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3話 テンプレ説明

 地上に出てから少し時間をかけて整列し直し、俺たちは再び騎士たちの先導で王城の中へ案内される。


 内装は高級そうな装飾品で飾られ、きらびやかだった。掃除も隅々まで行き渡っており、いろんなものが光沢を持っていて反射光が目に痛いくらい(まぶ)しい。


 国王のもとへ向かう、っつうから代表とかを選出して行くのかと思えば、なんとこのまま全員を向かわせる気らしい。


 おいおい、いいのか? こっちは千人弱いるぞ?


 なんて俺の懸念をよそに、先を歩く俺ら学校組は終始大興奮で、完全に都会に出てきたおのぼりさん状態だった。


 テンション上がるのはわかるが、恥ずかしいからやめろよ。現地のやんごとない方々が、俺らに気づいて目を丸くしていらっしゃるだろ。


 ただまあ、あっちはあっちで先触れでも出ていたんだろうな。


 すれ違うお貴族様だけじゃなく、扉の隙間とか廊下の角とか、俺たちから死角になるようなところからも視線を感じる……一つや二つじゃねぇな。


 っつか、無遠慮にジロジロ見られんのって想像以上にうぜぇな。


 俺らは珍獣じゃねぇぞ、コッチミンナ。


 心なしか目つきを鋭くして周囲に視線を飛ばし返すと、今のところ同じくらい無礼千万だろう俺らの態度を注意したり、あからさまに不快な態度を見せる奴はいない。


 周りをがっちり騎士で包囲してるのも理由の一つだろうが、先頭を歩いている女の地位が相当高い、ってのがデカそうだな。


 メイドっぽい人なんかは、俺らが立ち去るまでずっと頭下げてたし。


 で、ひっそりと観察や文句で忙しい俺はというと、相変わらずの最後尾……いや、むしろ本来の最後尾よりも離された位置をトロトロ歩いている。


 隣にはさっきと同じ監視役(きし)。声音からして男だな。せめて女がよかった……野郎よりマシだし。


 にしても、マジでこの体調不良、なんとかなんねぇかな? 足を一歩踏み出すだけでも重労働なんだけど。


 遠いわー。あいつらの徒歩が遠いわー。


「皆様、少々こちらでお待ちください。謁見(えっけん)の際はこちらから合図を送りますので、あとは騎士たちの指示に従ってください」


 あれから何回か階段を上り、結構上層まで上がったところで、女はでっかい扉の前で止まった。作法でもあんのか、一旦俺らを騎士に任せてさっさと扉の奥へと入っていく。


 気分的に山登りした気分だった俺にしては、嬉しい休憩タイムだ。


 さすがにふっかふかな絨毯(じゅうたん)が敷かれた上に座り込むわけにもいかず、膝に手をついたなんちゃって四股(しこ)スタイルで立ち休憩に入る。


 ――あ、汗が落ちた。まあいいか、黙っとこ。


 なるべく荒い息を小さめの音に抑え、学校の連中の様子を探る。


 いきなり国王との謁見(えっけん)、ってことでみんな緊張しているようだな。


 先頭近くにいる校長、教頭とかの教師や事務員連中は、すでに遠くからわかるくらいガッチガチ。生徒は緊張してる奴と平気そうな奴が半々、ってとこか。


 大人が権力者に弱いだけか? それとも、俺ら高校生側が危機感なさ過ぎるパーなのか?


 ……多分、その両方か。


 なんせパッと見だけで、少なくない数の生徒が何かを期待しているような表情をしてやがるし。


 特に男子が多いが、あいつらはアレか、ネット小説でも読んでた口か?


