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37話 スキル調査その11

「ふぅ」


 ため息をこぼし、多少は綺麗になった部屋に満足する。


 とはいえ、臭いは完全に落ちてねぇし、ところどころ血痕とかゲロや小便やクソのシミとかは残っちまったんだけどな。


 ゴミ屋敷以上の劣悪環境よりは、大分マシだろ。


 雑巾代わりに使ったごわごわの紙は、トイレであるクソ穴にまとめて突っ込んである。


 汚れた紙はクソ穴からあふれかえってるから、臭いはやっぱりえげつないんだが。


 …………とりあえず、見栄えだけはよくなった、ってことで、我慢しよう。


 さて、現状把握を続けるか。


 ちょうど、体内時計で二週間くらい前に、新しく覚えたらしい《奇跡》と《限界超越》とかいうスキルがレベルマックスになった。


 そこからは怒濤(どとう)のようにアナウンスと新スキルが流れていって、何とか俺は生きている。


『解析』さんはいなくなっちまったが、それを統合した上級スキルはあった。


 ステータスの確認くらいはできるだろう。


 まずは、そっちから確認していくか。


====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:健常


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV1》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV1》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV1》《神経支配LV1》《精神支配LV1》《永久機関LV1》《生体感知LV1》《同調LV1》

====================


 スキル欄がめちゃくちゃすっきりしたな。劇的○フォーアフター並の収納術だぜ。


 とはいえ、まあまあ意味不明で物騒な名前のスキルが多いな。


 ちょっと見るのが怖い気もするが、スキルを一つ一つ見ていくとするか。


====================

《限界超越》

 あらゆる限界をなくす。レベルにより個体限界能力を超えた能力行使を可能とする。LV1につき100%の補正がかかる。任意で発動可能。状態が疲労以上など、特定条件下では自動発動。特定条件下でレベル補正以上の力を引き出せる。ただし、上限以上の力を発揮した場合、相応の反動を負う。レベルによりあらゆる苦痛に対する耐性を得る。ただし、補正の許容限界を超えた干渉を受けた場合、相応の反動を負う。スキルを対象にすることも可能。

====================


 これは『限界突破』のまんま上位互換、って感じだな。


 っつか、上級スキルパネェな。


 LV1につき100%の補正とか。


 つまり、俺もうスキルレベル10だし、最大十倍の補正が得られるんだろ?


 反動もその分キツそうだけど、いざとなったら使わなきゃな。


 今回生き残れたのも、スキル効果にブーストかけてくれた《限界超越》の力が大きそうだし。


 ただ、上級スキルは取得時に漏れなく、「不可能条件がこじ開けられました」とかいう不安になるアナウンスも聞いたがな。


 不可能条件、っつうことは、本来俺が取得できなかったスキルなのかもしれねぇ。


 っつうことは、俺は通常だったら上級スキルの取得はできなかった、ってことか?


 おいおい、どんだけハードモードで異世界を歩かせるつもりだったんだよ?


 これ以降は上級スキルはお預けってか? その可能性高そうだなおい?


====================

機構(ステータス)干渉》

 ステータスシステムに直接干渉できる。レベルにより操作範囲が拡張される。LV1につき操作可能項目が拡張される。特殊上級スキル。個体レベル上昇におけるステータス値ボーナスの分配が任意で可能。状態を任意で変更可能。一定のルールに基づき、スキルの取得・削除を任意で設定可能。個体適性に関わらず、スキルの取得が可能。ただし、適性外スキルを取得する場合、本来の効果の10%しか力を発揮できない。その他、レベル依存でステータスを任意で操作できる。

====================


 気を取り直して、次のスキルを見ていこう。


機構(ステータス)干渉》だが、突っ込みどころ満載だな。


 要するにあれか? ステータスを自分でカスタマイズできる、ってことか?


