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41話 vs.『異世界人』

「そこの。お前はこっちだ」


 次々と名前が読み上げられる中、そういや俺、イガルト人にまともに名乗ってねぇような? と思っていた矢先、イガルト人の兵士に呼ばれて先導される。


 他の奴らにゃ敬語で、俺にゃタメ語で『そこの』かよ。


 名乗らねぇ俺も俺だが、コイツらの態度も大概じゃねぇか?


 で、連れてこられたのは広い訓練場のほぼ隅。石や雑草などが放置されていて、明らかに環境が雑だ。


 ざっと確認する限り、中央付近の比較的広く整備されたスペースに実力者が集められているらしく、会長たちもそっちにいる。俺みてぇに端の方にいるのは、ステータス弱者か、戦闘に不向きなスキル弱者か?


【普通】や《生体感知》の反応からしても、訓練場の外側にいる奴らはさほど強くねぇ。こういうちょっとしたところで、明確な差を付けてんだな。


 俺が集められた場所にいたのは、ざっと見教師か表情が暗い奴ばっか。落ちこぼれ組と、戦意喪失組が数十人、ってとこか。俺は前者で組み込まれたらしい。


 審判兼監視役だろうイガルト人も、二人くらいしかいねぇ。言い換えれば、その程度の人数でこの場にいる『異世界人』を制圧出来ちまうほど、肉体的にも精神的にも技術的にも弱い奴らの集まり、ってことだ。


 わざわざそんな奴らまで呼んで合同訓練させるとか、クソ王は何を考えてやがるんだ?


 それに、素直に従う『異世界人(こいつら)』も『異世界人(こいつら)』だ。


 王国への帰属の意思を確認する期限まではまだ時間があり、『異世界人』はまだクソ王の配下ってわけじゃねぇ。やろうと思えばクソ王の要求は拒否できる、はず…………?


 ……まさか、コイツら命令されたからきた、ってだけでここにきたわけじゃねぇだろうな?


 もしそうだとしたら、『異世界人(こいつら)』自主性皆無なのか?


 もう異世界にきて八ヶ月になろうとしてんだぞ?


 そろそろ自分の身の振り方くらい、考えられるだろうが?


 どこまで他人任せで腐ってるつもりなんだ、コイツら?


 何か? 思考停止した状態で、命令されればそのまま死んでいくのか?


『異世界人』の中じゃ下っ端でも、俺より余程恵まれた環境にいて、その体たらくなのか?


 ちっ!


《精神支配》を超えて、俺の中に怒りの感情が()き出るが、表情には出さない。


 こんな奴らでも戦力にしようとしているクソ王のどん欲さも。


 こんな奴らが俺と同じだと思われていることも。


 こんな奴らからでさえも、俺が明らかに見下されていることも。


 何もかも、気に入らねぇしクソ食らえだ。


「では、これより同レベル帯による合同訓練を開始する。まずは…………」


 そうして始まった、合同訓練とやら。


 どうやら一対一の対戦形式をやらされるらしく、ルールは相手を気絶させるか、無力化させるかで勝利。実力差が拮抗している場合が多く、一人につき一試合だけしかしねぇようだ。


 俺はまだ呼ばれず、目の前では淡々と試合が流れていく。


 この組は案の定、他のとこと比べても実力が底辺らしく、面白いようにポンポンと試合が終わっていく。


 何せ、戦意喪失組は全員、戦闘職じゃねぇのが明らかだったからな。


 訓練用の武器を持っちゃいたが、漏れなくへっぴり腰で構えもむちゃくちゃ。俺が《神術思考》で動きの先読みをしなくても、避けれる程度の体捌(たいさば)きしかできていなかった。


 一方的に勝利を収めているのは、中年以降の教師を中心とした落ちこぼれ組。何が嬉しいのか、ほぼ無抵抗の生徒を倒して(えつ)に浸っている表情は、人間の(みにく)さと浅ましさを如実(にょじつ)に示している。


 教師は教師でも、ここにいるのは反面教師しかいねぇな。残念先生をもっと見習えよ、キャリアだけのダメ教師。


 一方で、他の組はかなりの盛り上がりを見せている。特に、会長たちが出向いた訓練場中央の試合からは、歓声が鳴り止まなかった。


 一試合にかける時間も長く、剣戟(けんげき)の音が何度も聞こえていた。拍手喝采が上がれば試合終了の合図になってて、中央一組分で俺ら五組分は試合消化しているから、そこそこ長い。