 俺もネットを散策していて、軽く読んだことはある。


 だからこそ異世界召喚なんて概念を知ってたわけだが、あれはあくまで読者を喜ばせるための創作物であって、現実は違う。


 誰もが異世界にきたことで強力な力を宿すわけじゃないし、誰もが自分に対して好意的になるなんて幻想だ。


 そんなアホ色の将来設計を組む前に、目の前の死亡フラグを折ることに集中しろよポンコツども。


「開門!」


 同年代の脳天気さに呆れて閉口したタイミングで、でけぇ扉がゆっくりと開き始めた。


 すげー、人力じゃなくて勝手に開いてるぞ、あれ。


 もしかして、魔法的な力が働いてんのか? おぉ、一気に異世界っぽいな。


 夢見る少年なら誰もが飛び跳ねそうな光景だが、実際にはしゃぐバカはさすがにいなかった。


 国王への面通しに意識が持っていかれて、緊張しまくってるみたいだ。


 ま、俺もそれなりには緊張している。


 今後の俺らの身の振り方が決まる重要な分かれ道(イベント)なんだ――呑気(のんき)に感動してる場合じゃねぇ。


「このまま進んでください。ただし、顔は上げないままで。許しがある前に陛下のご尊顔を(はい)してしまうと、不敬罪に当たりますから」


 騎士たちに小声で注意され、室内へ進むように促される。


 郷に入っては郷に従え。特に反論もなく、全員うつむきがちに謁見の間を歩く。


 そうしたら、くるわくるわ好奇の目。頭のてっぺんに突き刺さるのもそうだが、左右の人の気配からは容赦なく視線の洪水が浴びせられている。


 正直さっきと比べて数倍は不愉快だが、いちいち突っ込んでいても始まらない。


 っつか、こんな静かで厳粛(げんしゅく)な空気の中、『視線が鬱陶(うっとう)しいんだよ、ボケ!』とか言える奴いねぇだろ。


 また、俺らがどれだけ歩を進めても、部屋の奥までたどり着く様子はない。


 人数だけは多いから、途中で列の歩みが止まるんじゃねぇの? って思ってたんだが、最後尾だった俺が入ってもまだまだ余裕がありそうだった。


 どんだけ広いんだよ、この空間? これも魔法的な何か、ってことかねぇ?


 それから間もなく、先頭の会長が止まったところで後続の俺らも足を止める。で、会長がうつむいたままひざまずいたので、俺らも(なら)って膝をついた。


 会長は騎士から教えてもらってんだろうな。俺らの代表(仮)、お疲れ様です。


「よい。(おもて)を上げよ」


 うっわ、偉そうな声。


 騎士のいう許しが出て、俺らは一斉に顔を上げる。


 真正面にはでかい玉座に座った、国王らしき中年のおっさん。


 隣には玉座よりもやや小さい豪奢(ごうしゃ)な椅子に座る、王妃らしき美魔女。


 その一段下には、直立した王子や王女らしき奴らがいるわいるわ。


 こいつらが、俺らを誘拐(しょうかん)した首謀者一家(ロイヤルファミリー)か。


 おーおー、どいつもこいつも上から目線のいけすかねぇ野郎どもだ。完全にこっちを下に見て品定めしてやがる。


 召喚王国の第一印象は最悪。


 となると、このままいけばバッドエンドルートが濃厚だな、こりゃ。


此度(こたび)の召喚に応えてくれた者たちよ。まずはこの世界の代表である私から、貴殿らに感謝を述べる」


 応えてねぇよ。てめぇらが勝手に()んだんだろうが。


 んで、さりげなく自分がこの大陸の最大権力者だとか喧伝(けんでん)してんじゃねぇぞ。


 何か? てめぇに逆らえばこの世界で生きていけねぇとでも言うつもりか?


 あと、感謝を述べる前にまずは謝罪しろ、謝罪。


 てめぇら、俺らの事情まるっきり無視して召喚(よびだ)しやがっただろうが。


 こっちはてめぇらの事情なんざ何も知らねぇんだよ。口先だけの誠意で満足した気になってないで、(ひたい)を地面にこすりつけるくらいの態度で示せよ、クソ国王。


「貴殿らを喚んだのは他でもない。我らの世界を害する魔王を滅して欲しいからだ」


 はい来ました異世界召喚テンプレ言い訳!