 大体のゲームでは、レベルが上がった時に得るレベルアップボーナスは、自動で能力値が振り分けられることが多い。


 ただ、一部では自分でステータスを操作し、好みにカスタマイズすることもできるタイプのゲームもある。


 要は、そうしたステータスのカスタマイズが可能、ってことだろう。説明を見る限り、自由度はかなり高そうだな。


 たぶん、俺が(さき)の蹴りを認識した時とか、食らった後に強引な『種族』変更をしたのが、取得した原因だろう。


 しかも、スキルの適性縛りも解いてくれてるらしい。俺でも戦闘系のスキルを取得できるようになったのは嬉しい効果だ。


 が、効果が最大でも10%となると、取得する意義があるかどうか微妙だな。さすがに、そこまで都合よくはねぇ、ってことか。


 で、特殊上級スキル、ってなに?


 さらっと()ってるけど、《限界超越》と何が違うんだ?


 ん~、よくわからん。これも今はいいか。


====================

《奇跡》

 運命や因果を崩壊させる。レベルにより効果・範囲が拡張される。LV1につきほんのわずかに発動確率が上昇する。特殊上級スキル。ごくわずかな確率判定に成功すれば、本来あり得ない結果を引き寄せる。確率判定はスキルが自動で行う。任意発動不可。結果は善悪正否を問わない。効果対象はスキル所持者のみ。スキル所持者の常軌(じょうき)を逸するほどの強い思いにより、確率判定が成功しやすくなる。

====================


 次の《奇跡》だが、見事にぶっ壊れてんな。


 運命や因果を崩壊? 上級とはいえ、たかだかスキルにどんだけの無茶が許されるんだよ? 頭おかしいんじゃねぇ?


 いや、まあ、このスキルのおかげで助かったのは事実だけどさぁ…………。


 んで、強力すぎるスキルではあるが、代償に効果が成功する確率もまた《奇跡》に相応しい低確率だったな。


 何だよ、0.000000000000000000001%って。聞いたことねぇわそんな数字。指折らなきゃ正確に言えねぇわ。


 しかも、《奇跡》は俺の任意じゃなくて、特定条件で自動発動ってのも使いづらい。いつ、どこで、どういう条件で発動すんのかは運次第、ってことだもんな。


 ま、どっちにしろ不確定要素でしかねぇなら、放置しててもいいだろ。


 それに、今回みてぇに《奇跡》の確率を引き上げただろう、『生きたい』という執着心以上の思いなんて、早々出てこねぇだろうしな。


====================

《明鏡止水》

 どんな状況でも無の境地に至る。レベルにより効果時間が延長される。LV1につき1分の維持が可能。《明鏡止水》を阻害する、スキル以外の要因を完全に排除する。思考系スキル使用に大幅な補正がかかる。思考妨害系スキルを無効化する。感情系スキルを無効化する。脳の情報処理能力に大幅な補正がかかる。理性と合理的思考のみが働き、感情の一切を停止させる。ただし、使用すればするほど感情が生じなくなる。

====================


 その次の《明鏡止水》は、『冷徹』の上位互換だな。


 にしても、無の境地て。悟りでも開けんのか、俺?


 効果も分単位になったし、レベルが上がれば使い勝手が良さそうだ。


 ただ、何度も使えば感情が生じなくなる、って大丈夫かよ?


 あれか? あんまり感情を停止させ続けると、感情の出し方を忘れる、ってことか?


 おいおい、下手すりゃ今以上にコミュニケーション能力がなくなりそうじゃねぇか?


 …………あ。


 俺にコミュニケーション取れるような相手、いなかったわ。


====================

《神術思考》

 人智を超越した思考を得る。レベルにより思考能力が拡張される。LV1につき1世界の思考空間が拡張する。特殊上級スキル。思考速度を任意で延長・短縮できる。思考領域を任意で分割・自動化できる。スキル所持者の記憶を任意で再生・削除ができる。あらゆる情報を統合して未来予測演算ができる。未知の事象・現象・生態などをあらゆる手段から定義できる。ただし、思考の空き容量が少なくなると処理速度が低下する。

====================


 その次の《神術思考》だが、スーパーコンピューターか何かか?