 イガルト人たちの期待値も高いらしく、ただのギャラリーとして見に行ってる奴もいたくらいだ。相当見応えのある試合が展開されているんだろう。


「そこまで」


 で、俺の前じゃ相変わらずたるい試合が続いている。今もまた、五十代くらいの男性教師が女子生徒の木剣をたたき落として終了した。


 生徒が(おび)えてんのを無視して、イガルト人の審判にドヤ顔してんじゃねぇぞ。こんな底辺同士の争いで上になったって、クソ王のポイント稼ぎになってると思ってんのなら大間違いだ。


 よく見ろバカ。この審判、試合中ずっと心ここにあらずで、ほとんど中央組の試合に集中してんだろうが。


 どうせこの兵士二人も、さっさと面倒を終わらせて中央の試合見てぇなぁ、くらいしか考えてねぇぞ。


 それなのに、アピールの場だと勘違いして格下の生徒に躊躇(ためら)いなく武器を振るうなんて、マジでクソだな。


「最後の試合は、キミヨシ様と、そこの。お前だ」


 この場にいる大人全員に反吐(へど)が出る思いを抱きながら、それでも試合は順調に消化されていく。


 結局最後まで呼ばれなかった俺は、キミヨシとか言う教師と試合をさせられることになった。


「なんだ、お前か平」


 だらだらと開始線まで歩いていくと、相対したのは懐かしの担任様だった。アンタ下の名前キミヨシなのかよ、初めて知ったわ。


 っつうか、アンタも落ちこぼれか。


 他人のこと言えねぇけど、俺のクラスろくなんいねぇな、おい?


「どうも」


「ふん、いつ見てもムカつく顔だ。今日はとことんまで指導してやるから、覚悟しろよ、無能?」


 何だ? コイツ、やけに強気だな?


 それに、召喚された日から顔を合わせたこともねぇってのに、俺のことを『無能』と断言しやがったのも気になる。


 俺を殺しかけた(さき)でも、俺のことは弱ぇ()()()って推測で話を進めていて、断定まではしてなかったんだがなぁ?


 ちら、と審判のイガルト人を横目で確認すると、俺の視線には気づかず俺を見ながら笑ってやがった。


 ちっ、コイツらグルか。


 イガルト人と連携できるっつうことは、担任も本来はこんな()き溜めじゃなく、比較的高ステータス組なのかもしんねぇ。


 そいつをわざわざ引っ張って、俺の情報を漏洩(リーク)したってことは。


「お手柔らかにどーぞ」


 コイツら、ここで俺を殺す気か。


 担任はおそらく、イガルト人からいくつか情報を与えられている。


 主たるもんは、『俺のステータス』と、『イガルト王国から見た俺の立場』。


 前者は俺が簡単に殺せる雑魚であるということ。後者は俺がいなくなった方がメリットがあるという、クソ王サイドが持つ一方的な殺人の正当性だ。


 後は、クソ王の命令に従い、俺を殺せば何らかの報償(ほうしょう)が出る、ってところだろう。


 元々この担任、やたらとプライドが高かったからな。高ステータスの生徒に生意気な態度をとられ続けてきたストレスを、俺を殺すことで解消できるとでも考えたんだろ。


 加えて、クソ王からの覚えもよくなり、報酬(ほうしゅう)までもらえるんだ。担任にとっちゃ、やらねぇ手はねぇ、ってことか。


 さすが大人。汚ぇことこの上ない。


 どこまでも、腐ってやがる。


「では、構え」


 俺は武器すら持ってねぇ、ってのに担任は遠慮なく背中に背負っていた長剣を引き抜いた。


 やっぱ、模造剣や(さや)ごとじゃなく、真剣か。


 担任のピリピリとした雰囲気を感じてか、戦意喪失組の生徒は困惑の表情を浮かべている。逆に、落ちこぼれ組の大半である教師は、俺らの様子をニヤニヤと眺めるばかり。


 生徒にゃ情報を伏せたまま、訓練中の事故で俺が死んだっつうことにする気か。


 で、ここにいる教師の奴らは、担任と同じくイガルト人から作戦は教えられていて、止める気なし、と。


 自分の保身のために、そこまでやるのか、『異世界人』の大人は?


