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36話 生還


 ※注意

 この話は前回に引き続き、残酷描写があります。というか、前回の残酷表現の理由をものすごく淡々と説明しています。

 作者が書いておいてなんですが、決して愉快な内容ではありませんので、想像力が豊かな方、あるいはグロ耐性が全くない方にはあらかじめお勧めしません。それでもよろしければ、読んでやってください。


 ……。


 …………。


 あれから。


 (さき)と遭遇してから。


 おおよそ。


 ()()()が。


 経った。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」


 俺は。


 未だに。


 死と。


 闘っている。


「ぐっ! あぐっ! …………んぐぅっ!!」


 血に濡れた紙。


 ゲロで汚れた紙。


 小便で臭ぇ紙。


 それらを。


 丸めて。


 口に。


 入れる。


「うぐぅ!? おげえええええぇぇぇぇぇ!!!!」


 堪えきれなくて。


 時々。


 ()く。


 不完全に溶けた紙。


 胃液でふやける紙。


 鼻を壊した臭いの紙。


 それでも。


 俺は。


 口に。


 運ぶ。


「はぁ、はぁ、はぁ、うっ! あぐぅっ!!」


 思考。


 0.159%。


 回復。


 肉体。


 0.547%


 回復。


 生きる。


 それだけが。


 俺の。


 原動力。


「経験値が一定値を超えました。《奇跡》がLV8になります」


 聞こえる。


 アナウンス。


「経験値が一定値を超えました。《限界超越》がLV8になります」


 また。


 上がる。


「経験値が一定値を超えました。《奇跡》がLV9になります」


 生きるための。


 行動で。


「経験値が一定値を超えました。《限界超越》がLV9になります」


 スキルが。


 上がっていく。


「経験値が一定値を超えました。《奇跡》がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」


 そして。


「経験値が一定値を超えました。《限界超越》がLV10になります。スキルレベルが最大になりました」


 その時が。


「特殊上級スキル《奇跡》がレベル最大になりました。特殊上級スキル《奇跡》の発動条件を確認しました。一定確率で運命の因果崩壊を行います」


 ついに。


「…………、判定完了。《奇跡》発動における0.000000000000000000001%の確率判定に成功しました。『絶対(ユニーク)スキル』・【普通】は沈黙しています。『絶対(ユニーク)スキル』・【普通】の妨害はありません」


 訪れた。


「個体名『平渚』における『絶対(ユニーク)種族』・【日本人】の因果が崩壊しました。これより《奇跡》を実行します」


 ドクンッ!


「《奇跡》の効果により、《限界超越》が強制発動しました。《奇跡》の効果上限を無視します」


 ドクンッ!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《明鏡止水LV1》を取得します。なお、『冷徹』、『不屈』は《明鏡止水》に結合されました」


 ドクンッ!!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《神術思考LV1》を取得します。なお、『高速思考』、『並列思考』、『未来予知』、『完全記憶』、『究理』、『限界突破』は《神術思考》に結合されました」


 ドクンッ!!!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《世理完解(アカシックレコード)LV1》を取得します。なお、『解析』、『未来予知』、『完全記憶』、『究理』、『限界突破』は《世理完解(アカシックレコード)》に結合されました」


 ドクンッ!!!!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV1》を取得します。なお、『解析』、『詐術』、『究理』、『弁駁(べんばく)』、『教授』、『共感』は《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》に結合されました」


 ドクンッ!!!!!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《神経支配LV1》を取得します。なお、『詐術』、『失神』、『不眠』、『覚醒睡眠』、『麻痺』、『過負荷』、『共感』は《神経支配》に結合されました」


 ドクンッ!!!!!!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《精神支配LV1》を取得します。なお、『冷徹』、『不屈』、『激昂』、『恐慌』、『失神』、『憎悪』、『嫉妬』、『羞恥』、『傲慢』、『無謀』、『失望』、『歓喜』、『抱腹絶倒』、『安堵』、『慟哭』、『怠惰』、『沈鬱』は《精神支配》に結合されました」