 こりゃ、後々の展開も小説やら何やらに似た展開になるんじゃねぇだろうな? 何て考えてたら、案の定だったわ。


 まず、この世界はイガルト王国を始め、色んな人種が住む大陸だった。


 イガルト王国がこの大陸の中心で覇者←ここ重要。何かやたら強調してたから。


 イガルト王国の政治努力と外交により、一定の平和を保っていた。


 しかし、突然旧王都があった大陸中央が暗闇に包まれ、『魔王』を名乗るイカレ野郎登場。


 当然抵抗するも、何かやたら強い『魔族』とか名乗る新人類や、この世界の生態系にはいなかった種類の魔物が大量に出現し、逃げるしかできなかった。


 何とか撤退した王族は、大陸内でも国家に支配されていなかった土地に移り、『魔王』と名乗る勢力に対抗するため新王都をここに建設。


 その後、何度も『魔王』が侵略した地域を取り戻そうと騎士団(軍隊)を派遣するも、(ことごと)く敗戦。


 最終的に(すが)ったのが、古代から伝わってきた勇者召喚の魔法であり、ついさっき成功。


 ちなみに、召喚魔法の主導は第一王女なんだと。声しか聞いてねぇから、俺は誰が召喚主かは判別不可能。


 んで、今に至る、と。


 一方的に国王がくっちゃべるだけの現状説明を簡潔に説明すると、まあこういうことだ。


 全部聞いた俺の感想としては、まずはテンプレ乙、ってこと。


 次に、ざけんなやっぱ俺ら関係ねぇじゃん、ってこと。


 しかも、この国王の説明は全く信用できねぇ。


 明確な発言は避けてたが、国王の奴、イガルト王国以外の国をめちゃめちゃ下に見てる節があった。


 しかも国王だけじゃなく、この場にいた全員がその認識を当然として受け入れてる感じだったのがさらに鼻につく。


 その時点で、この国が他国とまともな外交をしていたとは到底思えない。


 まだ他の国について知らねぇから何ともいえねぇが、相手の国力が低くて武力で黙らせていた、なんてろくでもない理由で反対意見を潰してきたとしてもおかしくねぇ雰囲気がある。


 そもそも、最初に「栄光あるイガルト王国はラウ大陸を統べる偉大で絶対の国だった!」なんて高説()れた段階で、俺はこの国がいう平和が日本人の考える平和とは違うと確信した。


 あちらさんの解釈をかみ砕けば、『他の国から戦争も暴動も起こさせない俺ら、めっちゃ平和的で紳士じゃね?』ってニュアンスだぞ?


 この国がどれだけの力を保有しているのかは知らんが、銃口を突きつけながら迫る平和に価値があるとでも思ってんのか? こいつら頭ん中ウジでも()いてんじゃねぇの?


 そういう腹の内に気づいちまったら、ここが本当に元々誰も管理していなかった土地だったのかどうかも怪しい。


 発言からにじむヤバい思想からして、『魔王』出現に危機を悟ったこいつらが全戦力とともに移動し、どっかの国を侵略して奪った場所を王都とした、なんてこともあり得る。


 っつうか、こんだけ立派な城がすでにある時点で、その線が濃厚だろ。


 なら、先遣隊として送った、っつう騎士団も純正なイガルト王国の騎士だったかどうかも眉唾(まゆつば)だな。


 こいつらのことだ。


 自国の戦力を消耗させたくないから、ここに元々あった国の戦力を無理矢理動かし捨て駒にして、敵戦力の低下と情報収集をさせようとした、って真実が隠れてても納得できる。


 んで、その延長上で俺らは召喚された、ってとこか。


 こいつらみたいな他人任せのクズ野郎どもがすぐに異世界召喚を実行しなかったのは……元々その技術を保有していたのがイガルト王国じゃなかったから、だろうな。


 大方、この場所にあった国が秘匿(ひとく)してた技術の可能性が高い。


 ま、色々文句を垂れてみたものの、現時点だと俺の偏見バリバリの推測でしかねぇ。


 が、相手の言い分に『そういう印象を抱いた』、って感覚は重要だ。


 こいつらとのつき合い方や今後の振る舞いも、第一印象でだいたい決めるもんだしな。


 ……しかし、突然現れた、っつう『魔王』と『魔族』については気になるな。


 元々『魔王』が治める国があって、そこから攻めてきたってのを予想してたんだが、聞く限りでは本当にいきなり現れて攻撃してきた、って感じらしい。


 国王の顔を観察しても、これに関しちゃ嘘は言ってねぇな。


 だとすると、侵略側である向こうの意図がわからねぇ。


 そもそも種族としての情報すらもわかってねぇ。


 便宜的に『魔王』と名乗った奴がいて、そいつがつれてきた部下みたいな奴を『魔族』、って呼んでるだけみたいだからな。


 つまり、話を(まと)めると、だ。


 こいつらは俺らに、バカみてぇに強いってことしかわかってねぇ、身体構造も全戦力も思想も目的もわからない敵と殺し合え、っていいてえわけだ?