 スキル取得のアナウンスから、『高速思考』、『並列思考』、『未来予知』、『完全記憶』、『究理』が一緒になった、ってことだし、間違いじゃねぇのかもしんねぇが。


 っつうか、「LV1につき1世界の思考空間が拡張する」ってなんだよ?


 1世界って単位、初めて聞いたわ。


 まさか、俺らがいる異世界の広さを1とした時の単位とか?


 あっはっは。んなバカな。…………そうだよな?


 そ、それは置いといて、デメリットはいろいろやりすぎると思考能力が落ちる、ってことか。


 いくら巨大な思考空間の容量があるとはいえ、有限であるのに変わりはねぇ。


 特に未来予測なんざ無限に広がるような演算なんかしちまえば、あっという間に容量不足に陥りそうだな。


 なんか、本当にパソコンみてぇなスキルだな。わかりやすくていいけどよ。


====================

世理完解(アカシックレコード)

 世界の創世(そうせい)から終焉(しゅうえん)までの記録の閲覧許可を得る。レベルにより閲覧権限が上昇する。LV数に応じて、10段階に分かれた世界の記録にアクセスできる。特殊上級スキル。世界に登録されたあらゆる情報を閲覧できる。世界への情報登録は、世界にその事象が発生した時点から自動登録される。情報登録の抹消はなされず、情報は無限に蓄積していく。世界情報への閲覧許可を得るだけで、世界情報への干渉はできない。閲覧権限を上昇させるには、閲覧可能権限の知識すべてを把握すること。ただし、スキル所持者の過去・現在・未来の情報に関しては閲覧可能情報から抹消されている。(世界は単一ではない)

====================


 次の《世理完解(アカシックレコード)》なんだが、完全にアウトだろ、これ?


 世界の始まりから終わりまでの記録を閲覧できる?


 人の身に余るわ、そんな能力。俺に預言者でもやれってか?


 まあ、すべての記録を読み解こうとすれば、レベルを最大に上げなきゃいけねぇみたいだがな。


 レベルを上げる条件も、覗き見できる情報全部覚えとかなきゃなんねぇみたいだし、かなり条件キツいな。


 世界が記録している情報なんて、どんだけ膨大なんだよ? って話だ。


 重要度で10分割されてるとはいえ、生きている内にレベルが1か2でも上がれば大したもんなんじゃねぇの?


 あと、このスキルじゃ閲覧はできても干渉はできない、ってなってんな。


 つまり、《世理完解(アカシックレコード)》は図書館の入館証みてぇなもんで、司書なんかの立場じゃねぇから管理はできない、ってことだ。んなヤベェ情報をいじくろうとは思わねぇけどな。


 んで、自分の情報は見れない、ってのは当然だろう。っつか、俺は見たいとも思わねぇし、どうでもいい。


 最後に、ちらっと怖ぇこと書いてあんな。


「世界は単一ではない」、かぁ。


 これって、暗に異世界だけじゃなくて地球のことも言ってるよな?


 まさか、《世理完解(アカシックレコード)》で地球の記録も閲覧できるなんてことは、…………よし、次に行こう。


====================

魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)

 魂を侵蝕するレベルの訂正不可能な認識改変を行う。レベルにより侵蝕率が上昇する。LV1につき10%の補正を得る。特殊上級スキル。任意で発動する。スキル所持者の言葉・思想・価値観・認識などが対象のそれを塗りつぶす。必要条件は会話が成立すること。一度植え付けた認識は、スキル保持者が訂正するまで対象に残り続ける。対象は自他を問わない。ただし、生物であっても自我・脳・精神のいずれかがない対象には効果がない。

====================


 次の《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》も、普通に怖ぇよ。


 今度はあれか? 俺に新興宗教の教祖にでもなれってのか?


 このスキルはつまり、(たち)の悪ぃ洗脳の超強力版、ってことだろ?