 ドクンッ!!!!!!!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《永久機関LV1》を取得します。なお、『限界突破』、『悪食』、『省活力』、『不眠』、『覚醒睡眠』は《永久機関》に結合されました」


 ドクンッ!!!!!!!!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《生体感知LV1》を取得します。なお、『気配察知』、『魔力察知』は《生体感知》に結合されました」


 ドクンッ!!!!!!!!!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《同調LV1》を取得します。なお、『共感』は《同調》に結合されました」


 熱い。


 心臓が。


 アツイ。


「《明鏡止水》、《神術思考》、《世理完解(アカシックレコード)》が緊急発動しました。『状態』を健常とするため、思考を自動化します」


 それなのに。


 頭は。


 真っ白だ。


「《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)》、《神経支配》、《精神支配》、《永久機関》が強制発動しました。精神の暗示、痛覚遮断、負の感情遮断、個体名『平渚』の肉体修復が行われています」


 思考が戻る。


 体が動く。


 呼吸が落ち着く。


「第一生存優先順位、処理中。第二生存優先順位を確認。《生体感知》が『敵性存在』を5体確認しました。個体名『平渚』の脅威と判断されました。《同調》を強制発動します」


 俺の知らない間に。


 次々とスキルが勝手に発動していく。


 なんだか、妙な気分だな。


「直接接触により『王城』が《同調》しました。間接接触により5体の『敵性存在』が《同調》しました。『敵性存在』のみを対象に設定しました。《世理完解(アカシックレコード)》から抽出した現世界時間軸における、二ヶ月前の個体名『平渚』の『ステータス』を《同調》させます」


『ぎゃああああああああああっ!?!?!?!?!?』


 ……うるせぇなぁ。


 どこのどいつだ、俺以上に騒ぐバカどもは?


「第二生存優先順位、遂行完了。新たな『敵性存在』の接近が確認されるまで、第一生存優先順位に注力します」


 痛みがなくなって。


 骨が固まって。


 筋肉が繋がっていく。


「思考領域、ならびに肉体修復率が50%に回復しました。蘇生活動を続行します」


 ああ。


 俺は。


 勝った。


「思考領域、ならびに肉体修復率が100%に達しました。個体名『平渚』の『状態』が健常であることを確認しました。《神術思考》、《世理完解(アカシックレコード)》の自動演算処理を終了します」


 理不尽に。


『死』に。


 勝ったんだ。




《奇跡》が発動してから、二週間。


 それが、俺の肉体を完全に回復させるために必要だった時間だ。


 スキルの言葉通り、《奇跡》の生還を果たしてから、数時間。


 俺は、奇妙な感覚に、首を傾げていた。


(ん~、やっぱり、変だ)


 体に不調はねぇ。


 むしろ絶好調だ。


 地球にいた頃と同じ、体感的には何の不自由もねぇ状態といえる。


 だからこそ、変なんだ。


(『日本人』の、【普通】で定まった俺のステータス値を考えりゃ、楽すぎる)


 (さき)のクソ野郎に殺されかけるまで、俺は五ヶ月間体力づくりに励んできた。


 それで体力は向上したし、日常生活において、歩くだけで息切れするなんてことはなくなった。


 だが、それでも補えない体力や筋力や耐久力の低さが原因で、俺は常に気だるさを覚えながら生活してきたんだ。


 なのに、それがまるっきり消えている。


 喜ぶべきことなのに、なんか気持ち悪ぃ。


(それに、精神状態も、落ち着き過ぎじゃねぇか?)


