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62話 強制イベント

「……なぁ、帰っていいか?」


「君、帰る場所ないって言ってたよね!? どこ行くつもりなわけ!? 全く、ここまで来ておいて往生際(おうじょうぎわ)が悪いよ! ほら、寝言を言ってないで、ちゃっちゃとくる!!」


 結局、同年代の一般女性である看板娘に、何の補助もなく力づくで連行されて、『トスエル』の前にいる俺。


 男としては、実に情けない。


 女一人振り払えねぇ、我が身のステータスの低さが恨めしい。


 ついでに、女一人振り払うことが大事にしかならねぇ俺の実力もまた、恨めしい。


 こんなところで弱点を見つけられても、全く嬉しくねぇよ。


「ただいま~! あとこの人雇って!」


「ついでか!? しかも直球過ぎんだろうが!! せめてもっと順序踏め!!」


 あまりにもあんまりな看板娘の一言に、思わず怒鳴っちまったじゃねぇか!


 この女、マジか!?


 帰宅早々用件だけぶっ込むとかバカだろ!?


 俺みたいに屁理屈こねて何もしねぇのもアレだけど、だからといって無策で敵陣に突っ込むのもどうかと思いますけどねぇ!?


「シエナ!? 誰だそいつは!! さっさと追い返せ!!」


「あら。おかえりなさい、シエナちゃん」


 俺を引っ張ったまま『トスエル』にずんずん入っていった看板娘の声に応えたのは、当然と言うべきか、厳ついオヤジと美人ママだった。


 夕食にゃちょっと遅い気がするが、八割ほど客席が埋まってて忙しそうだ。


 にもかかわらず、娘の声を瞬時に聞き分けた看板娘の両親は、恫喝(どうかつ)と笑顔をこちらに向ける。


 以前俺の就活を一刀両断したオヤジさんは、角刈りで強面(こわもて)髭面(ひげづら)の大男だ。身長は2mを超え、懐かしのハゲ斧よりも高ぇ。


 料理以外の要因で鍛えただろう筋肉が、服を盛り上げている。ありゃ以前、兵士か冒険者でもやってた口だ。


 そんなオヤジさんは、今じゃ手にフライパンとお玉を持ち、配給口であるカウンターから身を乗り出して主夫感満載だ。


 その姿は愛嬌(あいきょう)があると思えなくもない。……いや、前言撤回だ。どっからどう見ても厳ついおっさんにしか見えん。


 おっさんの近くで配膳(はいぜん)する料理を持ち上げてんのが、看板娘の母親。


 看板娘をちょっと大人にし、美人度を上げたのがママさんだ。ほんわかする空気を(まと)い、笑顔で娘の帰還に微笑む姿は、来客の男どもの視線を独占している。


 看板娘とのわかりやすい違いは、髪の毛をくくらずストレートで流してるところか。腰くらいまで伸びるママさんの金髪はとても(つや)やかで、日本人の色艶に決して負けてねぇ。


 これが、残念先生にはついぞなかった、大人の色気ってやつなのか。


「ただいま! これ、頼まれてた追加の食材ね! あとお父さん! 誰だじゃないでしょ!? ちょっと前にきた、働かせてくれって言ってた人だよ!」


「知らん! それに男はいらん! さっさと追い出せ! シエナはそいつから離れろ!」


「お疲れさま。荷物はカウンターにでも置いておいてね。ちょうど団体さんがいらしたから、シエナちゃんも手伝ってちょうだい。ついでにその子もね?」


「は~い! あ、君はこっちきて! とりあえず、何をしてほしいか説明するから!」


 おいおい、待て待て。


 何とか会話は成立しているけど、俺とオヤジさんは置いてけぼりじゃねぇか。


 見てみろ。オヤジさん、口開いたまま固まっちまったぞ。


 どんだけ厳つい見た目だっつっても、女優位の家庭じゃ男の発言権なんてこんなもんか。


 がっつり無視されたオヤジさんの固まった怒り顔に、何とも言えない哀愁(あいしゅう)を覚えちまうぜ。


「はいこれ、お父さんのエプロンの予備。ちょっと大きいけど、これ着ればうちの店員だから。それと確か、力仕事は苦手なんだったよね? だったら、お客さんの注文を聞いて、料理をテーブルに運ぶことは出来る?」


