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60話 就活の壁

 あれから一週間が経過した。


 俺の仕事は、未だ見つかっていない。


「……次は、どこいく?」


 もう何軒レイトノルフの店を回ったかわかんねぇ。《神術思考》を使えば思い出せるだろうが、数えるだけ無駄だしやる気もねぇ。


 店が閉まる時間帯以外はずっと、業種問わず様々な店に顔を出し、仕事をくれと言い続けてきたが、どこも「無理」の一点張りだった。


 少し話を聞いてくれる店があっても、俺のステータスを聞くとすぐに冷やかしだと思われ、いらんと言われる始末。


 伝えたステータスでもテコ入れしてんだが、俺のステータスは余程使えねぇらしい。


 まあ、平民で主に形成された町で働くっつったら、雇用者側からすりゃ肉体労働の需要が高いのは仕方ねぇ。


 俺みてぇな頭脳労働は、ほとんどが文官や各都市の役人など、大半が限られた上流階級の仕事だからな。そういう奴らは身分が高いか、たたき上げでも優秀な学歴が必要になる。


 能力なし、身分なし、経歴なしの浮浪者上等な俺がいくら()えたところで、ただのほら吹きで終わっちまう。


 一応、この町にある大小ある商会に経理事務の仕事をくれとアポなしで直撃してみたけど、門前払いだった。


 最終手段とばかりに、誰もやりたがらねぇような職種にぶっ込んでもみた。


 たとえば、馬車を牽引する家畜厩舎(きゅうしゃ)の掃除(動物の奇襲に注意、あと獣臭い)とか、町の定期清掃業務(地味できつい、時々臭い)とか、路地裏で勝手に死んでるホームレスの死体処理(精神的な抵抗が強く、やっぱり臭い)とかだな。


 臭い関連は自分から積極的に「やります!」って奴が少ないから、いつでも人手が足りねぇような仕事のはずなんだが、やっぱり俺の絶望的なステータスが原因で断られる。


 どれもこれも、精神的よりむしろ基本が体力勝負だからな。体力も筋力も『1』(偽った値でも『5』)しかねぇ俺は話になんねぇ、とさ。


 途中、やけっぱちで『異世界人』のステータスで就活してみたらどうだ? とも考えたが、一度冒険者協会で『日本人』ベースのステータスを申告しちまったから、諦めた。


 それをしちまうと、俺は冒険者協会で自分の実力を過小に偽ったことになるんだからな。


 過大に偽るバカは多くとも、本来の実力より低く見積もる奴はそうはいない。それこそ、『冒険者協会相手に情報を(さら)したくねぇ事情』でもねぇ限り、申告者にメリットがねぇんだからな。


 イコール、『異世界人』での就活は、俺が『冒険者協会に身元を隠す必要があった』と教えちまうことになる。


 冒険者協会にも喧嘩を売っちまった今、もしもクソ王から『平渚(おれ)』の捜索依頼が出されちまったら、そうした違和感を放つ俺の存在は非常に目立つ。


 そうなりゃ、クソ王に居場所がばれる可能性が上がる。んで、散々クソ王をおちょくって王都を出た俺に、殺しの刺客が送られることになんだろう。それはメンドいから避けたい。


 解決案として思いついた、《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》か《同調》+《神経支配》で逐一容姿を誤認させる、ってのはさすがに限界がある。