 スキルのベースは『詐術』っぽいし、それで間違いなさそうだ。


 任意発動のスキルでよかったよ。こんなもん、常時発動でやられたらたまったもんじぇねぇぞ。


 日常会話すら成り立たねぇじゃねぇか。


 会話する相手、いればいいけどな…………。


 そういや、あん時アナウンスで《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》で精神の暗示を行った、っつってたな? 対象は自他を問わない、ってのも健在らしい。


 あ~、死にかけたのに妙に落ち着いてんのも、その暗示とやらが要因の可能性があるな。後で色々検証して、暗示とやらは戻しとこう。


 デメリットは、チビのユニークスキル【幻覚】の欠点に近いっぽいな。発動条件が会話の成立だし、効果的に精神攻撃の類だから、仕方ねぇか。


====================

《神経支配》

 神経系を支配する。レベルにより支配領域が拡張される。LV1につき10%の神経系を支配する。特殊上級スキル。任意で発動する。神経系の入力・出力によって生じるすべての神経活動を支配できる。運動・免疫・感覚などの身体活動から、記憶・感情・思考などの精神活動まで、神経系で行われるすべてが対象。支配領域となった部分は、スキル所持者の任意で操作可能。対象はスキル所持者のみだが、特定のスキルにより他者も対象となり得る。ただし、過剰な神経系の支配操作は神経系に深刻なダメージを与える。

====================


 次の《神経支配》。これはアカン。アカン奴や。


 関西人でもねぇのに関西弁を使っちまうほど、このスキルはヤバい。


 だってこれ、要するに生物を神経学的に支配するスキルだよな?


 しかも、対象は基本俺だけだが、特定のスキルで他の生物も対象にできるって、問題しかねぇ。


 やりようによっちゃ、さっきの《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》よりも直接的に人間を支配できるぞ、これ?


 本当に上級スキルかよ? 本当はユニークスキルなんじゃねぇか?


 まさか、特殊上級スキルって、ユニークと上級の境界にあるスキルってことなのか?


 ま、まあ、レベルが低けりゃ、大丈夫だろ。多分。


 俺が最初に使ったのは、痛覚遮断、っつってたな。


 一応、メリットになりそうな効果もあるんだから、極悪な使い方については目を(つむ)ろう。


 次だ、次。


====================

《精神支配》

 感情を支配する。レベルにより支配領域が拡張される。LV1につき10%の感情を支配する。常時発動時は『冷徹』の効果が維持される。他の感情は任意で発生する。感情系中級スキルを制限なく再現する。基本的なスキル規則は、感情系中級スキルに依存する。ただし、感情の方向性は不定である。また、効果は精神状態に関わらず、支配領域内で任意に設定可能。効果終了後、発動の程度により精神状態は無に近づく。

====================


 えーっと、つまり感情系スキルのごった煮、ってことだな?


《神経支配》と同じく支配ってついてるから類似のスキルかと思ったが、ある意味《神経支配》の下位互換っぽい。


 デフォルトが『冷徹』なのは助かるのかそうじゃねぇのか。


 だったら俺本来の感情はどこいった? って疑問には誰か答えてくれるんだろうか?


 感情の方向性が不定、ってことは正負の感情がカオスな状態で混在もあり得る、ってことか。試したいような、恐ろしいような。


 あと、効果終了後に精神状態が無に近づくって、無気力ってことか? 使いすぎたらヤバそうだな、おい。


 効果からして、俺の落ち着き具合は《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》だけじゃなく、《精神支配》の影響も強そうだ。どうやって戻すんだ、これは?


 まあ、色々試せば使い勝手もわかるだろ。


====================

《永久機関》

 大気中の魔力を動力源にし、永久的な生命活動を可能とする。レベルによりエネルギー運用効率が上昇する。LV1につき10%の魔力変換効率を得る。特殊上級スキル。常時発動し、任意解除不可。呼吸で取り込んだ魔力を、あらゆる生命活動に必要なエネルギー源として変換・操作・運用する。生成されたエネルギー・細胞などに含まれる魔力は大気中に還元され、生命活動のために消費された魔力を無限循環させる。スキルで生成されたエネルギー・細胞などの成果は、魔力還元によって消失することはない。ただし、スキル所持者は常に魔力を大気に還元するようになり、魔力が自然に回復することはなくなる。また、スキル所持者の生成するエネルギー・細胞などには一切の魔力が残らず、すべて大気に還元される。

