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40話 四面楚歌

「落ち着いたか?」


「…………ぇぅ」


 数分後、ようやく離れてくれた妖怪・背後抱きつきグリグリ魔こと貞子は、俺に頭を()でられながら小さく頷く。


 会長と同じくらい貞子の顔が真っ赤なのは、背後から強襲したことを恥じてなのか、ガキっぽい自分の行動を悔いているのか。


 ともかく、冷静になって一気に恥ずかしくなったらしい。


【幻覚】チビよりチビでも、貞子だって高校生だもんな。ガキっぽい行動をしちまったら、そら恥ずかしいわな。


『…………』


 で。


 そんな俺らのやりとりを、背後からものっそい凝視(ぎょうし)してくる会長とチビと残念先生。


 直接確認してねぇってのに、背中に刺さってるのがわかるなんて、目力半端ねぇなアイツら。スキルで物質化すれば、いい武器になるんじゃねぇの?


「にしても、元気そうで何よりだ。あん時と比べりゃ、顔つきが雲泥(うんでい)の差だぞ?」


「…………ぅぅ」


 うつむきがちな貞子の表情を、俺はしゃがみ込んで下から見上げる。


 服装はチビと同じで変わんねぇが、前髪で顔を隠すことをやめたのか、前より表情がよくわかる。


 目元にゃ泣き跡もねぇから、もう一人で泣くことも減ったんだろう。初対面の時に感じたホラー要素は、もう微塵(みじん)も見られねぇ。


 とはいえ、前髪を切った訳じゃなく左右に分けただけだから、髪自体は長いままだったけど。


 んで、不意打ち気味に視線を合わせてやったからか、貞子は慌てて顔をずらし、俺の視線から逃げようとした。


 今度は耳まで真っ赤になってんな。人見知りはばっちり健在らしい。


「っと、悪い悪い。お前は人が苦手だったよな?」


「…………ぁっ」


 貞子の様子を確認した俺は、苦笑混じりに立ち上がる。


 背後で視線の槍を突いてくる(かしま)し娘たちとは違って、貞子は精神的に(もろ)さが目立つからな。進んで嫌がらせをしようなんて思わねぇ。


 それに、貞子は俺唯一のグチ仲間だからな。前のやり取りで嫌われててもそれはそれで構わねぇが、俺から邪険に扱うつもりはねぇ。


 俺が視界からいなくなってほっとしたのか、貞子が小さく声を上げる。


「…………で、そろそろ睨むの、止めてくんねぇっすかね?」


『…………』


 今度は背後の(かしま)し娘たちを振り返ると、返事の代わりに無言と絶対零度の眼差(まなざ)しをもらう。


 何か言えよ、お前ら。


「アンタ、その子とどういう関係?」


 気まずい空気のまま時間が経ち、最初に口を開いたのはチビ。


 そういや、さっきから関係性を聞かれること多いな、俺?


 そんなに俺が人との接点があることが不思議か?


 …………不思議だな、うん。


 俺がコイツらと同じ立場でも、同じこと聞くかもしれん。


「前に一度会ったことがあって、少し話をしただけだよ」


 特に隠す必要もなかったので、肩を(すく)めながら答えてやる。


 すると、会長もチビも残念先生も、揃って怪訝(けげん)そうな表情を俺に向けてきた。


「話を? 【結界】を通じてですか?」


「【結界】? そんなこともできたのか、お前のスキル?」


 残念先生の台詞に素で驚き、俺は貞子に聞いてみた。


 いつの間にか俺の隣で服の(すそ)(つま)んでいた貞子は、俺とは反対方向を向いて、確かに頷いた。


「ほー、そりゃすげぇ。お前のスキル便利だなぁ」


「…………ぅ、ん」


 おそらく、遠方同士の連絡と、ネットワーク構築の『結ぶ』って解釈で使用できたんだろうな。


 イメージ的に、【結界】内の空気を振るわせて声を聞かせる、大気を使った糸電話ってところか? もしくは、ファンタジー特有の念話って線もある。


 言葉の意味から推測した効果じゃ、遠隔からの情報収集だと思って説明したんだが、まさかそんな直接的なことも出来たとはな。


 だったら、吃音(きつおん)も障害じゃなくなって、貞子にゃコミュニケーションがかなり楽になるだろう。


 素直に褒めてやると、貞子は照れくさそうに声を出す。


 …………ん? じゃあ何で俺には使わねぇんだ?


「知らなかったのですか? 彼女、声によるまともな会話はすべて、スキルでしか出来なかったのですけど?」


「…………あー、初耳っす」


 最後に、半眼になった会長がすっげぇ威圧感を放ってきた。


 俺はかなり気後れしつつ、隠すこともねぇから頷く。


 え? 俺だけ? 【結界】なしで会話してたの?


 ……マジかー。俺、まともな会話もしたくねぇと思われてるほど、貞子に嫌われてたかー。


 グチ仲間よ、それは酷くねぇか?


「何よそれ、ズルくない? アタシらだってそこそこつき合い長いのに、まだ一度も悲鳴以外のその子の声、聞いたことないんだけど?」


「そうですね。【結界】越しの声も可愛らしいですけど、やっぱり(じか)に声を聞いた方がもっと可愛らしいでしょうし」


「叫び声以外の彼女の声だなんて…………、(うらや)ましすぎますっ!」


「ちょっと待てお前ら。コイツに今まで何してきたんだ?」


 チビ、残念先生、会長の順で非難を浴びるが、本当にちょっと待てお前ら。


 貞子のまともな声が悲鳴か叫び声って、ぜってぇまともな扱いしてねぇだろ?