「いやまぁ、それくらいなら出来るけど、オヤジさんは……」


「ならとりあえず、この時間のお客さんは全部(さば)かなきゃね! 私もすぐ準備してくるから、早速君もお母さんを手伝ってあげて!」


 お~い、話聞け~。


 問答無用でサイズ違いのでかいエプロンを渡された俺は、さっさと奥に引っ込んじまった看板娘の背を見送った。


 仕事が欲しいと思っちゃいたが、まさかいきなり戦場に送り込まれるとは。


 いやぁ、異世界のサービス業()めてたわ。


「お~い! 注文いいかぁ!?」


「は~い! 今行きますよ~っとぉ!」


 ゆっくり感慨に(ふけ)る暇もなく、テーブルの一つからオーダーの声が上がったため、俺は反射的に返事をして営業スマイルを浮かべる。


 看板娘が強引すぎたとはいえ、これは俺に任された仕事だ。


 まだ確定じゃねぇだろうが、あれだ。アルバイトとか試用期間だとか思えばいい。


 そう自分に言い聞かせ、接客業はとにかく笑顔だと地球の誰かが言ってたのを思い出し、呼ばれたテーブルに近寄った。


 そこには男八人ほどがテーブルを囲んでおり、ほとんどが飲んだくれていた。全員がラフな格好だが武器を所持していて、冒険者だろうことが察せられる。


「お待たせしました、ご注文は?」


「ちっ! 男かよ」


 あ゛ぁ? 呼んだのはテメェだろうがぶっ殺すぞ?


「ええ男です。で? ご注文は?」


「しょうがねぇ、お前で我慢するか」


 さっきから何様だテメェコラ【普通】で消滅させっぞ?


「エールが五つと肉のメインが七つ、スープは三つでパンは二つ追加だ! 急いでもってこい!」


(うけたまわ)りました。少々お待ちください」


 急いでもってこいは余計だ! 文句があるならここの主夫(オヤジ)に言え!


 注文を聞くだけですっげぇストレスをためつつ、俺は表面上は笑顔を維持してカウンターまで移動する。


「おい兄ちゃん! ついでにこっちにゃ果実酒を四つだ!」


「こっちは魚メインが二つと、チーズくれ!」


「俺んところはビールが四つだ! 至急な!」


「わかりました!」


 くっそ、コイツら!!


 ここぞとばかりに注文ラッシュしやがって!!


 顔が全員にやついてたの、こっちは気づいてんだぞ!!


 ぜってぇ面白がってミスを誘発させようとしてんな、(たち)が悪ぃ!!


「追加注文だ! 奥の右から2番目のテーブルはエール五、肉メイン七、スープ三で、パン二! 手前右から4番目のテーブルは果実酒四! 奥の左から3番目のテーブルは魚メイン二、チーズ一! 最後に手前一番右のテーブルはビール四!」


「うっせぇ! 俺に指図するなんて十年早ぇんだよ、ガキが!」


 テメェはテメェで面倒臭ぇなぁ、おい!!


 不本意ながら今は従業員なんだ!!


 アンタもプロの端くれだったら、私情を挟まず仕事はきちんとこなせや!!


「うっせぇじゃねぇだろ!! 実際追加注文は通ってんだ!! アンタもプロなら仕事こなせ!!」


「はぁ!? ただ注文取ってきただけでうちの従業員気取りになってる坊主にゃ言われたくねぇなぁ!? シエナに後押ししてもらったからって、いい気になってんじゃねぇぞ!?」


「なってねぇし、そういう問題じゃねぇだろ!? だったらせめて酒の場所と使っていいグラスかコップくらい教えろや!! 飲みもんくらいならこっちで用意して配膳(はいぜん)すっからよ!!」


「あ゛ぁ!? 何でうちとは無関係の野郎にうちの商品預けなきゃ何ねぇんだ!? そもそもテメェをうちで雇う気はねぇっつってんだろうが!! この忙しさはテメェにゃ関係ねぇんだから、テメェが大人しく帰ればいい話だろうが!!」


 あぁ~、もう!!