====================


 次の《永久機関》だが、魔力をいいように使って物理法則を完全に無視していらっしゃる。


 説明を要約すれば、最終的には大気中の魔力さえあれば、食事も睡眠もとらずに生きていけますよ、ってことだな。


 何それ化け物じゃん。地球で言うところの(かすみ)食って生きる仙人じゃん。


 とはいえ、それは俺が魔力0の『日本人』だから言える話だろうな。この世界の住人なら、魔力の還元がかなりのネックになりそうだ。


《永久機関》の説明にある性質から、このスキルは取得した瞬間から体内に魔力を維持、蓄積させることが出来なくなるんだろう。


 イコール、他のスキルや魔法で消費した魔力はおろか、日常生活を送るだけでも魔力が急速になくなっていく、ってこと。


 この世界の主な魔力の回復手段は、効率の順で言えば食事<休息<睡眠だ。


 食事は消化の途中で食べ物から魔力を抽出し、休息は大気中の魔力を取り込み、睡眠は休息以上の効率で魔力を体内に取り込むんだと。


 んで、この世界の人間が魔力を回復させるのにもっとも必要なのが、睡眠だ。


 食事はそもそも食べ物が含む魔力量が少なく非効率で、休息は睡眠と同じ時間でも得られる魔力は微々たるもんらしい。


 そんな中、《永久機関》は二十四時間稼働しているのに対し、人間の睡眠時間は個人差があるもののおおよそ六時間程度。


 一日の内、睡眠で回復する魔力量よりも、圧倒的に大気に還元されるという魔力量の方が多いはずだ。


 他の魔力回復手段として、ポーション的なアイテムも存在する。


 が、相当高価で一般人じゃそうそう入手できねぇ。ついでに、素材も希少だから作ることも簡単じゃねぇ。


 つまり、《永久機関》の取得は、この世界の住人にとっちゃ必要不可欠な『魔力』を体内から失わせるに等しい。


 この世界の人間は魔力量が0になったら、脱力感や倦怠感から動けなくなる。


 よって、《永久機関》所持者の末路は、寝たきりの病人のようになっちまうんだろう。


 常時発動だし、取得してからの時間経過でレベルが上がるだろうから、今後一生の魔力消費に怯えることになりそうだ。地球で言うところの奇病や難病だな。


 が、一転して『日本人』の俺には名前の通り《永久機関》になる。


 何せ、『日本人』にとっちゃ魔力は大気に含まれる『異物』なんだ。


 ずっと無駄に摂取し、無駄に放出していただけの、本当に無駄な物扱いだったからな。


 それを生命活動に有効活用できるんだから、願ったり叶ったりだ。ロスがなくなり、ものすごいエコを体現できる。


 おそらく、俺がこの二週間で食事をとらずに傷を治癒できたのも、この《永久機関》がフル稼働したからだろうな。


 呼吸で取り込んだ魔力から、生存に必要な栄養と、傷を修復するためのエネルギーを捻出した、ってところか。


 デメリットである魔力の還元だが、そもそも俺の魔力最大保有量は0だ。


 なくなったところで害があるわけじゃねぇし、ずっと魔力0で生活してきたから不便もない。


 疑問なのは「スキルで生成されたエネルギー・細胞などは、魔力還元では消失しない」って点だ。


《永久機関》で作った『エネルギーや細胞など』は魔力で創造されるが、説明からして創造された『それら』は発生した時点で魔力を有していることになる。


 じゃあ、大気に還元される魔力はどういう理屈で発生するんだ?


『エネルギーや細胞など』を生み出したり使用したりすれば、その都度魔力が消費されるのはいい。


 俺の場合、餓死を防ぐための栄養の生成と、もろもろの外傷を治癒する過程で、相応の魔力が消費されているはず。


 なのに、消費した時と同量の魔力が、魔力を消費して生成した『エネルギーや細胞など』に初めから含まれてんだろ?


