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42話 予想外

「なっ!?」


 声を上げたのは、担任だな。


 くるくると回転していく剣身は地面に突き刺さったから、今頃短くなった長剣でも呆然と見てんじゃねぇの?


「しっかりしてくださいっ!!」


 さて、状況は、と確認しようとしたところで、空の代わりに視界いっぱいに映り込んだのは残念先生の必死な形相(ぎょうそう)だった。


 は? 何で残念先生が?


 俺としても想定外の人物の登場に困惑していると、切られたことを思い出したように口から血があふれ出してきた。


「っ、すぐに治療します!! だから、頑張って!!」


 次いで、今にも泣き出しそうな顔を見せたかと思うと、残念先生は魔力を解放。俺の傷口に向けて、かなり強い力で【再生】を施しだした。


「っ!? な、んで……!?」


 しかし、結果は(かんば)しくねぇらしい。


 魔法がかかってんなー、とは俺も感じているが、傷口にはさほど影響を与えているようにも思えなかった。


 傷口が塞がる感覚はあるけど、さっきの学ランみてぇに一瞬じゃねぇ。


 イメージ的にはこう、細胞分裂映像の早回し、ってくらいの速度だな。


 じわじわと埋まるが、その間にも血は流れていく。


 うん、自分で言うのもなんだが、予断を許さない状況は続いてるんだろう。


「やっ!! やあっ!!!!」


 次にフェードインしてきたのは、貞子だった。


 …………あーあー、またボロボロ泣きやがってまあ。


 前髪のすだれから出ていた顔には涙が次々あふれ出し、俺の顔にポツポツと降ってくる。


 俺がいる時、ほとんど泣いてんじゃねぇか、貞子の奴。


 ったく、ちょっと褒めてやったらすぐこれだ。


 貞子の泣き虫は、死ぬまで治らねぇんじゃねぇか?


「どういうつもりですか?」


 血が少なくなってぼーっとした意識の最中(さなか)、今度は温度を感じない会長の声が聞こえてきた。


 え? 何でアンタもいんの?


 次から次へと移っていく状況に、俺自身もついていけずに混乱が続く。


 あるぇ? 当初の予想とは大幅に外れた展開になってきたぞ?


「ちょっと!! アタシと勝負する前にくたばるなんて許さないわよ!! 絶対に、ぜったいにっ、ゆるさないんだからねっ!!!!」


 遅れてやってきたのは、チビ。


 コイツ、俺の最後かもしれねぇ時まで勝負かよ。


 とんだ戦闘狂の魔法使いがいたもんだな?


 っつか、何で涙声?


 あれか? 勝ち逃げされるのがそんなに嫌だったのか?


 どんだけ負けず嫌いなんだよ。


 そこまでいったら筋金入りだな、おい?


「ごふっ……」


 喉に血が引っかかり、たまらず咳をして口の中の血を吐き出す。


 瞬間、胴体の傷からも出血を感じ、頭が一層クラッとした。


 あー、血が足りねぇ。貧血だわ、これ。


「やあっ!!!! やあぁっ!!!!」


「何やってんのよ!! もっと早く治しなさいよ!!!!」


「黙っていてくださいっ!! 気が散るっ!!!!」


 すると、俺を囲んでいた貞子、チビ、残念先生が大声で叫ぶ。


 ……うるせぇなぁ。


「先生、彼の容態は?」


「傷の治りが遅いんですっ!! 理由はわかりませんが、【再生】がほとんど効果を示していませんっ!!」


「そうですか……」


 もっと静かにしろよ、と思っていたところで、会長と残念先生が何事か会話を交わしていた。


 そのすぐ後、俺の願いは叶えられることになる。


 死にかけの体にむち打つような、心臓を握りつぶすほどの殺気によって。


「もし、彼の身に何かあれば、()ります」


 だから怖ぇって!!


 アンタもしかして、さっきから俺にいってんじゃねぇだろうな!?


 あー、くそ。このままじゃ命がいくつあっても足りねぇぞ。


 しゃーねぇ、プラン変更だ。


 予定は狂っちまったが、こうなりゃ今の状況を利用するしかねぇ!