 正体不明の不審者って思われてんのもあんだろうが、娘が連れてきた『男』ってだけで頑固すぎんだろこのオヤジ!?


 別に結婚の挨拶に来たわけでもねぇのに、なんでこんなに邪険に扱われなきゃなんねぇんだよ!?


 一応調理の腕は動いてっから注文の料理は作ってんだろうが、酒はどうすんだよ!?


「いい年したおっさんが駄々コネてんじゃねぇぞ!!」


「お~い! まだこねぇのかぁ!?」


「……ちっ! ほらみろ!! 催促(さいそく)の声がかかってんだろうが!! ついでに、別のテーブルから肉が三、魚が二、ビール六追加だ!! 俺はどう動きゃいいんだよ!?」


「まだいやがったのか!! テメェはさっさとかえ」


 ダンッ!!


 俺と頑固オヤジが不毛な言い争いを続けていると、隣からカウンターに叩きつけられたコップの音で、頑固オヤジの言葉が途切れる。


 一瞬動きが止まった頑固オヤジとともに、俺もそちらへ視線を向けると、とてもいい笑顔のママさんが旦那を見つめていた。


「あなた? 今の状況は猫の手も借りたいくらいなのよ? それなのに、わからないなりに自分から動いてくれてる『猫の手(このこ)』を追い返そうとするなんて、私たちに負担をかけたいの?」


「ち、違う! 俺はただそいつがっ!!」


「シエナちゃんが連れてきた男の子だから? そんなくだらない理由だけなら、後にしてちょうだい。今はとにかく、団体さんの相手をするのが先でしょう?」


「い、いや、でも」


「手は動かすっ!!」


「はいっ!!!!」


 ……す、すげぇ。


 あの偏屈を力技で無理矢理やりこめやがった。


 ママさん、最後だけすっげぇ迫力だったし。


 母は強し、なのか? それとも、男って生き物が、奥さんにゃ頭が上がらねぇだけなのか?


 いずれにせよ、俺も結婚したら『ああ』なると思っちまえば、微妙な表情にならざるを得ない。


「ゴメン、お待たせ!! って、何? どうかした?」


 準備を終えてやってきた看板娘は、俺らの間に流れる気まずげな空気を察してか、首を(かし)げる。


 どうかしたか、だぁ? お前が全部引き起こした事態だよそれくらいわかれ。


「ううん。何でもないわ。それより、注文が多いみたいだから、この子と一緒にお客さんに配ってあげて?」


「わかった! ほら、君はこっちきて!」


「ええい、ほんっと強引で人使い荒いな、この母娘(おやこ)!!」


 ママさんはお茶を濁すついでに俺を(あご)で使う気満々だし、看板娘は最初からこき使う前提で巻き込んできやがるし、どうなってんだこの宿屋!?


 でも、ここが初めて俺の雇用に前向きになってきた店っつうことに変わりはねぇ。


 展開がわけわからんとはいえ、このチャンスを逃す手はねぇだろ!


 金のためだ、どんな無理難題でも応えてやろうじゃねぇか!!


「あいよ! エール五つ、お待ちどう様でした!!」


「……ちっ。また男かよ」


 はぁ!? あんま調子乗ってっと、客だろうがマジぶっ殺すぞ!?




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名前:ヘイト(平渚)

LV:1(【固定】)

種族:イセア人(日本人▼)

適正職業:なし

状態:健常(【普通】)


生命力:1/1(【固定】)

魔力:1/1(0/0【固定】)


筋力:1(【固定】)

耐久力:1(【固定】)

知力:1(【固定】)

俊敏:1(【固定】)

運:1(【固定】)


保有スキル(【固定】)

(【普通】)

(《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV2》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV2》《神経支配LV2》《精神支配LV2》《永久機関LV2》《生体感知LV1》《同調LV2》)

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