 んで、それを大気に還元して、魔力を無限循環させる、と。


 さて、一体どういう理屈で、消費されたはずの魔力を含んだ状態で、『エネルギーや細胞など』が創造されるんだ?


 この世界には万物に魔力が宿っていて、何らかの方法で創造された物質にも、生まれた瞬間から相応の魔力が宿っているのが絶対的な物理法則、ってことなのか?


 …………やめだ、やめ。こんがらがってきた。


 なんたって、地球じゃ《永久機関》は実現不可能な概念なんだからな。


 ここはもう、『異世界だから』ってことで納得しとこう。


====================

《生体感知》

 生物の気配、および魔力の反応を感知する。レベルにより精度が上昇する。LV1につき100mの感知を可能とする。任意で発動する。常時発動も可能だが、有効範囲は10%に低下する。対象が隠蔽系スキルを使用していると、効果が相殺される。任意で生物の気配のみ、あるいは魔力のみを感知することも可能。魔力を帯びた物質のみ、生物以外の無機物も感知可能。スキル発動には微量の魔力を必要とする。また、この世界に本来存在しない『種族』は感知不可能。

====================


 次の《生体感知》は、中級の『気配察知』と『魔力察知』が合体したようなスキルだな。


 上級スキルですっげぇ有用なんだが、今までのスキルがパンチありすぎて、説明が柔らかく見える不思議。無性にほっとするわ。


 が、このスキルの最大の欠点は、「スキル発動には微量の魔力を必要とする」ってところだな。


 俺の場合、『種族』が『異世界人』の時にしか使えねぇじゃん。


 まあ、『日本人』の時には【普通】で代用できるから、別にいいか。あって困るもんでもねぇし。


 でも、さっき『日本人』で《生体感知》ができてたよな?


 もしかして、《永久機関》で取り込んだ魔力で発動してんのか?


 だったら、デメリットはねぇって考えて良さそうだ。


 最後に、「この世界に本来存在しない『種族』は感知不可能」って、『日本人(おれ)』のことじゃねぇだろうな?


 俺って、ステータス的な存在感も魔力もうっすいが、そういうことか?


 余計なお世話だと言いたい。


====================

《同調》

 他の存在とスキル所持者を《同調》させる。レベルにより同調率が上昇する。LV1につき10%の《同調》が可能となる。任意で発動し、効果は任意で解除しない限り永続する。対象のあらゆる事象をスキル所持者が認識・掌握する。効果の内容に善悪正否を問わない。他の生物と《同調》しても、スキル所持者の存在を脅かす影響はない。対象の数は無制限で、有機物・無機物を問わない。ただし、《同調》は対象に直接・間接を問わず接触する必要がある。また、《同調》した対象をスキル所持者の干渉で変化をもたらす場合、正確に対象を認識していなければならない。

====================


 最後の《同調》だが、アナウンスを思い出す限り『共感』の上位互換だな。


 イメージ的には、俺が他の存在を乗っ取り、端末化させるってところか?


 説明の中にあった「対象のあらゆる事象をスキル所持者が認識・掌握する」ってのが、そう感じた理由だ。


 つまり、誰かに《同調》を仕掛けたら、五感やステータスなどを俺が把握し、かつ操作できるんだろ?


 んで、《同調》の対象は無限に選択でき、生物じゃねぇ石とかの無機物にも対象にできる。


 何となく、吸血鬼とかバ○オハザードの感染拡大! って感じがするな。生物限定じゃねぇから、こっちのが(たち)悪ぃけど。


 それから、《同調》を相手にかけるには条件がいる。


 俺が対象に直接触れるか、すでに《同調》をかけた人や物体に対象を触れさせるか。


 つまり《同調》に接触させなきゃいけねぇ。


 ちょっと手間だが、ネズミ講みてぇにすりゃ、《同調》の感染者は無限に広がっていきそうだな。


 俺の方から《同調》の対象に干渉するには、その対象を俺がどこの誰かを個別に認識する必要があるらしい。


 とは言うものの、《神術思考》があっからどんだけ対象の数が増えようが問題ねぇだろ。思考を分割すりゃ、それだけ対象を個別に認識できるだろうし。


 で。


 ここからが、かなり重要な内容だ。


 もし、《同調》した状態で《機構(ステータス)干渉》とか《神経支配》とか《精神支配》とか《永久機関》とかを発動して、対象に影響を与えられたとしたら?