 まだスキルレベルも低いし、町全体を誤魔化(ごまか)しきれるか確証がねぇなら、スキルに頼り切るのも危険だしな。


 ってわけで、貧困層の受け皿にすら弾かれた俺を雇ってくれそうな場所なんてあるはずもなく、無為に時間だけが過ぎていった。


 成果があるとすれば、とりあえずスラム化した路地裏で襲われる心配がなくなった、ってくらいか。


 就活がことごとく玉砕し、路地裏で夜を越すようになったら、ま~追い()(まが)いの多いこと多いこと。


 平気で凶器を振り回してくるわ、戦闘系スキルを発動してくるわ、中には徒党(ととう)を組んで数の暴力に訴えようとするわで、毎日がお祭り状態だった。


 とはいえ、全員が俺の敵じゃなかったわけだが。


 さすがに【普通】でやっちまったら、死体が不自然な(えぐ)れ方になり、ちょっとした騒ぎになる。


 証拠を残さねぇようにするなら、吸血鬼ん時みてぇに死体を消滅させるんだが、数が数だから超絶面倒。


 だから、俺は『異世界人』のステータスでのごり押しを選択した。接触の瞬間だけ《機構(ステータス)干渉》で『種族』を変更し、極力魔力を放出しない方針でな。


 そうした理由は、《機構(ステータス)干渉》の経験値稼ぎが半分、冒険者協会からの『監視』を警戒したのが半分だ。


 何せ俺は、冒険者協会をボロクソに(けな)して登録拒否されたことで、冒険者協会に遺恨(いこん)を抱く人物だと思われてるだろうからな。


 そんな、冒険者協会の悪評の種になりかねねぇ存在を見張るのは、自然な流れだ。尾行や偵察に特化した冒険者もいるだろうし、組織力に物を言わせりゃ俺一人の行動なんて簡単に監視できる。


 証拠に、日中は【普通】の『敵意』センサーがいくつか引っかかってたからな。


 スラムに入った瞬間消えたし、そこまでは足を踏み入れてはいなさそうだが、『監視』がいると思って、不用意な行動は避けた方がいいと判断したわけだ。


 で。肝心の追い剥ぎ迎撃はというと、非常に簡単だった。


 能力値が『異世界人』の平均とはいえ、劣悪な環境で育った一般人と比べりゃ、豊富なステータスには変わりねぇからな。そこらの浮浪者にやられるほどやわじゃねぇ。


 実際、凶器は大振りだからよく見りゃ(かわ)せるし、戦闘系スキルはレベルが低いから同じく避けれるし、敵の数が増えようが《神術思考》で行動予測すれば後は作業だ。


 まあそういう感じで、貧弱そうな俺の見た目に寄ってきた奴ら相手に、毎日夜な夜な裏ストリートファイトを繰り広げてきた。殺すと後処理が面倒だから、相手は『種族』問わず適当に気絶させてさよならしたよ。


 んで、そんな生活を五日も続けると、俺がヤベェって情報がスラム社会で広まったのか、ぱったりと襲撃者が減った。


 スラムの元締めみてぇな存在もいるんだろうが、今んところ動きはねぇ。少なくとも、下っ()とかチンピラレベルの相手は排除できたから、とりあえずの平穏は訪れたと言っていい。


 あと、スラム連中には《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》などで容姿を偽ったりしてねぇから、もしヤバい奴がスラムに現れた、と冒険者にリークされても問題ねぇ。冒険者登録をしようとしたヘイトとは、特徴が一致しねぇからな。


 よって、残る憂慮(ゆうりょ)は金を稼げる仕事を早く見つけることだけ。


 それが、ないない尽くしの俺にゃ一番高い壁なんだが。


 っつうか、異世界にきてまで地球の雇用問題みてぇなことに頭を悩ませる羽目になるとはな~。


 普通だったら、高校か大学卒業前にぶち当たることだってのに、こんなところで先取りしなくともいいだろうがよ?


 世界が変わっても、人間社会の問題なんて似たり寄ったりになっちまうもんなのかね?


 即戦力以外はいらねぇ、か~。


 世の中、ほんっと世知辛いな。


「働き手は間に合ってるよ。帰った帰った」


「へぇ~い、お邪魔しましたぁ~」


 とまあ、回想に(ふけ)りながら就活を続けるも、また一軒お断りをもらっちまった。


 思わず漏れ出るため息と気の抜けた声を残して、鉢植えの上でものっそい動く植物も扱う花屋を後にした。観賞用だとしたら、どこに需要があるんだろうか?