 はっきり言おう。


 はぁ!? である。


 念のため、俺らが理解できる状況に当てはめて説明すればだぞ?


 こいつらは突然宇宙人が攻めてきたから、こっちも別の宇宙人を呼んで潰し合わせよう! って考えたことになる。


 な?


 はぁ!? だろ?


 元々日本で読んでたネット小説でも思ってたけど、こういうタイプの異世界の奴らって他力本願すぎんだろ。


 んで、日本人も巻き込まれすぎなんだよ。現在巻き込まれている俺らを含めても、一年で何人日本から人が消えてんだよ。しかも、主にティーンズばっか。


 国家問題として少子化とかあんだぞ。これ以上日本の高齢者率を増やして何がしたいんだ、異世界。


 冷静に考えりゃ、日本に対する間接的な国家転覆(てんぷく)行為だぞ?


 現段階でも、高齢者の年金は若者数人分の負担で(まかな)ってるギリギリの状態だっつうのに、これ以上税金の取り口を減らしてやんなよ、可哀想だろ。


 んで、若年層の大量誘拐した上に、戦争を助長する(ぶき)大義名分(しそう)を植え付け、戦地に送るクソみてぇな奴らが、正当性を主張して俺らを説得(せんのう)しようとしてる、ってか?


 ――はっ!


 つまりこいつらは、名実ともにテロリスト、ってわけだ。


 身に起きた出来事がファンタジー過ぎて麻痺するバカも多いだろうが、要するに俺らはテロリストにおける外人部隊の戦力として拉致されてきた、哀れな身代わり羊(スケープゴート)なんだよな?


『勇者』がどうとか言ってたのも、正義は自分たちにある、ってことを主張するための免罪符(めんざいふ)を配ってるだけだろ?


 拉致(さら)ってきた戦力が、自分たち人間と同じ知的生命体の形を取っているのであれば、そいつらに武器だけ持たせて「さぁ、殺してこい!」なんて言っても、すぐに言うことを聞くはずがねぇ。


 その点、同じ人間を困らせている絶対悪がいて、それを倒せるのが俺らだけ、なんてヒーロー願望を刺激する話にゃ、食いつく奴は多いだろう。


 自分たちがやっていることは『正しいこと』なんだから、罪悪感に(さいな)まれることもない。


 改めて自分に降りかかってみると、異世界召喚なんてマジでろくでもねぇな。


 こっちの人権ガン無視かよ。どうせ、使えねぇ奴がいたらさっさと切り捨てるんだろ?


 俺たちはお前らにとってただの戦力でしかねぇんだし、いるだけで資源を浪費する無駄は排除すべきだもんな?


 っとに、ふざけてんじゃねぇ。


 その無駄にはっきり該当すんの、『俺』くらいじゃねぇか。


「貴殿らには無理を承知で頼む。この国を、世界を、救ってくれ」


 国王の言葉をきっかけに、この場にいたイガルト王国側の人間全員が頭を下げた。


 王族はもちろん、俺らを観察していた貴族っぽい奴らや騎士連中も含めて、全員が。


 ――ちっ、散々向こうが高位の人間だって分からせた後、頭を下げさせているという罪悪感で判断力を鈍らせ、迂闊(うかつ)な発言で言質(げんち)を取る気か?


 させっかよ。


「あ、頭をお上げ下さい! 私たちは……」


「そうっすね。とりあえず、頭を上げましょうよ、イガルト王国の皆さん?」


 慌てた様子の会長の声に(かぶ)さり、俺はその場を立ち上がって国王一家の顔を正面から見据える。


 とりあえず、今だけは謎の体調不良なんて無視だ、無視。


 ただの嫌われ者のガキにどれだけやれるかわからねぇが、やるだけやってみるっきゃねぇ。



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