「がっ! げほっ! ごほっ!」


「っ!! 水川(みなかわ)さんっ!! 傷口に(さわ)ります!!」


「…………すみません、取り乱しました」


 まず、ちょっと大げさに咳き込んで見せて、地面に血を吐き出す。ついでに苦しそうな表情もおまけでつけてやらぁ。もってけ泥棒。


 すると、俺の意図に気づいてくれた残念先生が会長へ注意を飛ばし、尋常じゃなかった殺気が一瞬で霧散した。


 ふぅ、これでようやく楽になった。


 何にキレたか知らねぇが、もうちょっと(こら)え性をつけてくれよな。


「はっ、はっ、はっ、はっ、…………すぅ~」


 自然と浅くなっていた呼吸を整えるため、一度大きく息を吸う。


 周りの音が聞こえなくなるくらいの集中力を生み出し、スキルを発動させる。


 使うのは、《限界超越》、《明鏡止水》、《神経支配》、《永久機関》だ。


 ゆっくりと目を閉じ、意識を俺の体内に集中させる。


《限界超越》で効果範囲ギリギリまでスキルを強化。ほぼ十倍にまでなったスキルの効果が、俺の支配に下る。


《明鏡止水》で邪魔な思考の一切を排除。必要なのは、俺が生き残る手段を実現させる演算処理のみ。


《神経支配》で免疫細胞を活性化。痛覚遮断も併用(へいよう)して、傷口から侵入しようとする細菌などの駆除に注力。


《永久機関》で魔力を(かて)に治癒。傷の治療にエネルギーを集中させたせいで、一時的に心肺(しんぱい)機能が落ちるが、生きてるんならそれでいい。


 深く。


 長く。


 呼吸を繰り返し。


 魔力を取り込む。


 俺が持たなかった、スキルを動かすエネルギーを。


 この世界から取り込み、燃やす。


 残念先生の【再生】も利用して。


 回す。


 増やす。


 戻す。


「なっ!?」


 一段と早くなる治癒速度に、誰かが驚愕の声を上げた。


 回復速度を維持。


 俺のスキルだと知られないよう、残念先生の【再生】に紛れてスキルを使う。


 重要なのは、スキルを切るタイミング。


 イガルト人に気づかれないよう、残念先生と同時にスキルを解除する。


 だから、意識の糸は、まだ切らない。


 魔力の感覚だけに注意し。


 俺は。


 スキルを。


 支配する。


「く、っ…………」


 どさっ。


 誰かが、倒れる音。


 そして、残念先生の【再生】が途切れる。


 残念先生の魔力が霧散したことを確認し、俺のスキルも活動を停止。


 傷の具合を確認。


 …………よし。


 一命は取り留めた。今すぐ死にやしない程度には、回復してんな。


 欲を言えば、もっと長時間じっくりと《永久機関》の治療を施したかったが、ここには目がありすぎる。


 本格的な治療は、一人になってからだ。


 とはいえ、この場をどう切り抜けるかも考えなきゃな。


「失礼します」


 え?


 呼吸が落ち着き、次の手を考えていた時、耳元に会長らしい声が入ってきた。


 それに疑問を抱く間も与えず、今度は全身に感じる浮遊感。


 背中と、膝裏に、手の感触が…………?


 って、おいおい!


 まさか、俺!?


「先生は任せます。私は彼を」


「ちっ! しょうがないわね。ほら、行くわよ!」


「…………っ」


 しんと静まり返った訓練場内を、俺は揺られながら移動していく。


 うっわ、やっぱ俺横抱きに、俗っぽく言うとお姫様抱っこされてんじゃん!?


 聞こえてきた声からして、俺を抱きかかえてんのって、会長、だよな?


 で、『異世界人』全員が見ている前で、俺は会長に抱っこされたまま、訓練場を後にしようとしている、ってことで間違いねぇだろう。


 ちょっと待てや!! 逆だろ普通!?


 恥ずい!! 何この羞恥プレイ超恥ずい!!


 ヤメテ会長!! 俺の生命力(ライフ)は1よ!!


 お姫様みてぇな人にお姫様抱っこされるという(はずかし)めを自覚しながら、俺は大人しく運ばれていく。


 傷はある程度塞がったが、まだ油断は出来ねぇからな。《永久機関》も生命維持に力を注いでいるため、目を覚まして抗議も出来ねぇ。


 俺は指一つ動かせないまま運搬されるしかなかった。


 ちなみに、会長のお姫様抱っこは完璧すぎるほど揺れなかった。


 個人的にゃ、こんなアホらしいことで【勇者】のスペックの高さを知りたくなかったけどな…………。




====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:重傷、瀕死


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV1》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV1》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV1》《神経支配LV1》《精神支配LV1》《永久機関LV1》《生体感知LV1》《同調LV1》

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