 加えて、俺の思考も明らかな異変があった。


 紫に殺されかけ、糸の繊維で綱渡りさせられたような地獄をかいくぐって、生還した俺に。


 紫に対する怒りも恨みも殺意も。


 何も浮かばねぇ。


 別にそんなウザい感情に満たされたいとか思ってねぇけど、人として当然の感情が発生しないのは、自分のことながら不気味さを覚えてしまう。


 たとえるならば。


 草すら揺れない無風。


 鏡のような水面。


 それが今の俺の精神状態と言える。


(後は、クソ王の監視が消えてる)


【普通】はまだ切ったままだが、《生体感知》とかいうスキルは生きている。


 それによると、俺の周囲にいる生物は、別の牢屋にいるだろう反応ばかり。


 ずっと俺を監視していたはずの存在が、一切感知できなくなっていた。


 体や心のことも気がかりだが、それが一番気になって気色悪ぃ。


(どういうことだ? 俺が死んだものと判断して、密偵を下げさせたのか? …………わからんな)


 何せ俺は、三途の川から戻ってきたばっかで、なんも状況がつかめてねぇんだ。


 この二ヶ月と二週間で覚えているのは、まさに地獄のような毎日だけ。


 最初の判断は、ほとんど無意識だった。


 紫の蹴りが入る直前、俺は【普通】を解除して『種族』を『異世界人』に変更した。


 ステータスのテコ入れをして、少しでも生存率を上げるためだ。オール1で攻撃を受けるほど、無謀じゃねぇし。


 そして、ぎりぎりで腕を防御に回せて、攻撃を食らった後。


 ほぼ無意識で、俺は生命力が0になる前に、『種族』を『日本人』に戻して【普通】を使った。


『種族』を変えたり、【普通】を起動させることで、生命力の減少を止める、あるいは【固定】されることを期待したわけだが、まさかうまくいくとは思わなかった。


 無駄かもしんねぇ行為だったが、やるだけやってみるもんだ。


 そのおかげで、こうして命拾いをしているんだからな。


 とはいえ、その後も俺の死線は続いていた。


 紫が去った後、ほとんど機能しなかった頭で考え、まず思いついたのは俺が死ぬ条件だ。


 一つ目は、意識がなくなること。


 生きるという意志を手放すと、眠ったまま一生起きれず、確実に死ぬと判断し、意識を保ち続けた。


 眠気は『不眠』で誤魔化し、『覚醒睡眠』も使って起きる努力をした。


 それでも寝そうになったら、『過負荷』や一部感情系スキルで強制的に意識を覚醒させていた。


『過負荷』で頭痛を与えて生きていることを確認し。


『激昂』で脳を興奮させて紫への怒りをたぎらせ。


『憎悪』で紫への復讐心で生への執着をより強固にし。


『歓喜』で生き延びた自分を妄想して鼓舞し。


『抱腹絶倒』でぐちゃぐちゃになった腹をかき回した痛みで起きる。


 それを繰り返し、この二ヶ月は一睡もしていない。


 条件の二つ目は、生きるための水分と栄養だ。


 人間の体をつくり、活動させるために必要な水分と食事を、どうやって確保するか。


 ほとんど潰れた思考ではじき出したのは、『悪食』と『省活力』による強引なエネルギーリサイクルだ。


 イガルト王国に救援要請をしたところで、俺を助けようとするはずがねぇから、一人で何とかするしかねぇ。


 しかし、ぼろぼろの俺には食料を調達できる手段も当てもねぇ。


 加えて、放っとけば紫の蹴りで潰れた内蔵から血があふれ出し、ショック死か失血死しちまう。


 何とかして食事をとり、餓死しないためのエネルギーと、失った血を作るためのエネルギーは最低限必要だった。


 それで俺がとったのが、俺自身が吐き出したもんを何回も食って、エネルギーを循環させ続けること。


 失った血や栄養を、体が捨てたもんで補おうとしたんだな。


 口から吐き出した血液は新しい血を作る材料にし。


 ゲロは何度も胃に入れることで消化し損なった栄養素も根こそぎ消化し。


 小便は体外に流れる水分を極力減らすために口にし。


 時には大便も拾って食った。ほぼ血便だったから、血の味しかしなかったが。


 気が狂ってるとしか言いようがねぇが、俺にできた手段はそれしかなかった。


 で、それを実行しようと思ったら、俺が吐き出す水分をとどめる何かが必要だった。