 コラそこの三人。目ぇそらしてんじゃねぇよ。


 だから貞子の奴、さっきから俺の(そば)を離れようとしねぇのか。


 マジで何やったんだよ、コイツら?


「…………、何か、大変だったな」


「……っ~~」


 ちょっと可哀想(かわいそう)になった貞子を(なぐさ)めたら、目をウルウルさせて俺を見上げてきた。


 それだけで、貞子の苦労の日々が伝わってくる。


 お前、よく頑張ったよ。


 (ねぎら)いの意味も込めて、頭を撫でてやる。


 ちょうど手を置きやすい位置にあるから、撫でやすいんだよな。


「あっ! ちょっと! さっきからズルい!」


「そうですっ! えこ贔屓(ひいき)ですっ!」


「抗議します! 先ほどから私たちと比べて、明らかに扱いに差があります!」


「ズルいとか贔屓とか差って何だよ。話聞く限り、お前らは加害者でコイツは被害者だろ? どっちの肩を持つかくらい、考えなくてもわかんだろうが」


『うっ…………』


 よーわからん抗議を上げだしたチビ、残念先生、会長に向けてひと睨みしてやると、全員言葉に詰まって勢いをなくす。


 心当たりバリバリあるんじゃねぇか。


 しかも、貞子の奴俺をキラキラした目で見始めてんじゃねぇか。


 まともな会話もしたくねぇ相手に、尊敬の眼差しを向けるほど貞子を追いつめるとか、お前ら鬼か。


「これより合同訓練を開始します。皆さん、兵士たちの指示に従って移動してください」


 ジト目を送ってしばらく、イガルト人の声が訓練場に響いた。


 魔法でも使ってんのか、声を張った様子がねぇのにはっきり聞こえてきたな。


 風属性の魔法か? 拡声器いらずって便利だなぁ。


「ほら、呼ばれてんぞ? さっさと行った行った。……お前もな?」


 順次名前が呼ばれているのを確認して、俺は四人に散るよう声をかける。


 貞子だけは俺の服の裾を持ったままだったから、ゆっくり外してやって背中を押す。


 ちょっと、いやかなり不安そうな顔を向けてきたが、貞子も観念したのかトボトボと会長たちの方へ歩いていく。


 何だろう、貞子を死地に追いやったような気がしてならねぇ。


「……仕方ありません。話はまた、いずれ」


「逃げんじゃないわよ!! 絶対だからね!!」


「私からもお話があります。勝手にどこかへ行ったりしないでくださいね?」


「…………ぅ~」


 最後に、会長は名残惜しそうな顔で、チビは妙に息巻いて指さし、残念先生はやや真剣な目つきで、貞子は売られていく子牛のような目で、それぞれ俺にメッセージを残していく。


 ……貞子よ。そんなに俺との【結界】での会話は嫌か。


 いくらなんでも、俺だってそろそろヘコむぞ?


「わかったわかった。さっさと行け」


 色々思うところがあるものの、全て飲み下した上で、俺はしっしっと追い払うように先を促す。


 別れ際までギャースカ(わめ)いていたのはチビだけだったが、すぐに俺に背を向けて訓練に向かった。


「さて、と……」


 会長たちがいなくなった後、俺は【普通】と《生体感知》に意識を傾けた。


 さっきから気になってはいたんだが、やっぱり勘違いじゃねぇな。


 この場にいるのはイガルト人の兵士や魔法使いと、『異世界人』たちが多数。


 そいつら全員、見事に俺へ『敵意』を放ってやがる。


 会長の脅しと比べればかわいいもんだが、それでも【普通】の警報が鳴りやまねぇくらいには、俺に『異常』が集中しているのがわかる。


 原因なんて、考えるまでもねぇ。


 アイツらと親しそうに話してたから、だな。


 確かに、ビジュアルだけなら四人とも超絶美人だし、『異世界人』としての実力も高いんだろう。地球にいた頃とは違うカリスマを集めていてもおかしくねぇ。


 そんなアイドル的な奴らが、今まで訓練でも見かけなかったような俺に近づき、だけでなく俺を中心に楽しそうに騒いでたら、殺意くらい湧くわな。特に男。


 ったく。


 アイツら、とんでもねぇ置き土産(みやげ)していきやがって。


 もしかして、俺に近づいたのって、これを狙ってたんじゃねぇだろうな?


 俺に敵意が集中するようにわざと探しだし、他の奴らに気づかれやすいように騒いだ、って線も考えられる。


 貞子はちょっと微妙だが、他の会長とかは自分の容姿に自覚くらいあるだろうし、ほぼ九割故意だよな?


 もし故意なら、どうせ俺にさんざん言い負かされたから、って理由の腹いせでやられたんだろう。


 (そろ)いも揃って、俺のことそこまで嫌いだったか。


 そうかよ、わかったよ、お前らが俺をどう思ってるかよぉ~っく理解したわ。


 そんなに俺を消したいかありがたすぎて涙が出てくるぜちくしょう。


 会長たちと会話をした俺に嫉妬してるだろう奴らに囲まれ、俺は独り空を仰ぎ見た。


 やっぱり、そこにあったのは、憎々しいまでに青々とした晴れ空だけだった。




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名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV1》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV1》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV1》《神経支配LV1》《精神支配LV1》《永久機関LV1》《生体感知LV1》《同調LV1》

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