59話 就職ならず
お待たせしました。三章開始します。
今回の更新は一時的で、章の終わりまで一気にはいかないと思います。
「……はぁ」
冒険者協会レイトノルフ支部から追い出された俺は、隠せぬため息を吐き出した。
俺自身のポカで冒険者になれず、仕事も身分も金もない。
ないない尽くしで途方に暮れちまう。
「とはいえ、腐っててもどうしようもねぇ、か」
永久的に冒険者登録が出来なくなったのは痛ぇが、かといって手が全くねぇわけでもねぇ。
金を稼ぐための仕事ってのは、何も冒険者だけじゃねぇんだ。
幸か不幸か、ここは中規模に発展した町の中。
俺みてぇな貧弱ステータスでも、探せば働き口はあるはず。
社長にも『勤労意欲にあふれる若者』っつって、盛大に啖呵を切っちまったしな。
言葉自体が嘘ってわけでもねぇんだし、一軒一軒店でも回れば、どっか雇ってくれるとこもあるかもしんねぇ。
紫のせいで死にかけたあの時と比べりゃ、この程度の逆境でうだうだ言ってらんねぇしな。
考える前に動いてみるのも、たまにはいいだろ。
「っし!」
俺は気合いを入れるため、両手で頬を思いっきりひっぱたき、歩き出した。
「すんませ~ん」
まず最初にぶっ込んでみたのは、冒険者協会の近くにあった店だ。
時刻はなんやかんやで四時頃。気絶したフリでそこそこ時間が経ってたらしく、うかうかしてたら店も閉まっちまう。
ってわけで、目に付いた店に入ってみたんだが、ちょっと無謀だったか?
「あん? 何だ、坊主? てめぇみてぇなヒョロガキに売れるような武器はねぇぞ」
そう、俺が入ったの、武器屋なんだよね。
店のチョイスを間違ったかと思い始めたところで、カウンターらしき場所から野太いおっさんの声が聞こえてきた。
店の規模から考えて、ここは個人商店だろうから、職人兼店主、ってところか。
っつか、チラ見だけで俺の体格と扱えそうな武器を見抜いたのか、このおっさん?
やっべ、頑固おやじ系の店かよ。だったら余計に望みうっすいなぁ、おい?
「いや、客じゃなくて、仕事がねぇから働かせてほしいなと思って……」
「寝言は寝て言えバカ野郎! てめぇみてぇな見るからに筋力のねぇガキがうちで働くだぁ!? 勤まるわけねぇだろうが!! せめて武器の運搬くらい出来るくらいになってから出直せ!!」
ですよねー!!
武器屋の仕事っつったら、ほとんどが力仕事のはずだ。
金属の精錬や鍛冶みてぇな職人の仕事を抜きにすりゃ、材料である金属や鍛冶道具などの買い付けとか、商品の陳列や取引先への運搬なんかもやるだろう。武器の受注や精算みてぇな接客なんかは、おまけみてぇなもんだ。
ざっと挙げただけで、そのほとんどが力のいる仕事だってわかる。
そんな職場で、俺みてぇな貧弱ステータスが役に立つところなんて、ほとんどねぇ。
おっさんが怒鳴り散らすのも当然だ。
「冷やかしなら出て行け!!」
「うわっ! あぶねぇ!!」
さすがに無理だと判断し、帰ろうとしたその時。
一歩早く動き出したおっさんが、何か持って立ち上がった気配を《生体感知》で察知した。
急いで出入り口のドアから外に出て、半分閉めたところで陶器らしいもんがぶち当たり、派手に割れる音が聞こえてきた。
あんの頑固おやじ、躊躇いなく物投げつけやがったな!
当たったらどうしてくれるんだよ、クソが!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
そのままドアを閉めて全力で逃げ出した俺は、武器屋からかなり離れたところで立ち止まり、荒い息を整える。
エラい目にあった。
こんな面接、日本じゃまず経験できねぇだろうな。
とはいえ、今回は俺が選択をマズったのが悪ぃ。
気を取り直して、次に行くとするか。
「ごめんくださ~い」
「悪いけど、人手は足りてるんだよ」
次に顔を出したのは、普段着を取り扱ってる服屋だ。
衣類程度だったら量が多くても何とかなるだろうと思って頼んでみたんだが、女店主にばっさりとやられた。
「たのも~」
「学歴は? ない? 話にならないね」
その次は俺のインテリ系スキルを考慮し、町の商人を統括する商業ギルドに足を運んだ。
主に経理みてぇな作業が多いだろうと思って頭を下げたが、能力を保証する学歴がねぇ俺は門前払いだった。異世界でも学歴社会とは、厳しい現実があったもんだぜ。
「ごめんくださ~い」
「あのねぇ? 君みたいな怪しい奴、雇えるわけないでしょ?」
一定以上のキャリアが必要そうなところは諦め、次に足を運んだのは宝石店だ。
取り扱う商品は筋力いらずだし、インテリスキルが役立つぜ! と思ったが、今度は身分なしがネックになった。高価な商品取り扱うのに、素性不明の人間雇うバカはいねぇな、うん。
「あ、あの~」
「あぁ!? 見てわかんねぇか!? 人を雇う余裕なんざねぇよ!!」
候補が一気になくなった俺が次に当たったのは、道路で商品を売る露天商だった。
商売のノウハウを習う振りして下働きでも、なんて考えは一発怒鳴られてあえなく玉砕。そりゃそうだ。どこの露天商も、客がほとんどいねぇガッラガラ状態だもんよ。
「えぇい! こうなりゃ手当たり次第に回ってやる!」
この時点で俺が働けるところなんてねぇんじゃね? と薄々気づいていたが、全部を当たってみたわけじゃねぇと自分を慰め、俺は条件無視で無差別に頼んでみることにした。
下手な鉄砲、数打ちゃ当たる!