 こぼせば水分は大なり小なり地面に浸透し、俺が摂取できる量が減っちまう。


 それを可能な限り防げると思ったのが、メイドに運ばせた大量の紙だ。


 奇跡的に俺の死に体を見つけたメイドを脅し、牢屋に戻させた俺は、まず紙の山を強引に倒した。


 俺が残してきた五ヶ月分の記録や、白紙の紙も混じってたが、あの状況下で選別なんて出来ねぇからな。


 石の地面に広がった大量の紙に、俺は血とゲロと小便を含ませたんだ。


 これにより、地面に吸い取られるはずの水分を、極力紙にとどめ置くことができた。


 さらに、摂取し直す時も紙という固形物になってっから、液体をすくって飲むよりも効率がいい。


 結果的に、俺が吐き出した血やら何やらの流出をかなり減らせ、二ヶ月もの生存を可能としたわけだ。


 とはいえ、俺が『悪食』と『省活力』を取得してたからできた、すっげぇ荒技だけどな。


『悪食』で食った紙と血なんかを、体内で無理矢理生命維持のエネルギーに変えて。


『省活力』で『瀕死』まで『状態』を落とした上で、『悪食』で作ったエネルギーを傷の修復に回す。


 このサイクルでようやく、死に体を維持できていたわけだしな。


 本当に、今生きてるのは《奇跡》としか言いようがねぇ。


 ちなみに、紙もちゃんと消化されて、俺の血肉になっている。


 紙ってのは、元をたどれば植物とか動物の皮なんかでできてるもんだからな。消化器官で分解さえ出来りゃ、きちんと栄養になってくれる。俺が渡されたごわごわの紙も、おそらくは羊皮紙みてぇなもんだろうしな。


 とはいえ、それも希望的観測で出したバカの()れ言だ。どんなもんでも消化してエネルギーにしてくれる『悪食』がなけりゃ、百パー死んでたな。


 死ぬ条件の三つ目は、イガルト王国の密偵に俺のスキルを知られること。


 あんだけの致命傷を負って生還したとしたら、確実にクソ王は俺に【普通】以外のスキルを持っていると考えるはずだ。


 そして、この世界の住人であるクソ王には、俺が起こした現象から取得スキルを逆算できる。


 そうなりゃ、俺が【普通】以外にも使い道があるという情報を与えることになり、もし生き延びたとしてもクソ王の城からの脱出が難しくなる。


 だから、将来的な危険として、俺のスキル情報を隠匿(いんとく)したいとは思っていたんだ。


 苦しんでた最中は、どう対処するかまでは考えられず、生き残ってからにすることにした、んだが。


 結果的に、俺を見張ってた五人の密偵の存在は確認されず。


 クソ王側が俺の情報をどこまで握っているのかもわかんねぇ。


 三つ目については、正直ほぼお手上げだ。


 が、覚えている範囲での推測ならできる。


「…………」


 と、その前に。


 俺は血とゲロとクソと汗でえげつない臭いが充満する牢屋を立ち上がり、とりあえず残っている綺麗な白紙で掃除を決めた。


 いくら感情が湧かないっつっても、不快なもんは不快だしな。


 情報を整理するためにも、少しでも環境を整えた方がいい。


 ってわけで、ベットベトになってる服を全部脱ぎ、体の汗やなんやらを紙で落としてから、全裸で床の拭き掃除を開始した。


 だってこの服、気持ち悪ぃんだもんよ。誰に見られてるわけでもねぇし、別にいいだろ。




====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:健常


生命力:1/1

魔力:0/0


筋力:1

耐久力:1

知力:1

俊敏:1

運:1


保有スキル

【普通(OFF)】

《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV1》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV1》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV1》《神経支配LV1》《精神支配LV1》《永久機関LV1》《生体感知LV1》《同調LV1》

====================



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