の男の子は、私の話を聞いて笑顔でついてきてくれた。


 この子は、私のことを信じてくれたんだ。


 そう思って、一緒に仕事をしてきたけど、数日後に買い物を頼んでお店から出て行く背中を最後に、お金を持ったまま行方をくらませた。


「シエナ、もういい。この店は俺たちだけで回せている。だから、新しい従業員なんて考えなくていいんだ」


「お父さんの言う通りよ。それに、何度も裏切られて辛いのはシエナちゃんでしょう? お店のことはお母さんが何とかするから、心配なんてしなくていいのよ?」


 私が連れてくる子はみんな、『トスエル』に傷だけを残して出て行ってしまった。そのせいでお店の経営も余計に悪くなって、私はひどく落ち込んでしまった。


 お父さんとお母さんは、そんな私に気遣ってくれて慰めてくれたけれど、私のせいで二人にもっと大きな負担をかけてしまうんだって思ったら、胸が張り裂けそうになった。


 もしかしたら、お父さんやお母さんも、おじいちゃんとおばあちゃんみたいに、突然私の目の前から居なくなってしまうかもしれない。


 そうなったら、私はもう、生きていけない。


 何とかしないと。


 私が、もっと、もっともっと、頑張らないと。


 そんな焦燥感に(さいな)まれ、ミスを挽回(ばんかい)しようと仕事に没頭していた、ちょうどその時。


 私は、一人の『男の子』と出会った。




====================

名前:シエナ

LV:15

種族:イガルト人

適正職業:接客業

状態:健常


生命力:120/120

魔力:80/80


筋力:16

耐久力:10

知力:10

俊敏:13

運:55


保有スキル

『接待LV3』

「運送LV2」「斧技LV1」

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