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34話 死

(まずい、まずいまずいまずいまずい!!!!)


【普通】の警告が脳内に響きわたった瞬間から、最大に発動させた『高速思考』と『並列思考』の海を泳ぎ、俺は刹那に思考を巡らせる。


 (こいつ)は何をしている?


 体勢からして、俺への後ろ回し蹴り。


 威力は?


 見りゃわかんだろ。食らったら、百パー死ぬ。


『未来予知』による蹴撃予測コースは?


 鳩尾。頭や心臓じゃねぇのは救いだが、即死じゃねぇだけだ。気休めにもならねぇ。


 俺の体勢は?


 まだ上半身を中途半端にひねった状態。咄嗟(とっさ)に逃げようにも、足に力を入れづらい姿勢だ。よって、回避は不可能。


 防御手段は?


 あるわけねぇ。服はおろか、武具防具すら支給されてねぇんだ。それにそもそも、俺の武器は頭脳労働。前衛特化の『異世界人』の攻撃に反応できても、反射行動で動けるはずがねぇ。


 止めさせる方法は?


 無茶言うな。すでに(さき)の足は射出された後。紫が最初から寸止めするつもりでもねぇ限り、俺がどうにかするしか、回避する手だてはねぇ。


 予測到達時間は?


 おおよそ、ゼロコンマ824秒。1秒も余裕はねぇ。


 俺にできる最善手は?


 今考えてんだろうが! 分かり切ったこと聞くんじゃねぇよ!!


 考える。


 考える考える。


 考える考える考える。


 俺にできる最大の力を、この一瞬で絞り出す。


 反動など無視して『限界突破』をフル稼働で使う。


 俺が独力でできる最大思考延長時間を、体感の二倍以上に引き上げる。


 コマ送りにして迫る、実妹(さき)()


 この五ヶ月で最大級の死の気配に、俺は心を『不屈』で満たす。


 まだだ!


 まだ、俺には届いちゃいねぇ!


 諦めるには、まだ早ぇ!


 あるはずだ!


 俺が生き残るための!


 手段が!


(ち、っくしょおがぁ!!!!)


 吠える。


 口が動かない刹那の世界で。


 突然襲いかかってきた死神に。


 心の中で真正面から喧嘩を売る。


 上等だ!


 殺せるもんなら、殺してみろよ!!


 俺は!!!


 どんな手段を使っても!!!!


 生きあがいてやるからな!!!!!


(っ!!)


 カチリ。


 まず、俺は【普通】を解除した。


 そして、クズステータスを捨てるため、『種族』を強引に『異世界人』へ変更する。


 残り、ゼロコンマ744秒。


(っだらあああああぁぁぁぁぁ!!!!)


 鉛の海にいるような世界の中で、俺は体を強引に動かす。


 中途半端だった体勢を、紫と真正面から相対させる。


 これだけで、俺のあらゆる筋肉からブチブチという音が聞こえた。


 残り、ゼロコンマ582秒。


(こなくそおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!)


 次に、俺が出せる力を全部足につぎ込み、真後ろへ跳ぶ。


 足を曲げる暇がなかったから、十分なタメができてねぇ。


 強引な跳躍に、足の筋肉どころか骨からも悲鳴が上がる。


 残り、ゼロコンマ419秒。


(うごけえええええぇぇぇぇぇ!!!!)


 体の中から、足の骨が砕かれ、筋肉が断裂する音を聞く。


 だが、体の文句など一切無視。


 フリーだった両腕に命令を出し、俺の腹と紫の足の間に腕をねじ込ませる。


 残り、ゼロコンマ346秒。


(く、っそがあああぁぁぁっ!!!!)


 届かない。


 腕からも骨と筋肉が『死ぬ』音を聞いても、間に合わない。


 俺の腕が紙より薄い盾になる前に、紫の『死』は俺を貫く。


 残り、ゼロコンマ293秒。


(ざ、けんな、よ……っ!)


『未来予知』により、俺の死に様が脳内をよぎる。


 紫の足が俺の腹を(えぐ)り、貫通した衝撃で足と胴体がおさらばする。


 何か策を(ろう)する暇すらなく、俺の意識は暗転し、復帰することはねぇ。


 残り、ゼロコンマ259秒。


(ここで、っ! こんなところでぇ!!)


 とうに肉体の限界を超えたはずの腕に、さらなる発破(めいれい)で酷使させる。


 折れる、砕ける、弾ける、ブチ切れる。


 決死の防御という諸刃の行為は、俺の肉体を加速度的に『殺していく』。


 残り、ゼロコンマ200秒。


(やっとだ!! やっと!! おれは!!)


 生きる希望を、見つけたんだ。


 それなのに、ここで、あっさり、出会い頭の事故みてぇな展開で、終わるのか?


 んなこと、あっていいわけねぇだろうが!!