「……あ~、また時間切れかぁ」


 店の外に出ると、空はほとんど黒に染まり、星空が綺麗に光り出していた。


 機械工業の代わりに魔法文明が発達したこの世界では、雲さえなけりゃ夜はどこでも満天の星空が(おが)める。星が落ちてきそうな、とかいう表現も、あながちバカに出来ねぇくらいよく見えた。


 だが、イガルト王国の王都アクセムを出発してから今日まで、飽きるほど見続けてきたから感動も薄れる。人間は慣れる生き物だからな。


 とはいえ、現在直面している足踏み状態には慣れたくねぇもんだ。


 最悪、そこら辺に落ちている石とかを《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》で金に見せ、町から脱出することも考えたが、俺は一度イガルト兵を『平渚(おれ)』に見せかけて逃げ出している。


 もし、俺の死体が偽物だってクソ王にばれていた場合、俺が人間を騙す系統のスキルを持っていると感づかれている可能性が高い。


 で、クソ王が俺のスキルを察知した前提で話をすれば、別の物を《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》で金に見せるやり方は、非常にリスクが高い悪手だ。


魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》の対象はあくまで『俺が会話した奴』にしかかからねぇ。


 金みてぇな人から人へ流通し、俺が認識改変出来ない相手にわたるような物を対象にすれば、詐欺系スキルを使用した痕跡(こんせき)が一発で残っちまう。


 つまり、いくら俺の姿形を偽っていようが、行く先々の町で他人を騙した『証拠』と『事実』が残ることになる。


 加えて、詐欺系スキルを持ってる奴が割合少ねぇのも、迂闊(うかつ)な行動に出れない要因だ。


 他人を害するスキルで敬遠されるって理由もあるが、詐欺系は大きな分類で言えばインテリ系スキルだから、そもそも取得できる奴が少ねぇらしい。


 そんなわけで、《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》で金もどきをばらまくのは、『異世界人』問題とは違うアプローチで、俺の居場所を自分から言いふらすことになっちまう、ってことだ。


 クソ王は性根が腐っちゃいるが、頭の使えないバカじゃねぇ。俺が推測した追跡方法に気づく可能性も、決して低くねぇんだ。用心するに越したことはねぇよ。


 だからこそ、俺は地道に仕事を探してんだが、惨敗の日々がこうも続くと、そろそろ本格的に心が折れそうだ。


 ったく、いつになったら俺は金を貯められるのかねぇ?


「しゃーねぇ、また明日トライすっか」


 ポツポツと店の明かりが消えてきたのを確認し、今日の就活を諦めて路地裏の入り口を目指す。


 下手に別の場所に迷い込んじまったら、俺のことを知らねぇ別グループの浮浪者を相手にしなきゃなんねぇかもしれねぇからな。


 無秩序に見えても、スラムはスラムで一定の秩序が存在する。統治者の違う別のシマに入り込んだら、また裏ストリートファイトを最初からやり直しだ。


【幻覚】チビじゃねぇんだから、バトル()けの毎日なんてゴメンだよ。


「……あれ? あなた確か、この前うちにきた人?」


「ん?」


 とぼとぼといつもの裏路地へと向かおうとしたが、途中で聞き覚えのある声がして、何も考えずに振り返った。



====================

名前:ヘイト(平渚)

LV:1(【固定】)

種族:イセア人(日本人▼)

適正職業:なし

状態:健常(【普通】)


生命力:1/1(【固定】)

魔力:1/1(0/0【固定】)


筋力:1(【固定】)

耐久力:1(【固定】)

知力:1(【固定】)

俊敏:1(【固定】)

運:1(【固定】)


保有スキル(【固定】)

(【普通】)

(《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV2》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV2》《神経支配LV2》《精神支配LV2》《永久機関LV2》《生体感知LV1》《同調LV2》)

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