 最低だな。


 が、ちょうどいい。


 少し利用させてもらおう。


「始め!」


 兵士のかけ声と同時、担任が一足飛びに俺との間合いを潰してきた。


 (まばた)きの間に俺の(ふところ)に入り、逆袈裟(けさ)の軌道で長剣を切り上げてくる。


(…………)


 俺は《神術思考》で担任の攻撃を予測し、《精神支配》で感情を落ち着かせつつ、急所に迫る凶刃を見下ろしていた。


 そして、ちょうど俺が想定していた負傷になるよう、タイミングを見計らって後方へ飛ぶ。


 同時に、即死を回避するために【普通】を一時解除して、『種族』を『異世界人』に切り替えた。


「はあっ!!」


 瞬間。


 俺の血飛沫(ちしぶき)が担任の顔を染めた。


「きゃあああああっ!?!?」


 ギャラリーだった戦意喪失組にいた女子生徒が悲鳴を上げる。


 他のスペースで訓練をしていた『異世界人』も悲鳴を聞きつけ、こちらへ視線が集中しようとしていた。


 当然だな。『異世界人』全員に情報共有していなければ、実際に俺を手に掛けた行為を見られた時点で、担任は詰む。


 たとえ俺が『事故死』となったところで、直接手をかけた担任や同じ組になった教師たちの責任追及は(まぬか)れない。


 今後、別の『異世界人』へ手をかける可能性から、ここの教師どもは最悪殺されてもおかしくねぇ。


 んなこと、クソ王は最初(はな)から気づいていたはずだ。知っていながら、担任どもを切り捨てるつもりで、俺を殺す手にしたってことだろうな。


 だが、これでクソ王も多大なリスクを背負う羽目になった。


 なんせ、俺を殺すことに躍起(やっき)になりすぎてて、周りが見えてねぇ。


 ここには『異世界人』全員がいるんだぞ?


 この件がきっかけで、イガルト王国に不信感が芽生えた奴は、必ず出てくる。


 クソ王の想定じゃ、そうした不信感は小さいと予想してるんだろうな。


 俺は『異世界人』から完全に孤立している。召喚前後を問わず、味方をする奴は一人もいない。担任を抱き込んだクソ王のことだから、そうした情報も仕入れたはずだ。


 だから、殺しても影響は少ないと見てるんだろうが、見通しが甘すぎる。


 少なくとも、会長は確実にイガルト王国に不信を抱くはずだ。俺がイガルト人への不信を(あお)ってたのもあるが、今回の俺の件が決定打になるのは必然。


 そうすりゃ、会長一派はほぼ全員イガルト王国への恭順(きょうじゅん)を拒み、戦力はがた落ちするだろうな。


 そんなことにも気づかねぇとは、クソ王も案外抜けてんな。


 雑な作戦で殺そうとするからそうなる。


 後処理はテメェで何とかしろよ。


「そらぁっ!!」


 と、《神術思考》でクソ王を嘲笑(わら)っていると、担任が返す刃で俺にトドメを刺そうとしてきた。


 一太刀目でやられたのは、右下の腹から左上の肩まで。そこそこ深く、されど致命傷には一歩及ばない。


 切り上げ直後に交差した視線で、担任は俺の目から生気が消えちゃいねぇのも気づいたようだ。


 故の、追撃。


 事故と言い訳することができなくなる、確実に俺を殺そうとする意思を込めた、殺意の剣。


 担任は、一切躊躇(ちゅうちょ)することなく、俺へ振り下ろしてきた。


 はてさて、こっちは腕一本を犠牲にすりゃ、止まるかねぇ?


 俺は自身の二度目になる『死』を前にして、恐ろしく冷静に生きる手段を模索していた。


 とりあえず、『異世界人』ステータスで防御すれば何とかなるか? と考えつつ、斬撃軌道に腕を挟み込もうとした、その時。


 ギィンッ!!


 硬質な音が耳朶(じだ)を打ち、担任の持っていた長剣の剣身が宙を舞う。


 俺はその光景を他人事のように眺めながら地面に倒れ込み、イガルト人に魔力を悟られないよう『種族』を『日本人』に切り替えた。




====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:重傷


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV1》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV1》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV1》《神経支配LV1》《精神支配LV1》《永久機関LV1》《生体感知LV1》《同調LV1》

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