 残り、ゼロコンマ173秒。


(それを!!)


 (さき)なんかに!


 ヌクヌク過ごしてきた、『異世界人』なんかに!!


 邪魔されて、たまるかってんだ!!!!


 残り、ゼロコンマ121秒。


(しんでぇ!!!!)


『限界突破』にさらなる力を要求する!!


 より速く!! より速く!!


 たとえ盾として全く機能しなくても、致命傷を少しでも避けられるように!!


 残り、ゼロコンマ098秒。


(たまるかぁっ!!!!)


 極限まで高まった集中力の中、わずかに上がった腕の速度。


 指はすべてあらぬ方向に折れ曲がり、存在しない間接により腕はくにゃりと垂れ下がる。


 それほどの犠牲を経てもなお、俺の腕は、届かない。


 残り、ゼロコンマ001秒。


(ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!)


 それでも!!


 俺は!!


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《限界超越LV1》を取得します。なお、『限界突破』は《限界超越》に結合されました」


 諦めねぇ!!


 残り、ゼロコンマ010秒。


「うごほっ!?!?」


 瞬間。


 突き刺さる足。


 目の前にスパークが走る。


 体内で水袋が破裂するような音と感覚。


 一つ、二つ、三つ、四つ。


 どんどん重なる、破裂音。


 同時に奏でる、乾いた破砕音。


 冗談のように、体内で、鳴り続ける。


 腕から感覚が消えた。


 足から地面が消えた。


 脳から時間が消えた。


 飛ぶ。


 景色が流れる。


 遠ざかる。


 止まらない。


 わからない。


 これは、なんだ?


「がはっ!!!!」


 背中に衝撃。


 足が地面をたたく。


 膝が地面に殴られる。


 胴体が地面に押しつぶされる。


 頬が地面にビンタを食らう。


 ようやく。


 止まった。


「私さぁ。あんたと違って優秀だから、『異世界人』の中でも上位に入る実力があるの、知ってんでしょ?」


 (てき)が、口を開く。


「対して、あんたはクズだから、どうせ『異世界人』の中でも底辺なんでしょ? 言わなくてもそれくらいわかるし」


 くだらないことを、得意げに。


「だからさぁ、気に入らないのよ」


 侮蔑と(あざけ)りを、笑みに乗せて。


「たかが一年早く生まれたくらいで、私を呼び捨てにしないでよね。出来損ないのくせに」


 俺を『殺す』理由を、告げた。


(っ!!!!!!!!!!)


 ふざけんな。


 そんな。


 俺は。


 くだらない。


 理由で。


 殺されなきゃ。


 ならねぇのか。


「今日はこれくらいで勘弁してあげるけど、次は本当に殺すよ?」


 遠ざかる。


『死因』が。


 歩み寄る。


『死』が。


 思考が。


 落ちる。


 (まぶた)が。


 重い。


 それでも。


 ()る。


====================

生命力:112/1000

====================


 ステータス。


 命のリミット。


 生きてる証拠。


 視る。


====================

生命力:81/1000

====================


 減る。


 消える。


 失う。


 死ぬ。


====================

生命力:67/1000

====================


 目減りする。


 命が。


 簡単に。


 削れる。


====================

生命力:45/1000

====================


 鼓動が。


 弱まる。


 意識が。


 遠のく。


====================

生命力:23/1000

====================


 それでも。


====================

生命力:16/1000

====================


 おれは。


====================

生命力:9/1000

====================


 あきらめない。


====================

生命力:5/1000

====================


「不可能条件がこじ開けられました。スキル《機構(ステータス)干渉LV1》を取得します」


====================

生命力:3/1000

====================


『にほんじん』へ。


====================

生命力:2/1000

====================


 ()()()


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 ……。


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 …………。


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 ………………。


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 ……………………。


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 …………………………………………あぁ。


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 おれは。


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 いきてる。


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 まだ。


====================

生命力:1/1【固定】

====================


 ここにいる。




====================

名前:平渚

LV:1

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】▼


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

《限界超越LV1》《機構(ステータス)干渉LV1》

『冷徹LV10』『高速思考LV10』『並列思考LV10』『解析LV10』『詐術LV10』『不屈LV10』『未来予知LV10』『激昂LV10』『恐慌LV10』『完全記憶LV10』『究理LV10』『失神LV10』『憎悪LV10』『悪食LV10』『省活力LV10』『不眠LV10』『覚醒睡眠LV10』『嫉妬LV10』『羞恥LV10』『傲慢LV10』『無謀LV10』『麻痺LV10』『過負荷LV10』『失望LV10』『弁駁(べんばく)LV10』『気配察知LV8』『魔力察知LV8』『歓喜LV10』『抱腹絶倒LV10』『安堵LV10』『教授LV10』『慟哭LV10』『怠惰LV10』『沈鬱LV10』『共感LV10』

====================



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