大丈夫だ、成せば成るぅ!!
「…………マジかぁ」
すっかり日も落ち、周囲はどっぷりと夜に飲み込まれた頃。
俺は人気のない道の真ん中で、一人、星空を見上げて途方に暮れていた。
その後も、俺の条件じゃぜってぇ無理だと思う店も含め片っ端から回り、頭を下げ、仕事をくれと訴え続けてきたが、全滅だった。
主なお断り理由は、ステータスの低さと身分なしの二つに大別された。前者で力仕事がほぼなくなり、後者で俺への信頼がないため雇用側に心理的抵抗が強まる。
二つ合わさり、成果ゼロ。
まあ、俺もわかってはいた。
俺が経営者の立場だったら、着の身着のままで現れた身元不明の不審者なんて、ぜってぇ雇わねぇもん。店の売り上げ持ち逃げされる未来しか思い浮かばねぇわ。
もちろん、仕事でそんなことをする気はさらさらねぇが、俺がそれを訴えたところで向こうは嘘だって決めつけてきやがるからな。取り合ってすらくれねぇだろうよ。
「宿は、ダメだな。この町を出る資金もねぇのに、無駄金なんか使えねぇ」
ポケットの中に入れていた銀貨の存在を指で確認し、宿を探そうとしたが、止めた。
《永久機関》のおかげで、飲まず食わず寝ずでも生きていける俺に、宿屋のベッドは贅沢にすぎる。
レイトノルフにたどり着くまでの町々でも、旅の馬車が見つかるまで路上で寝てたんだ。俺の寝床は地面さえありゃ事足りる。
少しでも今後の足しにするために、金は取っておく必要があったし、断念は早かった。
「しゃーねぇ。今日は町中で野宿か」
俺が回りきれてねぇ店も全部閉まっちまったから、この時間じゃ就活もできねぇ。
今日は諦めて、どっかで夜を越すとするか。
「とはいえ、行くとこなんてここしかなさそうだがな」
で、俺が足を踏み入れたのは、建物の隙間に生じた裏路地だ。
下手に大通りで座り込み、町を巡回する夜警に捕まっちまったら、それこそ面倒だからな。
夜に家にも帰らず、路上で腐ってる奴なんて、ほぼ百パースラム系の貧民認定されっからな。
夜警っつっても地球の警察官とは違い、実態は領主の私兵か夜間警邏を依頼された冒険者だ。レイトノルフは領地を治めてる名目上の貴族が他の町にいるため、ほぼ冒険者が担当している。
そいつらの虫の居所が悪けりゃ暴力は当たり前、最悪身ぐるみ全部剥がされて殺されてもおかしくねぇ。
俺は【普通】があっから、返り討ちするだけなら余裕なんだが、ハゲ斧の件で考察したようにそれをしちまえば結構な騒ぎになる。
しつこいようだが、クソ王の目に留まるような騒ぎは、極力避けた方がいい。
で、ゆっくり腰を落ち着かせるんだったら、貧民の巣窟である場所に逃げた方がいいと結論づけた。《生体感知》で夜中ずっと動き続けんのは、さすがにしんどいからパスしたいんだよ。
「があああ、うげっ!!」
「おいおい、手荒い歓迎だな」
だが、路地裏に足を踏み入れた瞬間、みすぼらしい格好の獣人らしい男に襲われた。
ワンコと違いガチの犬系獣人で、殺すのは忍びないと思った俺は【普通】を切り、《機構干渉》で一瞬だけ『種族』を『異世界人』にシフトし、鳩尾殴って気絶させた。
出迎えはそれだけにとどまらず、暗闇の中から何対もの視線が俺に集中し、【普通】の『敵意』レーダーもビンビン感じた。今は《生体感知》に切り替えちゃいるが、どんどん増えてるのがわかる。
内訳はほぼほぼ獣人っぽいが、純正人間種も多少混じってるみてぇだ。
コイツら全部、レイトノルフであぶれた貧民たち、ってことなんだろう。
「……はぁ。まずは、こっちで一働きしますかね」
一日中かけずり回った後じゃ重労働だが、背に腹は替えられねぇ。
ある程度の実力があると知らしめれば、コイツらも多少は大人しくなんだろ。
仕事先が見つかるまでの安息を手にするため、俺はこの場の貧民どもを屈服させようと、一歩足を踏み出した。同時に俺へと集中する気配に、内心でため息をこぼす。
初の仕事が無償で貧民調教とか、やってらんねぇー。
前方からやってくる命知らずを見据え、俺は半身になって両腕を構えた。
レイトノルフ初日の夜は、長くなりそうだ。
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1
種族:イセア人(日本人▼)
適正職業:なし
状態:健常
生命力:1/1
魔力:1/1(0/0)
筋力:1
耐久力:1
知力:1
俊敏:1
運:1
保有スキル
(【普通(OFF)】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV2》《世理完解LV1》《魂蝕欺瞞LV2》《神経支配LV2》《精神支配LV2》《永久機関LV2》《生体感知LV1》《同調LV2》)
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