 俺、《同調》を悪用すれば、この世界の人間を簡単に殺せるんじゃねぇか?


 下手すりゃ、《同調》の使い方次第で『異世界人』でも殺せるんじゃねぇか?


 その答えは、『100%可能』だ。


 推測じゃなく、もう俺はそれと似た手法で、実際に5人は殺してるんだからな。


 そう、俺の監視役だった密偵どもだ。


 あの時のぼんやりした記憶を思い出す限り、あいつらと思しき悲鳴を聞いたとき、発動していたのは《同調》だった。


 アナウンスの内容を思い出す限り、密偵どもに《同調》させたのは、俺が死にかけた直後の『ステータス』。


 腕がへしゃげ。


 足が砕かれ。


 内蔵がいくつも破裂した『状態』で。


 なおかつ魔力は0でステータスがオール1。


 この世界の人間じゃ、即死確定の条件だろうな。


 俺だって、未だに生きてるのが信じられねぇ『ステータス』だったし。


 ただ、今俺があの時と同じことができるかと言えば、否だ。


 何せ、あれは自動化された《神術思考》と《世理完解(アカシックレコード)》が勝手にやったことだし、何より《奇跡》で効果が爆上げされていたから可能だったことだろう。


 スキルレベルが1の俺じゃ、《同調》範囲は10%しかねぇ。その程度じゃ、やれることは(たか)が知れてるってこった。


《同調》のレベルがマックスになれば、できるんだろうけど。


 無意識にスキルがやったこととはいえ、えげつないことをやっちまったもんだ。


 後、今んところ精神がいじられてるせいか、殺人を自覚した忌避感も後悔も全くねぇ。


 …………感情系スキルの経験上、今から反動が恐ろしいな。


 まあ、スキルについてはこれくらいか。


 我ながらエグい上級スキルが(そろ)ったもんだ。


 だが、これで。


 死にかけたおかげで。


『異世界人』のステータス以上の『力』を手にすることができた。


 そう考えれば、紫との出会いは感謝すべきことなんだろう。


 この二ヶ月の地獄を思い返せば、素直に感謝なんてできるはずねぇがな。


「…………さて」


 望外の『力』を手に入れた俺は、とりあえず寝ることにした。


 だって、この二ヶ月と二週間、まともに寝てねぇんだぞ、俺?


 少しは体を休ませる時間くらい、あってもいいだろ?


 一応、《永久機関》があるから睡眠の必要性はない。


《永久機関》取得時、「結合されました」という中級スキルん中に『不眠』や『覚醒睡眠』もあった。


 よって、《永久機関》があれば、一生寝なくても大丈夫な体にはなってんだろうと予想がつく。


 だからといって、人間に必要不可欠な行動すら取らなくなっちまったら、人間らしさを失いそうで怖い。


 後は、イガルト王国側の新しい密偵が現れても、前までの生活サイクルをすぐに見せられるようにしておくことも必要だしな。


 生命維持には不必要でも、心情や打算から必要な行動に変わりねぇってことだ。


 ってわけで、寝る。


 多少、いや、ものすごく牢屋(へや)ん中が臭ぇが、我慢しよう。


 全裸のままじゃさすがに風邪引きそうだったし、無事な紙を集めて布団代わりにする。今更汚ぇ学生服を着る気は起きねぇしな。


 石のベッドにもシーツ代わりに紙を引き、寝ころんだ。痛ぇし臭ぇな。


 あ、《神経支配》で痛覚と嗅覚を遮断しときゃ、いけるか?


 ……うん、いけた。


 ファ○リーズも真っ青な即効消臭効果だぜ。


 ってわけで、お休みー。



====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:健常


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV1》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV1》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV1》《神経支配LV1》《精神支配LV1》《永久機関LV1》《生体感知LV1》《同調LV1》

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